ドラゴン・クロニクル

42神 零

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異界者召喚篇

02:ざまぁみろ、クソッタレめ

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現在の状況が理解出来ない竜也は今目の前にいる巨大な亀を見つめ、口を開けたまま呆然としている。

その亀のような怪物は動けない竜也をいい事に、ゆっくりと前へ進み喉を鳴らして様子を見る。

怪物の口から異臭がする。
何を食べたのか、鉄のような鼻に刺激を与えるような悪臭だった。

その臭いが嫌でも鼻に刺さった竜也は思わず指で鼻を摘み、パタパタと片手で軽く扇いで少しでも臭いをかき消そうと必死になる。

それが引き金となったのか、亀の怪物が軽い咆哮をあげ、竜也が敵だと認識したのか前足を二回地鳴らすと身構えた。



「やっべぇ!!まじやっべぇ!!」



軽い咆哮で尻もちをついた竜也は直ぐに立ち上がると振り返らずそのまま走り出した。

後ろからドスッドスッと鈍い足音が響き、その重い音がなる度に地面を軽く揺らす。

それでも竜也は走る。
こんな訳の分からない状況の中、どこだか分からない場所で死ぬなんてごめんだと言わんばかりに必死に走る。

その竜也を追う亀の怪物は重い足取りで追いかけるも、巨体の体重が超重量らしく走る速度自体はそこまで速くなく、竜也との距離がなかなか縮まらない。

ただ遅いという訳では無い。
巨体であるからこそその一歩が人の言う三歩分の大きさで、それが休むなく連続で迫ってくるので実質人と人が追いかけっこをしているようなもの。

問題なのは持久力だろう。
亀の怪物はとにかく、竜也は本日二度目の全力疾走。

スタミナが無限という訳でもないので当然疲れてしまう。



「はぁ…はぁ…!!なんで…こんな目に…!!」



息を切らしながらも自分の体に鞭を入れ、無理矢理にでも全力で走りながら愚痴を吐く。

その背後からは亀の怪物の顔が近付き、攻撃が届きそうな範囲まで迫ると肩についてる巨大な牙のような角を叩きつけて竜也を押し潰そうとする。



「あっぶねぇ!!」



攻撃の際に影が濃くなるので、竜也はそれを判断しつつ横へ走り、何とか回避する。

剣道部で鍛え抜かれた反射神経がここで役に立つとは思わず、竜也は心の中で「剣道をやっててよかった」と呟く。

だがこれでハッキリとわかったことがある。
それはということ。

それはそうだ。
急に訳の分からない森の中で目が覚めて、道の途中に謎の白鋼の物体を目撃し、挙句の果てには巨大な亀の怪物に追われているのだから、ここが本当に地球なのかと疑っても仕方がない。

そんな漫画やアニメ、ラノベ小説のような展開など現実に起きるはずがないと思っていたが、よもやこんなふざけた現実になるなんて夢にも思わなかっただろう。

仮にそんな物語なら、よくあるなどがあるはずだが、もちろんのこと竜也はそんなものひとつも無い。

言うなればただの巻き込まれ。
一体誰がなんのためにここへ連れてきたのかは不明だが、そんなこと考えてる暇なんて竜也にはない。

今は逃げる。
あの怪物に追いつかれてしまったら間違いなく命はない。

いくら走っても距離が開かず、また縮まずとなんとも心臓の悪いチキンレースが深いこの森の中で展開されていた。




「へぶっ!?」



そして竜也は最悪なことに、疲労が限界に達したのか、突っかかるものなど何も無いのにその場で派手に転倒した。

ゴロゴロと転がり、カバンが転げ落ちて中身が全て吹っ飛んだ挙句、身に土を付着させるもすぐに上体を起こして立ち上がろうとすると後ろから地響きがなり、周囲が影に覆われたことに気付き、嫌な予感がして後ろを振り返った。

