狼達のデスゲーム(仮)

チーター飼いたい

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第1章 初めてのデスゲーム

第6話 投票

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◎現在判明しているルール
1:あなたたちの中に1匹、狼が紛れ込んでいる。狼に噛まれた場合、あなたは死亡する。
2:制限時間以内にこの建物から脱出できなかった場合、あなたは死亡する。
3:建物から出る方法は2つ。正しい鍵を見つけるか、狼を死亡させるか。その他の方法で出た場合、あなたは死亡する。


「ここ、最初の部屋じゃん!戻ってきたってこと!?」
 
 ギャル系女子が誰にともなく問う。
 信じがたい事だが、どうやら彼女の言う通りのようだった。
 スーツの青年が若い男に掴みかかろうとした寸前に、彼ら全員は何の脈絡もなくここに移動してきたらしい。
 それはまるで、瞬間移動したかのように。
 
(どういうことだ……何が起きた!?)
 
 自問してみるが、もちろん答えは出ない。
 スーツの青年は焦っていた。
 ついさっきまでは、全てが彼の手中に収まっていたはずだ。
 異常な殺され方をした死体が2つも見つかって、このままでは自分も殺されかねないと悟った時、青年は何をしてでも生き残ると決めた。
 例え自分以外の人間全員を殺してでも。
 手始めに、若い男と女子高生にチンピラの死体を見せつけて、その反応を観察してみた。
 この2人のどちらかが、作業着の男を殺した“狼”に違いないからだ。
 しかし、死体を見て驚く姿に不自然さは見受けられなかった。
 どちらか分からないならば、どちらも殺してしまえば良い。
 そう考えて、それを実行に移していた矢先だった。
 
(くそっ、ここは本当にあの最初の部屋なのか!?)
 
 目の前のモニターや円形に並ぶ椅子、全てが灰色に塗られた部屋を見る限り、最初に目覚めた部屋とみて間違いなさそうだった。
 その場にいた全員が一瞬でここまで戻ってくるなど、現実の出来事とは思えない。
 だが、実際に彼はこの椅子に座っていて、最初と同じくベルトに固定されて動けなくなっている。
 全ては振り出しに戻ってしまったかのようだ。
 
(あの男……あいつが何かやったのか!?)
 
 最後に若い男に掴みかかろうとした時、左手首の端末に触れようとしていたのが見えた。
 何のつもりか分からなかったが、まさかあの行動がこの状況をもたらしたとでもいうのだろうか。
 気になって若い男の姿を探すと、男は青年の真正面の椅子に座っていた。
 彼は時おり咳き込みながらも、何やら真剣にモニターを覗き込んでいる。
 その強い眼差しは、明確な意図を持って行動していることを示していた。
 
「おい、てめえ!何してやがる!これはてめえの仕業なのか!?」
 
 怒鳴りつけてみるが、若い男はちらりと視線をよこしただけで、こちらには構わずモニターを睨み続けていた。
 
(ちっ!どういうつもりだこいつ。)
 
 男の態度に苛立ちを覚えながら、自分も目の前のモニターに視線を落としてみる。
 表示されていたのは、おそらくは残り時間らしいカウントダウンと、参加者6人の写真だけだった。
 参加者のうち、既に死んでいた作業着の男とチンピラの写真は大きくバツ印がつけられている。
 また、長々と書かれていたルールの説明部分は一切表示されず、影も形も無くなっていた。
 
(ルール……そういえば、この端末について書かれていた部分があったな。)
 
 自分の左手首にある端末を眺めながら、そのルールについての記憶を掘り起こそうとする。
 確か、“狼”を“告発”するのに使うとかなんとか、そんな内容だった。
 だが、人間を瞬間移動させるなんて記述はどこにも無かったはずだ。
 
(くそっ、こんなことになるなら、もっとよく読んでおくんだった……!)
 
