10 / 15
第10話
しおりを挟む
「何あれ!? 魔法界の動物なの!?」
飛び出してきたのは、コウモリの翼を生やした灰色のリス、って感じの生き物だった。
大きさはウサギくらい。
目はやたらとデカくてギョロッとしており、耳は三角形にとんがっている。
リスに似ている──と思ったけれど、リスにしては手足が長く、爪も鋭い。
「動物っていうか、妖精だね。ゲームが見せる幻影じゃなくて、本物の妖精みたい・・・!」
「よ、妖精!?」
チハルの返答にわたしは衝撃を受けた。
だって、妖精っていうのはもっとこう・・・可愛らしい存在じゃないの?
「どうして妖精がボードゲームから飛び出してきたんだろう。盤の中に隠れてたのかな?」
「チハル! 冷静に考えてる場合!? あの妖精、なんだか凶暴そうに見えるわよ!」
と言ったそばから、妖精が尖った牙を剥き、エディとサラに飛びかかろうとした。
「! 危ない! アイスッ!!」
チハルが、掛け声と共に右手を掲げた。
すると、右手の正面に氷の塊が出現し、妖精めがけて飛んでいった。
「ギャッ!!」
氷の直撃を喰らい、妖精は悲鳴を上げながら床に落下した。
今のうちに、エディとサラを妖精から離さないと!
「エディ! サラ! こっちに来て!!」
わたしが声をかけると、二人は驚いて顔を上げた。
近所でよく挨拶を交わしていたからか、幸いにもすぐわたしのことに気づいてくれた。
「! ジェシカ!!」
サラが顔を輝かせ、わたしの方へ走ってくる。
エディも妹の後を追い、こちらへ駆け寄ってきた。
「ジェシカ、なんでここにいるの? ここって夢の中でしょ?」
「そうだよ、どうして?」
幼い二人はそろって首を傾げている。どうやら、二人とも自分が夢を見ていると思っているようだ。
ははっ、無邪気で可愛い~って和んでる場合じゃなかった。
わたしは急いで二人を背後に隠した。
「話は後で! 危ないから隠れていて! あ、でも壁のバラに近寄りすぎちゃ駄目よ!」
その間に妖精が起き上がり、再び空中に飛び上がっていた。
大広間にざわめきが広がっていく。
「妖精だって!」
「なんでこんな所に!?」
「安全なの? 凶暴そうじゃない?」
「いま子供に襲いかかろうとしてたぞ!」
その時、誰かが妖精を指差し、怯えた声で言った。
「ねえ・・・あれって、指名手配されてる『悪妖精のグレイ』じゃない?」
はぁ? 悪妖精? 指名手配?
わたしにはなんのことやら分からなかったが、大広間のざわめきは一気に大きくなった。
「ほ、ほんとだ!」
「グレイだ!! 逃げろ!」
パーティーに参加していた人々は、パニック状態で騒ぎ始めた。
その騒ぎに刺激され、妖精グレイは余計に激しく暴れ出す。大広間の中を飛び回って、逃げ惑う人々を引っ掻こうとしたり、噛みつこうとしたり、とにかく大暴れだった。
今のところ怪我人は出ていないようだが、これはまさしくカオス状態と言えるだろう。
(いや~これぞハロウィンって感じね)
わたしはエディとサラと一緒に隅っこでしゃがみ込みながら、ついつい呑気にそんなことを考えてしまった。
「アビー、あんたってば人間を誘拐したうえに、指名手配されてる悪妖精を匿ってたわけ?」
チハルが呆れた顔でアビーを見た。
「はぁ!? そんなことするわけないでしょ!! 知らないわよ、あんな奴!」
アビーは憤慨し、声を荒げている。嘘をついてる様子ではなさそうだ。
彼女は逃げ惑う人々を睨み、必死に怒鳴りつけた。
「ちょっと、あんた達! 魔法使いでしょ!? 妖精一匹紛れ込んでたからって、なにパニック起こしてんのよ!! 逃げずに魔法で応戦しなさい!!」
だが、人々は屋敷の玄関を目指して一目散に逃げていき、そのまま振り返ることなく出ていってしまった。
「アビー、ごめんねぇ。わたし、戦うの苦手だからさぁ~」
そう言って、オードリーも屋敷から逃げ出していった。
賑やかだった大広間からはどんどん人がいなくなり、気がつくと、残っているのはわたしとチハル、アビー、それからエディとサラだけになっていた。
「・・・ちっ、みんな使えないんだから・・・!」
「・・・」