そこには汚らしくヨダレを垂らした巨大な亀の怪物の顔があった。

人の顔ぐらいの大きさを持つ目玉がギョロりと竜也を見つめると牙を剥き出したままゆっくりと近付く。



「ひっ…!!」



あまりにも近く、加えて巨大で恐ろしい顔が牙を剥き出して来てしまえば、誰だって恐ろしい他ない。

現に竜也も腰が抜けて動けなくなっている。
目元には涙を溜め、息が震えてガチガチと歯と歯が重なる。

ただ気掛かりなのがひとつ。
亀の怪物の牙にが挟まっている。

正体は分からないが、血のような何かが付着していることから察するに…いや、考えたくもないだろう。



「な、なんで…こんな…!!」



ズルズルと抜けた腰を引きずりながら後退りする竜也に対し、亀の怪物はのそりのそりとまた一歩近付いて、確実に竜也を追い詰める。

竜也はこの期に及んで何故自分の命を狙うのか、亀の怪物の動機を探ったが、そんなこと考えても浮かばない。

いや分かったところで何が起きる。
もしかしたら亀の怪物からして、ただ餌を食うだけの行為かもしれないが、なにしろ絶体絶命に変わりない。

そんな竜也を他所に、亀の怪物が口を開けて竜也に近付く。

間違いなく食い殺す気らしい。
あの牙に挟まってるスカーフの持ち主と同じように。



「や、やめ…やめ…!!!」



震えて言葉が上手く出ない中、竜也は咄嗟に近くで落ちている腕輪を拾い、自分の右腕に装着して腕を伸ばす。

何故この時竜也は正体不明の腕輪に、それもなんの迷いもなく自分の右腕に装着したのか、本人でも分からない。

人が混乱すると何をしでかすのかわからない。

竜也からしてもはや正体不明の腕輪が最後の希望だと信じ込んでいる故に、装着した…のかもしれない。

だが、そうこうしているうちに亀の怪物の口が竜也の上体を覆った。




もうダメだ。
こんな訳の分からないところで訳の分からない生物に殺される…。

竜也はそう思い、考えるのをやめ、諦めた。
目の前に逃れられない死を目前に、その死を受け止めることを決意したようだ。

だが怖いものは怖い。
痛みこそ消えないだろうけど直視するよりマシだと目を瞑り、ただ目と鼻の距離である死を迎え入れる。

終わりにしよう。
竜也は死を決心する…。










だが、竜也だけでなく他の人々も知って欲しい。

人が混乱して訳の分からない行動をする時、時としてはを呼ぶことがある、ということを。




_ガチャリ!!

「…へ?」



突然機械仕掛けのような重い音がした。
と同時に竜也は右腕に違和感を覚え、思わず瞑っていた目を開き、自分の右腕を確認する。



「へ…?へぇ!?へええぇぇえぇっ!!?」



自分の右腕が余程衝撃的だったのか、思わず変な叫び声を上げてしまう。

彼が何を見たのか。
その視線の先にはとても信じ難い光景が広がっていた。










結論から言おう。


しかもただの鋼鉄ではない。
右腕の鋼鉄だけで竜也の体より大きく、何よりも亀の怪物の牙を挟んで受け止めているのだ。

亀の怪物が持つ鋭い牙と黒鋼の鋼鉄の間からオレンジ色の火花が散るところからして、牙はともかく黒鋼の鋼鉄は余程の強度と耐久力があるらしく、ベッコリと凹むことなどなかった。



