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第一章
アームレスリング大会
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その日は、朝から大騒ぎだった。
朝食もそこそこに、昨日のうちに参加申し込みをしていた冒険者や、交易パーティの対戦トーナメント表を作ったり、腕相撲用の高めの台を用意したり。
観戦者向けに、酒やつまみも多く売れるだろうと、アニタさんの商売方面の準備も抜かりない。
大会にエントリーはしたものの、パーティ内で試合をするのは、コータだけなので、他の3人は急遽、臨時アルバイトとして店のお手伝いをする事になった。
「せっかくのお休みなのに、ごめんね」
そう謝ると、ミミアとリムは
「全然、大丈夫~。 アルバイト代が稼げるし~」
「それに、楽しそうだし~」
と、お祭り騒ぎにワクワクしているようだ。
イシュリーも無言で頷いている。
そう言えば、いつも厨房の中で腕を振るってくれている方には、まだ会っていないのだが、今回の件で忙しくさせてしまうし、挨拶した方がいいだろうな。
そう思って、アニタさんに聞いてみると、
「あぁ、いいから、いいから。 忙しいのが好きな人だから、気にしなさんな」
と、かわされてしまった。
人嫌い、とかなのかな?
気にはなったが、無理強いも出来ないし、今度、機会があったらお礼を言おう。
さて、結局、参加パーティは全部で13組となった。
冒険者パーティは、わたしの “ファリニシュ・ファミリア” を含めて9組、交易パーティから4組の参加だ。
奇数になったので、わたしは、主催者特権でシードにしてもらう。
その方が、注目浴びそうだしね、今回は目立ってなんぼなのだ。
トーナメント表を書き出しながら、ふとコータに聞く。
「そう言えば、聞いてなかったけど、コータ達のパーティ名って?」
「コリンズ・シャトル」
「ふーん?」
「コリン村の、往復便ってとこ」
「そうなんだ。 割と、そのまんまだね」
「いーだろ、別に!」
「あはは、なにも、悪いとは言ってないじゃない」
そんな風に軽口を叩きながらも、着々と準備は進んで行く。
最後に、カウンターの奥の棚に、目立つようにトパーズの魔宝石を飾ってもらう。
睡眠弱の付与効果付きだし、売れば30万クベーラと言われた時の鑑定書も付けてある。
十分、優勝賞品として成り立つだろう。
店のど真ん中にアームレスリング台として、高めのテーブルを設置して、周りに通常のテーブルと椅子を配置していると、ぼちぼち見物客や参加パーティが集まりだす。
今回は、念の為、ギルドの保安局に警備要請をお願いしている。
昨日のような性質の悪い連中は、こういう時にこそ騒ぎを起こしたがるのが相場だから、と、アニタさんが掛け合ってくれたのだ。
冒険者ギルドのギルド長とは、お互い、知己の間柄だという事で、二つ返事で警備と、ついでに審判員も派遣してもらえるそうだ。
トーナメント戦の勝敗結果は、後でギルドでも貼り出してくれる事になった。
更に、交易・商業ギルドでも噂を聞きつけたのか、優勝者への賞品として、瓶詰のソーダ水とジンジャーエールを、1ケースずつ提供してくれるそうだ。
その代わりに、ひよどり亭の周囲で、その日だけ屋台を出店させてほしい、と申し入れがあった。
