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9話
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川町ハナコは悩んでいた。
「彼の能力はおそらく本物でしょう、ですが私達組織の人間が動く様な案件でしょうか?」
テレビ局の外で、ハナコとタロウはトットを取り逃していた。上からの指示では「対象者の監視を継続せよ」とだけ指示が下る。
「奴は危険だ、最初から力を抑えていた可能性もあるが、動画を見る限りそれは無いだろう。あの日、奴は自らの体重を持ち上げた。俺達の予想通り力は日に日に増している」
ふぅっとタバコの煙を吐く、空を飛んで逃げるトットが煙と重なる。
「確かに能力は上昇しています、それも恐ろしい速度で。ですが彼が他人に害を及ぼす様な人間には見えませんでした」
調査対象を知る為に、過去の動画を全て見ていたハナは、家族に対し慈愛ある態度で接する彼が悪い人間には見えなかった。
「良い人間か悪い人間かは俺たちの判断する事じゃねぇ。それは上が判断する事だ。ただ上は奴の事を楽観しすぎている、このまま手をこまねいていたら取り返しがつかない程、奴の力は強くなるだろう」
タロウは上からの指示とは違い、なるべく早い接触をと考えていた。テレビ局での接触もタロウの独断だった。ハナには話していなかったが、場合によっては処分する事もやむなしと考え、その時は自らの手を汚すと心に決めていたほどだ。
「その事について異論はありません。ですがタロさんのやり方については同意しかねます」
タロは所在の掴めないトットを確保する為、ある計画を考えていた。
「うるせぇ、お前の同意は求めてねぇ。これは俺の独断で実行し、お前は俺の命令に従う。それだけだ」
計画の詳細な内容が書かれた指示書を用意しているタロウ。普段はそんなモノは用意しないが、《もしも》に備え引き出しにしまっている。
「ですがいくら居場所が特定出来ないからといって、彼の父親を誘拐するなんて…せめて事情を説明し任意で同行してもらうとか…」
3人が奥多摩方面に向かって移動した事は携帯のGPS情報より確認していたが、その後の足取りが掴めていなかった。だが彼の現存する唯一の肉親である父親の居場所は掴んでいた為、おびき寄せるエサとして誘拐計画を立てていた。
「警察でも無い、身分を明かす事も出来ない俺達の言う事を信じて、ホイホイ付いてくるわけねぇだろ。それにじいさんは都合が良い事に一人旅の真っ最中だ、秘密裏に動くには都合が良い」
ジジは老後の楽しみに、年金と貯金を使いよく一人旅に出かけていた。
「ですが一般人に危害を加えるのは、組織の行動理念に反します!」
この件に関して引く気がないハナは、自分の意思を示す為にも声を荒げる。
「組織じゃねぇ、そりゃお前の行動理念だろ…ったく」
それでも引かないハナに折衷案を提示する。
「分かった、じゃお前は今から九州に飛び、じいさんの写真を何枚か撮れ。できればじいさんの携帯電話を盗んで電源を切る。あとは俺がどうにかしてやるよ」
シッシッと手を振り、サッサと行けと指示する。もう一本タバコに火を付け吹かす。
「あいつ…足踏んで行きやがった」
ハナが九州に着いた翌日、タイミング良くトット達3人が帰って来た。
「やっぱりあのワゴン車止まってるわね」
上空から確認しカカが言う。少し遠回りし低空飛行でベランダに入る。ベランダを開け中に入るとそこには背の高いあの時の男が立っていた。
「お邪魔してまづっ!?」
トットは咄嗟に相手の動きを止める、見えない手で掴む様に相手を拘束した。
「ははっ!すげえなこれ、マジで超能力が使えるんだな。なぁ勝手に部屋に入った事は謝る、奥さんもお嬢さんも驚かせてしまって申し訳ない。」
トットの影に怯える様に隠れるミー、カカもミーを庇う様に立ち塞がるが、立ち位置は若干トットより前だ。
「カカさん下がって!!もう底抜けに気が強いんだからっ!ここは僕に任せて、ほら下がって下がって!」