「な、なんだよこれ!?お、俺の右腕は!?」



竜也が誰よりも困惑している中、亀の怪物はブンブンと首を左右に激しく振り始めた。

噛み砕けないのなら遠心力を使って噛み千切ろうという魂胆なのだろう。

だが、竜也の右腕から生えた…というより黒鋼の鋼鉄は千切れる様子もなく、ただ振られるがままに左右に激しく動く。



「どわああぁぁぁああぁ!!酔う!!酔ううぅ!!」



もちろんその腕の持ち主である竜也も振られ、目を回しながら断末魔を上げる。

そりゃそうだろう。
突然自分の身体が左右に激しく動かされたら、もはや絶叫マシンに乗っている気分だ。

加えていえば亀の怪物からして竜也はその先端にいる。

運動エネルギーが一番激しい場所にいる竜也にとって、そこまで動かされてしまえば目を回すのも必然である。

だが亀の怪物はそんなこと知ったこっちゃない。

このままだと分が悪いと思ったのか、勢いがついた頃に口で挟んでいた腕を引き離した。



「うわああああぁぁぁぁっ!!」



当然だが、そんな状態で離されたら投げ飛ばされたのと同じ。

竜也は勢いよく飛んでいく。
自動車と同等の速度で、木々が数え切れないほど多いこの場所で高速で飛ばされるとなればぶつかっただけで命を落としかねない。

そして最悪なことに、竜也が飛んでいくその先には頑丈そうな巨木が…。



「死ぬ死ぬ死ぬ!!死ぬってぇ!!」



このままだと巨木に叩き付けられて潰れた虫のような死体が完成してしまう。

死にたくないとばかり、竜也は涙を流しながら叫ぶが、この速度の中に加えて空中である以上どうしようも出来ない。

願うなら漫画の世界のように巨木が貫通して減速することを願うが、現実と比べればそんな都合のいいことなど起きるはずもない。




だが忘れてはならない。
ここは

そして今の竜也の右腕もとても信じ難いが現実であり、常識から離れたような異質の鋼鉄物に覆われていることに。




_ボフッ!!
今度は背後から何かが噴出されたような音が聞こえた。

同時に竜也は背中に違和感を感じる。
何か背中から突起物のようなものが突き出してきたような、そんな感覚である。



ま、まさか…。
竜也は二度目の違和感を感じ、嫌な予感がすると察し始めた。

そして恐る恐る後ろを振り向くと、案の定というかなんというか、これまた現実離れした光景が広がっている。




驚くことなかれ。
彼の背中からされていた。

そしてその真ん中から赤いブースターが噴出され、竜也を浮かせて空中でホバリングする。



「は…はは…っ!!も、もう訳が分からん…!!」



脳が追いつけない展開でもはや笑うことしか出来ない竜也はやけくそになったのか、ぶつかりそうになった巨木に足を着け、そのまま走り出す要領で蹴った。

直後、勢いよく飛び…というより吹き飛ばされ、亀の怪物の頭上を飛び越える。



『………』



亀の怪物はただ首を上にあげ、高速で空を飛ぶ竜也を見つめるだけで追おうとはしない。

自分の体ではいくらなんでも追いつけない。
そう思ったのか、ノソノソした足取りで森の奥へと姿を消す。

縄張りに侵入した命知らずの馬鹿を追い出しただけで満足なのか、それともただ単に竜也という存在に対する興味が失せたのか。

真相は分からないが、何はともあれ竜也は助かった。

助かったが、謎は多く残っている。

あの怪物はなんなのか?
白鋼の物体の正体とは?
謎の腕輪とはなんの価値があるのか?

そしてなにより竜也は思う。
自分の体はどうなってしまったのか、と。












「ぎゃあああぁぁぁぁぁーっ!!!」



その疑問を抱きながら、竜也は低空で高速飛行する。

どうやら制御出来ていないらしく、スピードの加減が出来ないようだ。

それ故に竜也の顔に風圧が襲いかかり、悲惨な表情になっているが、彼本人はそんなことなどどうでもいいと思っている。

何よりもヘルメットのようなものが欲しいらしく、凄まじい風圧の中「フェフゥフェッフォー!!」と叫んでいる。

「ヘルメット」と叫びたいようだが、風圧がそれを邪魔して上手く言葉を発せないというのが残念か。

しかし、ヘルメットが欲しいという気持ちはわからなくもないだろう。

何せ今の竜也はヘルメット無しでとんでもないスピードでバイクを走らせているのと同じ状況だ、むしろいつ失神してもおかしくない。




だが不思議なことに、竜也周辺に半透明の赤い線のようなものが浮かび上がってきた。

赤い線は不規則な動きで形を変え、最終的には巨大な人型の形となり、竜也全身を覆う形で展開された。

その直後、なんと驚くべきことに、線が象った形に従って例の黒鋼の鋼鉄が浮き始めたのだ。

胴体、脚部、左腕、背中、首、頭部。
それぞれのパーツが一斉に、瞬時に作られると引きつられるように竜也の体を覆い始めた。

そして完成したのは、全長八メートルを越す大型の人型兵器。

まるで昔の男の子が考えたような、言うなればロボットが完成された。

ただ…。
どうやらロボットの動きは竜也の動きそのものとシンクロしているせいか、高速で低空飛行しているにも関わらずなんともだらしない格好で飛んでいるので、何か台無しな気がしてならない。