一応、店でエールや簡単なおつまみは用意する事にしていたので、内容が被らない出店なら、という条件で許可してあげたみたい。
本当に、一大イベントになってきちゃった。
集まり出したお客さんは、すでに、エールや外の屋台で売っている串焼きなどを持ち込んで、飲み食いしながらも、ざわめき出している。
ミミア達も、あちこちから注文を受けて忙しく立ち働いている。
そろそろ10時、アームレスリング大会の始まりだ。
今回は、パーティごとの申請でのトーナメント方式なので、各パーティで出場する選手は誰が出てもいいようになっている。
例えば、1回戦目で出場した選手が勝った場合、同パーティ内のメンバーであれば、2回戦目は他の人が出ても構わない訳だ。
力自慢が複数人いるパーティなら、それだけでかなり有利と言える。
1回戦目は、シードのわたしを除いた、12組6対戦となる。
いずれも屈強な冒険者や、普段から力仕事の多い交易ギルドパーティの面々だ。
最初から、かなり白熱した戦いとなっている。
周りの観客たちも時間を追うごとに増えていき、応援する声、エールを注文する声、果てはヤジも飛び出して、だんだんと熱を帯びていった。
コータは、3対戦目での出場だったが、相手の冒険者が、結構体格のいい相手だったのにも拘わらず、難なく勝っていた。
と言うか、コータって、案外、着痩せするタイプだったみたい、上着を脱いで、中のシャツを肩まで捲り上げた腕は、なかなかに筋肉質だった。
テーブル席に座っていた観客も立ち上がり、どんどん、前のめりに応援に熱が入っていく。
わたしの出番は、準決勝からになっているので、空いたグラスを洗浄魔法で綺麗にする、お手伝いをしながら様子を見守る。
2回戦目、6組、3対戦。
コータは2対戦目だ。
相手は、さほど体の大きくない細身の冒険者だったので、余裕かと思われたのに、試合が始まって少しの膠着状態の後に、ググっと体勢が傾いて、コータ優勢か、と思った瞬間に、なぜか形勢逆転され、あっという間に負けてしまっていた。
「あぁ~」
「残念~」
と、アルバイト中なのも忘れて、声援を送っていたミミアとリムが、がっくりと肩を落としている。
わたしも、怪我などないか心配だったので、コータに駆け寄ると、
「イケると思ったんだけど、途中で相手の力加減が、ガラッと変わった。 仲間の奴が補助魔法かけたんじゃないかと思う」
と、ちょっと悔しそうにしながらも教えてくれた。
「補助魔法……」
なるほど、そういう手もあるのか、と感心する。
この程度の腕相撲大会ごときで、そんなチート行為が出るとは思いもよらなかったが、賞品が結構豪華になっているし、結果がギルドに貼り出されるとあっちゃあ、名を上げたい冒険者はそこまでやる、か。
姑息だなぁ。
「わたしも、コータに補助魔法かけてあげれば良かったね」
そう言うと。
「いや! 補助魔法で、筋肉にブーストかけられるなんて、した事ねぇし。 俺の腕がブーストの負荷に、どんだけ耐えられるか分かんねぇから、怖ぇよ」
負けた悔しさも吹き飛ぶほどに、青ざめて、遠慮されてしまった。
ふぅん、そういうものか。
取りあえず、コータは負けて暇になったので、わたしと交代して食器洗浄係に任命だ。
補助魔法を、こういう催し物で使うのは姑息だとは思うが、想定外だったせいもあって禁止事項にはしていない。
不本意ではあるが、反則とは見なされないだろう。
ならば、それを凌駕して勝つのみ!
