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第一章
〈第29話 表〉 メビウス 対 メビウスの使徒
しおりを挟む構えた姿勢に入れば、彼女の剣が僕に向かうのは早かった。
「───あはっ!」
「………」
金属音が鳴り響いたと思った後には彼女は眼前に迫っていた。
魔力によって強化された身体と噴出する魔力で推進するエネルギーは凄まじく、まともに剣で受けるのは一般的な魔剣士なら得策ではない……多分、知らんけど。
「へぇ、やるね」
とりあえず一旦受けてからすぐに流すが、直後次の一手に繋げてくる。
「フフッまだあるよ!」
そしてそれをいなすと、懲りずにまた迫ってくる──
「──また止めちゃうんだ!」
だから思わず受け止めるが、彼女はそれに驚く様子もなくただ喜んでいるように見える。
しかしそんなことより最初の猛烈な接近の風圧で、フードに隠されていた彼女の顔が至近距離で顕になったことに僕は驚いた。
そして視覚に魔力を流し光量を調整する。その顔を覚えるためだ、決して可愛いからとかではない。
灰色に近い深緑の髪は後ろで2つに結われ、肩ほどまでの長さだと推察でき、翠に近い紫の目は常に僕の身体に向けられている。
それに彼女の魔力波長は見たことがない。
魔力の使い方が『ダート流』のそれとは全然違う。
鋭く、速く、魔力で魔力を練り上げるのが『シン・マケン』。
ダート流とシン・マケン、どちらかと言えば彼女の魔力の使い方は後者に近いものを感じるが、やはり全く違う。
「…………」
顔が近かったから弾く。
「……?!」
そして彼女も驚く。これでお相子。
「魔力………面白い使い方するね、ウチたちと同じ使い方。やっぱりリーダーは凄いや。さすがだよ、こんなのにまで真似されてるんだから」
剣先で僕を指す彼女。
『こんなの』とか『これ』とか周りの女子はまともなのがいないな。
やっぱりセレシアとミツキだけだ、素直でいい子なのは。
「でも全然つまんない。なんで反撃しないの?ウチがやった奴はみんな抵抗したのに」
少女は続ける。
「もしかしてビビってんの?今更怖気付くことないよね?ウチたちをこんなにしたんだからさ、せいぜい足掻いてウチを楽しませて…よ!」
最初と同じように急速に接近してくる。
そして堂々と真上から振り下ろされた剣、僕はそれを横に受け流すが、彼女はすぐさま横薙ぎを繰り出す。
当然これも受けよう──
「──!」
とする前に彼女の剣は変則的に線から点へと変え、横腹を貫かんと突き刺してくる。
受け止めてもいいが、さすがにやりすぎだと考え直し、後ろに飛んで避ける。
「チッ……!」
離れると聞こえてくる盛大な彼女の舌打ち。
残念だけどここで僕の力量を知られてしまうのは早すぎる。
せめて彼女の奥の手まで取っておくべきだ。
「ねぇ、今の……受け止めようとしたでしょ?ムカつくなぁ、まるで『私にはそれくらいできる』みたいな感じ。ならもっかいやってあげるよ、ちゃんと受け止めてね」
「………」
力量を知られてしまうのが早すぎる。
「黙ってないで、なんか言ったらどう?さっきからウチしか喋ってないじゃん。女の子を盛り上げないなんてマナー違反だよ?せめて自分の等級が何番か言ったらどう?」
彼女の口調は平然としているが、所々に怒気が滲み出ている。
こちらが応答しないことに苛立ちを覚えているのだろう。あるいは自信家だった?もしくは応援が来ないことに不満を?いやいやあるいは……なんてことを考えても分かるはずもない。
そろそろこちらも彼女のコミニュケーションしたいと言う意思に報いるとしよう。
「………」
ならこちらからも向かおう
「?…………ッ!?」
僕はそう言うと彼女と同じように、けれどそれよりも早く接近する。
「………」
いいね、やるね
「ッ」
僕の一撃を彼女も受け止めるが、反射的に反応できたというレベルでギリギリだろう。
