【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

文字の大きさ
55 / 129
第三章 社畜と昔の彼女と素直になるということ

14.社畜昔ばなし ⑬東京

しおりを挟む


 高三の一年は、あっという間に過ぎた。

 八月の合唱コンクール四国大会が終わった後、俺は勉強に集中した。今まで中の下だった成績が嘘のように伸び、学年でも上位になった。

 地元の国立大学の偏差値はとっくに越え、それ以上の大学は県外にしかない。

 徳島から県外へ進学する場合、関西がメインだった。高速バスで二時間ちょっとで行けるし、徳島県民からすれば立派な大都会。それ以外は稀だった。

 俺は、東京を目指した。

『簡単には家に帰れない、別の場所に挑戦したい』というのが、親や教師に言っていた理由だ。もちろん本当は、バンド活動を続けるためだった。

 東京へ行く意思を固めると、照子は東京の専門学校に行きたいと言い出した。DTMを使った作曲を本格的に学べる、二年制の専門学校だった。

 照子はもともとピアノのレッスンを受けるために徳島市へ移住した。だが途中でピアノは辞め、バンドをやるようになった。行きあたりばったりの俺と違って、音楽を極めるという照子の意思は一貫していた。両親も、特に反対していないらしい。

 俺はその話を聞き、なんとか偏差値を上げて千葉の大学を選んだ。東京と千葉は似たようなものだと思っていた。東京の人間が四国四県の配置を覚えていないように、地方の人間からすれば東京の近くなら全部同じだと思っていた。

 そして受験。

 岩尾は、予定通り地元の国立大学へ。

 俺は、千葉にある国立大学へ。

 照子は、東京にある専門学校へ。

 赤坂さんは、地元の私立大学へ進学すると教師には告げていたが、実際には上京してバンド活動メインで生きる。

 この四人で、岩尾とは高三の春でお別れになった。卒業ライブと題して、徳島市内のライブハウスで演奏をした。それが岩尾と一緒にバンドをやった最後の記憶になる。

 それ以外の三人は、関東へ出ることになった。


** *


大学生活はそれなりに楽しかった。

高校時代と違い、周囲は男ばかり。女と話したければサークルにでも入れ、という感じだったが、バンド活動を前提にしていた俺は入らなかった。気にしていたのは軽音サークルと合唱サークルだったが、どちらにも入らなかった。軽音サークルは明らかに飲みサーだった。合唱サークルは高校生の合唱部よりもレベルが低かった(この時、俺は新しい趣味に年をとってから挑戦することの難しさを知った)。

大学生なんて高校時代の抑圧から開放され、金と行動力がグレードアップした悪ガキみたいなものだ。バイト、酒、タバコ、麻雀、合コン、パチンコ……悪友たちと一通り経験した。特に麻雀はかなりはまって、徹夜で打つことも多かった。

大学時代の友人とは今でも付き合いが続いているが、不思議とバンド活動にはクロスしなかった。


** *


バンド活動のスタートは、すべて赤坂さんに任せた。

ボーカル、ドラム、ベースの三人だから、少なくともギターだけは新たに確保する必要がある。俺がギターをやるのは無理だ。もともと楽器の経験がないし、岩尾の上手い演奏をさんざん聞いた後、俺がそれに追いつけるとは思えなかった。

赤坂さんはすぐ東京のバンド活動に馴染んでいた。徳島にいた時代から、バンドでの知り合いを通じて出入りできるライブハウスを定めていたらしい。俺と照子は右も左もわからなかった。

だが、ど田舎のバンドコンテストで優勝しただけのバンドなんて、東京では無名に近い。

俺たちと組んでくれて、クオリティの高いギターはなかなか見つからなかった。

女二人のバンドなので、出会い目的の男ギターは何人も寄ってきた。だが赤坂さんが止めた。東京でも、赤坂さんは俺たちのバンドでは妥協しないと決めていた。

上京して一ヶ月後、赤坂さんがギターの女の子を一人みつけた。品山さんという大人しい子で、いつも頬が赤かった。すごく地味でバンドをやっているとは思えない子だった。でもギターを弾くと、その小さな体からは想像できない豪快な演奏をした。


「私、引っ込み思案で、なかなか誘ってくれる人がいなくて……涼子ちゃんがいなかったら、こんないいバンドには一生入れなかったよ」


 品山さんはそう言っていた。俺としては、まともにギターを弾いてくれれば誰でも大歓迎だった。女三人、男一人のハーレム状態になるのはちょっと恥ずかしかったが。


** *


 照子との関係は、良好に続いていた。

 照子の専門学校が新宿、俺の大学が千葉市なので家は離れていたが、会いたい時は照子のアパートへ俺が行くことが多かった。

 照子は、専門学校ではあまり友人を作らなかった。他に行くところがなくて適当に進学した奴らばっかりで、真面目にDTMでの作曲を学ぼうとしている者はほんの数人だった。大学生ほど派手な遊びはしないらしく、照子の生活はバンド活動へどんどん傾倒していった。

 高校時代より自由に会えるようになり、体を交わらせる機会も増えた。毎日のようにしていると、飽きてしなくなる日もあった。

 都内をデートしたり、レンタカーでちょっと遠くへドライブするなど、ちゃんとしたデートもしていた。

 ただ一つだけ心配だったのは、照子の酒癖の悪さだった。

 照子は酒好きで、特にビールばかり飲んでいた。そのくせすぐに酔う。

 俺と一緒にいる時はいいが、ライブハウスの演奏後にグループで飲んだ時なんか、酔っ払って誰彼かまわず絡んでいた。男にも、だ。

俺はそれが嫌だった。いつか俺の知らないところで誰かにお持ち帰りされるのではないかと、気が気ではなかった。


「俺がいなくて、男がいるところでは飲むなよ」

「うわ、何ほれ、剛そんなに束縛する性格だった?」

「お前が酒癖悪いからだよ」

「むー、まあでも、心配してくれるんは嬉しいわ」


 実際、照子は俺の言いつけを守り、合コンなどの参加は避けた。ちなみに俺が男友達からの誘いを断りきれず合コンに行った時はめちゃくちゃ怒られた。二週間くらいメールしても無視された。これは照子が重い女なのではなく、あくまで対等な関係を求めていたからだ。

 こうして俺の大学生活は、人並みに堕落しつつ、バンド活動という別の主軸をもって進んだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...