僕は僕に恋をする。

社畜くま

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第一話 初めての恋

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何もない高校2年生の夏
朝倉望(アサクラノゾム)
は机の上でパソコンを触りながら
不毛な日々を過ごしていた。

「ずっと動画を見てばかりだ…
せっかくの夏休みなのに
僕はただぼーっとしているだけ…
何してんだろ………」

そう自暴自棄になりながらやる事もなく
メガネを外し、無気力に天井を眺めていた。

その時だった携帯から1件の通知が来た。

幼馴染の西島叶恵(ニシジマカナエ)
彼女からの連絡であった。

「やっほ~望ちゃんこの前話していた。
やりたい事見つかった?
もしも見つかってなかったら
ちょい付き合って欲しいのがあるのよ!
いい趣味にもなるから付き合って!
じゃあ今から家行くわ」
一方的なメッセージだった。

「本当にこいつはこっちの都合をいつも考えてくれないな…まあでも…いいか…」
そう折り合いのつかない気持ちのまま
どうするか考えていたが
もう彼女は家の前に着いていた。

彼女を迎えに玄関まで行き扉に手をかけた。

扉の前には大きなスケッチブックを持って
キラキラした笑顔で待っていた彼女がいた。

その圧に押されながら僕は引くように話した
「お早いご到着ですね…どのようなご用件でしょうか…」

だじたじしている僕に
彼女は満面の笑みで話しかけてきた。
「望ちゃん!今日から女の子になろう!」

僕は目が点になりそのままそっとドアを
閉じようとした。

だが彼女は閉めようとしたドアをこじ開け
大きな声で僕に嘆いた。
「違う!違うの!女装とかじゃなくて
とにかく話聞いて!」

彼女が必死に嘆いてる中、僕は答えた。
「いきなり女の子になれとか言うやつの
話にロクなことはない!
どうせメイド服、着させて街中を歩かせて
snsにアップして笑いものにしてから
炎上狙いの安っぽい動画配信者になれとか言うんだろう!」

そんな被害妄想を聞いて彼女は笑いながら答えた。
「確かにそんなのも面白いかも!
でも本当に違うの、メイド服は合っているけどただのメイド服じゃなくてイラストの服だよ!」

何を言っているのか全く理解していない僕にそのまま彼女は話を続けた。
「ねぇ!バーチャルキャラってわかる?
イラストに描いた女の子を
パソコンに映して動かすの!
自分が動いたら動いてお話しし始めたらその女の子もお喋りして
それを使って配信したりもするんだよ
部屋をお掃除していたら昔、望ちゃんと一緒に描いた絵があってね!
そこに描かれていた女の子が超可愛い!って思ったの!だ・か・ら!
今の私のプロ画力で可愛いイラストに大変身させました!
望ちゃんの部屋に大きいパソコンあるじゃん
それ使って私の力作の女の子を動かしてよ
ねぇ!いいでしょ?!なんか始めたいって
言ったじゃん!やろう?やろう?!見たいの!この子が動くとこ見たいの!!!」
また一方的な話だった…本当に何もこちらの都合を考えてくれない。
だが結局、彼女の圧に勝てないまま
バーチャルキャラを作る事になった。

その日はイラストだけ預かり解散した。

イラストには白黒で可愛いケモ耳の女の子が描かれていた。
大雑把にやじるしで髪は紫!フリフリの黒の服!など指示もつけられていた。
「キャラを作るって言うけどまず何から始めればいいんだよ…だるいな」
愚痴をこぼすがやる事もなく、押し付けられた趣味を黙々と進めた。
作り始めて10時間以上過ぎた頃、深夜4時をまわっていた。
「何をしていいかわからない…」
あれから何も進まず、参考になる動画や資料を読み漁るだけで終わっていた。
「キャラクターって書いたらほとんどある程度は動くと思っていたけどこんなにも必要なのかよ、こんな事、アニメ作っている人は何度もやっているのか?w頭がおかしくなりそうだ…」
そうブツブツ呟いてるとある資料が目に止まった。
「キャラクターを作る時は声から作るのが
一番!声が付く事でキャラクターのイメージもアップ!いいキャラクターを作ろう!」と書かれていた。
「そうだ…せめて、せめてだ!
声だけでも作ろう…声だけでも…でも…」
だが僕の身体は限界を迎えていた。
机に意識が抜けたようにそのまま眠ってしまった。
まるで誘われたかのように…

ここはどこだ?
すごく暗い何も見えない。
自分が存在しているかもわからない。

怖い。

すごく怖い。
「誰か!誰かいないの!ねぇ!
誰か!助けてよ!僕を一人にしないでよ!」
誰かにすがるように声を上げた。

声を上げた途端だった
遠くから声が聞こえた。
女性の声だ。

誰の声だ……
そこに誰かいるの?…

その声を探すように僕は暗闇の中を歩いた。

わからない
誰の声かわからない…
わからないが……
すごく心地がいい。

僕はその声に魅了されていた。

どんどん声に近づくにつれ
光が見えた。
そして動機も速くなっていた。

激しく打つ脈
呼吸もままならない。

初めての感覚だった。
だがそこには興奮を覚えていた。

「ねぇ…そこにいるのは誰?…誰なの!」
暗闇の中に照らす光に求めるように手を伸ばした。

手を伸ばした先には誰かがいた。
真っ白な綺麗な手だった。
その手に掴まれた瞬間!
暗闇は消えた。

見えなかった周りは徐々に見えた。
最初に映った光景は可愛いぬいぐるみだった
周りはピンク、ぬいぐるみたちがたくさん散らばっていた。

「なんだこのヘンテコのな場所は…
てかこのぬいぐるみの数は何?」

周りを不審になりながら見渡し
ぬいぐるみを掴んだ。
その時にある事に気づいた。

「このぬいぐるみ、俺が前に持っていたやつだ」

周りをもう一度、見渡すと自分がもっていたぬいぐるみばかりだった。


「なんで今さらになって……」

何かを抑え込んでいたかのように顔を俯かせたその時だった。

後ろから声が聞こえた。
あの声だった。

「誰だ!!!!」
と後ろを振り返ろうとした時
声だけが耳元で聞こえた。

「久しぶりもう少しで会えるね…」

懐かしくも聞き馴染みのある声だった。

その声を聞いた瞬間
現実に戻されるように起き上がった。
時刻は朝8時をまわっていた。

「……………」

モヤモヤな気持ちに整理がつかないまま
もう一度、ベッドで寝る事にした。


あれから僕はあの夢にとらわれていた。
集中は途切れ、ボーッと過ごす日々が続いた。
あの夢を何回も何回も思い出して
無気力を続けた。

「あの声は…あれは…」

未だに誰かなのかもわからない。
だがあの声を聞くたびに求めていた。
もう一度、会いたい
あの夢を見たいと。

僕は寝る事を繰り返した。
気づいたら1日を寝る時間にしか使っていなかった。

「もう何回目かな寝るのは…
何回寝ても同じ夢が見れない…ただ会いたいだけなのに…今度はちゃんと話したいだけなのに。」

絶望感の中、またもう一度、寝る事を繰り返し、横向いたまま机にうつ伏せになろうとした時にふとスケッチブックと資料が目に入った。

「キャラクターを作る時は声から作るのが
一番…声を作る…作る………
そうだ!!!!あの子を作ればいいんだ!
あの子を作ればまたあの夢に会える!
あの時もこれを作っていた時に会えた。
会える!会えるんだ!
会えたら話そう!あの時、あの暗闇から助けてくれた事!ちゃんと会おう!」

そうこれが僕の狂った恋の始まりだった。
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