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第1章 ハーディス王の国王
おまじないを君に
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七面鳥の香草焼きを手づかみで一心不乱に食べている。
やはりよほど腹が減っていたのだろう。口の周りをべたべたに汚しながら、
「王が来てくれるなんて、僕はしあわせだ」
と呟いて笑っている。
執務に追われ疲れた時、前王を思い出し感傷的な気分になった時、ナギリは良くこの部屋を訪れた。
蝋燭の光が揺らめく密室で、ぼんやりとしていると自分が幻想の中に迷い込んだかのような錯覚に陥る。
気の抜けた顔は、部下やカティ達には決して見せないのに、ベネディクトの前では何故か落ち着くのだ。
急いで食べすぎてむせているベネディクトの背中をさすりながら、ナギリは年相応の少年のようにほほ笑んだ。
すると、閉まった窓の外から、ごーん、と鐘が三つ鳴った。
今日は一年に一度開かれる音楽会である。城の東側にあるルーフで行われる。
普段の、宮廷音楽家達だけで行われる音楽会とは違い、城下町で暮らす者も楽器の腕が良ければ王の前で弾け、さらに王の気に召せば褒美を貰えるということで、朝早くから城の前は我こそはと意気込む者達で溢れかえっていた。
護衛隊長のギールクが朝から忙しく駆けまわっていたのもそのためだ。
王に危害を加える者がいないように、いつもの倍の護衛隊を配置して音楽会に臨むからである。
「そろそろ時間だ。たまにはお前も行くか?」
「いい。ここで聴くと丁度オルゴールみたいに聞こえて、心地良いし」
そう言うと、ベネディクトは今食べ終わった皿を唐突に床に叩きつけた。
乾いた音がして、皿は粉々に砕け散った。
その破片を手に取ると、なにやら古代語をぶつぶつと呟き、ナギリの右足の靴の上へと欠片をふりかけた。
「――――これで、今日は失くしていたものが見つかるよ」
子供のように抑揚のない声で言うと、ベネディクトはひざまずいた体勢のまま上目づかいで見上げてきた。
黒いローブの下から、日光をほとんど浴びていないせいで象牙のように真っ白な肌が見えた。
垂れ目気味の大きな瞳は彼を実年齢よりも若く見せる。
その下には、もう何日も寝ていないのだろう、隈がくっきりと刻印されている。
綺麗な翡翠色の髪は埃ですすけて汚れてしまっている。
そんな状態でも美しさは損なわれていないのだから、前王からの寵愛を受けていたのも頷ける。
「それは魔術か?」
「これはただのおまじないさ」
そう言ってベネディクトは笑うと、
「また、ご飯持ってきてね」
とかすれた声で呟き、ローブを深くかぶり直した。
やはりよほど腹が減っていたのだろう。口の周りをべたべたに汚しながら、
「王が来てくれるなんて、僕はしあわせだ」
と呟いて笑っている。
執務に追われ疲れた時、前王を思い出し感傷的な気分になった時、ナギリは良くこの部屋を訪れた。
蝋燭の光が揺らめく密室で、ぼんやりとしていると自分が幻想の中に迷い込んだかのような錯覚に陥る。
気の抜けた顔は、部下やカティ達には決して見せないのに、ベネディクトの前では何故か落ち着くのだ。
急いで食べすぎてむせているベネディクトの背中をさすりながら、ナギリは年相応の少年のようにほほ笑んだ。
すると、閉まった窓の外から、ごーん、と鐘が三つ鳴った。
今日は一年に一度開かれる音楽会である。城の東側にあるルーフで行われる。
普段の、宮廷音楽家達だけで行われる音楽会とは違い、城下町で暮らす者も楽器の腕が良ければ王の前で弾け、さらに王の気に召せば褒美を貰えるということで、朝早くから城の前は我こそはと意気込む者達で溢れかえっていた。
護衛隊長のギールクが朝から忙しく駆けまわっていたのもそのためだ。
王に危害を加える者がいないように、いつもの倍の護衛隊を配置して音楽会に臨むからである。
「そろそろ時間だ。たまにはお前も行くか?」
「いい。ここで聴くと丁度オルゴールみたいに聞こえて、心地良いし」
そう言うと、ベネディクトは今食べ終わった皿を唐突に床に叩きつけた。
乾いた音がして、皿は粉々に砕け散った。
その破片を手に取ると、なにやら古代語をぶつぶつと呟き、ナギリの右足の靴の上へと欠片をふりかけた。
「――――これで、今日は失くしていたものが見つかるよ」
子供のように抑揚のない声で言うと、ベネディクトはひざまずいた体勢のまま上目づかいで見上げてきた。
黒いローブの下から、日光をほとんど浴びていないせいで象牙のように真っ白な肌が見えた。
垂れ目気味の大きな瞳は彼を実年齢よりも若く見せる。
その下には、もう何日も寝ていないのだろう、隈がくっきりと刻印されている。
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そんな状態でも美しさは損なわれていないのだから、前王からの寵愛を受けていたのも頷ける。
「それは魔術か?」
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そう言ってベネディクトは笑うと、
「また、ご飯持ってきてね」
とかすれた声で呟き、ローブを深くかぶり直した。
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