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遭遇
35.鉱石の村
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程なくして揺れが止まり、目的地へと辿り着いた。
馬車から降りた先は剥き出しの土を踏み固めただけの道。視線を上げると森の中に溶け込むようにして建物が点在し、柔らかな陽光が建物や人々を包んでいる。
賑やかな人の息遣いに溢れていた港街や王都とは違い、この場所は風が運んでくる森の音で満たされていた。
ヴィーゼル卿に伴われて向かったのは村の中で群を抜いて大きな建物が立ち並ぶ最奥の広場。中央の比較的背が低い建物の扉を潜ると、木箱に放り込まれた鉱石が部屋の中で積み重なっている。
「凄いな……種類がこんなに」
箱の側面に書かれているのは鉱石の種類だろう。おおよそ二箱前後で一種類といったところか。
物珍しさできょろきょろと視線が走りまわるグラキエに、ヴィーゼル卿と話をしていた建物の主がどこか胡散臭く見える笑顔を浮かべて近づいてきた。
「これらはすべて魔法鉱石にございます。この村では大規模採掘で発見の難しい鉱石を取り扱っておりまして」
「なるほど、こだわりの鉱石という訳か!」
思ってもいない展開に声が大きくなってしまった。
採掘が難しい貴重な資源は数が集まらず、売買までのコストが高すぎて流通しないことも多いと聞く。雪と森に囲まれ、一年の半分以上が外界から隔離されてしまうアルブレアでは、文献に名前があってもお目にかかれないものが沢山ある。
「そんな良いもんではないよ」
思わぬ宝の山にテンションが上がった所へ、ぶっきらぼうな声が水をさすように割って入った。
背は低いが体格はがっしりとしていて、使い込まれた革のグローブをはめた大きな手が目立つ。物語に出てくるドワーフのような初老の男性は腕を組み、軽く首を横に振りながらため息をついた。
「他国の大規模産地に押されて、何とか商品になりそうなのがこの気難しい鉱石どもさ。扱いづらすぎて北の僻地くらいにしか売れやしない」
「北の僻地?」
「アルブレアとかいう人が住んどるのかすら怪しい国だよ。こんな石を何に使うのか」
鉱山長、と建物の主から嗜めるような声を受けた男性の手にはゴツゴツとした歪な形の白い石――ヴェルハという鉱石が握られている。その表面がまとうのは、青白くぼんやりと光って見える魔力だ。
「ヴェルハは魔法動力の燃焼機関用だな。加工に失敗すると爆発する危険物だが、持続性と火力は他に代え難い」
雪に埋もれる厳しい冬は暖房器具の性能がものをいう。大きな魔法動力が安定して動くのは、あの鉱石が持つ爆発力と紙一重の強い魔力があってこそ。
つい得意になって答えたグラキエの顔を、不審そうな鉱山長の顔が覗き込んでくる。
「……やけに詳しいな」
「もちろん。俺はアルブレアの人間だからな」
そう言葉を返した瞬間、訝しげな顔が一気に引きつった。ついでに後ろでやり取りを見守っていたらしい建物の主が勢いよく一歩を踏み出し、バランスを崩して鉱石の箱に突っ込んでいく。
動揺するのも仕方がない。
話を聞く限りアルブレアは大口の販売先のようだから。僻地だの人が住んでいるか怪しいだの、軽口とはいえ聞かせてはいけない相手に喋ってしまったのだ。
「す、すまん! まさかあんな辺鄙な所から人が来るとはモガッ」
「申――し訳ございませんっ! いやはやお客様のお国とはつゆ知らず! 大変失礼をッッ!!」
慌てふためいて重ねられようとしていた鉱山長の失言を何とか押し留め、建物の主は青い顔で凄みのありすぎる愛想笑いを浮かべた。ある意味必死の形相である。
その様子を見て、グラキエの思考に浮かぶ悪知恵がひとつ。
「あいにく住んでいるのは人間だが、僻地なのは本当だ。いやしかし、まさかこんな遠方から鉱石を仕入れていたとは」
「お陰様で! お陰様で少量の産出ながら鉱員の生活を成り立たせる事が出来ております! ええ本当に!! ありがたい事でございます!!!」
勢いよくゴマをすりはじめた建物の主に、出来る限りハッキリと笑顔を浮かべて微笑みかけた。
「せっかくだ、ここで採れる鉱石の種類について学びたいんだが」
「! もっ……もちろん大歓迎でございます! なんなりとお尋ね下さいませ!!」
グラキエの言葉で商売のにおいを嗅ぎつけたのか、建物の主の目がぎらりと光る。こうなれば流れはこちらのものだ。
「でっ……坊ちゃん! 我々は調達の最中にございますぞ!」
案の定、敏感に企みを察知したらしいテネスが声を上げた。
しかし目の前に興味を引く物をうず高く積まれたグラキエは止まらない。ついでに、各方面に指示を出し始めた建物の主も止まらない。
「俺が送り出されたのは品定めの学びも兼ねてのことだろう? この機会を逃すのはもったいないと思わないか?」
テネスは何か言いたそうな顔をしているが、そういう設定になっているのだ。グラキエとしてもここで取り扱っている鉱石の種類だって知っておきたいし、全くの嘘は言っていない。
どんな鉱石があるか把握していれば、ネヴァルストの行商人に取り寄せの依頼ができるようになるかもしれない。
