ぼくらは科学☆特☆掃☆隊

いちたろう

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第六話 さらば銀色の宇宙人

第六話(2)

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 南原がステンレス製の素っ気ない解剖台を指差した。貴志はこの解剖台の冷たい無機質感が嫌いであった。
 貴志と林はカプセルを開け、全裸となった宇宙人を解剖台に乗せる。裸にして思ったが、人間の生殖器のようなものがないので、オスかメスかも分からない。むしろ人間の雌雄の概念を当て嵌めること自体、間違いかもしれないと思えた。
 宇宙人を解剖台に載せたところで、貴志たちの役目は終わりである。二人は解剖室の右隣にあるに更衣室で防護服を消毒して脱いだ後は別室で待機となる。
 解剖の様子が見たければ、解剖室の左隣にある見学室の大型モニターで見ることができた。二人が見学室に入るとすでに沼田所長と植村班長、そして森野がコーヒーを飲みながらモニターを見ている。
 貴志がモニターを見るとすでに解剖が始まっていた。天井からの固定カメラに加え、島崎がビデオカメラでも撮影をしている。
 最初のうちはみんなで見ていたが、さすがに生々しくて、だんだん気分が悪くなってきた。
「本館の事務室に戻りますので、何かあれば連絡をお願いします」
 貴志が沼田所長にそう告げると林と森野も一緒に退出した。さすがに二人も気分が悪かったようだ。

 岡田、南原、島崎は頭部のX線写真を見ていたが、ここで全員がはてなと首をかしげた。
「この触覚の下に丸いピンポン球くらいのものが写っているけどなんだと思う?」
 岡田が困惑して二人に尋ねた。
「見事な球体ですね。何か人工物に見えますが、個体識別用のマーカーとかじゃないですか」
「マ、マーカーならもっと見やすい腕とかでも、い、いいんじゃないですか?」 
「退化した目玉の痕跡とか……。なんて在るわけ無いか、ハハハ」
 二人とも降参である。
「まあ、話しててもしょうがないわ。解剖してみましょう」
 そう言いながら岡田は頭部にメスを入れていく。触覚の根元を切り開いていくと頭蓋骨に蓋のような物があった。
 メスでそっと蓋を開けると、窪みにピンポン球の大きさで真っ赤な赤い球が埋め込まれている。鉗子でそれを引き抜くと組織が癒着していたので、メスで切り取った。それを岡田はステンレスのトレイにポンと置いた。
「赤いピンポン球って何の冗談よ?」
「じ、自爆装置の可能性が……」
「怖いこと言わないで!」
 
