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第三話 大多喜
第3話
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由紀恵が一匹のキョンに手を下したその次の日の夜も、キョンの群れは現れた。
一匹だけ駆除しても意味がない、ということだった。
由紀恵は次の作戦に出た。かなり手荒な方法だったが、根本的な原因を断ち切るにはそうするしかなかった。
昼過ぎ。北原家を訪れた由紀恵は、麻里に許可を取って、怜菜と二人で畑に出かけた。
この前と同じく、はしゃぎながら畑へ向かう怜菜。畑に着いたところで、一匹のキョンを見つけた。
由紀恵はしゃがんで怜菜と視線を合わせ、とても怪しげな顔でつぶやいた。
「今から、お姉さんが魔法でキョンをやっつけるところ、見せてあげる」
「いいの!?」
「お母さんには内緒にできる!」
「うん!」
よしよし、と由紀恵は怜菜の頭をなでて、キョンの近くへ向かった。
この前使った魔法と同じく、キョンに狙いを定め、浮遊させた。泣き叫ぶキョンに、容赦なく青い炎が襲いかかる。そしてキョンはただの灰になる。
怜菜は、その様子をぽかんとした様子で見つめ、しばらく声が出せなかった。
やばい。流石に刺激的すぎたか。
由紀恵は焦って、怜菜に声をかけた。
「ど、どうだった? 魔法って怖いでしょ?」
「……おねえさんすごい!」
怜菜のそんな反応を見て、由紀恵はがっくりと肩を落とした。
自分が怜菜と同じくらいの歳だった頃、祖父にイノシシの処分を見せられた由紀恵は、それなりにショックを受けたものだが。
怜菜は動じていなかった。
あとで麻里に聞いたのだが、怜菜の祖父は猟友会に入っていて、殺した瞬間こそ見たことはないものの、殺されたキョンの死体などはしょっちゅう見ているという。
自然に生きるワイルドさという意味で、由紀恵は怜菜に負けたのだった。
* * *
東京の自宅に戻ってから、由紀恵は魔法管理官・天原聖人に報告を行った。
『またずいぶん奮発しましたね、由紀恵さん』
「そうですよ~。もう、大変だったんですから。野良仕事なんて久しぶりだから、腰が痛くて」
由紀恵が聖人に報告したのは、魔法によるキョンの処分二匹と、畑と北原家周辺に野生動物が入らないよう、大量の結界を張り巡らせたことだった。
怜菜にキョンの処分を見せた次の日、由紀恵は北原家周辺に結界を張った。麻里に「動物避け、やっておきましたから」と告げて、さっさと大多喜町を離れた。
『どうして二匹、駆除したんですか? 動物避けの結界を張るなら、最初からそうした方が早く済むでしょう』
「はじめは結界なんか張るつもりなかったんですよ。めんどくさいし。どう考えてもキョンはあの家に呼び寄せられてるから、多分、怜菜ちゃんが犯人だと思って、荒療治することにしたんです」
『キョンを殺すところを見せて、魔法は怖いものだと教えようという訳ですか。五歳の女の子にはちょっと、厳しいやり方ですね』
「そうです。でも全然効果がなかったんですよ。あの子、キョンの死体とか見慣れてるらしくって。まあ農家の子供ならありえる話なんですけど」
『それで、諦めてこんなに結界を張ったんですか』
由紀恵が結界を張ったのは、北原家とその周辺の畑一帯だった。隙間なく結界を詰めないと、キョンに突破される恐れがあった。
結界を張る、というのは紙に書いた魔法陣をひたすら地面に埋め込むという、地道な作業となる。野良仕事、と由紀恵が言っていたのはそのためだ。
田舎育ちとはいえ東京に住んでいる由紀恵は、庭仕事とすら無縁で、久しぶりに土をいじる作業は堪えた。というか、それを回避するために、怜菜を連れてキョンの処分を見せたのだが、見事に失敗したのだった。
「まあ、依頼は依頼ですし。魔法士が無能だと思われても困りますもんね」
『そこはご配慮ありがとうございます。野生動物なんて正確に追うのは無理なので、適当にやってくれてもよかったんですけど』
「それ早く言ってくださいよ」
『で、今回の対象者はどうでした?』
「んー、娘の怜菜ちゃんはかなり怪しいですね。間違いなくあの子が動物たちを呼び寄せてます。多分、魔法少女になりたいっていう強い気持ちがなにかを引き起こしていると思います」
『魔法少女、ですか?』
「そうです。おジャ魔女どれみ。聖人さん見てなかったんですか?」
『あまりテレビは見ずに育ったので』
「なーんだ。まあ、女の子向けのアニメだから、見てたって言われても困りますけど。最近の子はおジャ魔女どれみ知らないんですよ。プリキュアは知ってるみたいですけど」
『二十歳も違うんだから、それくらい当然でしょう。その怜菜ちゃん、今後の危険性はありますか?』
「一応、十年くらい効く結界を張ってきたので、しばらくしたら動物のことなんか忘れちゃうでしょ。あと十年も経ったら魔法少女へのあこがれもなくなるだろうし、その時になっても魔法を使いたいと思い続けていたら、それはその時に対応すればいいんじゃないですか」
『そうですね。意図的に魔法を使えるレベルでなければ、魔法庁の監視対象にはなりませんから。ありがとうございました』
聖人とのビデオ通話は、これで終わった。
