異世界わんこ

洋里

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第一章

ハンブルの町

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 ドードーとの戦いの翌日、うららかな陽気の中、昼をだいぶ過ぎた頃に、ようやく目的地である、ハンブルの町に辿り着いた。
 もちろん、途中でドードー肉のステーキを、パンに挟んだステーキサンドを昼食にいただいたり、結構、のんびりした行程での移動。
 ステーキサンドは、思った通りに絶品だった。
 焼く時に山ぶどうのジュースを、少し入れて風味を付け、外はこんがり、中は熱々、ジューシィなお肉に塩コショウで味付けをして、パンに挟んである。
 あのお肉、もう少し取り分を多めに言っても良かったかもしれないな。

 そんなこんなで辿り着いたハンブルの町は、外周をレンガのような壁でぐるりと囲まれていて、入り口には、関所のような受付があり、見張りの兵士が扉の両側に立っている。
 わたし達は、町まであと数百メートルかな、という所の木陰で立ち止まっていた。
 なぜかと言うと、大きいハクちゃん問題だ。
 この子は、今朝出発する時に、頑としてわたしの服の袖をくわえて離さず、鼻先で、ぐいぐいと腰の辺りを突いてくるという行為を繰り返していた。
 これ、ハクが、何かをして欲しい時のやり方なんだよね。
「ハクー、どうしてほしいの? これじゃあマナ馬車に乗れないよねぇ? 出発出来ないとみんなに迷惑なんだよ? どうするの?」
と、困り果てて話しかけるも、意に介さずにまた鼻先で腰をつつかれる。
 すると、見ていたイシュリーが、ぼそりとつぶやく
「マナを、乗せたいって」
「へ?」
「背中に」
「おぉー、ハクちゃんは、マナちゃんを背中に乗せて歩きたいんか」
 コータが、手をポンっと打ち鳴らす。
「えぇ? わたし、馬とかにすら乗った事ないんだけど……」
 イシュリーが、またつぶやく。
「だいじょうぶ」
「上手に、乗せるって」
「マナちゃん、ひとまずハクちゃんを信じて、付き合ってみればいんじゃね? これだけ熱心に乗せて歩きたいって言うんだから、ダメ元でさ」
 うう、コータにもそう言われちゃ仕方ないなぁ、じゃあ試すだけ試してみようか。
「じゃあ、ハク、伏せ」
 目を、キラリーンとさせながら、ハクが伏せをする。
 低くなったその背中に、またがって腰を下ろすと、毛がふわふわしていて意外に乗り心地はいいかも。
 これならいけるかな。
「ハク、よし」
 そう声を掛けると、ハクはすっくと立ち上がり、そして、次の瞬間には大喜びで駆け出した。
(つかまるところはどうしよう?)
と、考えている最中だったので、必死に背中の毛にしがみつく。
「ハクー、ハク! まて! まてってば!」
 喜びで、大興奮のハクが止まってくれるまで、しばらく振り落とされないよう大変だった。
「上手に乗せるって、ゼイゼイ、う、うそつき」
 涙目になりながら息を整える。
 ハクは、
(失敗しちゃった)
という感じで、ちょっとしょんぼり尻尾が下がっているが、コマンドが効かないほど興奮するのは駄目! なのだ。
 躾のし直しも兼ねて数十分ほど、わたしを乗せて歩く練習をさせてもらう。
 何とか、興奮せずに上手に歩けるようになると、今度はココとミルクが、わたしから離れて馬車に乗っているのを嫌がって、キュンキュン鳴き出した。
 こちらを立てれば、あちらが立たずだ。
 仕方ない。
 わたしは、避難の時に持ってきていた犬用ケージを肩に下げてココを入れ、更に、荷物の中からスリングを出して首から下げて、こちらにはミルクを入れた。
 この状態なら、ココもミルクも抱えてハクに乗って行けるだろう。
 そうして、馬車の横を犬に乗って歩くという状態で移動して来て、さあ町だ、という所で、ハクちゃん大き過ぎるよね問題が立ちふさがっているのだ。
 犬自体は一般的ではあるけれど、これだけ大きな犬はまず見た事がない。
 もしかしたら、魔物扱いされて、町の人達がパニックを起こしてしまうかも、と。
「ハクちゃんだけ、町の外に置いて行く訳にもいかないしなぁ」
「う、この子、すごく寂しがり屋なので、キュンキュン鳴いてうるさいと思います」
「うーん、ハクちゃん、ちっちゃくなってくれればいいんだけど、そうもいかないよね~」
 リムがそう言うと、ハクは、ハタとこちらを見つめた後、くるんっ、と自分のしっぽを追い掛けてひと周りした。
 すると、あっという間に、元通りの小さいわんこに戻っていたのだ。
 ええええええぇ──
「ハク、あんた戻れるんかいっ」
 ツッコミを入れるが、ハクはきらきらのお目目で、無邪気に尻尾を振り続けるのでありました。

