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プロローグ
1.ヤンデレだらけの乙女ゲーに転生!?
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「城門を開けよ!」
銀の甲冑を着た兵士たちが声を上げ、地響きを鳴らしながら分厚い石の城門がゆっくりと開く。
「右陣、ヴィクター様のご帰還です!」
彼らは、ローウェル王国の王都を軍備するラインハルト騎士団の騎士たちだ。
たった今、魔物の対峙に出陣した騎士たちが、帰還してきたところであった。
剣や槍を持ち武装した兵士たちは、規律を持った歩きで城門をくぐる。
中には怪我をしている者もいるが、たった今死戦を乗り越えてきたというのに、皆の目の中の光は輝いている。
それもそのはずだーー軍勢の先頭で黒馬に跨り、漆黒の甲冑を身にまとい、前を真っ直ぐに見据えている屈強な男。
黒騎士ヴィクター・グリードがいれば、我が軍が負けるわけがないと全員が信じきっているからだ。
軍神と呼ばれる彼の戦場での働きは凄まじく、身の丈ほどもある大剣を振り回し、自分の数倍もの大きさがある魔獣を一刀両断してしまう。
黒馬に乗った彼は、真っ直ぐ前を見据えたままゆっくりと城内に入っていく。
勝ち戦に貢献した彼に、騎士たちの歓声と拍手が鳴り止まない。
「おかえりなさいませ、ヴィクター様」
光の聖女と呼ばれているルナ・レミリアは、先陣のヴィクターの前に躍り出ると、敬意を込めて恭しく頭を下げる。
観客に見向きもしなかったヴィクターだったが、ルナの姿に気がつくと手綱を引き、馬を止めた。
「お怪我されてますね。私が治癒いたしますのでこちらへ」
ルナの言葉を聞き、ヴィクターは己の体をゆっくりと見下ろす。
黒い甲冑にこびりついているのはほとんど魔獣の返り血なのだが、左腕だけは鉤爪で引っ掻かれたため痛々しい深い傷が残っている。
「……かすり傷だ」
どう見ても跡が残る血濡れの大怪我だが、ヴィクターは大したことないと聞く耳を持たない。
「そうおっしゃらず。魔物からの攻撃は、早めに治さないと後から酷く痛みますので」
ルナがそう懇願すると、大きく息を吐き、ヴィクターは黒馬から降りる。
頭一つルナより背が高い彼は、無言で怪我をした腕を差し出す。
翡翠の魔法石がついた杖を持ち、ルナはヴィクターの腕に治癒魔法をかけた。
「神よ、彼の者を救い癒し給え」
ルナが魔法を唱えると、明るい光が杖から放たれ、ヴィクターの傷がみるみるうちに治っていく。
いとも簡単に傷を治す奇跡を起こすのが、光の聖女と言われ尊敬される所以だ。
「これで大丈夫です」
ルナが微笑むと、ヴィクターは左腕を振り、問題なく動くことを確かめる。
助かったと労いの言葉か、ありがとうというお礼を言うためか、彼が唇を開いた瞬間、
「左陣、リロイ様のご帰還です!」
という声にかき消された。
城内に現れたのは魔術師たちの軍団だ。前線で剣や槍を振るう騎士たちの後衛で、補助魔法をかける陣営。
その先頭にて、白馬に乗ったリロイ・アイバーソンは、その特徴的な銀髪を靡かせ、たった今傷を癒してもらった黒騎士の前で止まる。
「随分手こずったみたいだね、ヴィクター殿」
白馬の上から、地面に立つヴィクターを見下ろし鼻で笑うリロイ。
「僕たちがせっかく魔法陣で結界張ったのに、それを無視して無謀な戦い方するんだもん、自業自得だよね。軍隊は自分勝手に動くんじゃなくて、戦況を見て臨機応変に隊列を整えるものって、何度言ったらわかるのかな」
物腰は柔らかいが、饒舌に皮肉を紡ぐリロイに、ヴィクターは顔を顰めて睨み返す。
「あぁ?」
一触即発の空気が流れる。
ルナから離れ、ヴィクターはつかつかとリロイの前へと近づくと、飛び上がった。
たくましい腕を振り上げ、馬に乗っているリロイの頬を力一杯殴りつけたのだ。
馬がけたたましい鳴き声をあげ、リロイは地面へを崩れ落ちる。
きゃあ!? とルナがいきなりのことに驚き声をあげる。
ヴィクターは前髪を掻き上げ、地面に倒れたリロイに向かって歯を剥き出し、凶暴な笑みを浮かべる。