渋々下がるカカ、鋭い眼光は男に注がれている。
「印象通りの良い家族だ、なぁ小沢さん拘束を解いてくれ、ちょっと2人で話しがしたいだけなんだ」
身体の状態を確認する。口以外は微動だにしないが、痛みを感じる事は無かった。
「話しなんてないですよ!それに話は今でも出来ます、2人でなんて…嫌ですよ!」
一瞬2人で向き合い話し合いする場面が浮かぶ、今までも重要な決断はカカに委ねていたトットは、判断を間違えた後のカカが若干怖かった。
「たくっ、危害は加えません約束します。ちょっと見てもらいたい写真があるだけです。その後の判断はそちらにお任せしますよ」
やれやれと発言する。トットは一瞬考えカカを見る、どこから持って来たのかハンガーを手に持っていた。カカは目が合うと少し考え、コクンッと頷く。
「分かりました、では右手だけ動く様にします。何か変な事したら、速攻で逃げますんで!」
男の右腕が動く様になる、ポケットからタバコを手に取り火を付けようとする。「禁煙よ!」とカカの怒声が飛び、渋々ポケットに直す。スマホを取り出し、メールから写真を選択する。ゆっくりと画面をこちらに向ける。
「ジジだー!」
ミーがジジの写真をみて言う。カカにジジの友達か聞いていたが返事は無い。二人とも顔が青ざめている。
「あんたジジに何をしたっ!!!」
震えながらトットが言う。
「何もしていませんよ、今はね」
「申し遅れました『木村』と言います。国の《裏》の組織に所属しています。」
木村とトットは表に止めていた黒のワゴン車に乗って移動していた。得体の知れない能力の持ち主と2人っきりの状況に、若干の恐怖心を抱き、脅す意味あいも兼ねて《裏》と表現する。
「ジジに、親父に何かあったらタダじゃおかないからなっ!」
ジジの写真を見せられ、直ぐに電話したが繋がらなかった。お決まりの音声ガイダンスが父親と繋がりが切れている事を告げ、死刑宣告を受けた様に気持ちが一気に沈んでいった。
「今は生きています」
その一言にカカもトットがついて行く事を了承した。
2人を乗せた車は市街地を離れ、整備されていない山道を上がって行く。そこには今にも崩れ落ちそうな倉庫があった。
「ここは昔、ダム工事の資材置き場として使われていました。ここで小沢さんには私の実験に付き合ってもらいます。」
工場の中に入り、キョロキョロと辺りを見回す、ジジの姿は見当たらなかった。
「お父さんはここにはいません。貴方が私の言う事を素直に聞き入れるなら、無事父親と連絡が取れる様になるでしょう」
父親に再度電話をかけていたトットに告げる。
「私に何をさせようって言うんですか?」
それから木村は幾つかの質問をする。トットは全て正直に話した。聞かれた内容は亀吉と話した内容とほぼ同じだった。尋問の様な話しが終わると実験と称し、倉庫の中にある様々なモノを浮かばせる様言われる。
「では最後にそこに山積みされている砂を一度に持ち上げられるだけ持ち上げ、あのダンプカーの荷台に載せて下さい」
トットは言われるままに、最大限の力を出し砂を持ち上げ、ダンプカーへと載せる。木村はスマホを取り出し何かを確認している。
「やはり8トンを超えていますね。あのダンプカーは『トラックスケール』の上に載っています。まあでっかい体重計だと思って下さい。そしてこれがそのデータです」
画面には『8388kg』と書かれていた。
「小沢さん、あなたはこの力を使って何をしますか?」
探る様な視線で問う。
「何をって、私だって分かりませんよ!気付けばドンドン力は強くなるし…最初はちょっとお金が手に入れば良いかなって気持ちで始めたんです。本当に出来るとは思っていませんでしたし!」
サイコキネシスに成功する前も、月に数万から数十万のお金が入って来ていた。
「まあ、強いて言うなら…その…『正義のヒーロー』的な?」
恥ずかしそうに告げるトット。
「ははっ!ヒーローですか?では小沢さん、日本国民が貴方の《死》を願った場合その命を絶てますか?」
大きな声で笑ったかと思うと、唐突に恐ろしい表情で質問される。