「死ぬ!!マジで!!マジで死ぬから!!」



しかもロボットの胸部がコックピットらしく、いつの間にか乗り込んでる竜也は恐怖のあまり自分が操縦(?)していることに気付いていないらしい。

半泣きになりながらも低空飛行を続け、あの亀の怪物から距離を置こうとただ必死になって逃げる。

さらに言えば、彼自身は気付いていないようだが、背中に備わっている逆扇状に広がっているブレード型の翼がすれ違った巨木を薙ぎ倒し、一瞬にして切断した。

しかも断面に焦げ跡がついているところからして、どうやら刃はらしい。

現に刃の部分が白からオレンジ色に変色し、周囲の空気を焦がしているせいか熱で揺れが生じている。



「っ!!」



刃のオレンジ色とジェット噴出の真っ赤な炎を軌道に残しながら、前方に目をやると一筋の光が見えてきた。

ここで竜也は確信に近い何かを思う。
この先が出口だ、物騒な森から脱出出来ると。

だがそんな感動もつかの間。
予測だが、時速三百キロオーバーの速度で低空飛行しているので本人の意思に関係なくその光の先へと突っ込んでいくロボット。

そして一瞬にして光との距離を縮め、その先へと入り込み___














ある平原にて、馬車を走らせる男がいた。
その男は物資等の運搬が目的らしく、馬が轢いている荷台には新鮮な野菜や肉、魚などが山ほど乗っかっている。

今日は快晴なり。
天気もいいということもあってか、男は呑気に口笛を吹きながら馬を器用に扱い、走らせる。

魔物もいなければ山賊にも遭遇していない。
何よりも平和で平凡な道をただひたすら走らせ、ただ呑気に___










___グシャァッ!!



…走らせていたものの、その平原の隣にある森から何かが飛び出してきた。

一瞬魔物かと思い、思わず肩をビクリとあがらせ、目を見開いて確認する。

いや男だけではない。
二頭の馬でさえ騒音にビックリして前足を上げるが、男はすぐに落ち着かせるようにと促すと、案の定すぐに落ち着いた。

だが問題なのは馬ではない。
かと言って運んでいる物資でもない。

問題なのは森から突如として飛び出してきたである。

その何かが森の木々の間から出ると隕石の如く勢いよく低空飛行し、地面に接触する直前で背に備わっているブレード型の翼が展開し、地面を突き刺して勢いを殺す。

だが急に来たものなので勢いはそう簡単に収まらず、ボロボロと腕から始まり、頭部、脚部と次々とパーツがバラけはじめた。

そして最後に胴体が弾けると中から黒髪の少年が飛び出し、これまた勢いよく吹っ飛び、ゴロゴロゴロゴロと乱暴に地面へと着地。

体の周囲に土が付着しながらも、飛び出て数秒後でやっと勢いがなくなり、男も止まった。

人が出てきたとわかった瞬間、男は周囲に魔物が居ないことを確認すると馬車を一度そこに置き、降りると少年の方へと急いで近寄る。



「お、おい!大丈夫か!?」

「へ、へへ…ざ、ざまぁ…みろ…。クソッタレめ…」



少年を抱えて安否を確認する。
対して少年は薄目になりながらも右腕を天に伸ばした。

すると不思議なことに、そこら辺に転がっていた黒鋼の鋼鉄が赤い霧状になって消えると腕輪の中央へ集中し、ひとつとなって収納されたのだ。

男はそんな光景を見て戸惑っていたが、完全に弱ってる少年の救助が最優先だと理解し、そのまま抱き上げたまま馬車へと向かう。

幸いにも食料だらけの荷台だったが、ひと一人分乗せられるスペースがあったので、そこに少年を降ろし、寝かせ付けた。



_グオオォォォォォッ!!