だけど、大丈夫かなぁ。
昨日今日と、一応、試しに色々持ち上げたり、動かしたりはやってみていたけど、道に止めてある馬車とかも持てちゃったから、優勝くらい出来ると思っていたが、ブーストかかった相手にどれだけいけるかなぁ。
さて、悩んでいる間にも試合は進み、観客も、もう座っている人はほとんどいない、店外に立ち見の人まで出ているありさまだ。
そんな中でも、試合のアームレスリング台の周りは、ギルド保安局からの派遣警備員に守られているので、試合自体には影響はない。
次は準決勝、わたしがシードで出場するのは2対戦目になる。
1対戦目は、屈強で大柄な冒険者のパーティ “ハイ・ウォリアーズ”
このチームは、全試合、出場する選手を替えてきている。
疲労が次に影響しないだけでも、大きなアドバンテージになるだろう。
対するのは、さきほどコータが負けてしまった相手 “カース・メソッド” の細身の男だ。
後ろに、パーティメンバーであろう、男女3人が控える。
アームレスリング台に両者が構えを取り、審判員が2人の組んだ手から手を離しながら、
「ファイッ!」
と、声を掛けると、すぐに “ハイ・ウォリアーズ” の屈強な男性は、相手の手の甲をテーブルすれすれの所まで、ぐいっと押し込んでしまう。
が、そこから、しばらく耐える “カース・メソッド” の細身の男。
よく見ていると、後ろに控える女性冒険者が、何か唱えているように、口元が動いているのが分かる。
その口元が、にやり、と笑みを浮かべる形に変わった、と思った瞬間。
《ぐギグギィ》
と、鈍い音がする。
見ると “ハイ・ウォリアーズ” の男性の手の甲は、台の上に押しつけられていた。
“カース・メソッド” の細身の男が、またしても逆転勝利だ。
負けた男性は声も出せないまま、腕を抱え込んで、信じられない、という驚愕の表情を浮かべながら、仲間達に支えられ、手当をしに後ろに下がって行った。
折れてはいないと思う、うん、捻挫くらいのものだろう。
大歓声に包まれて、細身の男は腕を大きく掲げてガッツポーズをとる。
やっぱりあの女性が、補助魔法の使い手なんだね。
さあ、次はいよいよ、わたしの初戦だ、がんばろう!
対戦相手は、獣人の冒険者パーティ “フォレスト・オランジ” の女性冒険者だった。
大柄で、赤茶色の長い髪をドレッドに編んでいる。
肌も少し赤く日焼けしており、爪は真っ黒いマニキュアが塗られている。
すごく、格好いい。
アームレスリング台の前まで進み出て、正面から対峙すると、ちょっと体格差がすごすぎて、同じ人種ではないのがひしひしと感じられる。
ちょっとした、巨人っぽい。
「シードのお嬢ちゃん、よろしく」
そう、相手から声を掛けられる。
「よろしくお願いします」
頭を下げると、観客の方から、ヤジが飛んできた。
「なんだ、なんだ。 昨日の、犬っころは出さねぇのかよ、ねえちゃん!」
「あんたみたいな小さい娘っこが、何でシードなんだぁ」
見ると、昨日、ハクを蹴った冒険者の男達だった。
2人共、これ見よがしに包帯を巻いた足を、高々とテーブルの上に乗せ、松葉杖を上に掲げながら大声でヤジっている。
「俺等、昨日はここで大怪我させられたからよぉ。 出場したくても出来ねぇんだよなぁ」
「おう、ねえちゃん。 昨日のオトシマエに優勝して、慰謝料払ってくれよ!」
周りの観客から、
「足の怪我なら、腕は平気じゃねぇか」
と、声が上がったが、
「おう! 今のどいつだ? 余計な事、言ってんじゃねぇぞ!」
と、すごみ出す。
ギルドの警備員が動こうとしたが、わたしは、それを制した。
あぁいう輩にこそ、見てもらいたいのだから。
黙ったままレスリング台の上に腕を出し、相手のお姉さんと、お互いに手を組み合う。
審判が、その上に手を軽く置き、次の瞬間、手を離しながら、
「ファイっ!」
と、掛け声をかける、と共に、さきほどの男達のヤジもかき消すほどの、声援の嵐の中に飲み込まれる。
力を、お互い同程度に入れている状態で、しばらく膠着していると、お姉さんが口を開く、
「アタシはね、オランウータンの獣人なんだよ」
そのまま、無言で力を入れ続ける。
「オランウータンの握力は 500㎏ って知ってたかい?」
そう言い終わると同時に、腕を押し倒す力に加えて、掌を押し潰されるように握る力がぐぐっと増した。
これでは、手を握られる痛みで、早々に負けたくなるかもしれないな。
わたしは、深く息を吐いてから、回復魔法を少しずつ握る右手に掛ける。
掌を握り潰されながらも、そのまま腕を押し倒し続けるわたしに、お姉さんの表情から余裕がなくなっていく。
ただ、ただ、ゆっくりと押し倒し続ける、急激に倒すと怪我をさせてしまいそうだから、慎重に、ゆっくりと押し倒し続ける。
ゆっくり、ゆっくり、慎重に。
お姉さんの顔が、更に赤みを増す。
500㎏の握力の内、どれだけの力が加えられているのだろう?