先ほどの彼女と同じように次に繋げてもいいが、ここは左足で蹴り飛ばす──
「──ぐァ!」
殺すことは目的じゃないし彼女も対話を望んでいる。
これはあくまで捕縛が目的……なのだが思いのほか飛んで転がってしまった。
「……」
すまない。力加減を間違えたかもしれない
「くっくく……蹴りとか卑怯でしょ……それでも魔剣士?」
ペッ、と彼女は唾を吐くと立ち上がると剣を構える。
「お礼を言うよ、あんたのおかげで身体を武器に使うことを思い出せた……じゃあ、次。どっちがさきにやる?」
「………」
どっちでもいいかな……
「そう、ならこっちが行くよ………再戦だ!」
接近してくる彼女、繰り出される攻撃、散逸する魔力、木霊する剣戟。
それらが静謐な広場で幾度も繰り返される。
一瞬でも油断してそこから巻き返すことは容易。
だがそれは無礼だ。彼女が全力を持って僕を見つけようと言うのなら、僕もそれに応えるまで。
僕は防戦一方だが、苛烈に攻め立てる彼女はいつだって僕の隙をつこうとして来る。
切り下げの袈裟なら、いなし。
切り上げの逆袈裟なら、弾く。
横なぎなら、いったん受け止めて流す。
間断なく繰り出される斬撃の中、僕は今か今かとその時を待ち望む。
「ッ!!」
「………」
そして。
彼女の呼吸が、纏う魔力が、間合いが、そのすべてが変わる。
宣言通り次は受け止めよう───
迫りくる攻撃は変わらないが、確かに変わっている。
だから応えるために神経を集中する。
すると先ほどまで聞こえていた剣戟の音は聞こえなくなる。
代わりに耳から入る情報は、
剣の風切り音、
石畳を踏みしめる靴底の音、
どくっどくっと相対する彼女の心臓音
予感する。
次の一手。
ゆっくりと時間が流れる中で認識する。
彼女の構えが変わることを。
僕も魔力を込め、突き刺さるギリギリに備える。
腹を突こうと差し迫る刃。
そして今、全力の一つを披露する時が来た
───これが「なにをしている!」
あとわずか。
ほんの少しで僕に届こうとする直前、彼女の刃はピタリと止まる。
誰かが叫んだからだ。
彼女は振り返る。
僕も彼女の後ろを見る。
それは見知った人間、アーク騎士団ハクバ・ナイトと王国騎士たちだった。
騎士団に僕の魔力の波長を覚えられるとも限らない。僕は隠匿モードに移行する。
「っ……クソが………」
彼女は苦々しく吐き捨て、距離をとり身体に纏う魔力を絞る。
「邪魔が入った───」
睨みつけるようにハクバを一瞥してからこちらに視線を戻す。
しかし僕にまで彼女は眼を細めることはなかった。
「───ふふっ、どうやらそっちもお仲間が来たみたいね」
「……申し訳ありません……遅れました……っ…はぁ…はぁ」
隣に立ってくるミツキ……ゴーストは今の今まで探索していたのか魔力も最小限だ。急いでこちらに向かったのだろう、息を切らしている。
「また、会おうね。『ナンバーズ』さん───」
彼女は会った時と同じようにヘラヘラと笑っていたが、次には止む。
「───次は殺す」
「おい待て!くっ、君たちは追いかけるんだ!」
颯爽と立ち去る彼女。
ハクバは制止を呼びかけるがそう言って待つ人間はいないだろう、去り行く彼女とそれを追いかける何人かの騎士たちを見届ける。
「………──」
「──っ、はいわかりました」
彼女を追いかけるようにハンドサインっぽくゴーストに指示する。やってみたかったんだこれ。
ゴーストは飛んで屋根を渡るように駆けていく。
「くそっ、なんなんだ!残った君たちも追うんだ!」
だが騎士団は地面を走っていく。
ハクバは1人残り、僕と対峙する。
騎士団と本気でやりあってもみたいけれど、殺すのはまずいだろう。
というより30秒もあれば、ゴーストもあるいはさきほどの彼女もここから離れられるだろう。
なら時間稼ぎぐらいで十分かな。
「……」
いざ、尋常に。
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