ギリギリと爪を噛むアビーを、チハルは複雑そうな表情で見つめた。
グレイは大広間の真ん中あたりを我が物顔で飛び回っている。
「あーもう、鬱陶しい!! よくも好き勝手やってくれたわね! ファイア!」
アビーが耐えられないとばかりに、サッと右手を掲げた。
火の玉が現れ、グレイの方へと飛んでいく。だが、わずかにスピードが足りなかった。
グレイは寸前で火の玉を避け、クワッと口を開けた。そして、耳を塞ぎたくなるような馬鹿でかい鳴き声を上げた。
「!!」
グレイを中心に、空気が揺れているのが見えた気がする。
「ツッ!」
「わわっ!」
グレイの近くに立っていたチハルとアビーが、強く押されたように一歩後退した。
「なんなの? 衝撃波・・・にしてはダメージがなかったけど」
アビーは怪訝そうに眉をひそめた。
「ええい、なんでもいいよ! とにかく反撃・・・って、あれ?」
チハルは右手を掲げたまま、戸惑いの表情を浮かべた。
「──魔法が使えない!! も、もしかして封じられた? さっきのデッカい鳴き声で?」
「くっ・・・わたしも・・・」
アビーは忌々しそうに両手を見下ろしている。彼女も魔法が使えなくなってしまったようだ。
「えぇっ、アビーもなの!? なによ! 飛び級で卒業した『優等生』のアビーでしょ!? 封印くらい跳ね返してよぉ~! さっきは魔法を外してたし、ちょっと実力落ちてるんじゃない!? どうせ、もう卒業したからって魔法の練習をサボってたんでしょ!!」
「ツッ! うるさいっ!! あんたこそ、修行してる割に駄目駄目じゃない!」
うわあ、小競り合いしてる。
小さい子も聞いてるのに、恥ずかしい・・・。
喧嘩してる場合じゃないでしょ、とわたしが言うより先に、グレイが勢いよくチハルに飛びかかっていった。
「! チハル、危ない!!」
飛び出してきたのは、コウモリの翼を生やした灰色のリス、って感じの生き物だった。
大きさはウサギくらい。
目はやたらとデカくてギョロッとしており、耳は三角形にとんがっている。
リスに似ている──と思ったけれど、リスにしては手足が長く、爪も鋭い。
「動物っていうか、妖精だね。ゲームが見せる幻影じゃなくて、本物の妖精みたい・・・!」
「よ、妖精!?」
チハルの返答にわたしは衝撃を受けた。
だって、妖精っていうのはもっとこう・・・可愛らしい存在じゃないの?
「どうして妖精がボードゲームから飛び出してきたんだろう。盤の中に隠れてたのかな?」
「チハル! 冷静に考えてる場合!? あの妖精、なんだか凶暴そうに見えるわよ!」
と言ったそばから、妖精が尖った牙を剥き、エディとサラに飛びかかろうとした。
「! 危ない! アイスッ!!」
チハルが、掛け声と共に右手を掲げた。
すると、右手の正面に氷の塊が出現し、妖精めがけて飛んでいった。
「ギャッ!!」
氷の直撃を喰らい、妖精は悲鳴を上げながら床に落下した。
今のうちに、エディとサラを妖精から離さないと!
「エディ! サラ! こっちに来て!!」
わたしが声をかけると、二人は驚いて顔を上げた。
近所でよく挨拶を交わしていたからか、幸いにもすぐわたしのことに気づいてくれた。
「! ジェシカ!!」
サラが顔を輝かせ、わたしの方へ走ってくる。
エディも妹の後を追い、こちらへ駆け寄ってきた。
「ジェシカ、なんでここにいるの? ここって夢の中でしょ?」
「そうだよ、どうして?」
幼い二人はそろって首を傾げている。どうやら、二人とも自分が夢を見ていると思っているようだ。
ははっ、無邪気で可愛い~って和んでる場合じゃなかった。
わたしは急いで二人を背後に隠した。
「話は後で! 危ないから隠れていて! あ、でも壁のバラに近寄りすぎちゃ駄目よ!」
その間に妖精が起き上がり、再び空中に飛び上がっていた。
大広間にざわめきが広がっていく。
「妖精だって!」
「なんでこんな所に!?」
「安全なの? 凶暴そうじゃない?」
「いま子供に襲いかかろうとしてたぞ!」
その時、誰かが妖精を指差し、怯えた声で言った。
「ねえ・・・あれって、指名手配されてる『悪妖精のグレイ』じゃない?」
はぁ? 悪妖精? 指名手配?