 九時半頃から始まった解剖は昼休みを挟んで今でも続いている。沼田所長と植村班長も見飽きたらしく、午後からはずっと事務室で仕事をしていた。
 時刻はすでに夕方の四時を過ぎている。
 貴志がまだ終わらないのかなと思っていたところに、ちょうど所長の机の電話が鳴った。
「進み具合はどうじゃね?」
 しばらく会話が続き、沼田所長は受話器を置いた。
「やはり今日中には終わらんそうじゃ。残りは明日やるから三人とも片付けの手伝いに来て欲しいそうじゃ」
「了解しました」
 そう言って三人は防護服に着替えるため、事務室を出て行った。
 三人が解剖室に入ると片付けもそれなりに進んでいた。 
「切り刻んだ肉片のサンプルはこちらで処理するので、残っている本体をカプセルに戻して冷凍保管室に戻してちょうだい」 
 貴志と林はまた二人で宇宙人をひょいと持ち上げると白いカプセルの中に戻した。
「それじゃお二人さん、冷凍保管室までよろしく」 
「了解です」
 林は南原に片手を挙げて合図した。森野も一緒に同行しようとしたが岡田に止められた。
「森野さん、悪いけどそこのトレイに入っている赤い球を洗浄して保存ケースに入れといてくれる。それが済んだらこっちもお願い!」
「……、この赤い球は何ですか?」
 森野が不思議そうにそれをひょいとつまみ上げると、赤い球が振動して鈍い光を放った。
 他のみんなはちょうど森野に対して背を向けていたので、誰も気が付いていない。
 森野が「きゃっ」と声を上げるとみんなが一斉に振り向いた。
 時間にしてわずか五秒ほどであるが、森野が硬直してピクリとも動かない。
「森野さん、大丈夫ですか?」
 貴志が声をかけた。
「ごめんなさい、何でもないの。一瞬赤い球が光ったような気がして、でも光の反射だったみたい」
「やだ、びっくりするじゃない!」
 岡田はそう言って残りの作業を続けた。結局、その後一時間ほどかかって片付け作業が終わった。
 他のみんなは先に事務室へと戻り、残っているのは森野と貴志だけである。最後は床の清掃に使ったデッキブラシを洗浄用のアルコール槽に浸して乾燥棚にしまえば終了である。
「さてと、ぼくらも戻りますか」
 そう言って貴志が森野を見ると何かフラフラしている。
「森野さん、大丈夫ですか。気分でも悪いんですか」
 消毒槽のあるこの仕切り部屋は、換気装置が働いていても確かに臭いはきつい。
 森野がふらふらと貴志の前に歩み寄り、声を発した。
「オマ・エ・ハ・ダレ・ダ!」 
 貴志が困惑して押し黙っていると、 
「あれ? 私、今なにか言ったかしら。さあ早く着替えて戻りましょう」
 そう言って森野自身が少しびっくりしたようだった。
 貴志は森野の様子が気になったが、かと言って何か出来るわけでもない。
 その後二人はいつも通りに更衣室で着替えを済ますと、事務棟へ戻っていった。
 既に定時を回っており、この後は特に仕事もない。二人はタイムカードを押すと、一緒に駅へと歩き出した。しかし貴志は森野の様子におかしさを感じていた。話しかけても内容を聞いていないのか、答えがとんちんかんなのだ。
 二人が改札を抜けて階段を上がるとちょうど電車が来たので、貴志は「また明日」と言って森野に軽く挨拶をして電車に乗り込んだ。
 ドアが閉まると誰かが袖を引っ張っている。貴志が振り向くと、目の前に森野がいた。
 家は逆方向のはずだが……。
「どうしたんですか森野さん、これからどこかに行くんですか?」
 貴志が尋ねても森野は何も答えず、貴志の袖をずっと掴んだままである。
 結局森野は何もしゃべらず、五駅目の貴志が降りる駅まで付いてきた。
 貴志が「じゃあここで」と言って降りると、なぜか森野も一緒に降りた。しかもまだ袖を掴んだままだ。貴志が改札を出ようとすると、森野も付いてくるので慌てて止めた。
「本当にどうしたんですか! 絶対変ですよ」
 貴志はそう言って森野の顔をまじまじと見た。
「オマ・エモ・ウチュウ・ジン・ナノカ?」
 貴志は一瞬絶句したが、慌てて森野の切符の清算を済ませると二人で改札を脱けた。
 駅前の雑踏は帰宅時間と重なり、車の騒音や女学生達の笑い声などで騒がしい。
 貴志は森野の手を引くと、急いで人通りの少ない路地へと入った。
「君は誰なんだ! 森野さんじゃないのか?」
「コノ・人間ノ・脳ニハ・以前・オ前ノ体カラ・青イ・炎ガ・吹キ出ス・映像ガ・記録サレテ・イル」
 森野さんが誰かに支配されている? まさかあの死んだ宇宙人の幽霊にでも取り憑かれたとでも……。そんなことがあるのだろうか。
 貴志は頭の中が混乱し、目まいがしてきた。 
「お前・モ・宇宙人・ナノ・か?」
 貴志は大きく深呼吸すると、少し間を取って気を静めながら答えた。
「いや、俺は宇宙人ではない。共生体と言っても分からないかも知れないが、それよりお前は誰だ! 目的は何だ?」
「ワタシハ・星ニ帰リタイノダ」
「お前は幽霊なのか? 帰りたいと言っても既に体は解剖で切り刻んであるし、それは無理な話だ」
「君ハ・頭カラ・取リ出シタ・赤イ球ヲ見タカネ。アレガ我々ノ本体ダ。アノ中ニ精神ト記憶ガ入ッテいる。肉体ガナクナッテも・マタ新シイ体二・埋メ込メバ問題はない」
「もし帰れなければ彼女の体はどうなる」
「コノ人間ガ死ヌマデ・私が支配する」
「もし赤い球を壊したらどうなる」
「ワタシの意識ハ・消滅する、ト同時に彼女の意識モ・消滅する。君ノ言ウ・共生体なのだ。コノ人間ハ・植物人間となるダロウ」
 貴志は言葉に詰まった。もしそれが本当なら協力するしかなさそうだ。