 さて、ようやくハンブルの町の中へ入る事が出来たわたし達。
 本来は、わたしだけ、身分証明証がないので入町料が必要なのだが、そこはコータが払ってくれた。
「ギルドで、アイテム換金するまでに掛かる費用は、こっち持ちって事で心配すんな」
「ありがとう、後で清算させてね」
「いーから甘えとけって。 こっちだって、お蔭様でデカい臨時収入になるんだからさ。 こんくらいさせてよ」
 そう言って、にかっと笑う。
 ううっ、コータ本当にいい人だ。
「さ、まずは宿に行こう。 風呂があるから、久しぶりにちゃんと体が流せるぜ」
「お~、お風呂! 早く行こう~」
「久しぶりにベッドで寝られる~」
 盛り上がるミミア達だったが、ふと、気になって聞いてみる。
「コータ、犬達も一緒に泊まれるのかな?」
「おぉ、もちろん、もちろん。 マナちゃんと同じ部屋でいいだろ?」
「うん」
「ここらの宿で動物お断り~とか、まずないから大丈夫だよ~」
「ワンちゃん達も、疲れを取らなきゃね~」
 日本でも、昨今のペットブームで、ペット同伴OKの宿は増えてはいるけど、OKな方が一般的なんて、とてもありがたい。
 町の中は、外壁と同じような茶色のレンガ造りの建物が並んでいて、屋根は、ほぼくすんだ山吹っぽい色で統一されている。
 歩く道もレンガで舗装されていて、馬車の移動は、結構、ガタゴトと振動が激しい。
 ほどなく、揚げ物の油の匂いや、肉の焼ける香ばしい匂いが漂い始め、その匂いの元らしい、年季の入っていそうな、ひときわ大きな建物の前で止まる。
「ここが、今日泊まる俺等の定宿 “ひよどり亭” 。見ての通り一階は居酒屋で、二階と三階が宿の部屋になってる。 俺等は、荷物を交易ギルドの倉庫に持って行くから、女子は先に部屋取って休んでて」
 コータがそう言うと、ミミアとリムは、自分達の身の回り品の荷物を手早く降ろしながら
「OK、OK、こっちは任せて~」
「荷物よろしく~」
と、返す。
「じゃ、後でな。 マナちゃん、夕飯時には誘うから少しゆっくりしててな」
「うん、ありがとう。 気を付けてね」
「おう」
 わたしも、自分の荷物を抱えて犬達と降りると、コータとイシュリーに手を振る。
 イシュリーも、無言で手を振り返してくれつつ、二人は馬車を先へと走らせて行った。

