高校生、異世界の「救世主」になる。

トナミ

文字の大きさ
3 / 4
第1章 召喚されちゃった!

第3話 救世主って何?

しおりを挟む
 自分のことすらどうにもできない私が、この縁もゆかりもない異世界の救世主になって異世界を救えってこと?
 最高に意味が分からない。

 まず水を飲ませてもらって、少し落ち着いてから説明を求めれば、女の子が引っ込んで別の女の人が現れて、まず今の状況を説明してくれた。

 さっきの少女がこの神殿(やっぱり宗教だった)に与えられた力である他の世界への扉を開く術を使うことができて? 私の世界とこの世界をつなげたところ現れたのは私だった? とか。

 理解を諦めれば状況把握は容易だった。
 
「それで、世界を救うって、具体的に何をすればいいんですか?」

 状況はともかく、重要なのはそっちだ。
 私が何をやらされるのか?

「巡礼をしていただきたいと思います」
「巡礼?」

 悪魔とか魔王とか、そういう類を倒せみたいなことを言われるのを想像していたので正直拍子抜けした。

「はい。六つの聖地を巡り、神様の元へ向かっていただきたいと」
「聖地?」
「ええ、各地にある神様の力が満ちている土地です。神様への捧げもの――神器が奉られております。救世主さまはそれらを手にして神様の元へと向かっていただきます」
「それだけ?」
「はい、救世主様が神様に六つの神器をささげることで神様が目覚め世界は安定すると伝承は伝えています」

 神様の元へ行くってのは初詣のようなものかな?
 もっと神秘的なものではあるのだろうけれど。
 しかし、神なんて目に見えないものに会うなんて本当に可能なんだろうか?
 
「とにかく、その六つの神器? ってのを集めればいいんですね?」
「ええ、それぞれの聖地には連絡を出しておきますので手間になるようなことはございません。各地にはわたくしがご案内いたしましょう」

 ちゃんと道案内もしてくださるのか。
 先刻から少しも表情を変えることなく淡々と話す彼女は、多分私より年上だろうと見当をつける。
 二十歳前後ぐらいかな、美人だけど無表情が怖い。
 そんなこの人を見やってほんの少しだけど憂鬱になった。
 そりゃ道案内は助かるけど、雰囲気がちょっとな……。

「……ありがとうございます」

 思うところは色々あるけれど、きちんと説明もしてくれたし、手助けをしてくれるようだし、とりあえずお礼は言っておく。
 
「では本日は旅の支度を済ませたらすぐにでもお休みくださいませ。明日早朝には出発致します」
「はい」

 このまま出発ではないことに少しだけほっとする。
 色々ありすぎて疲れていたからこのまま追い出されなくてよかった。

 ゲームによくいる小銭と木の棒だけ持たせて「魔王を倒してこい」と無茶振りかます偉い人とは違って人情はあるみたい。

「申し送れておりましたが、わたくしシェリーと申します。何卒宜しくお願いいたします」
「あ、私こそ、宜しくお願いします」
「それではわたくしは失礼いたします、救世主様」

 シェリーさんはそっけなく言い放つと、席を立ちそのまま部屋を出て行ってしまい一人残される。

「名前すら聞いてくれないとか……」

 こっちの世界では私の名前などどうでもいいのかもしれない。
 つまらないことだけど、少し落ち込んでしまった。


 シェリーさんが退出して数分後、違う女性が私の居る部屋にやってきて白装束(みんなが着ているの)を旅装束にと渡されかけたが、やんわりとお断りした。
 なんだか動きにくそうだったからだ。

 とはいえ、私も制服である。
 長袖ブラウスにベスト着用という軽装。鞄も通学用のそのまま学校指定の通学バッグ。
 中には教科書とノート類、あとはスマホとハンカチとかティッシュとかそんな感じ。常備しているはずのお菓子を今日はあいにく持っていないから非常食もない。
 とても旅にはそぐわない。

