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第六話 西宮北口
第五話
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西宮北口にあるホテルへ戻った後、由紀恵は魔法庁の天原聖人へ、これまでの調査内容をまとめて送信した。
ただし、こころの学校や両親まで調査したことは、報告書に書かなかった。西宮北口でこころと面会し、魔法で未来予知をしてほしいと言われたこと、それは不可能だと回答したことだけ簡潔にまとめた。
ここまでの聞き取り調査では、こころの友人である近藤結花、幼なじみだった黒澤大地という青年が、関連しているような気がしている。しかし、この二人はあらかじめ魔法庁から提供されたデータベースに載っていなかった。魔法庁のデータベースを用いればこの二人の身辺調査は容易なのだが、そのためには魔法庁の担当者、聖人の許可が必要だった。
そのため由紀恵としては一度、聖人と相談するしかなかった。
その日の夜遅くに聖人から話したいという連絡が来て、由紀恵はビデオ通話で話すことにした。
「予知魔法の使用許可、もらえますか」
『ダメです』
開口一番そう言った由紀恵を、聖人が即答で否定した。
「えー。なんでですか」
『わざわざ説明することでもないでしょう。予知魔法の使用はリスクが大きすぎます。由紀恵さんの身に何かあってはいけないので』
「大丈夫ですよ。見ても未来を変えなければいいだけなので」
『それがとても難しい、と魔法大学でも習ったでしょう』
「そうですけど。わたしなら大丈夫ですよ」
『私は、由紀恵さんだから心配なのですが……』
カメラ越しにむっと唇を尖らせてみる由紀恵。しかし聖人は、その程度では動じない。
『教えてほしいのですが、どうして予知魔法を使いたくなったのですか。由紀恵さんが、何の変哲もないこの依頼でリスクの高い予知魔法を使用したいだなんて言うとは思いませんでした』
「うーん。直感ですけど、再来週の水曜日に何かある、って依頼者の朝日こころさんが言うのは、その日に何か大きなイベントを起こすって決めてると思うんですよね。そこで依頼者が『発現』してしまうんじゃないかと」
『それだけですか?』
「はい。要は魔法士のカンですよ」
『であれば、なおさら許可はできません。たしかに再来週の水曜日を指定しているのは不可解ですが、『発現』が関連するという客観的根拠はありません』
「ええー。いいんですか、これでわたしが依頼者の『発現』を見落としてしまっても」
『これも由紀恵さんにわざわざ説明することではないですが、由紀恵さんの仕事は依頼者の『発現』の兆候を調査することです。実際に『発現』してしまった後の対応は、別の者が担当します。仮にこれで『発現』を見落としてしまったとしても、由紀恵さんが気にすることではありません』
「冷たいですね、聖人さん」
『この仕事は、魔法士の無事が第一ですから』
「ふうーん。で、この依頼どうします? もう終わりでいいですか?」
『いえ。魔法庁のデータベースでもう少し朝日こころさんの事を調査してみます。由紀恵さんは、再来週の水曜日を迎えるまで、近くに留まってもらえますか』
「いいんですか? その分他の依頼への着手が遅れるので、保証として報酬をしっかりいただく事になりますけど」
『かまいません。私の判断です』
* * *
聖人と話したあと、由紀恵は色々なことを考えた。
結論は、やはり朝日こころの未来が気になる、という事だった。
もし聖人にこの案件から手を引くよう言われていたら、それに従うつもりだった。しかし聖人はこころが気にしている再来週の水曜日まで留まれ、という。おそらく朝日こころは、魔法庁の調査対象リストの中でかなり上位にいるのではないか。そうなると『発現』が近い人物だという可能性が高い。
『発現』とは、その名の通り、魔法を使えなかった者が何らかのきっかけで魔法を覚える瞬間のことである。
由紀恵は、魔法庁へ来る依頼を頼りに、何でもお悩み相談のような仕事をしているが、真の目的は、まだ魔法の才能を自覚していない一般人を調査し、魔法の使用による社会的混乱が起こらないよう監視することだった。