「アニタさ~ん、こんにちは~」
 リムが、そう声をかけながら、一階の居酒屋の中に入って行く。
 この所、ノーリードで自由にしていた犬達にリードをつけて、わたしも後に続く。
 ハクには、避難リュックに予備の首輪を入れていたので、それを付けてあげた。
 店の中は、まだ中途半端な時間のせいか、客はいないようだった。
 入って右側に、ずらっとテーブル席が並んでおり、正面の奥にはカウンターがあって、左側に大きなレジが置いてある。
 更に、店の左側には踊り場のようなスペースがあり、ダーツなどで遊べるようだ。
 カウンターを超えた奥が厨房になっているようで、奥から、下ごしらえ中なのか、ジュージュー炒めるような音や、タタタタタっと包丁をふるう音が響いている。
 アニタさんと呼ばれた、ちょっと小太りで、いかつい顔付きの女将らしき人が奥の厨房から出てくる。
「あんた達、よく来たね。 今回は何泊?」
「え~と、4泊の予定なんだけど。 今回は、3部屋使わせて欲しいんです~」
「そっちのコは新顔だね。 仲間が増えたのかい?」
「ん~、まぁそんな感じ~」
「じゃあ、いつもの部屋二つと右隣の部屋で3部屋ね。 鍵はこれ。 そこのアンタ、あたしはアニタ、この “ひよどり亭” の女将だよ。 これからよろしくね」
「あ、わたしはマナと申します。 お世話になります」
「はいよ。 あぁ、あんたの連れてるちっちゃい犬達、行儀がいいんなら、そんな紐で繋いでなくたっていいからね。 それと、ウチは料理が自慢だから、後で夕飯食べに降りといで」
「ここのポークチョップは、絶品なんだよ~。 あたし達も毎回楽しみなんだ~」
「アニタさん、後でみんなで食べるから5人前お願いね~。 後、ワンちゃん達のご飯も、お願い出来るかな~?」
「はいはい、毎度あり。 犬用には、味付けなしで切り落としの肉と芋を煮てあげるよ。それと、今日は新鮮なチェリーが手に入ってるからね。 食後のデザートには、クリームをのっけたチェリータルトがお勧めだよ」
「きゃ~、じゃあそれは3人前で~。 女の子だけで食べちゃおう」
「いいね、いいね~。 聞いてるだけで、ちょっと小腹が空いてきたよ~」
 じゃあね、とウィンクをして、アニタさんは厨房へと戻って行った。
「マナちゃん、こっち、こっち~」
 左の踊り場の奥に階段があり、みんなで上階に上がると、真ん中の廊下をはさんで、左右に5部屋ずつ客室の扉が並ぶ。
 そのうちの建物の道路側、階段そばから3部屋がわたし達の部屋らしい。
「ここが男子部屋~、真ん中が女子部屋~。 その隣の部屋が、マナちゃんとわんこの部屋ね~」
「マナちゃん、これ部屋の鍵~。 夕飯まではのんびりお風呂使うなり、お昼寝するなり自由にしてて~」
「後で、夕飯の時に誘いに来るから~」
「ありがと、じゃあまた後で」
 そう言って、鍵を受け取り、自分の部屋に入る。
 扉を開くと、小さいが清潔感のある、なかなか素敵な部屋だった。
 シングルよりは、少し大きめのベッドが2台、生成り色のリネンが使われていて、枕はクッションタイプのふかふかのが、それぞれに2個ずつ。
 小さなテーブルとイスのセットは、木目が素朴な感じ。
 道路側に面した窓は、やはり生成り色の厚手のカーテンが掛かっており、開けて窓から外を見ると、町の商店街が見渡せる。
 こうして見ると、色んなお店が立ち並んでいるのが分かる。
 出来れば、お洋服が買いたい所だなぁ。
 下着の替えは、多少、避難リュックに入れてあったとはいえ、他は、こちらに来てから着たきりスズメなので、毎日、洗浄魔法で綺麗にしているけれど、流石に着替えたい。
 あと、魔法バッグなる物も、探して買わなくてはならない。
 魔法バッグとは、マジックアイテムを作成する才能のある、一部の職人にしか作れない、ちょっと、お高めの便利アイテムらしいのだが、ドードーのドロップ品を山分けした時に、ミミアとリムに言われたのだ。
「マナちゃ~ん、とりあえず、お肉だけは腐っちゃうともったいないから、ウチの魔法バッグに、まとめて入れておくね~」
「あ、うん。 お願いします?」
「町に着いて、アイテム換金して~、お金が出来たら真っ先に買った方がいいよ~、魔法バッグ」
「そうなの?」
「うんうん~、魔法バッグに入れておくと、時間が止まって腐らなくなるんだよ~。 冒険者にも、旅の交易商にも必須アイテム~」
「持主の魔力量によって、容量は変わってくるんだけど、小さい物でも結構お高いから~」
「でも、今回マナちゃんは、ドードーのドロップ品で小金持ち~」
「たぶん、余裕で買えるから、早めに買って、お肉入れてね~」
「う、うん、分かった」
という訳で、自分の取り分のお肉を入れておく為に、可及的速やかに購入しなければならないのだ。
 さて、後は、ベッド脇に小さなクローゼットがあるので、そこにリュックとお散歩道具、犬達のリードを外して入れる。
 犬達は、それぞれにクンクンにおいを嗅ぎながら、部屋の探検をしていたが、片方のベッドに封筒型寝袋を広げてあげると、結局、みんなその上に飛び乗ってくつろぎだした。
 クローゼットの隣に、別の扉があったので開けてみると、こちらはバスルームだった。
 トイレは、一応洋式、水洗。
 お風呂は、ちゃんと浸かれる陶器っぽいバスタブがあって、シャワーとお湯が出る蛇口がある。
 洗面台には石鹸が置いてあるし、タオルもフェイスタオルとバスタオルが置いてある。
 さっそく、バスタブにお湯をためようと、栓をして蛇口をひねる。
 あ~、数日ぶりのちゃんとしたお風呂。
 ゆっくり浸からせてもらおう。

