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第四話 五所川原
第3話
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その日の夜。
由紀恵は、今は誰も使っていない一室を借り、例によって魔法管理官・天原聖人への報告のため、タブレットでビデオ通話をしていた。
『で、これは何のつもりですか』
由紀恵から提出された魔法の使用明細を読んだ聖人は、開口一番そう言った。
「日本の少子化を防ごうと思いまして」
『今すぐ元に戻してください』
「えー。普通にチョコレート作るだけじゃ、私なにも魔法使ってないじゃないですか」
『その方がいいんですよ。実際そういう依頼も多いでしょう』
「なんか魔法使わないと魔法報酬出ないじゃないですか」
『依頼成功報酬だけで十分でしょう。魔法庁の財務状況が芳しくないこと、由紀恵さんも知っているでしょう。まあそれは良いとしても、由紀恵さんが本気でこんな魔法使ったら、チョコレートを食べた男の子が女の子を襲いかねない』
「眼の前で食べるとは限りませんし」
『家で食べたとしても、しばらく自慰行為を覚えたサルのようになって大変です……おっと』
極めて紳士的な聖人が、セクハラにならないよう身長な言葉使いをしていたところ、一瞬口を滑らせてしまったのを聞いて、由紀恵はくすりと笑った。
最も、こんなネタを扱わせている由紀恵のほうが悪いのだが。
『明日までにチョコレートは元に戻す。いいですね?』
「はーいはーい」
『それで、依頼主の様子はどうでしたか?』
「特に変わったところはないですよ。私の魔法見て禍々しいとか言ってたくらいです」
『それは、魔法というより由紀恵さんの意思が禍々しいからでは』
「そんなことないでーす」
* * *
翌日。
一家と同時に起床した由紀恵は、朝食をごちそうになった。美結は、食卓でとても浮かない顔をしていた。
「どうしたの? チョコレート渡すの、不安になってきた?」
「いや……今日は渡せないと思います」
「えっ? なんで?」
「雪がすごくて、学校まで行けません」
窓の外を見ると、昨日と同じように豪雪が続いていた。
「お母さんに車で送ってもらえないの?」
「できますけど、こういう日は自主練になるので、相手の翔くんが来れないと思うんです」
「あー、なるほどね」
「あの、気にしなくて大丈夫ですよ。よくあることなので。バレンタインデー当日じゃなくても、あとから渡せばいいだけなので」
美結はそう言うが、女の子にとってはバレンタインデー当日に渡すことこそロマンがあるのは、由紀恵も理解していた。チョコレートも、ずっと冷蔵しておくよりは作りたてのほうが美味しい。ちなみに前日由紀恵が使った怪しい魔法は、夜中のうちにこっそり解除しておいた。
朝食後、美結はずっと落ち込んだ様子のままだった。由紀恵はこのあと、美結の母の車で五所川原駅まで送ってもらう予定だった。
荷支度をしたあと、美結の母からりんごを六個も入れてくれた大きな紙袋を受け取り、家の外に出た時、見送ってくれる美結に再度話しかけた。
「ねえ、高校ってここから遠いの?」
「うちからなら、歩いて十分くらいで着きますよ。でも翔くんはその倍くらいかかるので、こういう日は来れないと思います」
「ふうん。徒歩二十分かあ。ま、なんとかなるかな」
「どういうことですか?」
「大サービスだぞ?」
由紀恵は空を見上げた。雪が顔につき、何も見えなかったが。
そのまま両手を、空へかざす。
「てーのひらをー、たいようにー!」
調子っぱずれな歌をうたっているうちに、突然、ぴたりと雪がやんだ。
空を覆っていた分厚い雲が、由紀恵の頭上を中心として、みるみるうちに消失していく。やがてこの時期の雪国ではめったに見られない、輝く太陽が顔を出した。
「これなら大丈夫そう?」
由紀恵が言うと、美結はあっけにとられ、きらきらと目を輝かせて太陽を見つめていた。
「はい! 今すぐ着替えてきます!」
「頑張って! 午前中いっぱいしか持たないから早めに帰るんだよ!」
「はーい!」
それから由紀恵は美結の母の運転する車に乗り、帰路についた。美結の前では笑顔で振る舞ったが、実はものすごく体力を使ったので、美結の母に「疲れちゃったので」と一言断ってから、車中では爆睡した。
帰りの新幹線で、由紀恵はスマホのニュースサイトを念入りに確認した。
天気を変える魔法は社会的影響が大きく、魔法庁へ事前に申請しないと使ってはいけない。怪現象だと騒がれたら、少なくとも聖人にはバレる。
幸いにも、SNSを見ても特に話題にはなっていなかったので、由紀恵は安心した。
規定違反だから魔法庁には申請できず、したがって魔法報酬も発生しないのだが、由紀恵は満足だった。
中学ですでに彼氏がいたという話を聞いて、大人げない対応をしてしまった事の罪滅ぼしがしたかったのだ。美結は気にしていないようだったが。
由紀恵は新幹線の中で、もらったりんごを一個、手にとって眺めた。今頃美結も、こんな真っ赤な顔になっているかもしれないな。お腹が空いたので一個食べようかと思ったが、川を剥く道具を持っていないし、かぶりつくのは下品すぎたので、やめた。