「良かったな聖女が仲間になって。これで心置きなくテメェを殴れる」
どんなに殴っても、味方に聖女がいれば問題ないだろ、という彼の辛辣な嫌味だ。
しばらく地面に俯いていたが、リロイはゆっくり体を起こす。
「暴力でしか解決できないの、自分が無能で野蛮な生き物だってみんなの前で証明するだけだか、やめな?」
嫌味を言うリロイは、頬は腫れ、唇の端が切れ血が垂れているが、気にも止めずにヴィクターに笑顔を返す。
しかしその目は笑っておらず、こめかみには青筋が立っている。
「くたばれ」
ヴィクターは深紅の瞳を見開き、仲間であるはずのリロイを威嚇する。
「おお怖い。下品で野蛮な軍神さん。ああ、自分で治せるのでお構いなく」
唇が切れたリロイにルナが近づくが、大魔導師の彼は必要ないと手で制されていまった。
ラインハルト騎士団を指揮する、唯一無二の両翼の先陣たちだというのに、いかんせん、仲が悪すぎる。
背後に並ぶ部下たちは、そんな彼らには慣れっこだという様子で無言で待機している。
慌てて取り乱しているのは、最近仲間に入ったばかりの聖女ルナだけである。
二人は睨み合うと、どちらかともなく踵を返した。
そして、ルナの横を通り過ぎる際、二人は彼女にそっと耳打ちする。
「お前は俺が守る。だから俺のそばを離れるな」
と、右耳に囁き黒い甲冑に返り血を浴びたヴィクターは、紅い瞳で一瞬だけ目を合わせて去っていく。
「……僕の許可なしで他の奴の傷なんて癒さないでよ?」
銀髪をなびかせ、リロイは意地悪な笑みを浮かべてルナの左耳を撫でると、自らの陣営へと戻っていった。
ルナは魔法石のついた聖女の杖を握り締め、心の中で叫ぶ。
――この二人、かっこいいけど愛が重くてヤンデレがすぎるよ!!
「ブラック・ナイト・パレード」。
それは知る人ぞ知る名作だと人気の、登場人物が全員ヤンデレ&メリバエンド確定の玄人向け乙女ゲーム。
そんなゲームの光の聖女に転生してしまった私、ルナ・レミリアの苦難が今、幕を開けた。
ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?
~メリバエンド確定乙女ゲーに転生したので好感度とステータスMAXにして生存目指します~
銀の甲冑を着た兵士たちが声を上げ、地響きを鳴らしながら分厚い石の城門がゆっくりと開く。
「右陣、ヴィクター様のご帰還です!」
彼らは、ローウェル王国の王都を軍備するラインハルト騎士団の騎士たちだ。
たった今、魔物の対峙に出陣した騎士たちが、帰還してきたところであった。
剣や槍を持ち武装した兵士たちは、規律を持った歩きで城門をくぐる。
中には怪我をしている者もいるが、たった今死戦を乗り越えてきたというのに、皆の目の中の光は輝いている。
それもそのはずだーー軍勢の先頭で黒馬に跨り、漆黒の甲冑を身にまとい、前を真っ直ぐに見据えている屈強な男。
黒騎士ヴィクター・グリードがいれば、我が軍が負けるわけがないと全員が信じきっているからだ。
軍神と呼ばれる彼の戦場での働きは凄まじく、身の丈ほどもある大剣を振り回し、自分の数倍もの大きさがある魔獣を一刀両断してしまう。
黒馬に乗った彼は、真っ直ぐ前を見据えたままゆっくりと城内に入っていく。
勝ち戦に貢献した彼に、騎士たちの歓声と拍手が鳴り止まない。
「おかえりなさいませ、ヴィクター様」
光の聖女と呼ばれているルナ・レミリアは、先陣のヴィクターの前に躍り出ると、敬意を込めて恭しく頭を下げる。
観客に見向きもしなかったヴィクターだったが、ルナの姿に気がつくと手綱を引き、馬を止めた。
「お怪我されてますね。私が治癒いたしますのでこちらへ」
ルナの言葉を聞き、ヴィクターは己の体をゆっくりと見下ろす。
黒い甲冑にこびりついているのはほとんど魔獣の返り血なのだが、左腕だけは鉤爪で引っ掻かれたため痛々しい深い傷が残っている。
「……かすり傷だ」
どう見ても跡が残る血濡れの大怪我だが、ヴィクターは大したことないと聞く耳を持たない。
「そうおっしゃらず。魔物からの攻撃は、早めに治さないと後から酷く痛みますので」