 お風呂でじっくりたっぷり、時間を掛けて体や髪を洗う。
 備え付けの石鹸で洗ったので、髪はごわつくけど仕方ない。
 バスから上がってから部屋に戻り、椅子に腰掛けながら、生活魔法の風を少し温めながら掛けて、ドライヤーとして使う。
 やっぱり、洗浄魔法と、実際のお湯の気持ち良さは、全くの別物だわ。
 日本人としては、やっぱり日々お湯に浸からなきゃ。
 あとは、避難リュックに入れていた、携帯ボトルの化粧水を顔にはたくが、これは、もうそろそろなくなりそうなので、頭の中の買いたい物リストに付け加える。
 あ、シャンプーとリンスも、あったら欲しいな、石鹸で髪を洗うのは限界があるし。
 そこまで考えて、取りあえずTシャツと下着だけ身に着けると、犬達が既に寝ている隣のベッドに潜り込む。
 あぁー、本当に久しぶりのふかふかのベッド、気持ちいい。
 今頃、日本はどうなっているのかな、富士山の噴火は収まったのかな、わたし、何で金髪になっちゃったんだろう、色々ぐるぐると頭を巡るが、睡魔が襲ってきて、いつの間にかぐっすりと眠ってしまっていた。

 コン、コン、コン
 軽快なノックの音と、ミミア達の呼ぶ声で目が覚める。
「マナちゃ~ん、寝てる~? そろそろご飯食べに行かない~?」
 一瞬、ここがどこだか分からなくて混乱するが、ハッと思い出して、慌てて服を身に着ける。
 急いで扉を開けて
「ごめんお待たせ」
「大丈夫、大丈夫~。 寝てたんでしょ? ウチらも、さっき起きたとこだから~」
「お腹ぺこぺこじゃない? ご飯、食べに行こう~。 コータ達も戻って来てて、先に食べてるって下に行ったから~」
「犬達は、連れて行っていいのかな?」
「大丈夫だけど、お酒、飲んでる人が多いから。 踏まれないように紐で繋いだ方が安心かも~」
「ん、分かった。 ちょっと待ってて」
 部屋に戻ってリードをつけると、犬達と一緒に階段を降りる。
 すでに、居酒屋は盛況な時間になっているようで、大分、賑やかな音や声が聞こえてくる。
と、同時に物凄く美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐり、お腹が、ぐうぐうと鳴り出した。
 お腹、すっごく空いてたみたい。

