20 / 20
エピローグ
しおりを挟むジョットは私が眠っている一月の間、森を出て聖騎士エルラディンのことを調べていたらしい。
よくよく情報を集めていくと、彼が異常なことが分かり、私が彼に怯えているのだと気づいて、森に戻ってきた。そこで慌てて逃げるユナとあったらしい。ユナから私のことを聞いたジョットは、まっすぐに私の元へやってきた。
だからエルラディンの最初の一撃をかわすことができたのだ。
「別に知らなくたってよけられたけどなー」
そう言って、揺れる馬車の中で彼は私を磨きながらつぶやいた。
旅の途中で拾ってもらったため、荷馬車の中には私たち二人しかいない。
ちなみにユナたち流浪の民は、あの森に残ることになったそうだ。私があの場を含むすべての領域を浄化したから、もう穢れにつかれることもないだろう。
「そうですね……あなたは女性のこととなると、敏感ですからね」
「なんだよ、嫉妬してるのか? かわいいやつだな」
「……お前はキモいやつですね」
「おいこら、使い手に向かってなんてこと言ってんだ」
まったく、こんなのが私のマスターだなんて、呆れてしまう。
私たちは今から世界を救う旅に出るというのに、こんなんじゃ先が思いやられる。
これからの予定を、こいつはちゃんと考えているのだろうか?
呆れたように、これからの予定をジョットに聞くと、彼は手を止めて、んーと顎に手を当てた。
「そうだな、まず町についたら娼館によっ……いででで!」
聖剣の中から、私は腕をだして彼のほっぺたをつねる。
「本当にもう! どうしてこう、男は酒とタバコと女ばかりなのです!? こんなのが私のマスターだなんて、信じられません!」
「い、いひゃいれす」
「お前はもっと、聖剣の使い手(マスター)の自覚を持ちなさい!」
「ひゃい……」
涙目になっているのではなしてやると、彼はいてて、と頬をさすった。
「お前はこれから、私を連れて世界を救う旅に出るのです。寄り道は許しませんよ」
「世界を救うってんな大袈裟な」
「大袈裟ではありません。私は本気です」
エルラディンとともにあった時間を埋めるように、私はジョットと旅をして、必要とされている人たちの元をおとずれるのだ。
私は人を守る剣。
聖剣ユースティティアだ。
「いいですか、マスター?」
「へいへい」
ジョットは私をピカピカにして、つぶやいた。
「……お前の願いなら、なんだって叶えるよ」
「じゃあしばらくは娼館も禁止。タバコもです」
「はぁーっ !? んなもん無理に決まってるだろうが!」
「いいえ、無理ではありません。タバコは大目にみるとして、娼館にはいかなくてもいいでしょう」
そんな、とジョットは涙目になる。
「あと、次に見境なく女性にナンパしてみなさい」
この男は本当に女性にだらしないと、旅に出てすぐわかった。
「お前の尻の穴が、この先も一つである保証はありませんよ」
そういって脅してやると、ジョットはぎょっとした顔になった。
「おまっ……聖剣のくせになんてことを言うんだ。どこでそんな言葉覚えた?」
ふんっと私は鼻を鳴らす。
私だって何百年も生きていれば、言葉遣いもちょっとは変わってくるのだ。
「私だって、これでも二百年生きていますからね。お前よりよほどいろんな経験があります。お前以外のマスターにだって、たくさん会いました」
人柄はお前よりマシなやつが多かったですよ、とちょっぴり嘘をついてみる。
すると彼のヘラヘラした表情はなくなって、鋭い視線が剣の中の私を貫いた。
ビクッとすると、ジョットは私のブレードをつ、となぞった。
そしていきなり、恐ろしいこと言った。
「……お前ェの刃に俺の名前を刻む」
「!?」
「ずっと考えていたことだ」
想像してみると、痛そうで鳥肌がたつ。
私のブレードに名を刻んだのは、生まれたばかりの頃、まだ意識がないときに掘られたお父様の名前のみだ。
「そ、そんな痛そうなことはおやめなさい!」
「いや、ぜってェだ。未来永劫お前が俺のもんだってこと、体に教えてやる」
冗談だかそうじゃないのか分からない恐ろしいことを言って、ジョットは笑った。
「……本当にとんでもない男ですね、お前は」
「はっ、俺のこたぁ、お前が一番お前がよく知ってるだろうが」
「……はぁ」
ため息をつけば、手入れは終わったようで、彼は私を鞘に収めた。
すっかりピカピカになった私は、ジョットに対しては呆れているものの、気分はいい。
だけど一度、腕のいい鍛冶にもっていって、もう一度焼き入れをしてもらったほうがいいかもしれないと思った。私もそっちのほうがすっきりするし。
「ふああ、ねみぃ。俺、ちょっと寝るからついたら起こして。昨日も野宿だったし、今日はベッドでねてェもんだな」
「お前が一文無しだったから、宿に泊まれなかったんじゃないですか」
「えー、関係ねぇじゃん」