 後悔はいつも先に立たない。
 歯がゆい思いでもう1度若い男に目を向けると、男は何やらモニターを操作している様子だった。
 あの男はルールを踏まえた上で行動しているのだろうか。
 そう思案していると、ふいに男がモニターから視線を上げるのが見えた。
 次の瞬間、若い男は大声を上げた。
 
「2人とも!今から言うことを、ごほっ、よく、聞いてくれ!ごほっ、げほっ。」
 
 咳き込みながら男は懸命に喋っていた。
 腹を蹴り上げられたダメージはまだ回復していないようだ。
 
「ごほ、ごほんっ、あ、あのスーツのヤツは危険だ!今からあいつを排除するから、協力してくれ!」
 
 排除する。
 その言葉が具体的に何を意図しているのか、正確には分からない。
 それでも、弱った男が放つ言葉に、スーツの青年は言い知れぬ焦燥感を覚えていた。
 あの男のやろうとしていることをこのまま見逃すのはまずい。
 青年の本能が、それを警告していた。
 
「おい!寝ぼけたこと言ってんじゃねーぞ!危険なのはあのオッサンを殺したお前らの方じゃねえか!そのふざけた口を今すぐ閉じろクソが!」
 
 若い男を止めるべく、怒鳴り声で威嚇する。
 しかし若い男はこちらに目を向けることもなく、ギャル系女子と女子高生に向かって呼びかけ続けた。
 
「いいか!モニターの、アイツの写真の部分に触れてくれ!それだけでいい!それでアイツは、ごほっ、た、多分ここからいなくなる!」
 
 若い男が咳き込みながら一気にまくし立てる。
 
(いなくなる、だと?本当にそれで済むってのか?)
 
 その言葉の響きに、嫌な空気を感じずにはいられなかった。
 このゲームは、簡単に人の命が奪われる残酷極まりないものだということを、2つの死体が示している。
 若い男がやろうとしていることも、いなくなる、なんて軽い言葉で終わるものとは到底思えなかった。
 
「てめえ、いい加減にしろよ!おい、お前ら!こいつの言うことに耳を貸すな!こいつがあの2人を殺したに決まって……!」
「ぎゃーぎゃーうるせえな!さっきからやかましいんだよオメーよぉ!」
 
 大音声で吠えるスーツの青年を制したのは、若い男こと雅史、ではなく、ここまで沈黙を守っていたギャル系女子だった。
 その口調は、もはや荒くれ者のそれだった。
 
「オメーがうるせーから全然考えがまとまらねーんだよ!いいからちっと黙ってろ!」
「な、んだとコラ……。」
 
 あまりの剣幕に、スーツの青年は若干気圧されてしまっていた。
 そんな青年の様子を意にも介さず、ギャル系女子は若い男に向かって問いかけた。
 
「おいクソガキ。アンタが何をしたいのかはいまいち分かんないけど、とにかくあのスーツのヤツをどうにかしたいってのは分かった。でもさぁ、あたしとしては、あんたの事も信用出来ないんだわ。」
 
 既に成人していそうな男をクソガキ呼ばわりするギャル系女子。
 勢いづいていた若い男も、さすがに言葉に詰まっているようだった。
 
「正直色々起こりすぎてワケ解んねーけど、取り敢えず人が死んでんのが見つかった時、このスーツの男はあたしと一緒にいた。どっちの死体の時もね。ってことは、殺したのはアンタかそこの女子高生しかいないわけでしょ。あたしにとっては、あんた達の方がよっぽどヤバいと思うんだけど。」
 
 一気にまくし立てるギャル系女子。
 見た目からして頭が軽そうに見える彼女が、この切羽詰まった状況で冷静に事態を分析している事に、スーツの青年は驚きを隠せなかった。
 だが、この流れは青年にとっていい風向きだった。
 この女を味方につけられれば、四面楚歌の状況を回避できる。
 
「おう、そういう事だよ。よく分かってるじゃねえか!」
「うるせえ!アンタは黙ってろ言ったろ!あたしを蹴飛ばしたこと、忘れてねえからな!」
 
 加勢するつもりで青年が口を挟むと、ギャル系女子にピシャリとシャットアウトされてしまった。
 
(ちっ、ムカつく女だ。まあいい、ここは黙って様子を見てやる。)
 
 思わず怒鳴り返しかける自分を抑えて、青年は状況を静観することにした。
 このまま2対2に持ち込めれば、若い男の狙いを阻止できるかも知れない。
 さっきの口ぶりから察するに、若い男がやろうとしているのは、この場から追放する人間を選ぶための多数決だ。
 目の前のモニターに表示されている写真はおそらく、そのための投票画面なのだ。
 実際、若い男は他の女2人に協力するよう求めていた。
 あの男1人ではそれは実行不可能で、多数決で票を獲得しなければ青年を排除することは出来ないに違いない。
 
(確かに、ルールの後半にそんな内容が書かれていた覚えがある。あの土壇場で、よくもそんな事を……!)
 