 唯一武器にできそうな竹刀は普段から学校に置きっぱなし。
 あっても邪魔でしかないか。

 そんな状態だったんで、スカートはそのままで、上着だけちょっと厚手の動きやすそうなのを用意してもらい、ウエストポーチのような袋と安全靴のような底が厚い靴を貸してもらった。
 神官たちが清めた布で作られたマントを受け取って準備万端である。

 マントってあたりがファンタジー要素が強いように思う。
 私の勝手なイメージ的に。

 借りたものを含め試着して鏡を見てみれば、ファンタジー映画に出てくる冒険者か旅人っぽくてテンションが上がった。

 そして、マントって防寒具なんだなとしみじみ思ってしまった。
 装備するのとしないのとでは全然体感温度が違う。
 つけていると温かい。
 石造りの建造物って寒いんだな。

 ずいぶんと時間をかけて旅支度を済ませ、白装束の集団が部屋から出て行きようやく一人になったときには、窓から見える風景はすっかり夜のものとなっていた。

 暗い。
 月とか街灯みたいなものは見えない。
 
 世界が違ってもちゃんと夜はあるわけね。まあ、そりゃそうか。


 ベッドに腰を下ろし、借りたウエストポーチのような荷物袋にスマホとハンカチを移しながら胸中でぼやく。
 ちなみにスマホは圏外だった。
 異世界だから?

 でも、ここが本当に異世界なんて実感がなかった。
 あの人たち集団で私を洗脳してるんじゃないかという懸念も消えない。
 お母さんをターゲットにしてて、まずは娘から洗脳するとか。
 その場合異世界舞台にする必要はないから違うかな。

 だいたい流行りにのっかるなら召喚するのは「救世主様」じゃなくて「聖女様」じゃないのか。

 つらつらと色々思いついたことを胸中で垂れ流して、逃げちゃおうかなーと後ろ向きな気持ちになってきた。

 話を聞く限りでは世界を救ってくれる人が必要なほどこの世界が危機的状況だとは思えないし。
 なんで私が救世主なんだろう。
 そんな大それた人間じゃないとも思う。

 もしかしたら異世界の人間なら誰でも救世主様みたいな世界観なのだろうか。
 それだとしてもなんで私が? の堂々巡りは終わらない。

 戻れない、と聞いたから何となく旅立つことになっていたが、こっちの世界で暮らすという選択肢もあるのかな?
 両親やお姉ちゃんは心配するだろうな。心配をかけるのは本意じゃないけど。

 剣道部のみんなも好きだ。会えないのは寂しい。
 それに、良くんのことは密かに好きだった。
 でも、良くんは私のお姉ちゃんが好きなことを知っている。
 そしてお姉ちゃんは良くんのこと、弟か躾の行き届いた室内犬ぐらいにしか思ってないことも。

 だからそんな一方通行な想いから逃げられるのは魅力的な気がしないでもない。
 なによりこちらの世界なら、両親のことを知っている人はいないし、誰も私のことを知らない。
 もう少し自由に生きられるのかもしれない。

 ――やめよう。やっぱ駄目。

 失恋如きで家族を捨てるなんてどう考えてもおかしい。
 
 ほら、私ってば普通の高校生だし、そんな大変なこと要求さてれもできるはずがない。
 できないことはできない、やれないことはやれない、でいいのかもしれない。
 だから、やれることだけやればいい。
 それなら、私にだってできる、はず。

 巡礼だけって言ってたから、死ぬようなこともないだろうし。多分大丈夫。
 うん、大丈夫だ。
 
 よし。

 こうなれば覚悟を決める。
 やれって言うんだったら、やってやる。
 だけどその結果どうなっても文句は言わないでよ! って感じ。
 決めた!
 
 決めちゃえば、もう目標達成のために動くしかない……んだけど。

「はああああ。気が重いよぉ……」

 だって全然知らない世界で、なんて。無理ゲーってこういうこと?
 何で私が……って考えるとせっかく決まった心が、またぶれてしまいそうだったから慌てて打ち消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...