生残の秀吉

Dr. CUTE

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思惑

五十七.会心の五郎左

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天正十年六月十八日 午の刻

秀吉ひでよし安土あづちの二の丸でほくそみながら小一郎こいちろうからの書状を読んでいる。

小一郎こいちろうの奴っ、勝豊かつとよとうまくやっとるようじゃのぉ。あんときの秀勝殿ひでかつどの無謀むぼうこうそうするとは・・・、まだまだ世の中おもしろいわぃ。)

書状を読み続けていると、柴田しばたの内情が伝わってくる。

(本来柴田しばたぐんは勝豊かつとよのはずじゃったのに、北陸ほくりく攻めの間に佐久間さくま兄弟が着々と親父おやじに取り入って、今では親父おやじ勝政かつまさを後継にしようとしちょるようじゃなっ。それに佐久間さくま兄弟の背後におるんが三七殿さんしちどのかぁっ。こりゃぁ、勝豊かつとよはねぇわぃ。爪弾つまはじきにされて、おもしろくねぇっちゅうこつかぁ。)

そこへ官兵衛かんべえがやってくる。

惟住殿これずみどのをお連れした。」

足を官兵衛かんべえの後ろから、丹羽五郎左長秀にわごろうざながひでが現れ、秀吉ひでよしの前に座す。官兵衛かんべえ秀吉ひでよしのやや右斜め後ろに座す。

五郎左殿ごろうざどのっ、よぅ参られたぁ。みやこの様子は如何いかがかのぉ。」

「『みやこの様子』よりも『三七殿さんしちどのの様子』の方が気掛きがかりなんじゃろぅ。じゃが三七殿さんしちどののお主への御怒おいかりは日に日に増すばかりじゃぁ。」

秀吉ひでよしいきをつく。

「じゃから云うて、勝手に公家の面々と接触をはかろうとするんは困るんじゃ。どうせわしが織田おだ家を乗っ取ろうとしちょる逆賊ぎゃくぞくじゃと吹き込むつもりなんじゃろぅ。そんなこつしちょる場合じゃねぇっちゅうに・・・。」

「心配するな。相手にする公家などおらん。」

「当たり前じゃ。わしがどんだけぜに積んどると思ぉとるんじゃ。十兵衛じゅうべえはよう討ち取ったからよかったものの、ぐずぐずしちょったら公家を黙らせるぜになど支度したくでけんかったわぃ。」

「お主、もうそんな工作をしとったんか。恐れ入った。じゃがこのままでは三七殿さんしちどのがより孤立するだけじゃ。それに公家はぜにで黙らせられるが、権六ごんろくはそうはいかんぞ。事態はややこしゅうなるばかりぞ。」

「そりゃぁ分かっとるんじゃがのぉ。三七殿さんしちどの権六ごんろく親父おやじも、わしの苦手な方々じゃ。うまく付き合えと云う方が無理ぞぉ。」

「そこでじゃ。事態を収拾しゅうしゅうするべく、手を打った。お主にも付き合ってもらうぞ。」

「手を打ったとは・・・。」

「要はお主が織田おだ家を乗っ取ろうとしとらんことを示せばえぇんじゃ。そこで織田おだ重臣会議じゅうしんかいぎを開くことにした。すでに会議に入っていただく方々には書状を出した。」

重臣会議じゅうしんかいぎと・・・。」

「課題は二つ。一つは織田おだ家の家督かとくを明きらかにすること。もう一つは主人あるじを失った領の再配分じゃぁ。この二つが決まらぬままでは、わだかまりがくすぶり続けるばかりじゃ。」