そして男は向かうべき街へと馬を走らせようとしたところ、少年から飛び出てきた森から何やらおぞましく重い音が聞こえてきた。

その音はとても自然から鳴り響いたものでは無いということぐらい理解は出来るが、かといって本当に生物が発するようなものなのか、なによりも不気味で恐ろしい何かがそこにいるというのはよくわかる。

一気に気味が悪くなった男は馬を早足で走らせ、向かうべき街へと進む。

荷台に少年を乗せて、何も考えずただ前へ。










その後。
その場から男が完全に消えると森林上空に全体を飲み込むような規模で黒い雲と血に濡れたような赤が空を覆った。

そしてまたあの禍々しく、太い咆哮が上がると天に裂け目が発生し、その中から翼を持った化け物が次々と侵入、瞬く間に森全体を支配した。

こうしてまた化け物…即ちらは新たにひとつ、森林地帯を支配する。

魔物や人間など関係ない。
近付くもの、またこの世に蔓延る人間害虫共を根絶やしにするために…。














同刻
アグザリオ王国・某治療施設



「っ…!!」



とある王国にある、とある治療施設内。
そこで黒と赤のグラデーションという珍しい髪色をした少女が目を覚ました。

と、同時に腰にあるホルスターから拳銃を抜き取り、安全装置を外して構えたままガバッと上体を起こす。

すぐに周囲を確認し警戒するも、ただあるのは少女一人と一丁の拳銃、腰下に広がるベッドに木造で出来た天井や壁のみで誰一人として人影が無かった。



「………」



取り敢えず安全だとわかったのか、腰に備わっているホルスターに銃をしまう。

そしてあることに気付いた。
腕や足、腹、肩など、ありとあらゆる部分に白い包帯が巻かれていたことに。

ただ不可解な点がひとつ。
竜也と同じように、右腕には例の腕輪が付けられていた。

だが唯一の違いはその中央にはめ込まれた宝石のように輝く物体。

竜也はルビーのように真っ赤に光っていたが、少女が持つ腕輪には宝石などなく、むしろ光らずに黒いままであった。



「…っ………」



それを見た少女は舌打ちをすると、苦虫を潰したような表情をしてドンッとその場にあった木造の机を叩いた。

置いてあった花瓶が一度数ミリ程度の規模で宙に浮き、その数秒後にカタンと倒れ、中に入っていた花と水が飛び出した。

何が起きたのかわからないが、少女から察するに余程深刻な問題らしく、歯をギリッと噛み締めていると黄色い瞳からポロリと涙が流れ出る。

そして少女はただ静かに、両手で顔を当てて泣き始めた。



「…起きたのはいいけど…」

「問題あり…って感じだな」



その部屋の近くに一人の少年と二人の少女が影から眺めていた。

どうやら前に調査依頼で森へと探索した、四人パーティの内三人だと思われる。

ちょうど食事の用意が出来たということでこんがりと焼けたパンを運ぼうとしたところ、少女が起きたので警戒されないようにと隠れていたのだ。



「聞きたいことは山ほどあるけど…今は一人にさせた方がいいかもね」

「そうだな、突然目の前に行けば余計に警戒されそうだ。変な…なんか鉄の塊っつーか…武器みたいなものを持っていたし」



これ以上の接触はマズいと思った三人は満場一致で少女が落ち着くまで待つことにした。

事情こそ聞きたいものだろうけど、今はそれどころじゃないと察したのだろう。

三人は用意した食事用のパンを運んだまま、少女の部屋から離れていった。

ただ少女は涙を流す。
その静かな泣き声が、部屋の外まで聞こえてくるが、気にせずにただ、涙を流し続ける。














