やがて目は覚める

レモン飴

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第1幕 やがて目は覚める

悪夢12

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 気がつくと、僕は夜道のような暗がりに立っていた。

 淡いピンク色の花弁が、ヒラヒラと降りて来るのが見える。

 辺りに視線を移すと、舗装されていない道の両側に桜の木が植っていて、満開を少し過ぎたくらいの様子で咲き誇っていた。

 花見なんて、もう何年も行っていない。

 桜並木は、ところどころにぼんぼりが立てられていて、その柔らかな人灯りが、暗い夜道に桜を映し出している。

 それを眺めながら、僕は歩き出した。

 花見客がいるわけでもなく、屋台が出ているわけでもない、ただの桜並木。

 夢なのだから、いつか誰かと見た景色に近いものなのだろうけど、こんな景色を、いつ誰と見ていたのか、もう思い出せない。

 近頃では、あっという間に夏が来て、いつの間にか冬が来る。

 いつも急いで暑さ寒さの対策をするような状態で、季節の移り変わりを体感する機会も少なくなっているし、そんな余裕もなくなっている。

 日々のことで精一杯で、目が回りそうだ。

 誰に気を使うこともなく、こんな風にのんびりと景色を見ながら散歩することが現実に出来たなら、どんなに心地良いだろうか。

 そんな風に思いながら暫く歩くと、知らずに鳥居をくぐっていた事に気がついた。

 振り返ると、桜並木とぼんぼりの灯りに紛れて赤い鳥居があり、その両側には狐のような石像の後ろ姿があった。

 ぼんやりしていて、鳥居をくぐってしまうまで気が付かなかったのだろう。

 進んでいた方へ向き直すと、すぐ目の前に、小さな祠があった。

 さっきまでは、ただ、道が続いているだけだったはずなのに。

 鳥居と石像に見合わないような小さく古いその祠は、木材の端っこが崩れかかっているし、ところどころに苔が生えて、薄暗い緑色をしている。

 何も供えられていないのが寂しそうで、僕は近くの地面に咲いていた小さな花を手折って、祠の閉まった扉の前に供え、手を合わせた。

 何を祈る訳でもなく、目を閉じて、静かに時間の流れを感じてから、目を開ける。

 すると、祠の閉まった扉に、張り紙があるのが見えた。

 「開けるな、キケン」

 急に、僕の心臓は鼓動を早めた。

 嫌な予感がする。

 僕が後退りをはじめると、閉まっていた祠の扉が少しずつ開き始めた。

 まずい。

 僕は、祠に背を向けて走り出した。

 しかし、逃げる間も無く、僕の視点は地面に落ちることになった。

 あの祠の中から出て来たものが、僕の背中を深く引き裂いたことだけがわかった。

 景色がぼやけ始めた僕の目の前に、さっき僕が手折った小さな花が、ヒラヒラと落ちて来た。

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