オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水

文字の大きさ
31 / 47
第7章

3話 オバちゃんの対決

しおりを挟む
 コロシアムの中は、静まり返っていた。

「ん? 出し物、もう終わったのか? やけに静かじゃね?」

 不思議そうに観客席を見回すリドルに、ガーズが顎をしゃくる。

「あれが理由だ」

「へっ? うっひゃー。こりゃ貴族や神官たちでも引くわー」

 リドルとガーズの視線は、中央の競技場アリーナに向けられていた。
 リコも目を向ける。そして、自分の目を疑った。

(こ、これは? なんなの……これが魔族王と腹心の闘い?)

 そこには、グッタリしたウェアウルフを抱きかかえる傷だらけの魔族王。
 そして、牙を剥き彼らに飛びかかろうとしている腹心フェンリルの姿が……。
 リコはある程度、覚悟していたつもりであった。
 傀儡石をつけられた腹心に、魔族王が一方的に痛めつけられてるだろう――と。
 だが、この現状は――。

「あの女。魔族王をもっと苦しめる為に、ウェアウルフをダシに使いおったな」

 リコの疑問を知ってか知らずか、ケツァルがぼそりと呟いた。



 ◆◆◆



「ま、魔族王様……私のことは……お捨て置きください」

 ウェアウルフが力を振り絞り、魔族王に懇願する。
 目を大きく見開く魔族王。

「な、何を言ってるの! 嫌だよ! 絶対、君を死なせたりしない!」

 魔族王は、息も絶え絶えのウェアウルフを必死に抱き締めた。


 ――パチ、パチ、パチ、パチ。


 拍手の音が鳴り響く。
 女王であった。
 彼女は恍惚とした表情で、拍手を送りながら魔族王のもとへと向かう。
 魔族王の目前に立つと、女王は残酷な笑みを浮かべた。

「とっても感動するシーンだわ。ワタシ、泣いちゃうかと思った。どう? この趣向は? 腹心のフェンリルに、仲間であるウェアウルフを虐殺させる。そしてアンタは為す術もなく、ただ見ていることしか出来ない……ふふっ。素晴らしいでしょう?」