「なんですか!死ね!?そんな事ありえないでしょう?私はこの力を使って世の中の役に立てばと言ってるんですよ。喜ばれる事はあっても《死ね》なんて言う人がいるわけないじゃないか!」
木村を指差し強い口調で言う。そんな事ありえないと。
「確かに最初はそうかも知れません、だが人間は群れる生き物です。その中に異分子が入り込めば自ずと拒否反応を示す様になる。それは貴方の力が本物だと認知されれば必然でしょう」
強い口調のトットとは裏腹に、静かに語る木村。
「そんな馬鹿な!人と違うからって死ねなんて言わないでしょう?ありえない、絶対にありえませんよ!」
トットの周りのモノがフルフルと小刻みに震えている。それを横目で見やり話を続ける。
「危険のない違いなら死ねとまでは言わないでしょう。ですが貴方の力は使い様によっては簡単に人を殺す事ができる」
今では周りに大小様々なモノがトットを取り囲む様に浮かんでいた。本人は無自覚の様で気付いていない。
「殺すなんてそんな…人を傷付けた事すらないのに……」
ブツブツと独り言を言い始める。
木村は覚悟を決める。徐ろにスマホを手に取り、耳に当てる。
「俺だ、じいさんを殺せ」
通話相手にそう告げる。スマホをズボンにしまい、冷たく見つめる。
それを聞いたトットは頭が真っ白になる。
(殺せ?どう言う意味だ?)
ガタガタと揺れ始める建物。
(親父の事か?何で…どうして?……何故?何故!?……親父に何をしたっていうんだ!!)
「ふざけるなっ!!」
叫び声と共に建物のガラスが全て弾け飛ぶ、メキメキと音を立て屋根は舞い建物を支える鉄骨は、抵抗虚しく壁から剥がされ様々な方向に折れ曲がった。中にあった色々なモノはダンプカーを除き、グルグルと飛び回る。
(まぁ最後に見る景色としちゃ上出来だな)
徐々に崩れ落ちる建物の中、ズボンからタバコを取り出し火を付けようとする、が渦巻く暴風の中、火はつかない。
タバコを諦めズボンのポケットに手を入れ、堂々とした姿勢で小沢を見る。
( ハナ、最後にもう一度会…… )
ぶつかり合う鉄骨が、終はじまりの鐘の様に響きわたり、建物は2人を包むように崩れ落ちた。
「彼の能力はおそらく本物でしょう、ですが私達組織の人間が動く様な案件でしょうか?」
テレビ局の外で、ハナコとタロウはトットを取り逃していた。上からの指示では「対象者の監視を継続せよ」とだけ指示が下る。
「奴は危険だ、最初から力を抑えていた可能性もあるが、動画を見る限りそれは無いだろう。あの日、奴は自らの体重を持ち上げた。俺達の予想通り力は日に日に増している」
ふぅっとタバコの煙を吐く、空を飛んで逃げるトットが煙と重なる。
「確かに能力は上昇しています、それも恐ろしい速度で。ですが彼が他人に害を及ぼす様な人間には見えませんでした」
調査対象を知る為に、過去の動画を全て見ていたハナは、家族に対し慈愛ある態度で接する彼が悪い人間には見えなかった。
「良い人間か悪い人間かは俺たちの判断する事じゃねぇ。それは上が判断する事だ。ただ上は奴の事を楽観しすぎている、このまま手をこまねいていたら取り返しがつかない程、奴の力は強くなるだろう」
タロウは上からの指示とは違い、なるべく早い接触をと考えていた。テレビ局での接触もタロウの独断だった。ハナには話していなかったが、場合によっては処分する事もやむなしと考え、その時は自らの手を汚すと心に決めていたほどだ。
「その事について異論はありません。ですがタロさんのやり方については同意しかねます」
タロは所在の掴めないトットを確保する為、ある計画を考えていた。
「うるせぇ、お前の同意は求めてねぇ。これは俺の独断で実行し、お前は俺の命令に従う。それだけだ」
計画の詳細な内容が書かれた指示書を用意しているタロウ。普段はそんなモノは用意しないが、《もしも》に備え引き出しにしまっている。
「ですがいくら居場所が特定出来ないからといって、彼の父親を誘拐するなんて…せめて事情を説明し任意で同行してもらうとか…」