骨と骨が密着して、ミシミシと音を立てそうだ。
でもそのまま、悲鳴を上げる右手に回復魔法をかけながら、少しずつ押し倒す。
観客の声も、とうに聞こえない。
シンとした一瞬の静けさの中、とうとう台の上に、オランウータンの獣人だと言った彼女の手の甲がついた。
(勝てた)
と、思ったのも束の間、審判員に勝者として右腕を持ち上げられる。
凄い歓声だ。
相手のお姉さんは、ちょっと呆気にとられた表情だったが、すぐに気を取り直して、にっこり笑顔で握手を求めてきてくれた。
しっかり、その手を握ると、
「アンタ凄いね! アタシの握力に悲鳴を上げなかったのは、アンタが初めてだよ! 次も頑張んな!」
そう言って、激励してくれた。
うん、手は痛かった。
でも、それよりも、自分の力の入れ加減に気を使う方が大変だった。
下手に力を入れたら、台をぶち抜いちゃう気がしたのだ。
お姉さんに、怪我をさせたりしないで済んで本当に良かった。
ほっと安堵して、お姉さんに激励のお礼を言う。
「ありがとう。 お互いに怪我もなく、いい試合でしたね」
笑い合うわたし達に、観客席から、更なる歓声と拍手が沸き上がった。
さあ、次は、いよいよ決勝だ。
朝食もそこそこに、昨日のうちに参加申し込みをしていた冒険者や、交易パーティの対戦トーナメント表を作ったり、腕相撲用の高めの台を用意したり。
観戦者向けに、酒やつまみも多く売れるだろうと、アニタさんの商売方面の準備も抜かりない。
大会にエントリーはしたものの、パーティ内で試合をするのは、コータだけなので、他の3人は急遽、臨時アルバイトとして店のお手伝いをする事になった。
「せっかくのお休みなのに、ごめんね」
そう謝ると、ミミアとリムは
「全然、大丈夫~。 アルバイト代が稼げるし~」
「それに、楽しそうだし~」
と、お祭り騒ぎにワクワクしているようだ。
イシュリーも無言で頷いている。
そう言えば、いつも厨房の中で腕を振るってくれている方には、まだ会っていないのだが、今回の件で忙しくさせてしまうし、挨拶した方がいいだろうな。
そう思って、アニタさんに聞いてみると、
「あぁ、いいから、いいから。 忙しいのが好きな人だから、気にしなさんな」
と、かわされてしまった。
人嫌い、とかなのかな?