「頭がおかしいんですかお前は。大ありですよ。お前が酒とタバコと女に使った金を、旅の資金にすればよかったのです。これではその日暮らしもいいところですよ!」
「あーうるさいうるさい。もういいから黙ってろ」
「うるさいとはなんです!」
ぎゃんぎゃん吠える私を無視して、ジョットは狸寝入りを決め込む。
しかも私をぎゅうっと抱いて。
「ちょ、ちょっと、タバコくさいから、私はそのあたりにでもほおっておきなさい」
「やだ」
「やだじゃない! 気色悪い!」
がっしり鞘ごと抱きしめられ、怖気がした。
「盗まれたら困るからな」
……お前から物を盗めるやつなぞそうそういないだろうが。
そう思ったが、暴れるのも力の無駄かと思い、仕方なくジョットに身を任せる。
まったく、強引なやつだ。
「ユースティティア。俺の、剣」
「!」
眠る間際の甘い声で心底大切そうにそう呟かれ、抱きしめられ、私は力が抜けた。
……こいつはどんだけ私のことが好きなのだ。
ふん、まあ仕方ないから、今くらいは抱かれてやってもいいか。
馬車の揺れが心地よくて、私もだんだん眠くなってくる。
ジョットのタバコの匂いに包まれながら、私は安心して眠りに落ちた。
それはとても心地の良い眠りだった。
▽
「おーい、旅人さん、つきましたよ」
荷馬車にのっていた御者が、目的地についたことを告げるために、荷台を覗き込んだ。
荷台を囲うホロには窓があって、そこから柔らかな日差しが一人の旅人を照らしていた。
その旅人は剣を腕に抱いて、壁に背をもたせかけてぐっすりと眠っている。
「……ん?」
御者は瞬きをした。
一瞬、旅人の腕の中にある剣が、その場に似つかわしくないほど美しい女に見えたのだ。白と金のドレスを纏うその女は、幸せそうに旅人の腕の中で眠っていた。
だが瞬きをすれば、次の瞬間には女は消え去っていた。旅人の腕の中にあるのは、一振りの美しい剣のみ。
「なんだ、気のせいか」
御者は目をこすると、疲れているのかな、と苦笑した。これじゃあまるで、昔話に聞いたことのある、聖剣を見てしまったようだ。こんなところにあるはずもないか。
ぐっすりと眠る旅人を見て、親切な御者は、もう少し眠らせておいてあげようと思った。その旅人があまりにも幸せそうに眠っていて、起こすのが忍びなかったからだ。
旅人は剣がずり落ちそうになると、眠りながらもかき抱くように抱きしめた。
それが世界で一番大切なものだというように。
▽
昔、世界が悪魔によって脅かされ、絶望にまみれた時代があった。
しかし邪悪な魔物を打ち払う「七振りの聖剣」によって、世界は平和を取り戻した。
七振りのうちの一振り、正義を司る光の聖剣は「悪魔殺しの悪魔」と呼ばれた男を「使い手」に選んだ。
悪魔と呼ばれた男は、世界中の人間を支配する悪魔を倒して周り、人間を救った。
光の聖剣と悪魔の使い手は、多くの伝説を残した。
その伝説の中でも特に、東の地の悪魔をたった一人で聖剣とともに殲滅し、人々を救ったという伝説が一番有名になった。
そしていつしかその男は、『悪魔殺しの悪魔』ではなく、『東の英雄』と呼ばれるようになったのだという。
END.
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!
皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました
さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。
裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。
「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。
恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……?
温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。
――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!?
胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても素敵なお話でした。
読後が凄く気持ちが洗われたというか、充たされたというか、最後は彼が英雄伝説になったのが報われて良かった!
次作も楽しみに拝読します!!
ちゅき。。。(まねっこ)
作品は文句無しのちゅきちゅきなんですが
悪魔が人間とは別の生き物なのか人間(素質あり)が変わってしまうのかが本編でなくてこことかであとがき的に教えていただけたら嬉しいけどあくまで隠すのもアリですのでどっちでも良し!
ちゅき……(語彙力の低下したヲタク)
素敵なお話ありがとうございました(⁎-௰-⁎))"ペコリンチョ