3人が奥多摩方面に向かって移動した事は携帯のGPS情報より確認していたが、その後の足取りが掴めていなかった。だが彼の現存する唯一の肉親である父親の居場所は掴んでいた為、おびき寄せるエサとして誘拐計画を立てていた。
「警察でも無い、身分を明かす事も出来ない俺達の言う事を信じて、ホイホイ付いてくるわけねぇだろ。それにじいさんは都合が良い事に一人旅の真っ最中だ、秘密裏に動くには都合が良い」
ジジは老後の楽しみに、年金と貯金を使いよく一人旅に出かけていた。
「ですが一般人に危害を加えるのは、組織の行動理念に反します!」
この件に関して引く気がないハナは、自分の意思を示す為にも声を荒げる。
「組織じゃねぇ、そりゃお前の行動理念だろ…ったく」
それでも引かないハナに折衷案を提示する。
「分かった、じゃお前は今から九州に飛び、じいさんの写真を何枚か撮れ。できればじいさんの携帯電話を盗んで電源を切る。あとは俺がどうにかしてやるよ」
シッシッと手を振り、サッサと行けと指示する。もう一本タバコに火を付け吹かす。
「あいつ…足踏んで行きやがった」
ハナが九州に着いた翌日、タイミング良くトット達3人が帰って来た。
「やっぱりあのワゴン車止まってるわね」
上空から確認しカカが言う。少し遠回りし低空飛行でベランダに入る。ベランダを開け中に入るとそこには背の高いあの時の男が立っていた。
「お邪魔してまづっ!?」
トットは咄嗟に相手の動きを止める、見えない手で掴む様に相手を拘束した。
「ははっ!すげえなこれ、マジで超能力が使えるんだな。なぁ勝手に部屋に入った事は謝る、奥さんもお嬢さんも驚かせてしまって申し訳ない。」
トットの影に怯える様に隠れるミー、カカもミーを庇う様に立ち塞がるが、立ち位置は若干トットより前だ。
「カカさん下がって!!もう底抜けに気が強いんだからっ!ここは僕に任せて、ほら下がって下がって!」
渋々下がるカカ、鋭い眼光は男に注がれている。
「印象通りの良い家族だ、なぁ小沢さん拘束を解いてくれ、ちょっと2人で話しがしたいだけなんだ」
身体の状態を確認する。口以外は微動だにしないが、痛みを感じる事は無かった。
「話しなんてないですよ!それに話は今でも出来ます、2人でなんて…嫌ですよ!」
一瞬2人で向き合い話し合いする場面が浮かぶ、今までも重要な決断はカカに委ねていたトットは、判断を間違えた後のカカが若干怖かった。
「たくっ、危害は加えません約束します。ちょっと見てもらいたい写真があるだけです。その後の判断はそちらにお任せしますよ」
やれやれと発言する。トットは一瞬考えカカを見る、どこから持って来たのかハンガーを手に持っていた。カカは目が合うと少し考え、コクンッと頷く。
「分かりました、では右手だけ動く様にします。何か変な事したら、速攻で逃げますんで!」
男の右腕が動く様になる、ポケットからタバコを手に取り火を付けようとする。「禁煙よ!」とカカの怒声が飛び、渋々ポケットに直す。スマホを取り出し、メールから写真を選択する。ゆっくりと画面をこちらに向ける。
「ジジだー!」
ミーがジジの写真をみて言う。カカにジジの友達か聞いていたが返事は無い。二人とも顔が青ざめている。
「あんたジジに何をしたっ!!!」
震えながらトットが言う。
「何もしていませんよ、今はね」
「申し遅れました『木村』と言います。国の《裏》の組織に所属しています。」
木村とトットは表に止めていた黒のワゴン車に乗って移動していた。得体の知れない能力の持ち主と2人っきりの状況に、若干の恐怖心を抱き、脅す意味あいも兼ねて《裏》と表現する。
「ジジに、親父に何かあったらタダじゃおかないからなっ!」
ジジの写真を見せられ、直ぐに電話したが繋がらなかった。お決まりの音声ガイダンスが父親と繋がりが切れている事を告げ、死刑宣告を受けた様に気持ちが一気に沈んでいった。
「今は生きています」
その一言にカカもトットがついて行く事を了承した。
2人を乗せた車は市街地を離れ、整備されていない山道を上がって行く。そこには今にも崩れ落ちそうな倉庫があった。