「……なんで……なんでこんな酷いことをするの? ボクが憎いんでしょう? だったら、ボクだけ苦しめればいい! 彼らを……魔族を苦しめないで!」

 魔族王は、腕の中のウェアウルフに顔を埋め肩を震わせた。

「アハッ! アンタのそういう姿が見たいからよ!」

 手を叩き、はしゃぐ女王。
 魔族王は顔を上げると、憎しみを込めた目で女王を睨みつけた。
 女王は目を丸くする。

「なーに? アンタ、そんな顔も出来るの? 生意気ー。あはははは!」

 そんな中、女王の高笑いを邪魔する叫び声が上がる。


「そそ、それは誠かっ!」


 騎士から盗人の報告を受けた神官であった。
 女王は舌打ちして、神官を睨めつける。

「いいところだったのに……一体、何! どうしたのよ!」

 神官は、弾かれたようにガタッと客席から立ち上がる。

「じょ、女王陛下のお飼いになられている生き物が……そそそ、その……ぬぬ、盗まれそうになりまして……」

「はぁ?」

「ここにいる不届き者が……」

 神官が、リドルとガーズを指さした。
 二人に鋭い視線を向ける女王。その視線を、二人を挟むように立つ騎士――リコとカイルに移し、命令する。

「お前たち、ソイツらをこっちに連れてらっしゃい」



 リコとカイルは、命令通りリドルとガーズを女王の前に連れて行くと、騎士よろしく跪いた。
 女王が、リドルとガーズをまるで値踏みするように眺め、鳥籠を顎でしゃくる。

「アンタたち、それ盗んでどうするつもり?」

 リドルは、あっけらかんと答える。

「えーと。オレたち金に困っててー、女王陛下のペットなら高く売れるかなぁと」

「ハッ! バカが考えそうなことね! くっだらない!」

 女王が鼻を鳴らし、蔑むように吐き捨てた。
 リドルは、気にする素振りも見せずに嘯く。

「いやー、それにしても女王陛下は噂通りの方だー。こんなえげつないこと、よく平気で出来ますよねー。オレみたいなバカには考えられないわー」

 ガーズもここぞとばかりに、コクコクと頷きながら参戦する。

「まったくだ! 一体、どういう神経してるんだか。嫌な女だ! 悍ましくて吐き気がする」

「な、なんですって!」

 眉を鋭利に吊り上げる女王。
 そんな女王にリドルはせせら笑う。

「女王陛下ってー、極悪人? あっ、違ったー! 鬼畜ッスよねー。あはははは!」

 女王は顔を醜く歪ませ、ツカツカと前に進み、勢いよく手を振り上げた。
 そして、リドルめがけて振り下ろした瞬間、その手を横に控えていた騎士――カイルに掴まれる。

「なっ!」

 女王は振り解こうとするが逆に引っ張られ、カイルに羽交い締めにされた。

「は、離しなさい! お前! こんなことしてただじゃ――」

「ただじゃおかない……とでも?」

 もうひとりの騎士――リコが籠手ガントレットを外しながら、女王と向かい合う。
 リコの目が、女王の顔を真正面から捉えた。

(こいつが諸悪の根源か。やっとお目にかかれたよ。それにしても……ケッ。随分と挑発的なボディをお持ちな美女だこと……)

 ヘルムの奥から殺気混じりの視線――若干、嫉妬を含む――を放つリコ。
 女王が整った顔を引き攣らせながら、負けじとリコを怒鳴りつける。

「おお、お前! ど、どういうつもりよ!」

 そんな女王の顔に、リコはヘルムを近づける。

「どうもこうもない。ただお前……かなりムカつくんだよ」

「なっ――」

 目を血走らせ、口をワナワナと震わせる女王。
 リコは彼女の耳元で囁く。

「今のお前、かなり醜いよ。顔は心の鏡なんだ。その醜い顔が素なんだね?」

「ワタシに向かってよくもそんな口を――」

「あーはいはい。うるさいし時間がもったいないね。早速、試させて貰うよ」

 そう言うとリコは、女王の胸元にある『ドラゴン・ジュエル』をムンズと掴んだ。
 リコの掌の中で『ドラゴン・ジュエル』は眩い閃光を放つ。


 次ぎの瞬間。



 ――パリン。



 乾いた音と共に『ドラゴン・ジュエル』は、粉々に砕け散り姿を消した。
 すると同時に――地を揺るがす程の咆哮が上がる。



「ウオオオオオォォォォォォッーーーッ!」



 咆哮の主は、美しい極彩色のドラゴン。
 ターコイズ・ブルーの翼をはためかせ、己の存在をまるで天と地に知らしめるかの如く吠え続ける。
 その隣にはもう一匹、赤く鋭い角を二本生やした真っ白なドラゴンが、サソリのような尻尾を悠然と揺らしていた。
 女王は、彼らの姿に大きく目を見開いた。
 そして『ドラゴン・ジュエル』の消えた胸元をいだき、絶叫を上げる。



「いやああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 女王は、為す術もなくその場に蹲る。



 ――阿鼻叫喚となるコロシアム。



 途轍もない二匹の魔獣の出現に、貴族や神官、騎士たちはまるで蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
 誰一人、女王に手を差し伸べることもせずに――。
 観客を失ったコロシアムは、その役目を終え沈黙した。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います

Debby
ファンタジー
【全話投稿済み】  私、山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。  好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリストなのだけど、やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。転移先の条件として『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。  そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。  更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。  これにはちゃんとした理由があって、必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ないし、もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった私は、頼もしい仲間と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。  いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。  なんで私が転移することになったのか。謎はいっぱいあるし、理想通りだったり、思っていたのと違ったりもするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 2025.4.26 女性向けHOTランキングに入りました!ありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧ 7時、13時、19時更新。 全48話、予約投稿しています。 ★このお話は旧『憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと』を大幅に加筆修正したものです(かなり内容も変わってます)。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...