ネクロフィリック☆ロマンス【黒ギャル・フランケンシュタイン白鹿マキナの恋物語】

水沢緋衣名

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Ⅲ.

第一話

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 颯斗が研究所に戻った時には、夕方17時を優に過ぎていた。
 マキナの云っていたものを粗方購入し、何時もながらに大荷物で部屋に戻る。
 するとベッドには膨らみがある状態で窓が大きく開いていた。
 季節はもうあっという間に夏を迎えてはいるが、この部屋は常にエアーコンディショナーが付いている。
 それなのに窓を開けるのは不自然だ。買い物袋を置いた颯斗は、窓辺に向かって歩き出した。
 
 
 窓から身を乗り出して植え込みを見れば、ちょうど暗くて丸い小さな穴が開いている。
 それを見た瞬間に、颯斗の身体から一気に血の気が引いた。
 医療用ベッドに歩み寄り一気に掛け布団を捲り上げる。
 すると其処にはマキナの下着を付けた、丸まったタオルが転がっていた。
 颯斗はそれを見るなり手を震わせて、懸命に湧き上がってくる怒りに耐える。
 それから深く溜め息を吐いて颯斗はパソコンデスクに向かう。
 ゲーミングチェアに腰かけると何かを細かく調べ始めた。
 
 
 
 
 マキナが先生の家に着いた頃には夜19時を回っていた。
 先生の住むマンションの部屋に辿り着きドアの前で硬直する。
 いざこの部屋の中に先生がいるのかと思うと、心臓がうるさく鳴り響いた。
 何度も何度も足繫く通っていたマンションなのに、今更緊張が止まらない。
 先生は自分が死んだ後から、どういう風に生きているのだろうとマキナは思う。
 色々な気持ちが絡み合った時に、部屋の中からドア目掛けて足音が聞こえた。
 
 
 マキナは咄嗟にエレベーターと反対側にある柱の物陰に隠れ、息を潜める。
 すると先生の部屋のドアが開いて、懐かしい横顔が見えた。
 ずっとずっと追いかけていた横顔が、マキナの視界に入れば胸が高鳴る。
 心の底から逢いたくて逢いたくて、どうしようも無かったのだ。
 先生が一度ドアの方を振り返り甘い声色で囁く。
 その視線はとても優しくて、恋人の時の先生の顔を思い出させた。
 
 
「今日はありがとう。駅まで送るよ…………」
 
 
 先生以外に誰かがいるとマキナはその時に気が付く。
 すると先生の部屋から、キラキラと輝く金色の髪の白ギャルが出てきた。
 とても清楚感のある白ギャルは、超絶可愛くつよつよで盛れ盛れだ。
 傷だらけでジャージ姿のマキナとは違い、全てが洗練されているギャルだった。
 先生は彼女の肩を抱き寄せてエレベーターの中に入ってゆく。
 その触り方も撫で方も、何もかも全てが恋人にしかしないものだった。
 マキナはそれを見た瞬間絶句してただ立ち尽くす。
 この時にマキナは自分は何のために此処まで来たのか解らなくなった。
 
 
 エレベーターの扉が閉まり下へ降りてゆけば、マキナの目から涙が溢れ出す。
 懸命に声を殺して泣きじゃくりながら、マキナは小さく嘆いた。
 
 
「…………せんせー、アタシ死んでも別に大丈夫だったかー…………」
 
 
 そう言いながら泣きじゃくり研究室に向かい歩き出す。
 マキナはこの時に、真面目に颯斗の所に戻ろうと思っていた。
 夜道を一人で歩きながらマキナはある事を考える。
 先生といた白ギャルは先生といつ出逢ったのだろう。そして、いつ先生の家に行く様になったのだろう。
 二股をされていても嫌だし、死んでから直ぐ付き合われていても嫌だとマキナは思う。
 不幸になっていて欲しかった訳では無いけれど、もう新しい人と生きている先生の姿は見たくなかったのだ。
 
 
『もういいじゃん。考えんのやめよう。だってアタシが死んじゃったのが良くないし。
それにさっきの子、マジ超絶可愛いしつよつよの盛れ盛れだったし、今のアタシじゃ勝ち目ない………』
 
 
 マキナはこの時に珍しく弱気になっていた。
 これでは黒ギャル失格だと思うのに、涙は上手く止まらない。その時にマキナを車のライトが照らした。
 マキナが振り返れば、其処には灰色のN-BOXが停まっている。その運転席には颯斗が乗っていた。
 
 
「…………颯斗??」
 
 
 泣きはらした顔で呟けば、物凄い剣幕の颯斗がマキナに歩み寄る。颯斗は声を荒げながら叫んだ。
 
 
「お前、ホント何処に行ってたんだ!!帰るぞ!!!」
 
 
 何時もなら鬱陶しい筈の颯斗が今日はとても暖かく感じる。
 マキナはこの時に、初めて生きているのが辛いと感じていた。
 一層のこと殺人犯に襲われていた時に、そのまま絶命してしまっていた方が良かったとさえ思う。
 マキナの手首を掴もうとした颯斗はマキナの顔を見てギョッとする。
 マキナはボロボロ涙を流しながら、唇を噛み締めていたのだ。
 
 
「…………は??お前どうした………??」
「へへっ………ちょっと、ね…………。てかなんで颯斗、此処解ったの??キモくない??」
「………だからお前は今、国で管理されてるからICチップも入ってる。何かあったら俺には場所が解る」
「はぁ??やば!!其処迄管理されてんだ、アタシ…………。マジでキモイ………」
「心配したんだぞ……………お前の身に何かあったらどうしようかと………俺は…………」
 
 
 颯斗がそう言いながら俯いた時、マキナはとても悲しい気持ちになる。
 先生の口から出て来て欲しかった甘い言葉は、颯斗の口から零れ落ちてゆく。
 どうして一番大好きだって人は、その言葉を言ってくれないのだろうとマキナは思った。
 その時パラパラと雨が落ちてきて一瞬にして豪雨になる。
 颯斗はマキナの手を引いて、イライラした様子で後部座席に放り投げた。
 
 
「…………ああもう!!帰るぞ!!!!」
 
 
 颯斗が運転席に乗り込み発進の準備をして車を出す。
 その後ろ姿を見つめていれば、雨は更に強まってゆく。
 六月の気候は安定しない。いつ何時雨が降り注ぐか解らない。
 雨水が車の上に落ちてバラバラと音を響かせてゆく。その度にまた悲しい気持ちになるのだ。
 マキナは雨音にかき消される位に、とても小さな声で嘆いた。
 
 
「アタシ、こんな風に生きてるの、辛い…………あの時、死んじゃってればよかった…………」
「お前、一体何言ってるんだ…………」
 
 
 聞こえてないと思っていた言葉の返事を、颯斗が間髪入れずに返してくる。
 その瞬間マキナの感情を抑えていたものが、一気に壊れて崩壊した。
 
 
「だってアタシ………あの日のまま死んじゃってたら、こんな思いしないで済んでたし!!!
犯人の逮捕だって、正直どうだっていいもん………!!アタシが死んじゃってさえいれば………どうでも!!!」
 
 
 堰を切ったかの様にマキナが涙を流せば、颯斗が更に声を荒げる。
 颯斗の声は震えているような気がした。
 
 
「お前に何があったのか解らない。解らないけれど………俺がお前を守りたくて、こうしたんだ………。
だから、お願いだからそんな事、言わないでくれよ………いうなよ………!!!」
 
 
 守りたいという言葉を聞いた時、マキナは変な感覚がした。
 まるで愛の告白を聞いているかの様な、そんな気恥しい気持ちになるのだ。
 余りにも感情的に言葉を返してきた颯斗に、マキナの心は揺さぶられる。
 マキナはそれ以上何も言えずに黙り込んだ。
 バラバラと雨音が響き渡る車は、気が付けば研究所に辿り着く。
 車を停めた颯斗はハンドルに身を預けて囁いた。
 
 
「…………お前が死んだら、研究をしている意味さえなくなるんだ…………」
 
 
 颯斗が畳み掛ける様に甘い言葉を吐き出すのを聞きながら、マキナは様子が変だと感じる。
 颯斗は研究所についているというにも関わらず、車を降りようとしなかった。
 おかしいと思ったマキナは、助手席の椅子を倒して颯斗に手を伸ばす。
 すると颯斗は真っ青な表情を浮かべて、はぁはぁと息を乱していた。
 
 
「…………え??颯斗???ちょっと………………」
 
 
 マキナが颯斗の身体を揺らせば力なく運転席に凭れ掛かる。
 ぐったりとした颯斗を見ながら、マキナはある事を思い返していた。
 
 
 
 幼いマキナは病室で人工呼吸器を繋げられ、胸から聞こえる風の音を聞いていた。
 喘息で死んでしまう人もいると、お医者さんからは告げられる。
 それを聞いた時にマキナは、自分がそんな風に死んでもおかしくないんだと思っていた。
 病室にランドセルを背負った颯斗が顔を出す。颯斗はニコニコ微笑みながら、マキナの手を握った。
 
 
『早く良くなると良いな………』
 
 
 颯斗がそう言いながら優しい声で囁くと、マキナは悲し気に囁いた。
 
 
『颯斗………マキナね、これで死んじゃうかもしれない…………』
 
 
 マキナの言葉に対して、颯斗はとても心配そうな表情を浮かべる。
 けれどそれから何かを閃いたかの様に、明るい顔をして見せた。
 
 
『マキナ。俺良い事思いついたよ。俺がお医者さんになって、マキナを治してあげる………!!!』
 
 
 ぐったりとした颯斗を担ぎながら、マキナは研究所のドアを開ける。
 目にいっぱい涙を溜めて、懐かしくて優しい思い出を噛み締めた。
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