気にはなったが、無理強いも出来ないし、今度、機会があったらお礼を言おう。
さて、結局、参加パーティは全部で13組となった。
冒険者パーティは、わたしの “ファリニシュ・ファミリア” を含めて9組、交易パーティから4組の参加だ。
奇数になったので、わたしは、主催者特権でシードにしてもらう。
その方が、注目浴びそうだしね、今回は目立ってなんぼなのだ。
トーナメント表を書き出しながら、ふとコータに聞く。
「そう言えば、聞いてなかったけど、コータ達のパーティ名って?」
「コリンズ・シャトル」
「ふーん?」
「コリン村の、往復便ってとこ」
「そうなんだ。 割と、そのまんまだね」
「いーだろ、別に!」
「あはは、なにも、悪いとは言ってないじゃない」
そんな風に軽口を叩きながらも、着々と準備は進んで行く。
最後に、カウンターの奥の棚に、目立つようにトパーズの魔宝石を飾ってもらう。
睡眠弱の付与効果付きだし、売れば30万クベーラと言われた時の鑑定書も付けてある。
十分、優勝賞品として成り立つだろう。
店のど真ん中にアームレスリング台として、高めのテーブルを設置して、周りに通常のテーブルと椅子を配置していると、ぼちぼち見物客や参加パーティが集まりだす。
今回は、念の為、ギルドの保安局に警備要請をお願いしている。
昨日のような性質の悪い連中は、こういう時にこそ騒ぎを起こしたがるのが相場だから、と、アニタさんが掛け合ってくれたのだ。
冒険者ギルドのギルド長とは、お互い、知己の間柄だという事で、二つ返事で警備と、ついでに審判員も派遣してもらえるそうだ。
トーナメント戦の勝敗結果は、後でギルドでも貼り出してくれる事になった。
更に、交易・商業ギルドでも噂を聞きつけたのか、優勝者への賞品として、瓶詰のソーダ水とジンジャーエールを、1ケースずつ提供してくれるそうだ。
その代わりに、ひよどり亭の周囲で、その日だけ屋台を出店させてほしい、と申し入れがあった。
一応、店でエールや簡単なおつまみは用意する事にしていたので、内容が被らない出店なら、という条件で許可してあげたみたい。
本当に、一大イベントになってきちゃった。
集まり出したお客さんは、すでに、エールや外の屋台で売っている串焼きなどを持ち込んで、飲み食いしながらも、ざわめき出している。
ミミア達も、あちこちから注文を受けて忙しく立ち働いている。
そろそろ10時、アームレスリング大会の始まりだ。
今回は、パーティごとの申請でのトーナメント方式なので、各パーティで出場する選手は誰が出てもいいようになっている。
例えば、1回戦目で出場した選手が勝った場合、同パーティ内のメンバーであれば、2回戦目は他の人が出ても構わない訳だ。
力自慢が複数人いるパーティなら、それだけでかなり有利と言える。
1回戦目は、シードのわたしを除いた、12組6対戦となる。
いずれも屈強な冒険者や、普段から力仕事の多い交易ギルドパーティの面々だ。
最初から、かなり白熱した戦いとなっている。
周りの観客たちも時間を追うごとに増えていき、応援する声、エールを注文する声、果てはヤジも飛び出して、だんだんと熱を帯びていった。
コータは、3対戦目での出場だったが、相手の冒険者が、結構体格のいい相手だったのにも拘わらず、難なく勝っていた。
と言うか、コータって、案外、着痩せするタイプだったみたい、上着を脱いで、中のシャツを肩まで捲り上げた腕は、なかなかに筋肉質だった。
テーブル席に座っていた観客も立ち上がり、どんどん、前のめりに応援に熱が入っていく。
わたしの出番は、準決勝からになっているので、空いたグラスを洗浄魔法で綺麗にする、お手伝いをしながら様子を見守る。
2回戦目、6組、3対戦。
コータは2対戦目だ。
相手は、さほど体の大きくない細身の冒険者だったので、余裕かと思われたのに、試合が始まって少しの膠着状態の後に、ググっと体勢が傾いて、コータ優勢か、と思った瞬間に、なぜか形勢逆転され、あっという間に負けてしまっていた。
「あぁ~」
「残念~」
と、アルバイト中なのも忘れて、声援を送っていたミミアとリムが、がっくりと肩を落としている。
わたしも、怪我などないか心配だったので、コータに駆け寄ると、
「イケると思ったんだけど、途中で相手の力加減が、ガラッと変わった。 仲間の奴が補助魔法かけたんじゃないかと思う」
と、ちょっと悔しそうにしながらも教えてくれた。
「補助魔法……」
なるほど、そういう手もあるのか、と感心する。
この程度の腕相撲大会ごときで、そんなチート行為が出るとは思いもよらなかったが、賞品が結構豪華になっているし、結果がギルドに貼り出されるとあっちゃあ、名を上げたい冒険者はそこまでやる、か。
姑息だなぁ。
「わたしも、コータに補助魔法かけてあげれば良かったね」
そう言うと。
「いや! 補助魔法で、筋肉にブーストかけられるなんて、した事ねぇし。 俺の腕がブーストの負荷に、どんだけ耐えられるか分かんねぇから、怖ぇよ」
負けた悔しさも吹き飛ぶほどに、青ざめて、遠慮されてしまった。
ふぅん、そういうものか。
取りあえず、コータは負けて暇になったので、わたしと交代して食器洗浄係に任命だ。
補助魔法を、こういう催し物で使うのは姑息だとは思うが、想定外だったせいもあって禁止事項にはしていない。
不本意ではあるが、反則とは見なされないだろう。
ならば、それを凌駕して勝つのみ!