由紀恵は、今は誰も使っていない一室を借り、例によって魔法管理官・天原聖人への報告のため、タブレットでビデオ通話をしていた。
『で、これは何のつもりですか』
由紀恵から提出された魔法の使用明細を読んだ聖人は、開口一番そう言った。
「日本の少子化を防ごうと思いまして」
『今すぐ元に戻してください』
「えー。普通にチョコレート作るだけじゃ、私なにも魔法使ってないじゃないですか」
『その方がいいんですよ。実際そういう依頼も多いでしょう』
「なんか魔法使わないと魔法報酬出ないじゃないですか」
『依頼成功報酬だけで十分でしょう。魔法庁の財務状況が芳しくないこと、由紀恵さんも知っているでしょう。まあそれは良いとしても、由紀恵さんが本気でこんな魔法使ったら、チョコレートを食べた男の子が女の子を襲いかねない』
「眼の前で食べるとは限りませんし」
『家で食べたとしても、しばらく自慰行為を覚えたサルのようになって大変です……おっと』
極めて紳士的な聖人が、セクハラにならないよう身長な言葉使いをしていたところ、一瞬口を滑らせてしまったのを聞いて、由紀恵はくすりと笑った。
最も、こんなネタを扱わせている由紀恵のほうが悪いのだが。
『明日までにチョコレートは元に戻す。いいですね?』
「はーいはーい」
『それで、依頼主の様子はどうでしたか?』
「特に変わったところはないですよ。私の魔法見て禍々しいとか言ってたくらいです」
『それは、魔法というより由紀恵さんの意思が禍々しいからでは』
「そんなことないでーす」
* * *
翌日。
一家と同時に起床した由紀恵は、朝食をごちそうになった。美結は、食卓でとても浮かない顔をしていた。
「どうしたの? チョコレート渡すの、不安になってきた?」
「いや……今日は渡せないと思います」
「えっ? なんで?」
「雪がすごくて、学校まで行けません」
窓の外を見ると、昨日と同じように豪雪が続いていた。
「お母さんに車で送ってもらえないの?」
「できますけど、こういう日は自主練になるので、相手の翔くんが来れないと思うんです」
「あー、なるほどね」
「あの、気にしなくて大丈夫ですよ。よくあることなので。バレンタインデー当日じゃなくても、あとから渡せばいいだけなので」
美結はそう言うが、女の子にとってはバレンタインデー当日に渡すことこそロマンがあるのは、由紀恵も理解していた。チョコレートも、ずっと冷蔵しておくよりは作りたてのほうが美味しい。ちなみに前日由紀恵が使った怪しい魔法は、夜中のうちにこっそり解除しておいた。
朝食後、美結はずっと落ち込んだ様子のままだった。由紀恵はこのあと、美結の母の車で五所川原駅まで送ってもらう予定だった。
荷支度をしたあと、美結の母からりんごを六個も入れてくれた大きな紙袋を受け取り、家の外に出た時、見送ってくれる美結に再度話しかけた。
「ねえ、高校ってここから遠いの?」
「うちからなら、歩いて十分くらいで着きますよ。でも翔くんはその倍くらいかかるので、こういう日は来れないと思います」
「ふうん。徒歩二十分かあ。ま、なんとかなるかな」
「どういうことですか?」
「大サービスだぞ?」
由紀恵は空を見上げた。雪が顔につき、何も見えなかったが。
そのまま両手を、空へかざす。
「てーのひらをー、たいようにー!」
調子っぱずれな歌をうたっているうちに、突然、ぴたりと雪がやんだ。
空を覆っていた分厚い雲が、由紀恵の頭上を中心として、みるみるうちに消失していく。やがてこの時期の雪国ではめったに見られない、輝く太陽が顔を出した。
「これなら大丈夫そう?」
由紀恵が言うと、美結はあっけにとられ、きらきらと目を輝かせて太陽を見つめていた。
「はい! 今すぐ着替えてきます!」
「頑張って! 午前中いっぱいしか持たないから早めに帰るんだよ!」
「はーい!」
それから由紀恵は美結の母の運転する車に乗り、帰路についた。美結の前では笑顔で振る舞ったが、実はものすごく体力を使ったので、美結の母に「疲れちゃったので」と一言断ってから、車中では爆睡した。
帰りの新幹線で、由紀恵はスマホのニュースサイトを念入りに確認した。
天気を変える魔法は社会的影響が大きく、魔法庁へ事前に申請しないと使ってはいけない。怪現象だと騒がれたら、少なくとも聖人にはバレる。
幸いにも、SNSを見ても特に話題にはなっていなかったので、由紀恵は安心した。
規定違反だから魔法庁には申請できず、したがって魔法報酬も発生しないのだが、由紀恵は満足だった。
中学ですでに彼氏がいたという話を聞いて、大人げない対応をしてしまった事の罪滅ぼしがしたかったのだ。美結は気にしていないようだったが。
由紀恵は新幹線の中で、もらったりんごを一個、手にとって眺めた。今頃美結も、こんな真っ赤な顔になっているかもしれないな。お腹が空いたので一個食べようかと思ったが、川を剥く道具を持っていないし、かぶりつくのは下品すぎたので、やめた。
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