同刻
アグザリオ王国・某食事処



「なぁ、知ってるか?噂程度の話なんだが、あのクソッタレ帝国がをしたらしいぜ?」



ところ変わって城下町…にある食事場。
人々はスパゲティやハンバーグはもちろんのこと、なにやら地球では見なれないものすら注文し、それを食べて楽しむ場である。

その場所でとある男性二人組が相席で座り、昼間っからだというのにビール片手で飲み食いしながら何かを話している。

内容はギルドルド帝国についてだが、話し始めた男性の口の悪さから、どうやらアグザリオ王国とギルドルド帝国の仲は良い、とは言えないそうだ。



「おいそれ、禁忌じゃねぇのか?確か異界の者を呼んで世界を救うとかなんとかの」

「そうらしいな。俺も詳しいことは知らんが、歴史書にそう書いてる以上信じるしかない」



手元に置いてあるハンバーグの肉をフォークで刺して口に運びながら男は言う。

それが一体何の肉か、分からないものだが刺しただけで肉汁が溢れ出るので少なくとも美味いものらしい。



「けどよ、何の目的で呼んだんだ?別に異変だろうが、魔王だろうがいねぇのに」



対するもう一方の男はスパゲティを口に運ぶ。

普通に美味しそうなものだが、色がオレンジではなく青色という奇妙なものであるが、別に男は気にすることなく、なんの躊躇もなく食べ続ける。



「さぁ、わかんねぇな。あのクソッタレ帝国が考えることだ。分かったところでいい気分にゃなれんが…唯一有力なのがとかいう存在だろう」

?あぁ、最近になって襲来してきたって話か?俺は未だに信じられんな、この目で見てねぇし」

「だろうよ。白鋼の物体ってのも気がかりだが、どうもぶっ飛んだ話だよな」



息を揃えてハッハッハと大笑いする男二人。
ドラゴンや白鋼の物体を生で見たことないからか、そんな話があってたまるかと一蹴りするだけでなんとも思っていない。



_ガツガツガツッ!!

だがそんな二人でも気にかかることがひとつある。

その原因が二人が座っている傍の席に、なにやら見慣れない黒服と黒髪の少年がテーブルに置かれたパフェ…のようなものを我先にと食いまくっている。

そしてその対席には、何やら白いコートを纏い、腰まで伸びた白髪の男性が無言でその少年を見つめたまま動かない。

少年の食欲に動揺しているわけではない。
ただ単にその白髪の男性の特徴なのか、あまり表情を出さないポーカーフェイスらしく、口数も少ないだけだという。

それにしたって少年の食欲が凄まじいものだ。

何せ「なんだこれ!?見たことねぇけど美味い!!」といいならが次々とパフェを食い続けるものだから。

だがいくら食べてもお腹を壊す様子もなければ太る気配もない、いやむしろ何故か小柄で健康的な肉体が身に付いている。

そんな少年がパフェをバク食いしてるとなれば、周囲の人間たちは楽しんでいた食事の手を止め、少年の様子を見守る。

なんだなんだと興味を示す者もいれば、あれだけ食べても太らないのは何故?と疑問視するものもいる。

だが少年は止まらない。
周囲に突き刺さる視線の存在こそ気付いているようだが、今はそれどころじゃないようだ。



「…なぁ、あいつ…だよな?」

「そう…だな。それに見慣れない服を着ているし…まさかこいつが?」

「いや待てよ。クソッタレ帝国が召喚の儀をしたんだろ?なんでここにいるんだよ」

「知るか。けどまぁ、無害っぽいし、別にいいんじゃね?」

「そうだな。けど俺はもうちょっとこう、筋肉ムキムキマッチョマンを想像していたけど、まさかこんな___」




_スコンッ!!