「ここは昔、ダム工事の資材置き場として使われていました。ここで小沢さんには私の実験に付き合ってもらいます。」
工場の中に入り、キョロキョロと辺りを見回す、ジジの姿は見当たらなかった。
「お父さんはここにはいません。貴方が私の言う事を素直に聞き入れるなら、無事父親と連絡が取れる様になるでしょう」
父親に再度電話をかけていたトットに告げる。
「私に何をさせようって言うんですか?」
それから木村は幾つかの質問をする。トットは全て正直に話した。聞かれた内容は亀吉と話した内容とほぼ同じだった。尋問の様な話しが終わると実験と称し、倉庫の中にある様々なモノを浮かばせる様言われる。
「では最後にそこに山積みされている砂を一度に持ち上げられるだけ持ち上げ、あのダンプカーの荷台に載せて下さい」
トットは言われるままに、最大限の力を出し砂を持ち上げ、ダンプカーへと載せる。木村はスマホを取り出し何かを確認している。
「やはり8トンを超えていますね。あのダンプカーは『トラックスケール』の上に載っています。まあでっかい体重計だと思って下さい。そしてこれがそのデータです」
画面には『8388kg』と書かれていた。
「小沢さん、あなたはこの力を使って何をしますか?」
探る様な視線で問う。
「何をって、私だって分かりませんよ!気付けばドンドン力は強くなるし…最初はちょっとお金が手に入れば良いかなって気持ちで始めたんです。本当に出来るとは思っていませんでしたし!」
サイコキネシスに成功する前も、月に数万から数十万のお金が入って来ていた。
「まあ、強いて言うなら…その…『正義のヒーロー』的な?」
恥ずかしそうに告げるトット。
「ははっ!ヒーローですか?では小沢さん、日本国民が貴方の《死》を願った場合その命を絶てますか?」
大きな声で笑ったかと思うと、唐突に恐ろしい表情で質問される。
「なんですか!死ね!?そんな事ありえないでしょう?私はこの力を使って世の中の役に立てばと言ってるんですよ。喜ばれる事はあっても《死ね》なんて言う人がいるわけないじゃないか!」
木村を指差し強い口調で言う。そんな事ありえないと。
「確かに最初はそうかも知れません、だが人間は群れる生き物です。その中に異分子が入り込めば自ずと拒否反応を示す様になる。それは貴方の力が本物だと認知されれば必然でしょう」
強い口調のトットとは裏腹に、静かに語る木村。
「そんな馬鹿な!人と違うからって死ねなんて言わないでしょう?ありえない、絶対にありえませんよ!」
トットの周りのモノがフルフルと小刻みに震えている。それを横目で見やり話を続ける。
「危険のない違いなら死ねとまでは言わないでしょう。ですが貴方の力は使い様によっては簡単に人を殺す事ができる」
今では周りに大小様々なモノがトットを取り囲む様に浮かんでいた。本人は無自覚の様で気付いていない。
「殺すなんてそんな…人を傷付けた事すらないのに……」
ブツブツと独り言を言い始める。
木村は覚悟を決める。徐ろにスマホを手に取り、耳に当てる。
「俺だ、じいさんを殺せ」
通話相手にそう告げる。スマホをズボンにしまい、冷たく見つめる。
それを聞いたトットは頭が真っ白になる。
(殺せ?どう言う意味だ?)
ガタガタと揺れ始める建物。
(親父の事か?何で…どうして?……何故?何故!?……親父に何をしたっていうんだ!!)
「ふざけるなっ!!」
叫び声と共に建物のガラスが全て弾け飛ぶ、メキメキと音を立て屋根は舞い建物を支える鉄骨は、抵抗虚しく壁から剥がされ様々な方向に折れ曲がった。中にあった色々なモノはダンプカーを除き、グルグルと飛び回る。
(まぁ最後に見る景色としちゃ上出来だな)
徐々に崩れ落ちる建物の中、ズボンからタバコを取り出し火を付けようとする、が渦巻く暴風の中、火はつかない。
タバコを諦めズボンのポケットに手を入れ、堂々とした姿勢で小沢を見る。
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