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第1章 

4.S級ヤンデレイケメン2人

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目の前の二人を見ると、大好きなゲームのキャラが3次元になってそこに存在するので、ルナは内心高揚していた。

黒い髪、紅い瞳、太い首にたくましい腕。
一流の俳優並みのカッコよさ。

ルナがヴィクターの立ち姿に見惚れていると、目を伏せていたヴィクターと視線が合った。


「……俺は反対です。
 聖女とはいえ女がいるなど、軍の規律が乱れる」


低い声で反感を示し、眉根を寄せるヴィクター。

じろりと睨みつけられ、ルナは蛇に睨まれた蛙のように思わず身を縮こまらせる。


「うーん、しかし治癒魔法の使い手は、今後激化する魔獣たちとの戦闘のために必要だからなぁ」


部下の進言に困ったように頬を掻きながら、ラインハルトが告げる。

上官の決めたことなので従うしかないが、本心は嫌だと、深いため息をつくヴィクター。


「あんな貧弱な者にうろつかれては、目障りです。危うく踏み潰してしまうかもしれません」

「はっはっは、ヴィクター、冗談がすぎるぞ!」


現代で言うと格闘技の選手か、軍人かと思わしき、2メートル近い身長に鍛え抜かれた体の成人男性に真正面から睨みつけられて、貧弱代表のルナは震えることしかできない。

しかしラインハルト騎士団長は、おおらかなのか気にも留めずに冗談だと笑い飛ばしている。

苦い顔のヴィクターに反して、向かって左側に立つリロイは笑顔だ。


「僕はいいと思いますよ。
 ラインハルト様のお考えは、間違ったことがないし」


銀髪に垂れ目、目尻のほくろが色っぽい。

屈強なヴィクターに比べて、魔法での戦いを主とする大魔導士のリロイは線が細く、かっこいいというより美しい魅力がある。


「リロイにそう言ってもらえると助かるよ」


ヴィクターの不服そうな様子に困っていたラインハルトが、肯定的なリロイの態度にほっと胸を撫で下ろしている。


「ええもちろん。聖女様に、僕も挨拶しなくちゃね」


うんうん、と頷きながらリロイが初対面の聖女に挨拶をしようと、ひざまづいた体勢のルナに歩み寄る。

にっこりと笑いかけてくるリロイの顔に目を奪われたのも束の間、



「……あのさ、お前、ラインハルト様にどうやって取り入った?」



ルナの耳元で、他の人たちに聞こえない小声でそっとリロイは告げる。


「僕は魔法学園主席で卒業して、魔術具の開発や魔法書の執筆、魔法陣の新規作成もしてるんだよ。
 僕の名前知らないわけないよね?
 天才の僕でさえ、ラインハルト様に信頼されるまでに何年もかかったのに、ぽっと出の野良聖女が、軍の進行役?」


ゾッとするほど温度を感じない冷たい声で、ルナの耳元でリロイは早口で捲し立てる。


貴族の地位を剥奪され、投獄されていたリロイに、ラインハルトが自ら恩赦を申し出て軍に招き入れたので、リロイは上官以上の恩義の気持ちをラインハルトに抱いているのだろう。

聞いたこともない聖女が、急に軍の大事な立場になるなんて許せない。


キスしそうな間近な距離で、目を見開いてルナを見つめてきた。


ヒュッと息を呑み、唇を震わせることしかできない。


「とにかく、僕は認めないからね」



彫刻のように美しい顔をしているのに、その白い額に青筋を浮かべ、リロイはゆっくり立ち上がり玉座の横へと戻った。
そうしてまた美しい笑顔を浮かべる。


「これからよろしくねと挨拶してきました」

「そうか、リロイは偉いな! ヴィクターも仲良くするんだぞ」


はっはっは、と朗らかに笑うラインハルト騎士団長に合わせて、さっきまでの剣幕はどこへやら、リロイも楽しそうに笑っている。


しかしもちろん、目の奥は笑っていない。



「こ、これからよろしくお願いしますぅ……」



ルナは思った。


ゲームとしては楽しかったけど、ヤンデレってガチで対面すると、やばい奴過ぎて怖いよ!!


見た目はS級にかっこいいけれど、屈強な黒騎士と、サイコパスな魔導士に洗礼を受け、ただ挨拶をしただけなのに疲れ果ててしまった。


生き残るために、頑張ろう。
メリバエンド回避し生存を目指して。
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