フリーの魔法士さん

瀬々良木 清

文字の大きさ
22 / 24
第六話 西宮北口

第五話

しおりを挟む
 西宮北口にあるホテルへ戻った後、由紀恵は魔法庁の天原聖人へ、これまでの調査内容をまとめて送信した。
 ただし、こころの学校や両親まで調査したことは、報告書に書かなかった。西宮北口でこころと面会し、魔法で未来予知をしてほしいと言われたこと、それは不可能だと回答したことだけ簡潔にまとめた。
 ここまでの聞き取り調査では、こころの友人である近藤結花、幼なじみだった黒澤大地という青年が、関連しているような気がしている。しかし、この二人はあらかじめ魔法庁から提供されたデータベースに載っていなかった。魔法庁のデータベースを用いればこの二人の身辺調査は容易なのだが、そのためには魔法庁の担当者、聖人の許可が必要だった。
 そのため由紀恵としては一度、聖人と相談するしかなかった。
 その日の夜遅くに聖人から話したいという連絡が来て、由紀恵はビデオ通話で話すことにした。

「予知魔法の使用許可、もらえますか」
『ダメです』

 開口一番そう言った由紀恵を、聖人が即答で否定した。

「えー。なんでですか」
『わざわざ説明することでもないでしょう。予知魔法の使用はリスクが大きすぎます。由紀恵さんの身に何かあってはいけないので』
「大丈夫ですよ。見ても未来を変えなければいいだけなので」
『それがとても難しい、と魔法大学でも習ったでしょう』
「そうですけど。わたしなら大丈夫ですよ」
『私は、由紀恵さんだから心配なのですが……』

 カメラ越しにむっと唇を尖らせてみる由紀恵。しかし聖人は、その程度では動じない。

『教えてほしいのですが、どうして予知魔法を使いたくなったのですか。由紀恵さんが、何の変哲もないこの依頼でリスクの高い予知魔法を使用したいだなんて言うとは思いませんでした』
「うーん。直感ですけど、再来週の水曜日に何かある、って依頼者の朝日こころさんが言うのは、その日に何か大きなイベントを起こすって決めてると思うんですよね。そこで依頼者が『発現』してしまうんじゃないかと」
『それだけですか?』
「はい。要は魔法士のカンですよ」
『であれば、なおさら許可はできません。たしかに再来週の水曜日を指定しているのは不可解ですが、『発現』が関連するという客観的根拠はありません』
「ええー。いいんですか、これでわたしが依頼者の『発現』を見落としてしまっても」
『これも由紀恵さんにわざわざ説明することではないですが、由紀恵さんの仕事は依頼者の『発現』の兆候を調査することです。実際に『発現』してしまった後の対応は、別の者が担当します。仮にこれで『発現』を見落としてしまったとしても、由紀恵さんが気にすることではありません』
「冷たいですね、聖人さん」
『この仕事は、魔法士の無事が第一ですから』
「ふうーん。で、この依頼どうします? もう終わりでいいですか?」
『いえ。魔法庁のデータベースでもう少し朝日こころさんの事を調査してみます。由紀恵さんは、再来週の水曜日を迎えるまで、近くに留まってもらえますか』
「いいんですか? その分他の依頼への着手が遅れるので、保証として報酬をしっかりいただく事になりますけど」
『かまいません。私の判断です』

* * *

聖人と話したあと、由紀恵は色々なことを考えた。
結論は、やはり朝日こころの未来が気になる、という事だった。
もし聖人にこの案件から手を引くよう言われていたら、それに従うつもりだった。しかし聖人はこころが気にしている再来週の水曜日まで留まれ、という。おそらく朝日こころは、魔法庁の調査対象リストの中でかなり上位にいるのではないか。そうなると『発現』が近い人物だという可能性が高い。
『発現』とは、その名の通り、魔法を使えなかった者が何らかのきっかけで魔法を覚える瞬間のことである。
 由紀恵は、魔法庁へ来る依頼を頼りに、何でもお悩み相談のような仕事をしているが、真の目的は、まだ魔法の才能を自覚していない一般人を調査し、魔法の使用による社会的混乱が起こらないよう監視することだった。
 魔法士の家系で、親から代々受け継がれている魔法の使い方を学んでいる由紀恵とは異なり、一般人は魔法の使い方を知らない。自覚がない間はいいのだが、自分は魔法を使える、と知ってしまうと、その力を悪い方向に使ってしまいがちだ。
 そうならないように、『発現』した時点で魔法庁が『特定魔法使用者』として秘密裏に登録し、その行動を管理・制限する。由紀恵はそのための調査官なのだ。
 由紀恵はあくまで魔法庁の手先なので、聖人の指示通りに動けば問題ないのだが、朝日こころにはなぜか心を動かされていた。
 彼女は、心の奥底に何か、とても深いものを持っているような。
 その強い思いは、いずれ魔法の使用に結びついてしまう。
 直感だが、由紀恵はそう考えていた。
 だから、聖人の手も使ってこころの事を更に知るのが由紀恵の取るべき行動なのだが、それは規則を正しく守るという前提である。
 それでは遅すぎる。だから規則を破ってでも、なんとかこころの悩みを解決したい。
 未来予知魔法。
 朝日こころには、魔法で未来を予知することは不可能、と説明したが。
 それは嘘であり、未来を予知することは可能である。
 魔法の才能に恵まれている由紀恵は、それを実行することも可能なのだった。
 しかし――
 未来予知魔法には、由紀恵にもどうにもならない、とても大きなリスクが存在する。
 『タイムパラドックス症候群』と呼ばれる、強烈な副作用があるからだ。
 魔法で、ある日の未来を見たとする。当然ながら、それは未来のことなので、予知をした者が行動を起こし、そのあるべき未来を変えてしまうことも可能である。
 しかし、そのように予知魔法で一度見た未来を『改変』してしまうと、予知魔法を使用した本人に、身体的なダメージが生じる。
 現代の魔法理論でも、そのような事が起こる理由は不明だが、とにかく未来の『改変』をすると、それ相応のダメージが発生する。軽微な事なら、吐き気を催す程度だが、たとえば人の生死を左右するような『改変』を行った場合、魔法の使用者が『タイムパラドックス症候群』で死んでしまった例も少なくない。
 そのため予知魔法の使用は、魔法庁によって厳格に管理されているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

秋月の鬼

凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。 安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。 境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。 ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。 常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...