わたしにはなんのことやら分からなかったが、大広間のざわめきは一気に大きくなった。
「ほ、ほんとだ!」
「グレイだ!! 逃げろ!」
パーティーに参加していた人々は、パニック状態で騒ぎ始めた。
その騒ぎに刺激され、妖精グレイは余計に激しく暴れ出す。大広間の中を飛び回って、逃げ惑う人々を引っ掻こうとしたり、噛みつこうとしたり、とにかく大暴れだった。
今のところ怪我人は出ていないようだが、これはまさしくカオス状態と言えるだろう。
(いや~これぞハロウィンって感じね)
わたしはエディとサラと一緒に隅っこでしゃがみ込みながら、ついつい呑気にそんなことを考えてしまった。
「アビー、あんたってば人間を誘拐したうえに、指名手配されてる悪妖精を匿ってたわけ?」
チハルが呆れた顔でアビーを見た。
「はぁ!? そんなことするわけないでしょ!! 知らないわよ、あんな奴!」
アビーは憤慨し、声を荒げている。嘘をついてる様子ではなさそうだ。
彼女は逃げ惑う人々を睨み、必死に怒鳴りつけた。
「ちょっと、あんた達! 魔法使いでしょ!? 妖精一匹紛れ込んでたからって、なにパニック起こしてんのよ!! 逃げずに魔法で応戦しなさい!!」
だが、人々は屋敷の玄関を目指して一目散に逃げていき、そのまま振り返ることなく出ていってしまった。
「アビー、ごめんねぇ。わたし、戦うの苦手だからさぁ~」
そう言って、オードリーも屋敷から逃げ出していった。
賑やかだった大広間からはどんどん人がいなくなり、気がつくと、残っているのはわたしとチハル、アビー、それからエディとサラだけになっていた。
「・・・ちっ、みんな使えないんだから・・・!」
「・・・」
ギリギリと爪を噛むアビーを、チハルは複雑そうな表情で見つめた。
グレイは大広間の真ん中あたりを我が物顔で飛び回っている。
「あーもう、鬱陶しい!! よくも好き勝手やってくれたわね! ファイア!」
アビーが耐えられないとばかりに、サッと右手を掲げた。
火の玉が現れ、グレイの方へと飛んでいく。だが、わずかにスピードが足りなかった。
グレイは寸前で火の玉を避け、クワッと口を開けた。そして、耳を塞ぎたくなるような馬鹿でかい鳴き声を上げた。
「!!」
グレイを中心に、空気が揺れているのが見えた気がする。
「ツッ!」
「わわっ!」
グレイの近くに立っていたチハルとアビーが、強く押されたように一歩後退した。
「なんなの? 衝撃波・・・にしてはダメージがなかったけど」
アビーは怪訝そうに眉をひそめた。
「ええい、なんでもいいよ! とにかく反撃・・・って、あれ?」
チハルは右手を掲げたまま、戸惑いの表情を浮かべた。
「──魔法が使えない!! も、もしかして封じられた? さっきのデッカい鳴き声で?」
「くっ・・・わたしも・・・」
アビーは忌々しそうに両手を見下ろしている。彼女も魔法が使えなくなってしまったようだ。
「えぇっ、アビーもなの!? なによ! 飛び級で卒業した『優等生』のアビーでしょ!? 封印くらい跳ね返してよぉ~! さっきは魔法を外してたし、ちょっと実力落ちてるんじゃない!? どうせ、もう卒業したからって魔法の練習をサボってたんでしょ!!」
「ツッ! うるさいっ!! あんたこそ、修行してる割に駄目駄目じゃない!」
うわあ、小競り合いしてる。
小さい子も聞いてるのに、恥ずかしい・・・。
喧嘩してる場合じゃないでしょ、とわたしが言うより先に、グレイが勢いよくチハルに飛びかかっていった。
「! チハル、危ない!!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる