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はじめてのバレンタイン【β×Ω】(2)
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許可を取った次の休日。
いつも一緒に行動するいつメン――田野原、原田、市瀬、皆川、沢良木の五人と一緒に、学校の最寄り駅へ向かうシャトルバスに乗り込んだ。
そこから普通のバスに乗り継いでしばらく走ると、大きな道路に面したスーパー見えてくる。
知ってるスーパーと比べるとめちゃくちゃでかい。何個分なんだろう。そもそも三階建ての店をスーパーって言うのは正しいんだろうか。
おっかなびっくり中に入って少し奥へ進むと、食品売り場から少し離れた所に大きな棚が何個か置いてあった。赤とピンクの派手な装飾に囲まれていて、あーなんかそれっぽいなと向かう方向を見つめる。
「すげぇ、こんな売り場あるのか」
「そーそー。日によってクリスマスだったり、ハロウィンだったりするやつ」
言われてみれば、何がそれっぽいワゴンがあった気がする。こんなにデカい棚じゃなかったけど。
並べられた商品の多さに少し圧倒されながら、棚をまじまじと見て回る。どれも凝った装飾の箱や袋の商品ばかりだ。なんか女性が好きそうなものが多い気がするけど。結局彼女にあげるとかそういうもんなんだろうか。
「良さげなのあったか?」
迷いに迷って二周くらいしたところで、沢良木がにこやかに尋ねてくる。
「わ、わかんね……何がいいんだこういう時って」
「ユッキーが分かんなかったら僕らも分かんないよ」
救いを求めても返ってくるのは苦笑だけ。とはいえ言う事はごもっともである。贈りたい相手の一番近くに居るのは他の誰でもなく、自分自身なんだから。
「そもそも甘いもん食べんのかな」
「だな。β様って普段何食べてんだ?」
「え…………っ、と」
食事の時間を思い出しても、何をよく食べていたのか全然浮かんでこない。どんな表情してたとかは結構細かく覚えてるのに。
甘いものなんて食べていただろうか。
生徒会の用事の合間に甘いものが出てきてはいた。でもあれは皆同じもので、副会長だけドライフルーツ持ち込んで食ってたのが印象に残ってるだけだ。
やばい。自分で思っていた以上に何も知らない。
無言で頭を抱えて座り込む。周りから慰めの言葉がかけられるけど、好きな食べ物ひとつ思い浮かばない情けなさが強すぎて……しばらく立ち直れそうにない。
「と、とりあえず無難なもん渡そう。大事なのは気持ちだって!」
「今更考えても分かるわけないしね。来年がんばれー」
……確かにそうだ。今悩んだところで解決はしない。
市瀬と皆川に両肩を叩かれつつ、何とかそう思い直してよろよろと立ち上がった。あれはどうだ、これはどうだと付き合ってくれる友達に引きずられるように棚の間をさまよって。
散々悩んだけれど、無難に男性向けだと一目で分かるパッケージのものをひとつ買うことにした。
そんなこんなで、バレンタイン当日。
選んだチョコレートを鞄に放り込んで、そわそわした気持ちで部屋を出た。
いつ渡そう。どうやって渡そう。何て言って渡そう。
そんな事をぐるぐると考えながら教室へ向かって廊下を歩く。ふと窓の外を見ると、高そうな装飾の包みを持った生徒に囲まれてる恋人の姿が見えた。
この学校は男子校だ。女子みたく友達同士でチョコレートを交換するような習慣はない。だけど全員金持ちのお坊ちゃんみたいだし、彼らは違うんだろうか……と、思いもしたけど。
「……全部貰ってるし」
どう頑張っても交換には見えなかった。
にこやかな微笑みを浮かべながら、華やかな贈り物を受け取っている。β様にお近づきになりたい下心がありそうなチョコレートを。
そう思うともう見ていられなくて。
窓の外の光景をなかったことにして、足早に教室へ駆け込んだ。
「はろーんユッキぃー。ちゃんと例のブツ持ってきたかー?」
ニヤニヤしながら話しかけてきた田野原の声がめちゃくちゃイライラする。思わずひと睨みして、無言でドカッと椅子に腰を下ろした。
「え、なに、朝っぱから超機嫌悪いじゃん」
「別に」
「いやいや。別に、じゃなくね。どしたよ」
ガンを飛ばしてもめげずに頭を撫でてくる田野原の心配そうな顔に、すっと毒気が抜けていく。皆そうだ。誰も悪くないのに、違う事で腹を立てて勝手に当たってるだけだ。
「……ごめん。八つ当たりした」
「それはいいけど、何かあったのか?」
「……」
正直情けなくて言いづらい。けど、心配させてしまった手前ダンマリとはいかなかった。
さっき廊下で見たことを包み隠さず話すと、また田野原の顔がニヤニヤし始めた。何だその顔。さっきよりだいぶ腹立つんだけど。
「ユッキーめちゃくちゃヤキモチ焼くじゃーん」
もやもやしていた気持ちの理由をあっさり指摘されて、カッと頬が熱くなる。
「う、うっせぇ! 悪いかよ」
「悪くないけど態度変わりすぎててウケる」
「ちょっと前までこっち来んなって威嚇しまくってたのにな」
思えばそんな時もあったけど。
指摘されたとおりで反論の言葉に詰まってしまった。すると満場一致で周りがニヤニヤした顔を浮かべ始めて、いくら睨んでも悪びれる様子がない。
そんな周りにからかわれていると、急に教室が騒がしくなった。
……主に、お坊ちゃんαの集団が。
いつも一緒に行動するいつメン――田野原、原田、市瀬、皆川、沢良木の五人と一緒に、学校の最寄り駅へ向かうシャトルバスに乗り込んだ。
そこから普通のバスに乗り継いでしばらく走ると、大きな道路に面したスーパー見えてくる。
知ってるスーパーと比べるとめちゃくちゃでかい。何個分なんだろう。そもそも三階建ての店をスーパーって言うのは正しいんだろうか。
おっかなびっくり中に入って少し奥へ進むと、食品売り場から少し離れた所に大きな棚が何個か置いてあった。赤とピンクの派手な装飾に囲まれていて、あーなんかそれっぽいなと向かう方向を見つめる。
「すげぇ、こんな売り場あるのか」
「そーそー。日によってクリスマスだったり、ハロウィンだったりするやつ」
言われてみれば、何がそれっぽいワゴンがあった気がする。こんなにデカい棚じゃなかったけど。
並べられた商品の多さに少し圧倒されながら、棚をまじまじと見て回る。どれも凝った装飾の箱や袋の商品ばかりだ。なんか女性が好きそうなものが多い気がするけど。結局彼女にあげるとかそういうもんなんだろうか。
「良さげなのあったか?」
迷いに迷って二周くらいしたところで、沢良木がにこやかに尋ねてくる。
「わ、わかんね……何がいいんだこういう時って」
「ユッキーが分かんなかったら僕らも分かんないよ」
救いを求めても返ってくるのは苦笑だけ。とはいえ言う事はごもっともである。贈りたい相手の一番近くに居るのは他の誰でもなく、自分自身なんだから。
「そもそも甘いもん食べんのかな」
「だな。β様って普段何食べてんだ?」
「え…………っ、と」
食事の時間を思い出しても、何をよく食べていたのか全然浮かんでこない。どんな表情してたとかは結構細かく覚えてるのに。
甘いものなんて食べていただろうか。
生徒会の用事の合間に甘いものが出てきてはいた。でもあれは皆同じもので、副会長だけドライフルーツ持ち込んで食ってたのが印象に残ってるだけだ。
やばい。自分で思っていた以上に何も知らない。
無言で頭を抱えて座り込む。周りから慰めの言葉がかけられるけど、好きな食べ物ひとつ思い浮かばない情けなさが強すぎて……しばらく立ち直れそうにない。
「と、とりあえず無難なもん渡そう。大事なのは気持ちだって!」
「今更考えても分かるわけないしね。来年がんばれー」
……確かにそうだ。今悩んだところで解決はしない。
市瀬と皆川に両肩を叩かれつつ、何とかそう思い直してよろよろと立ち上がった。あれはどうだ、これはどうだと付き合ってくれる友達に引きずられるように棚の間をさまよって。
散々悩んだけれど、無難に男性向けだと一目で分かるパッケージのものをひとつ買うことにした。
そんなこんなで、バレンタイン当日。
選んだチョコレートを鞄に放り込んで、そわそわした気持ちで部屋を出た。
いつ渡そう。どうやって渡そう。何て言って渡そう。
そんな事をぐるぐると考えながら教室へ向かって廊下を歩く。ふと窓の外を見ると、高そうな装飾の包みを持った生徒に囲まれてる恋人の姿が見えた。
この学校は男子校だ。女子みたく友達同士でチョコレートを交換するような習慣はない。だけど全員金持ちのお坊ちゃんみたいだし、彼らは違うんだろうか……と、思いもしたけど。
「……全部貰ってるし」
どう頑張っても交換には見えなかった。
にこやかな微笑みを浮かべながら、華やかな贈り物を受け取っている。β様にお近づきになりたい下心がありそうなチョコレートを。
そう思うともう見ていられなくて。
窓の外の光景をなかったことにして、足早に教室へ駆け込んだ。
「はろーんユッキぃー。ちゃんと例のブツ持ってきたかー?」
ニヤニヤしながら話しかけてきた田野原の声がめちゃくちゃイライラする。思わずひと睨みして、無言でドカッと椅子に腰を下ろした。
「え、なに、朝っぱから超機嫌悪いじゃん」
「別に」
「いやいや。別に、じゃなくね。どしたよ」
ガンを飛ばしてもめげずに頭を撫でてくる田野原の心配そうな顔に、すっと毒気が抜けていく。皆そうだ。誰も悪くないのに、違う事で腹を立てて勝手に当たってるだけだ。
「……ごめん。八つ当たりした」
「それはいいけど、何かあったのか?」
「……」
正直情けなくて言いづらい。けど、心配させてしまった手前ダンマリとはいかなかった。
さっき廊下で見たことを包み隠さず話すと、また田野原の顔がニヤニヤし始めた。何だその顔。さっきよりだいぶ腹立つんだけど。
「ユッキーめちゃくちゃヤキモチ焼くじゃーん」
もやもやしていた気持ちの理由をあっさり指摘されて、カッと頬が熱くなる。
「う、うっせぇ! 悪いかよ」
「悪くないけど態度変わりすぎててウケる」
「ちょっと前までこっち来んなって威嚇しまくってたのにな」
思えばそんな時もあったけど。
指摘されたとおりで反論の言葉に詰まってしまった。すると満場一致で周りがニヤニヤした顔を浮かべ始めて、いくら睨んでも悪びれる様子がない。
そんな周りにからかわれていると、急に教室が騒がしくなった。
……主に、お坊ちゃんαの集団が。
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