魔法士の家系で、親から代々受け継がれている魔法の使い方を学んでいる由紀恵とは異なり、一般人は魔法の使い方を知らない。自覚がない間はいいのだが、自分は魔法を使える、と知ってしまうと、その力を悪い方向に使ってしまいがちだ。
そうならないように、『発現』した時点で魔法庁が『特定魔法使用者』として秘密裏に登録し、その行動を管理・制限する。由紀恵はそのための調査官なのだ。
由紀恵はあくまで魔法庁の手先なので、聖人の指示通りに動けば問題ないのだが、朝日こころにはなぜか心を動かされていた。
彼女は、心の奥底に何か、とても深いものを持っているような。
その強い思いは、いずれ魔法の使用に結びついてしまう。
直感だが、由紀恵はそう考えていた。
だから、聖人の手も使ってこころの事を更に知るのが由紀恵の取るべき行動なのだが、それは規則を正しく守るという前提である。
それでは遅すぎる。だから規則を破ってでも、なんとかこころの悩みを解決したい。
未来予知魔法。
朝日こころには、魔法で未来を予知することは不可能、と説明したが。
それは嘘であり、未来を予知することは可能である。
魔法の才能に恵まれている由紀恵は、それを実行することも可能なのだった。
しかし――
未来予知魔法には、由紀恵にもどうにもならない、とても大きなリスクが存在する。
『タイムパラドックス症候群』と呼ばれる、強烈な副作用があるからだ。
魔法で、ある日の未来を見たとする。当然ながら、それは未来のことなので、予知をした者が行動を起こし、そのあるべき未来を変えてしまうことも可能である。
しかし、そのように予知魔法で一度見た未来を『改変』してしまうと、予知魔法を使用した本人に、身体的なダメージが生じる。
現代の魔法理論でも、そのような事が起こる理由は不明だが、とにかく未来の『改変』をすると、それ相応のダメージが発生する。軽微な事なら、吐き気を催す程度だが、たとえば人の生死を左右するような『改変』を行った場合、魔法の使用者が『タイムパラドックス症候群』で死んでしまった例も少なくない。
そのため予知魔法の使用は、魔法庁によって厳格に管理されているのだ。
ただし、こころの学校や両親まで調査したことは、報告書に書かなかった。西宮北口でこころと面会し、魔法で未来予知をしてほしいと言われたこと、それは不可能だと回答したことだけ簡潔にまとめた。
ここまでの聞き取り調査では、こころの友人である近藤結花、幼なじみだった黒澤大地という青年が、関連しているような気がしている。しかし、この二人はあらかじめ魔法庁から提供されたデータベースに載っていなかった。魔法庁のデータベースを用いればこの二人の身辺調査は容易なのだが、そのためには魔法庁の担当者、聖人の許可が必要だった。
そのため由紀恵としては一度、聖人と相談するしかなかった。
その日の夜遅くに聖人から話したいという連絡が来て、由紀恵はビデオ通話で話すことにした。
「予知魔法の使用許可、もらえますか」
『ダメです』
開口一番そう言った由紀恵を、聖人が即答で否定した。
「えー。なんでですか」
『わざわざ説明することでもないでしょう。予知魔法の使用はリスクが大きすぎます。由紀恵さんの身に何かあってはいけないので』
「大丈夫ですよ。見ても未来を変えなければいいだけなので」
『それがとても難しい、と魔法大学でも習ったでしょう』
「そうですけど。わたしなら大丈夫ですよ」
『私は、由紀恵さんだから心配なのですが……』
カメラ越しにむっと唇を尖らせてみる由紀恵。しかし聖人は、その程度では動じない。
『教えてほしいのですが、どうして予知魔法を使いたくなったのですか。由紀恵さんが、何の変哲もないこの依頼でリスクの高い予知魔法を使用したいだなんて言うとは思いませんでした』
「うーん。直感ですけど、再来週の水曜日に何かある、って依頼者の朝日こころさんが言うのは、その日に何か大きなイベントを起こすって決めてると思うんですよね。そこで依頼者が『発現』してしまうんじゃないかと」
『それだけですか?』
「はい。要は魔法士のカンですよ」