だけど、大丈夫かなぁ。
昨日今日と、一応、試しに色々持ち上げたり、動かしたりはやってみていたけど、道に止めてある馬車とかも持てちゃったから、優勝くらい出来ると思っていたが、ブーストかかった相手にどれだけいけるかなぁ。
さて、悩んでいる間にも試合は進み、観客も、もう座っている人はほとんどいない、店外に立ち見の人まで出ているありさまだ。
そんな中でも、試合のアームレスリング台の周りは、ギルド保安局からの派遣警備員に守られているので、試合自体には影響はない。
次は準決勝、わたしがシードで出場するのは2対戦目になる。
1対戦目は、屈強で大柄な冒険者のパーティ “ハイ・ウォリアーズ”
このチームは、全試合、出場する選手を替えてきている。
疲労が次に影響しないだけでも、大きなアドバンテージになるだろう。
対するのは、さきほどコータが負けてしまった相手 “カース・メソッド” の細身の男だ。
後ろに、パーティメンバーであろう、男女3人が控える。
アームレスリング台に両者が構えを取り、審判員が2人の組んだ手から手を離しながら、
「ファイッ!」
と、声を掛けると、すぐに “ハイ・ウォリアーズ” の屈強な男性は、相手の手の甲をテーブルすれすれの所まで、ぐいっと押し込んでしまう。
が、そこから、しばらく耐える “カース・メソッド” の細身の男。
よく見ていると、後ろに控える女性冒険者が、何か唱えているように、口元が動いているのが分かる。
その口元が、にやり、と笑みを浮かべる形に変わった、と思った瞬間。
《ぐギグギィ》
と、鈍い音がする。
見ると “ハイ・ウォリアーズ” の男性の手の甲は、台の上に押しつけられていた。
“カース・メソッド” の細身の男が、またしても逆転勝利だ。
負けた男性は声も出せないまま、腕を抱え込んで、信じられない、という驚愕の表情を浮かべながら、仲間達に支えられ、手当をしに後ろに下がって行った。
折れてはいないと思う、うん、捻挫くらいのものだろう。
大歓声に包まれて、細身の男は腕を大きく掲げてガッツポーズをとる。
やっぱりあの女性が、補助魔法の使い手なんだね。
さあ、次はいよいよ、わたしの初戦だ、がんばろう!