ルナがそう懇願すると、大きく息を吐き、ヴィクターは黒馬から降りる。
頭一つルナより背が高い彼は、無言で怪我をした腕を差し出す。
翡翠の魔法石がついた杖を持ち、ルナはヴィクターの腕に治癒魔法をかけた。
「神よ、彼の者を救い癒し給え」
ルナが魔法を唱えると、明るい光が杖から放たれ、ヴィクターの傷がみるみるうちに治っていく。
いとも簡単に傷を治す奇跡を起こすのが、光の聖女と言われ尊敬される所以だ。
「これで大丈夫です」
ルナが微笑むと、ヴィクターは左腕を振り、問題なく動くことを確かめる。
助かったと労いの言葉か、ありがとうというお礼を言うためか、彼が唇を開いた瞬間、
「左陣、リロイ様のご帰還です!」
という声にかき消された。
城内に現れたのは魔術師たちの軍団だ。前線で剣や槍を振るう騎士たちの後衛で、補助魔法をかける陣営。
その先頭にて、白馬に乗ったリロイ・アイバーソンは、その特徴的な銀髪を靡かせ、たった今傷を癒してもらった黒騎士の前で止まる。
「随分手こずったみたいだね、ヴィクター殿」
白馬の上から、地面に立つヴィクターを見下ろし鼻で笑うリロイ。
「僕たちがせっかく魔法陣で結界張ったのに、それを無視して無謀な戦い方するんだもん、自業自得だよね。軍隊は自分勝手に動くんじゃなくて、戦況を見て臨機応変に隊列を整えるものって、何度言ったらわかるのかな」
物腰は柔らかいが、饒舌に皮肉を紡ぐリロイに、ヴィクターは顔を顰めて睨み返す。
「あぁ?」
一触即発の空気が流れる。
ルナから離れ、ヴィクターはつかつかとリロイの前へと近づくと、飛び上がった。
たくましい腕を振り上げ、馬に乗っているリロイの頬を力一杯殴りつけたのだ。
馬がけたたましい鳴き声をあげ、リロイは地面へを崩れ落ちる。
きゃあ!? とルナがいきなりのことに驚き声をあげる。
ヴィクターは前髪を掻き上げ、地面に倒れたリロイに向かって歯を剥き出し、凶暴な笑みを浮かべる。
「良かったな聖女が仲間になって。これで心置きなくテメェを殴れる」
どんなに殴っても、味方に聖女がいれば問題ないだろ、という彼の辛辣な嫌味だ。
しばらく地面に俯いていたが、リロイはゆっくり体を起こす。
「暴力でしか解決できないの、自分が無能で野蛮な生き物だってみんなの前で証明するだけだか、やめな?」
嫌味を言うリロイは、頬は腫れ、唇の端が切れ血が垂れているが、気にも止めずにヴィクターに笑顔を返す。
しかしその目は笑っておらず、こめかみには青筋が立っている。
「くたばれ」
ヴィクターは深紅の瞳を見開き、仲間であるはずのリロイを威嚇する。
「おお怖い。下品で野蛮な軍神さん。ああ、自分で治せるのでお構いなく」
唇が切れたリロイにルナが近づくが、大魔導師の彼は必要ないと手で制されていまった。
ラインハルト騎士団を指揮する、唯一無二の両翼の先陣たちだというのに、いかんせん、仲が悪すぎる。
背後に並ぶ部下たちは、そんな彼らには慣れっこだという様子で無言で待機している。
慌てて取り乱しているのは、最近仲間に入ったばかりの聖女ルナだけである。
二人は睨み合うと、どちらかともなく踵を返した。
そして、ルナの横を通り過ぎる際、二人は彼女にそっと耳打ちする。
「お前は俺が守る。だから俺のそばを離れるな」
と、右耳に囁き黒い甲冑に返り血を浴びたヴィクターは、紅い瞳で一瞬だけ目を合わせて去っていく。
「……僕の許可なしで他の奴の傷なんて癒さないでよ?」
銀髪をなびかせ、リロイは意地悪な笑みを浮かべてルナの左耳を撫でると、自らの陣営へと戻っていった。
ルナは魔法石のついた聖女の杖を握り締め、心の中で叫ぶ。
――この二人、かっこいいけど愛が重くてヤンデレがすぎるよ!!
「ブラック・ナイト・パレード」。
それは知る人ぞ知る名作だと人気の、登場人物が全員ヤンデレ&メリバエンド確定の玄人向け乙女ゲーム。
そんなゲームの光の聖女に転生してしまった私、ルナ・レミリアの苦難が今、幕を開けた。
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