「分かった。こちらの負けだ。君に協力すればちゃんと彼女を返してもらえるのか?」
「仲間ガ迎エニ来タラ私ノ意識ヲ・赤い球に移す。ソウスレバ彼女はヤガテ自我ヲ取リ戻スだろう。用のナクナッタ人間にドウコウするつもりはない」 
「では明日上司と相談させてくれ。さすがに自分の判断だけで決めるには、問題が大きすぎる」 
「それでは君にまかせるから、宜しく頼む」
 しばらく会話を続けているうちに、随分と流暢な日本語になったものだ。 
「それでお前はこの後どうするつもりだ?」
「せっかくだから地球人の生活を見てみたい。君の家に連れて行け。地球の文化に興味があるのだ。私は命令で仕方なく地球に来ただけで、戦いが好きなわけではない」
「ホントかよ」と思わず声が出た。
「こちらの星では一昔前に『地球文化観察記』という本がベストセラーになったくらいだ」
「そっちの星でもやっぱり本があるのか!」
 もちろんあっても不思議ではない。が、貴志は新鮮な驚きを感じた。
「我々の星では直接頭に電磁波で情報を流し込むので、地球のような紙製の本は無い」
「へぇ~、これは勉強になりました」
 そう言って貴志はお辞儀をして見せた。ずいぶん人懐っこいやつだな。でも、危険はなさそうだし、それにこのまま失踪されても困る。そう思った貴志は、自宅に連れ帰って監視することにした。
 駅前商店街から少し外れて十分も歩けば静かな住宅街となる。貴志のアパートはそこにあった。間取りは2DK。
 ドアを開けると、玄関からすぐにキッチンとダイニングテーブルが見える一般的な構造である。普段はこのキッチンが貴志と麻美の居間になっていて、その奥には六畳二間、貴志と麻美の部屋である。それから玄関を入ってすぐ脇に二つのドアがあって、一つは洗面所から風呂場へとつながり、もう一つはトイレである。
 時計を見ると八時を回っていた。
 チャイムを鳴らし、鍵を開けて中に入る。
「お帰りなさい」
 麻美は風呂上がりだったらしくバスタオルを肩に掛け、パジャマ姿で出てきた。
「麻美、すまないが実はお客さんがいるんだ」
「そうなの? 先に電話してよ。もう、こんな格好で恥ずかしいわ」
「恥ずかしがることはない。お前の知ってる森野さんだ」
 アパートの廊下で待たせていた森野を貴志が招き入れると、麻美は不思議そうに
「こんばんは」と声をかけた。
 森野は表情を変えず、押し黙っている。
 麻美は怪訝そうな顔をして貴志に事情説明を求めた。 
「実は帰りの電車で一緒だったんだけど、体調が悪くて一人で帰るのが難しいみたいなんだ。それで心配だから連れてきたけど、今日だけ家に泊めることにしたから」
「熱は? 今から夜間救急病院に行く?」
「いや、熱はないようなのでゆっくり寝かせてあげればいいと思う」
「それは大変でしたね」
 麻美が森野に声をかけた。彼女の硬直した表情が本当に具合悪そうに見えたのだ。
 貴志は、悪いがお前の部屋で一緒に……、と言いかけたが言葉を飲み込んだ。
 まずいな、麻美と宇宙人を一緒にするわけにはいかない。アパートは2DKなのでとりあえず自分はキッチンに寝て、森野を自分の部屋に寝かせて、と貴志が考えを巡らせる。
「お兄ちゃん、ご飯は?」 
「食べる。二人分用意してくれるか」
「今日はホウレン草の炒め物と唐揚げだけどいい?」
 テーブルに着くと麻美は森野におかずとご飯、味噌汁を持ってきた。
 森野は戸惑っているようだった。
「多かったかしら」 
 貴志が箸の使い方を教えると、麻美が怪訝そうに二人を見ている。
 森野が恐る恐る箸で唐揚げをつまみ上げ食べた。
「うまいものだ」と実に感嘆している。
「あっちでは何を食べているんだい」
「チューブから合成食を食べている」
「それはうまいのかい」
「生存に必要な栄養を取るための物で味は無い。むしろ無い方が上質と考えられている」
 地球の食べ物はうまいなあと呟きながら食べる森野を見て、麻美が不思議そうにしていた。
 食事の後は麻美が森野に風呂を勧めた。
「私も地球の風呂と言うものに興味がある。一度経験してみたかった」
 麻美はそれを聞いて森野に、
「ちょっとごめんなさい」と言うと、貴志の手を引いて自分の部屋に引き入れた。
 そして入るなり小声で尋ねた。
「お兄ちゃん、森野さんは一体どうしちゃったの」
「まあ、その、実は夕方から言動がおかしかったんだ。どうも自分は宇宙人だと思い込んでいるみたいでさ。もしかすると仕事のストレスが原因かもしれない」
「それって、すごくまずいんじゃない!」
「明日、森野さんを連れて出勤したら所長と相談するよ。そのつもりでちょっと面倒を見て欲しいんだ」
「分かったわ」
 二人で居間に戻ると麻美が尋ねた。 
「ところで着替えの下着とかどうするの」
 貴志は、あっ! と思った。男なら全く気にしないのだが、女性ともなると、そうはいかないだろう。
「もし新品の下着を持っていれば森野さんに分けてくれないか。後でお金は出すから。体格も似てるし……」
「先週末に買ったのがあるから別に構わないけど……」
 貴志は念のため風呂の使い方が分かるか聞いてみた。
「私は大丈夫だ。宿主の記憶から大体は分かる」
 そう言って彼女は服を脱ぎ始めた。
「待って待って! 森野さんはこちらで着替えてください」
 麻美は森野を洗面所に押し込んでドアをパタンと閉めると、「これは重症ね」と呟いた。
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