対戦相手は、獣人の冒険者パーティ “フォレスト・オランジ” の女性冒険者だった。
大柄で、赤茶色の長い髪をドレッドに編んでいる。
肌も少し赤く日焼けしており、爪は真っ黒いマニキュアが塗られている。
すごく、格好いい。
アームレスリング台の前まで進み出て、正面から対峙すると、ちょっと体格差がすごすぎて、同じ人種ではないのがひしひしと感じられる。
ちょっとした、巨人っぽい。
「シードのお嬢ちゃん、よろしく」
そう、相手から声を掛けられる。
「よろしくお願いします」
頭を下げると、観客の方から、ヤジが飛んできた。
「なんだ、なんだ。 昨日の、犬っころは出さねぇのかよ、ねえちゃん!」
「あんたみたいな小さい娘っこが、何でシードなんだぁ」
見ると、昨日、ハクを蹴った冒険者の男達だった。
2人共、これ見よがしに包帯を巻いた足を、高々とテーブルの上に乗せ、松葉杖を上に掲げながら大声でヤジっている。
「俺等、昨日はここで大怪我させられたからよぉ。 出場したくても出来ねぇんだよなぁ」
「おう、ねえちゃん。 昨日のオトシマエに優勝して、慰謝料払ってくれよ!」
周りの観客から、
「足の怪我なら、腕は平気じゃねぇか」
と、声が上がったが、
「おう! 今のどいつだ? 余計な事、言ってんじゃねぇぞ!」
と、すごみ出す。
ギルドの警備員が動こうとしたが、わたしは、それを制した。
あぁいう輩にこそ、見てもらいたいのだから。
黙ったままレスリング台の上に腕を出し、相手のお姉さんと、お互いに手を組み合う。
審判が、その上に手を軽く置き、次の瞬間、手を離しながら、
「ファイっ!」
と、掛け声をかける、と共に、さきほどの男達のヤジもかき消すほどの、声援の嵐の中に飲み込まれる。
力を、お互い同程度に入れている状態で、しばらく膠着していると、お姉さんが口を開く、
「アタシはね、オランウータンの獣人なんだよ」
そのまま、無言で力を入れ続ける。
「オランウータンの握力は 500㎏ って知ってたかい?」
そう言い終わると同時に、腕を押し倒す力に加えて、掌を押し潰されるように握る力がぐぐっと増した。
これでは、手を握られる痛みで、早々に負けたくなるかもしれないな。
わたしは、深く息を吐いてから、回復魔法を少しずつ握る右手に掛ける。
掌を握り潰されながらも、そのまま腕を押し倒し続けるわたしに、お姉さんの表情から余裕がなくなっていく。
ただ、ただ、ゆっくりと押し倒し続ける、急激に倒すと怪我をさせてしまいそうだから、慎重に、ゆっくりと押し倒し続ける。
ゆっくり、ゆっくり、慎重に。
お姉さんの顔が、更に赤みを増す。
500㎏の握力の内、どれだけの力が加えられているのだろう?
骨と骨が密着して、ミシミシと音を立てそうだ。
でもそのまま、悲鳴を上げる右手に回復魔法をかけながら、少しずつ押し倒す。
観客の声も、とうに聞こえない。
シンとした一瞬の静けさの中、とうとう台の上に、オランウータンの獣人だと言った彼女の手の甲がついた。
(勝てた)
と、思ったのも束の間、審判員に勝者として右腕を持ち上げられる。
凄い歓声だ。
相手のお姉さんは、ちょっと呆気にとられた表情だったが、すぐに気を取り直して、にっこり笑顔で握手を求めてきてくれた。
しっかり、その手を握ると、
「アンタ凄いね! アタシの握力に悲鳴を上げなかったのは、アンタが初めてだよ! 次も頑張んな!」
そう言って、激励してくれた。
うん、手は痛かった。
でも、それよりも、自分の力の入れ加減に気を使う方が大変だった。
下手に力を入れたら、台をぶち抜いちゃう気がしたのだ。
お姉さんに、怪我をさせたりしないで済んで本当に良かった。
ほっと安堵して、お姉さんに激励のお礼を言う。
「ありがとう。 お互いに怪我もなく、いい試合でしたね」
笑い合うわたし達に、観客席から、更なる歓声と拍手が沸き上がった。
さあ、次は、いよいよ決勝だ。
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