由紀恵はため息をつきながら、腰に湿布を貼り、さっさと寝た。一日野良仕事をしたくらいで体が悲鳴を上げるなんて、自分も若くない……とは思いたくなくて、ふて寝を決め込むのだった。
一匹だけ駆除しても意味がない、ということだった。
由紀恵は次の作戦に出た。かなり手荒な方法だったが、根本的な原因を断ち切るにはそうするしかなかった。
昼過ぎ。北原家を訪れた由紀恵は、麻里に許可を取って、怜菜と二人で畑に出かけた。
この前と同じく、はしゃぎながら畑へ向かう怜菜。畑に着いたところで、一匹のキョンを見つけた。
由紀恵はしゃがんで怜菜と視線を合わせ、とても怪しげな顔でつぶやいた。
「今から、お姉さんが魔法でキョンをやっつけるところ、見せてあげる」
「いいの!?」
「お母さんには内緒にできる!」
「うん!」
よしよし、と由紀恵は怜菜の頭をなでて、キョンの近くへ向かった。
この前使った魔法と同じく、キョンに狙いを定め、浮遊させた。泣き叫ぶキョンに、容赦なく青い炎が襲いかかる。そしてキョンはただの灰になる。
怜菜は、その様子をぽかんとした様子で見つめ、しばらく声が出せなかった。
やばい。流石に刺激的すぎたか。
由紀恵は焦って、怜菜に声をかけた。
「ど、どうだった? 魔法って怖いでしょ?」
「……おねえさんすごい!」
怜菜のそんな反応を見て、由紀恵はがっくりと肩を落とした。
自分が怜菜と同じくらいの歳だった頃、祖父にイノシシの処分を見せられた由紀恵は、それなりにショックを受けたものだが。
怜菜は動じていなかった。
あとで麻里に聞いたのだが、怜菜の祖父は猟友会に入っていて、殺した瞬間こそ見たことはないものの、殺されたキョンの死体などはしょっちゅう見ているという。
自然に生きるワイルドさという意味で、由紀恵は怜菜に負けたのだった。
* * *
東京の自宅に戻ってから、由紀恵は魔法管理官・天原聖人に報告を行った。
『またずいぶん奮発しましたね、由紀恵さん』
「そうですよ~。もう、大変だったんですから。野良仕事なんて久しぶりだから、腰が痛くて」
由紀恵が聖人に報告したのは、魔法によるキョンの処分二匹と、畑と北原家周辺に野生動物が入らないよう、大量の結界を張り巡らせたことだった。
怜菜にキョンの処分を見せた次の日、由紀恵は北原家周辺に結界を張った。麻里に「動物避け、やっておきましたから」と告げて、さっさと大多喜町を離れた。
『どうして二匹、駆除したんですか? 動物避けの結界を張るなら、最初からそうした方が早く済むでしょう』
「はじめは結界なんか張るつもりなかったんですよ。めんどくさいし。どう考えてもキョンはあの家に呼び寄せられてるから、多分、怜菜ちゃんが犯人だと思って、荒療治することにしたんです」
『キョンを殺すところを見せて、魔法は怖いものだと教えようという訳ですか。五歳の女の子にはちょっと、厳しいやり方ですね』
「そうです。でも全然効果がなかったんですよ。あの子、キョンの死体とか見慣れてるらしくって。まあ農家の子供ならありえる話なんですけど」
『それで、諦めてこんなに結界を張ったんですか』
由紀恵が結界を張ったのは、北原家とその周辺の畑一帯だった。隙間なく結界を詰めないと、キョンに突破される恐れがあった。
結界を張る、というのは紙に書いた魔法陣をひたすら地面に埋め込むという、地道な作業となる。野良仕事、と由紀恵が言っていたのはそのためだ。
田舎育ちとはいえ東京に住んでいる由紀恵は、庭仕事とすら無縁で、久しぶりに土をいじる作業は堪えた。というか、それを回避するために、怜菜を連れてキョンの処分を見せたのだが、見事に失敗したのだった。
「まあ、依頼は依頼ですし。魔法士が無能だと思われても困りますもんね」
『そこはご配慮ありがとうございます。野生動物なんて正確に追うのは無理なので、適当にやってくれてもよかったんですけど』
「それ早く言ってくださいよ」
『で、今回の対象者はどうでした?』
「んー、娘の怜菜ちゃんはかなり怪しいですね。間違いなくあの子が動物たちを呼び寄せてます。多分、魔法少女になりたいっていう強い気持ちがなにかを引き起こしていると思います」
『魔法少女、ですか?』
「そうです。おジャ魔女どれみ。聖人さん見てなかったんですか?」
『あまりテレビは見ずに育ったので』
「なーんだ。まあ、女の子向けのアニメだから、見てたって言われても困りますけど。最近の子はおジャ魔女どれみ知らないんですよ。プリキュアは知ってるみたいですけど」
『二十歳も違うんだから、それくらい当然でしょう。その怜菜ちゃん、今後の危険性はありますか?』
「一応、十年くらい効く結界を張ってきたので、しばらくしたら動物のことなんか忘れちゃうでしょ。あと十年も経ったら魔法少女へのあこがれもなくなるだろうし、その時になっても魔法を使いたいと思い続けていたら、それはその時に対応すればいいんじゃないですか」
『そうですね。意図的に魔法を使えるレベルでなければ、魔法庁の監視対象にはなりませんから。ありがとうございました』
聖人とのビデオ通話は、これで終わった。
由紀恵はため息をつきながら、腰に湿布を貼り、さっさと寝た。一日野良仕事をしたくらいで体が悲鳴を上げるなんて、自分も若くない……とは思いたくなくて、ふて寝を決め込むのだった。
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