ご飯は冷めないうちに

興梠司

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ご飯は冷めないうちに

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小さい頃僕の家庭では夕食はテレビを禁止されていた。
理由はご飯を食べるのが遅くなるからだ、テレビに集中して
ご飯を食べない僕らはおふくろに
「ご飯は冷めないうちに食べなさい」と言われていた。
小学生になっても中学生になっても高校生になっても言われていた。
 
僕は早く片付けたいからだろうと常に思っていた。おふくろは特に家事が得意
といわけでもなかったからめんどくさいことを早くおわらせたいんだと
子供ながらに思っていた。

22歳の春、僕は実家を出ることにした、実家から遠い所に就職が決まったので
実家から出ていくことしかなかった。

おふくろは僕を見送るときにも言った、元気でなとかではなく
「ご飯は冷めないうちに食べるんだよ」と

僕の生活は始まった、会社へと家の往復でしか無かった。この土地では
僕には友達はいない、同僚も少し変わった人たちで友達になれる気も
僕はしなかったし、作ろうとも思わなかった。

会社の親睦会にも参加しない、僕が変わり者と思われていたのかもしれない。

とある日僕にも大好きな人ができた、大学の友達の紹介で付き合うことに
なった、新道由美は僕にはもったいないくらい可愛かった。
手料理もおふくろよりも美味しかったが、僕には一つだけ不満があった。

家で彼女の手料理を食べていても彼女はテレビに夢中で箸が進まないし、食事中の会話もほとんど無かった。
僕の家とは全く違って寂しかった。僕の家には食事中テレビはついていなかったけど会話があった。
「今日は何をした」「明日はこれをする」というありきたりな会話で成り立っていた。

会話が止まらなくなって箸が止まった僕達をみておふくろが
「ご飯は冷めないうちに食べなさい」というのが恒例だった。

今の食事に不満があるわけではないが物足りなかった。
時々おふくろのあの言葉が聞きたくなった。

ある日僕は過労で倒れた、仕事は残業続きで、休みの日には彼女と会い
実質休む暇はなかった。
僕も若いから行けると思っていたものの全然いけなかった。

入院したついでに精神科にも行き躁鬱病を診断された。病名を診断されると
一気にやるきをなくして会社に行かなくなり大好きだった彼女にも会わなくなった。

彼女からは時々「元気?」という連絡はくるが返す気もなく未読スルーが続いた、会社に連絡もしないで
一ヶ月も休めばそれはクビにもなるし、彼女の連絡を一ヶ月無視をすればそれは「別れよう」という連絡も来る。
どちらの連絡も無視をした。連絡する気持ちは僕にはなかった。

このベッドで一生寝ていたかった。おふくろには時々相談していて「実家にかえってきなさい」と言われていたが
実家に帰る気さえも怒らなかった。実家に帰ったたら父から「負けたのか?」と言われるのが目に見えていたからだ。父親は全てを勝ち負けで考える。

実家を出た日「負けるなよ」と言って封筒に50万を詰めての僕に渡してくれた、あの封筒の封はまだきっていない。あの封筒の封を切った時が僕の本当の負けだと思っている、だから僕はまだ負けていない。

会社の解雇通知が家に届けられ解雇通知を届けてくれた課長に「頑張ったな」と言ってっくれたがその言葉はなにも刺さらなかった、僕はまだ何も成し遂げていないのだからなんにも頑張ってはいない。

2ヶ月会社に行かなかったわけなのでもちろん給料もない、少しの貯金はあるがそんあもの本当に少しの貯金でしかない、そうだ実家に帰ろうと僕はあっさり負けを認めた。負けて何が悪いんだと。

日用品だけまとめて実家に帰ることにした、後の荷物は引越屋さんが後日持ってきてくれる。
家に帰ると夕食の時間だった、みんなが「お兄ちゃんおかえり」と言ってくれて
父だけが「負けて帰ってきたのと」いうので「惨敗だよ」と言って食卓に座った。

みんなの話し声が盛り下がり、みんなの箸が止まる頃
「ご飯は冷めないうちに食べなさい」という母の声が聞こえてくる。

僕はこの懐かしい光景に涙を浮かべた
 
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