やがて目は覚める

レモン飴

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第1幕 やがて目は覚める

悪夢8

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 気がつくと、僕は電話BOXの前に居た。

 真っ黒い空間の中に電話BOXだけがあって、その周りには何も無い。

 懐かしいものだ。

 携帯電話からスマートフォンが主流になったりと時代は移り変わり、公衆電話などは見かけなくなった。

 駅前にはまだ電話BOXくらいはあったか、意識しなくなると見えなくなるものだ。

 その、ほとんどオブジェのようなガラス張りの縦長の箱の周りを、一周眺めた。

 何も貼られてはいないようだ。

 それを確かめて、僕は電話BOXの扉を開けた。

 真っ黒い空間の中で、ある意味隔離された場所にも思える電話BOXの中で、透明な壁にもたれ、長い息を吐きながら座り込む。

 何度死んでも、まだ夢の中で、一体いつになったら、僕はこのおかしな夢から現実に戻ることができるのだろうか?

 そろそろ、いろんな感覚が混ざって、訳がわからなくなりそうだ。

 ああ、そういえば、もう何日も会社に行っていないような気がする。

 しまった、無断欠勤だ。

 なぜ気がつかなかったのだろう?

 とりあえず、連絡だけでもしておかなければ。

 理由はどうしようか。

 体調不良が無難だろうか?

 僕は慌てて、ポケットにスマホが入っていないかと探した。

 しかし、それらしい手応えはない。

 見つからないスマホ、そして、目の前には公衆電話。

 公衆電話をよく見ると、カードのようなものが電話の上に乗っている。

 それがテレフォンカードで残りがあれば、使えるかも知れない。

 僕は、藁をも掴む気持ちで受話器を取り、カードを公衆電話に差し込んだ。

 とにかく連絡さえ出来れば、方法は何でも構わない。

 こんな夢のせいで職場を失うなんて、シャレにならない。

 病院に行った帰りに連絡しようと思ったが、スマホを家に置き忘れたという事にしよう。

 カードが吐き出されて来ないことにホッとして、僕は勤め先の電話番号の数字を押そうとした。

 しかし、僕の指は、僕の意思とは関係無く、知らない番号の数字を押してゆく。

 電話が繋がると、耳鳴りのような、砂嵐のような音が聞こえて、僕は怖くなり、受話器を戻した。

 そして、後ずさりした拍子に、電話BOXの扉が、開いた。

 透明な壁に、自分の血液が、飛び散る。

 いつからあったのか、扉の内側には、「開けるな、キケン」と書かれた貼り紙があった。



 




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