『であれば、なおさら許可はできません。たしかに再来週の水曜日を指定しているのは不可解ですが、『発現』が関連するという客観的根拠はありません』
「ええー。いいんですか、これでわたしが依頼者の『発現』を見落としてしまっても」
『これも由紀恵さんにわざわざ説明することではないですが、由紀恵さんの仕事は依頼者の『発現』の兆候を調査することです。実際に『発現』してしまった後の対応は、別の者が担当します。仮にこれで『発現』を見落としてしまったとしても、由紀恵さんが気にすることではありません』
「冷たいですね、聖人さん」
『この仕事は、魔法士の無事が第一ですから』
「ふうーん。で、この依頼どうします? もう終わりでいいですか?」
『いえ。魔法庁のデータベースでもう少し朝日こころさんの事を調査してみます。由紀恵さんは、再来週の水曜日を迎えるまで、近くに留まってもらえますか』
「いいんですか? その分他の依頼への着手が遅れるので、保証として報酬をしっかりいただく事になりますけど」
『かまいません。私の判断です』
* * *
聖人と話したあと、由紀恵は色々なことを考えた。
結論は、やはり朝日こころの未来が気になる、という事だった。
もし聖人にこの案件から手を引くよう言われていたら、それに従うつもりだった。しかし聖人はこころが気にしている再来週の水曜日まで留まれ、という。おそらく朝日こころは、魔法庁の調査対象リストの中でかなり上位にいるのではないか。そうなると『発現』が近い人物だという可能性が高い。
『発現』とは、その名の通り、魔法を使えなかった者が何らかのきっかけで魔法を覚える瞬間のことである。
由紀恵は、魔法庁へ来る依頼を頼りに、何でもお悩み相談のような仕事をしているが、真の目的は、まだ魔法の才能を自覚していない一般人を調査し、魔法の使用による社会的混乱が起こらないよう監視することだった。
魔法士の家系で、親から代々受け継がれている魔法の使い方を学んでいる由紀恵とは異なり、一般人は魔法の使い方を知らない。自覚がない間はいいのだが、自分は魔法を使える、と知ってしまうと、その力を悪い方向に使ってしまいがちだ。
そうならないように、『発現』した時点で魔法庁が『特定魔法使用者』として秘密裏に登録し、その行動を管理・制限する。由紀恵はそのための調査官なのだ。
由紀恵はあくまで魔法庁の手先なので、聖人の指示通りに動けば問題ないのだが、朝日こころにはなぜか心を動かされていた。
彼女は、心の奥底に何か、とても深いものを持っているような。
その強い思いは、いずれ魔法の使用に結びついてしまう。
直感だが、由紀恵はそう考えていた。
だから、聖人の手も使ってこころの事を更に知るのが由紀恵の取るべき行動なのだが、それは規則を正しく守るという前提である。
それでは遅すぎる。だから規則を破ってでも、なんとかこころの悩みを解決したい。
未来予知魔法。
朝日こころには、魔法で未来を予知することは不可能、と説明したが。
それは嘘であり、未来を予知することは可能である。
魔法の才能に恵まれている由紀恵は、それを実行することも可能なのだった。
しかし――
未来予知魔法には、由紀恵にもどうにもならない、とても大きなリスクが存在する。
『タイムパラドックス症候群』と呼ばれる、強烈な副作用があるからだ。
魔法で、ある日の未来を見たとする。当然ながら、それは未来のことなので、予知をした者が行動を起こし、そのあるべき未来を変えてしまうことも可能である。
しかし、そのように予知魔法で一度見た未来を『改変』してしまうと、予知魔法を使用した本人に、身体的なダメージが生じる。
現代の魔法理論でも、そのような事が起こる理由は不明だが、とにかく未来の『改変』をすると、それ相応のダメージが発生する。軽微な事なら、吐き気を催す程度だが、たとえば人の生死を左右するような『改変』を行った場合、魔法の使用者が『タイムパラドックス症候群』で死んでしまった例も少なくない。
そのため予知魔法の使用は、魔法庁によって厳格に管理されているのだ。
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