 居酒屋の中は、昼間とは打って変わって大盛況。
 テーブル席もカウンターも、ほとんどお客さんで埋まっていて、左側の踊り場スペースは、立ち飲みの客でごった返している。
 そのテーブル席の一席で、コータとイシュリーがこちらに手を振って合図している。
 もう、テーブルの上には、注文しておいたポークチョップが湯気を立て、籠に入ったバゲットと、それぞれの席の前には、なみなみとビールのような液体の注がれたガラスのジョッキが置いてあった。
「これ、お酒?」
 そう聞くと
「おう、麦が原料のエールってやつだ。 そんなに強くないからさ、最初の乾杯だけ、な。」
「マナちゃん、飲めないようなら無理しなくていいからね~。 残ったらコータが飲むから~」
 実は、こう見えても元は大人、お酒は結構好きなのだ。
 こちらでも、16歳が成人だと言うし飲んでも問題ないのだろう。
「たぶん大丈夫。 試しに飲んでみるね。」
「お、そうこなくちゃ。 俺等も、いつもは飲まないんだけど、こういう旅の終わりくらいには、いいかなってさ」
 そこへアニタさんが、ジュウジュウと、まだ音を立てているお皿を持ってやってくる。
「さぁさぁ、あんた達、さっさと食べないと料理が冷めちまうよ! このポテトフライはあたしの奢りだよ、遠慮せずに食べとくれ。 犬用の肉と芋の煮込みは冷ましてあるから、テーブルの下で食べさせとくれよ。 じゃあ、たっぷり楽しんで」
「わ~、ありがとうアニタさん~」
「ありがとうございます」
「何だよ気が利くな。 さすが女将」
 などなど口々に言いながら、犬達用のお皿をテーブルの下に置くと、ワンコ達もお腹が空いていたのか、すぐにハグハグと食べ出す。
「じゃあ改めて。 旅の無事を祝って、かんぱ~い」
「「「乾杯~~~」」」
 エールを、ぐいっと喉に流し込むと、とっても軽いフルーティなビールという感じ。
 ちょっと、ビール酵母の風味も香る、ご当地物の、地ビールのような味わいで飲みやすい。
 これ、好きかも。
 揚げたて、アツアツのポテトフライをつまみながらだと、いくらでも飲めちゃいそうで危険かもしれない。
 すきっ腹に、お酒だけだといけないので、バゲットとポークチョップに手を伸ばす。
 お皿に取り分けると、ひと口、お肉を頬張って噛みしめる。
 衣を付けてから焼いてあるようで、お肉の周りに、ぷるぷるの層がまといつき、ケチャップのような酸味と旨味のあるソースが良く絡んでいる。
 お肉も柔らかくて、それでいて厚みがある分しっかり噛み応えもあって、絶品だというのは過言ではなかった、ものすごーく美味しい。
 ポークチョップの味が濃い目の所に、バゲットをちぎって口に入れると、また、更に美味しかった。
 そこを、エールで流し込んで食べ進める。
 お腹が空いているせいだけではなく、間違いなく、日本で食べていた食事より美味しい気がする。
 夢中で食べていると、みんなが、わたしを見てニコニコしていた。
「な、なに?」
「マナちゃん、幸せそうにニコニコ笑いながら食べてるんだもん~、可愛い~」
「ほんっと、うまそうに食うよな。 口に合ったようで良かったぜ」
「あ、ありがと。 でも、そんな見られてると食べにくいから、みんなも自分の食事してね」
「あはは、は~い」
「あ、俺エールおかわり! マナちゃんは?」
「わたしも、おかわり!」
「うっし、女将ー! エール2杯、追加ー!」
「あいよー!」
 そうして、満足のいく食事を堪能した後、頼んでおいたチェリータルトのクリームのせと、コーヒーが運ばれてくると、コータと、黙ってもくもくと食べていたイシュリーまでも抗議し出した。
「チェリーのタルト? 俺等の分は?」
「あいにく全部出ちまって、取っといたこれが最後なんだよ」
「えー、何だよぉ」
「コータ、普段は甘いの食べないじゃな~い」
「そうだよ~、スイーツなんて女子供の食べもんだって、いつも食べない癖に~」
「……チェリーは好物なんだよ」
「ぼくは、味見だけしたい」
 イシュリーも、つぶやく。
「しょうがないな~、あたしとリムが3分の1ずつコータにあげるから、マナちゃん、イシュリーにひと口あげてくれる~?」
「うん。 ひと口と言わず半分こしようよ、イシュリー」
「ありがと」
 大騒ぎしながらも、みんなで、分けて食べたチェリータルトも果実たっぷりで絶品だった。
 シロップで甘く煮たチェリーと、サクサクのタルト生地の間にとろっとしたカスタードクリームが挟み込まれていて、酸味と甘味にクリームが添えられることで、まろやかさが包み込み、それを熱いコーヒーで流し込むと、苦味で更に味が引き立ち、クリームの脂肪分が口の中でとろけていく。
 最高。
 それにしても、ダイエット的に考えると、半分こにしたのは大正解だったかもしれない。
 こんな食生活が続いたら間違いなく太るわぁ。




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