良さそうな鉱石があれば追加で仕入れを提案しみよう――そんな下心もあって、グラキエは部屋にある鉱石について片っ端から質問を始めたのだった。
馬車から降りた先は剥き出しの土を踏み固めただけの道。視線を上げると森の中に溶け込むようにして建物が点在し、柔らかな陽光が建物や人々を包んでいる。
賑やかな人の息遣いに溢れていた港街や王都とは違い、この場所は風が運んでくる森の音で満たされていた。
ヴィーゼル卿に伴われて向かったのは村の中で群を抜いて大きな建物が立ち並ぶ最奥の広場。中央の比較的背が低い建物の扉を潜ると、木箱に放り込まれた鉱石が部屋の中で積み重なっている。
「凄いな……種類がこんなに」
箱の側面に書かれているのは鉱石の種類だろう。おおよそ二箱前後で一種類といったところか。
物珍しさできょろきょろと視線が走りまわるグラキエに、ヴィーゼル卿と話をしていた建物の主がどこか胡散臭く見える笑顔を浮かべて近づいてきた。
「これらはすべて魔法鉱石にございます。この村では大規模採掘で発見の難しい鉱石を取り扱っておりまして」
「なるほど、こだわりの鉱石という訳か!」
思ってもいない展開に声が大きくなってしまった。
採掘が難しい貴重な資源は数が集まらず、売買までのコストが高すぎて流通しないことも多いと聞く。雪と森に囲まれ、一年の半分以上が外界から隔離されてしまうアルブレアでは、文献に名前があってもお目にかかれないものが沢山ある。
「そんな良いもんではないよ」
思わぬ宝の山にテンションが上がった所へ、ぶっきらぼうな声が水をさすように割って入った。
背は低いが体格はがっしりとしていて、使い込まれた革のグローブをはめた大きな手が目立つ。物語に出てくるドワーフのような初老の男性は腕を組み、軽く首を横に振りながらため息をついた。
「他国の大規模産地に押されて、何とか商品になりそうなのがこの気難しい鉱石どもさ。扱いづらすぎて北の僻地くらいにしか売れやしない」
「北の僻地?」
「アルブレアとかいう人が住んどるのかすら怪しい国だよ。こんな石を何に使うのか」
鉱山長、と建物の主から嗜めるような声を受けた男性の手にはゴツゴツとした歪な形の白い石――ヴェルハという鉱石が握られている。その表面がまとうのは、青白くぼんやりと光って見える魔力だ。
「ヴェルハは魔法動力の燃焼機関用だな。加工に失敗すると爆発する危険物だが、持続性と火力は他に代え難い」
雪に埋もれる厳しい冬は暖房器具の性能がものをいう。大きな魔法動力が安定して動くのは、あの鉱石が持つ爆発力と紙一重の強い魔力があってこそ。
つい得意になって答えたグラキエの顔を、不審そうな鉱山長の顔が覗き込んでくる。
「……やけに詳しいな」
「もちろん。俺はアルブレアの人間だからな」
そう言葉を返した瞬間、訝しげな顔が一気に引きつった。ついでに後ろでやり取りを見守っていたらしい建物の主が勢いよく一歩を踏み出し、バランスを崩して鉱石の箱に突っ込んでいく。
動揺するのも仕方がない。
話を聞く限りアルブレアは大口の販売先のようだから。僻地だの人が住んでいるか怪しいだの、軽口とはいえ聞かせてはいけない相手に喋ってしまったのだ。
「す、すまん! まさかあんな辺鄙な所から人が来るとはモガッ」
「申――し訳ございませんっ! いやはやお客様のお国とはつゆ知らず! 大変失礼をッッ!!」
慌てふためいて重ねられようとしていた鉱山長の失言を何とか押し留め、建物の主は青い顔で凄みのありすぎる愛想笑いを浮かべた。ある意味必死の形相である。
その様子を見て、グラキエの思考に浮かぶ悪知恵がひとつ。
「あいにく住んでいるのは人間だが、僻地なのは本当だ。いやしかし、まさかこんな遠方から鉱石を仕入れていたとは」
「お陰様で! お陰様で少量の産出ながら鉱員の生活を成り立たせる事が出来ております! ええ本当に!! ありがたい事でございます!!!」
勢いよくゴマをすりはじめた建物の主に、出来る限りハッキリと笑顔を浮かべて微笑みかけた。
「せっかくだ、ここで採れる鉱石の種類について学びたいんだが」
「! もっ……もちろん大歓迎でございます! なんなりとお尋ね下さいませ!!」
グラキエの言葉で商売のにおいを嗅ぎつけたのか、建物の主の目がぎらりと光る。こうなれば流れはこちらのものだ。
「でっ……坊ちゃん! 我々は調達の最中にございますぞ!」
案の定、敏感に企みを察知したらしいテネスが声を上げた。
しかし目の前に興味を引く物をうず高く積まれたグラキエは止まらない。ついでに、各方面に指示を出し始めた建物の主も止まらない。
「俺が送り出されたのは品定めの学びも兼ねてのことだろう? この機会を逃すのはもったいないと思わないか?」
テネスは何か言いたそうな顔をしているが、そういう設定になっているのだ。グラキエとしてもここで取り扱っている鉱石の種類だって知っておきたいし、全くの嘘は言っていない。
どんな鉱石があるか把握していれば、ネヴァルストの行商人に取り寄せの依頼ができるようになるかもしれない。
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