秀吉ひでよしは腕を組む。

「そりゃ、そうじゃ。」

「そしてわしは今から申すことを決しようと思うておる。まず家督かとく三法師様さんぽうしさまぐ。」

三法師様さんぽうしさまって、殿との御子息ごしそくかぁ。うむっ、まぁ、それがすじだわなぁ。」

三法師様さんぽうしさまには安土あづちを与えんといかんことになるが、三法師様さんぽうしさまは幼い故、傅役もりやくをつけ、兼ねて代官だいかんとする。久太郎きゅうたろう辺りなら織田おだ家の面々の覚えもえぇじゃろう。」

「おぉっ、えぇ感じじゃぁ。」

まつりごと後見こうけんすじから言えば三介殿さんすけどのであろう。それに加え、三七殿さんしちどの権六ごんろく・わし・一益かずます、そしてお主の五人を宿老しゅくろうとして三法師様さんぽうしさまを支えるというのは如何いかがであろう。」

「わしも入るんかぁ・・・。」

「先日来、勝三郎かつさぶろうとも話しておったが、お主が宿老しゅくろうに加わらなければ、それこそ織田おだ家中かちゅうまとまらんわぃ。『付き合ってもらう』とはそういうことじゃ。」

「まぁ、えぇじゃろう。一宿老いちしゅくろうとなったところで大人おとなしくしとけりゃええんじゃなぁ。」

「あぁっ、それとお主が織田おだ家を乗っ取る意がないことを示すためにお主への加増かぞうはなしじゃ。じゃがそれではお主と共に闘った者たちは不服であろうから、ここはどうであろう、十兵衛じゅうべえが治めとった丹波たんば秀勝殿ひでかつどのに与えるというのは・・・。」

「なるほどぉっ、そりゃぁえぇ考えじゃ。秀勝殿ひでかつどの仇討あだうちの功労者であるこつはもうすでに知れわたっちょるし、何より任官にんかん下準備したじゅんびとしてちょうどえぇわ。五郎左殿ごろうざどのぉっ、考えたのぉ・・・。」

めるのはまだ早い。大殿おおとの殿とのの領は三介殿さんすけどの三七殿さんしちどのとで折半せっぱん丹波たんば以外の十兵衛じゅうべえに味方した者の領は摂津衆せっつしゅうに分け与える。細かいこととなると配置換えもあるじゃろうから、そこはこの十日の間にわしが考えておく。」

「ところで何で十日後なんじゃ。そんだけお主の頭ん中でけちょったら、明日にでもできるじゃろう。それにそん会議はどこでやるんじゃ。」

「十日後の理由は二つある。一つは十日もあれば一益かずます東国とうごくから戻れるじゃろうということ。もう一つはこれを理由に三七殿さんしちどのみやこから引き離すことじゃ。」

「どういうことじゃ。」

「会議の場所は清洲きよすじゃ。そこに三法師様さんぽうしさまかくまわれとるからというのが建前じゃ。清洲きよすへ向かいがてらに近江おうみ岐阜ぎふ尾張おわりに逃げた十兵衛じゅうべえの残党どもをはいする。もちろん三七殿さんしちどのにも権六ごんろくにも成敗せいばいに加わってもらう。十日もあれば十分じゃろう。」

「こりゃまた、よぅでけた話よのぉ。」

勝三郎かつさぶろうの案じゃ。お主のことじゃから三七殿さんしちどの権六ごんろくいくさを仕掛けさせんようにはかっとるんじゃろうが、とはいえ、彼らのほこりとやらが上げたこぶしを降ろさせんじゃろうからと云ってな・・・。」

「よし、承知した・・・。で、三七殿さんしちどのはいつみやこつんじゃぁ。」

明後日みょうごじつの早朝に勝三郎かつさぶろうと共に・・・。みやこ元助もとすけに任せる。元助もとすけは優しい顔つきをしておるから、公家の連中には覚えがよかろう。あぁっ、それとぉ三七殿さんしちどの安土あづちには寄らん。よほどお主の顔は見たくないらしい。通り過ぎて、佐和山さわやまに入る。」

「まったくぅ、いつまでも面倒めんどうくせぇ御人ごじんよのぉ・・・。」
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