男は思わず目を見開いた。
突然目の前で何かが横切ったと思えば、その真横の壁に食事処用のナイフが突き刺さっている。

まさかと思い、首を横に振って見てみると、そこには発射体勢の状態で睨み付ける少年がいた。

間違いなくこの少年が投げたのだろうが、恐ろしい精度だ。

もしこれがあと数センチズレていたら男の頭にグサリと刺さっているというのに、何よりも恐ろしいのがこの少年、外したという。

正確な狙い、鋭い瞳。
見た目とは裏腹に精度や距離、また投げる力など全て計算したらしいが、まぁなんとも恐ろしいものだ。



「お、おい店長!!おお、お会計!!」



ゾッとした男二人はレジを担当する店長に地球とは異なる金貨を支払い…というより置いたまま、足早と店から出ていった。

それを見届けた少年は一度立ち上がり、ぺこりとお辞儀してから再び座り、パフェを食べ始める。

甘そうなアイスクリームが口に運ばれると、少年が顔を上げて満面な笑みで、それも幸せそうな顔でものを口に運ぶ。

先程までのさっきに満ちたような鋭い睨みをした少年と同一人物とは思えないほどの笑みで、中性故少し可愛らしいが、あんなものを見せられたあとじゃ気味が悪い。

手を止めていたお客たちはすぐに持ち場へ戻るように止めていた手を動かして食事会を再開した。




「おい。言葉、理解、したか?」



ここで男が初めて喋った。
だが何故かカタコトでどこか日本語が不慣れな様子でもある。

世界が違えば文化も違う。
となれば扱う言葉も勿論異なるため、不便ながらもこうやって会話する他ないらしい。



「いや、なんか馬鹿にされたような気がしたからな」

「…そうか」

「しかし、いい顔してたなあいつら。ちょっと笑っちまったよ」



口元にクリームが付いているというのに気にせず二ヒヒと笑う少年。

余程リアクションが面白かったのか、思い出しただけで笑ってしまったようだ。



「…いい、のか?友達、探す………探さ、ない、の?」



対して男は相も変わらず無表情。
しかもコートで口元のみ隠しているので余計に表情が読めない。

だが少年は気にもせずにその質問に答えた。



「…確かに心配だな。今にも飛び出したいぐらいに」

「なら、何故、行かない?」



ただ表情は少し暗い状態で答える。
余程その友達が心配なのだろう、今から行きたくても行けない理由がちゃんとあるらしい。




「オレ、方向音痴なんだわ。あいつがいねぇとどこにも行けやしねぇ」

「…なる、ほど」



答えは単純に、彼は方向音痴だという。
普通は「そんな理由でいいのか」と突っ込みをいれたいところだが、残念なことに白髪の男性は納得してしまった。

少年との話に慣れてしまったのか、それともただ単にそんな理由を本当に納得したのかはわからない、何せ表情がよく分からないものだから。



「けどよ。そいつとくりゃ、いつもどこからかオレを迎えに来るんだよ。面白いだろ?だからオレは待つ。この世界がなんなのかまだ知らねぇけど、あいつはそう簡単に死にはしねぇよ」



二ヒヒと白い歯を見せながら笑う少年。
心配しながらもどこか余裕のある態度からして、その友人とは長年の付き合いらしく、互いが信頼し合ってる仲だという。

それを聞いた男は目を瞑り、何かを思い出したかのような表情をする。

過去に何かあったようだが、もちろんのこと少年はそんなこと知らない、と言うより思い出に浸かっている様子が見えてないようで別に気にしていなかった。



「…名前、は?」

「んあ?」



そのまま男は喋る。
どうやら少年とその友人に興味が湧いたのか名を聞いてきた。










「おぅ!そういやまだだったな!オレは !あん時助けてくれてありがとよ!!」



少年…蓮はニカッと再び笑うと白髪の男性に向けて手を伸ばしてきた。

白髪の男性は何をしているのか理解出来ず、ただ首を傾げているだけで何もしてこない。



「ああ、これな。握手って言うんだ。まぁ、簡単に言えば挨拶みてぇなもんだよ」

「あく、しゅ…?」

「おう、握れ」



言われるがまま白髪の男性は差し出された手を握った。

暖かく、どこか懐かしい感覚が白髪の男性に流れてくる中、蓮は絶えない笑顔でうんうんと頷き、手を上下に揺らす。



「よっしゃ、今日から友達だな。お前に救われた命、絶対に恩で返してやるから覚悟しとけよ?」



握手が終わると今度はビシッと指をさして言う。

経緯は不明だが、蓮は召喚事故に巻き込まれ、この世界にやってきたのはいいものの、白髪の男性に拾われ、助けられたようだ。



「…

「ん?」

「…。アドル、でいい」

「おー!よろしくな、アルド!」



白髪の男性はアルドと名乗る。
それを聞いた蓮はどこかスッキリしたような表情でアルドと何度も呼ぶ。

蓮自体友達はいる。
竜也含む、数人いるものの、召喚事故に巻き込まれた以上、会える保証なんてない。

だから嬉しいんだろう。
異界で初めて作った友達が。

またアルドも同じ気持ちだった。
どことなく、心に何かが満たされている。

アルド自身それがなんなのかわからないが、気にしていない。

ただ見えない口元が少し笑った…気がする。
気がするだけであって本当に笑ったのかはわからないが。










その後、アルドは大量のパフェを挟んで蓮にこの世界について詳しく話した。

この世界はという場所ではないということ。

と呼ばれる人ならざるものの存在がいること。

そして今この世界が危機的状況にあること。

普通に信じ難い話だが蓮はそれを迷うことなく信じた。

現に召喚の際の現象を目の当たりにしたのだ。

そうとなればもう信じる他ない。
それどころか彼がゲームオタクというのもあってか、この世界について興味を示したのか目を輝かせながらアルドの話を聞き続けた。




…そして話を終え、いざ店から出る際に会計がとんでもない額になっていたが、アドルは渋ることなく金貨を支払ったことは言うまでもない。
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