 青年は正直、“狼”がどうのと言ったルールにまで付き合う気はあまり無かったので、建物から出る方法以外の部分はろくに気にしていなかった。
 対してあの若い男は、ルールをよく読み込んだ上で、青年を排除するために利用しようとしたに違いない。
 その思惑通りに進んでいたらと考えると、青年は背筋の凍る思いがした。
 だが、それも何とか切り抜けられそうだ。
 協力を求めたギャルの馬鹿女からは突っぱねられ、もう1人の女子高生はといえば、さっき頭を打ち付けてやったせいか未だ意識が朦朧としているらしい有様だった。
 
「ねぇ、どうなのよ。なんか反論ある?」
 
 ギャル系女子が若い男を問い詰める。
 男は少しの間考える素振りを見せていたが、すぐに口を開いて反論を開始した。
 
「死体を発見した時のことで言うと、俺たちも条件はあんた達と変わらないはずだ。あのおじさんが死んだ時、俺と女子高生のあの子は部屋の中に2人でいたから、どちらも殺すチャンスなんてなかった。チンピラの男の事だって、あんた達に連れていかれるまでは死んでいたことさえ知らなかったんだ。」
「そんなの、アンタ達2人が口裏合わせてれば分かんないじゃん。」
「だから、それはそっちだって同じ事が言えるだろう!それに、ルールには“狼”は1人だって書いてあった。自分を殺そうとする“狼”と、口裏合わせて協力するなんてあり得ない!」
「…………。」
 
 若い男の反撃に、ギャル系女子は眉根を寄せて口をつぐんだ。
 迷いが生じているようだ。
 やはり頭の出来は良くないらしい。
 怪しくなり始めた雲行きに、青年は口を挟むべく動き出そうとした。
 しかし、若い男が喋り始める方が一足早かった。
 
「だいたい、あのスーツの男が本当に俺たちより信用出来るんですか?さっきのあいつのやり口を見たでしょう?あんただって蹴っ飛ばされてたじゃないか!この後俺たちがあいつに殺されたとして、それでもこのゲームが終わらなかったら、次に殺されるのはあんたなんじゃないのか!?」
「おい!好き勝手言ってんなよてめえ!お前もこんな口車に乗せられるんじゃねーぞ!」
 
 たまらず青年が横槍を入れる。
 だが肝心のギャル系女子からは、何の反応もなかった。
 彼女はといえば、迷いの表情は苦悶の表情へと変わり、口をへの字に歪ませながら悩んでいる様子だった。
 
「馬鹿やろう!なんであっさり騙されてんだよ!よく考えろ!殺したのはあいつらしかいねーんだよ!」
「もう時間がないんだ!早く画面に触れてくれ!」
 
 青年と若い男が同時にギャル系女子を急き立てる。
 残り時間のカウントダウンはあと30秒を切っていた。
 これはゲーム自体の残り時間ではなく、この投票の期限を示しているに違いない。
 
「やめろ!その手を下ろせ!」
「やれ!早く!」
「ああもう全然わかんねえええええ!」
 
 ギャル系女子が、途中まで挙げた腕を震わせながら絶叫した。
 部屋中に3人の声が響き渡る。
 やがてモニター上のカウントダウンは0になり、画面が一度赤く光を放った。
 その眩しさに、青年は目がくらんで思わず手で光を遮った。
 
(ちっ、どうなった……!?)
 
 誰も1言も発さず、打って変わって静寂があたりを包んでいた。
 チカチカする視界が元に戻るのを待って周囲を見回すと、青年を除く全員が、彼に視線を向けていた。
 
「あ?なんだてめーら。」
 
 吹き出る汗が、頬を伝っていく。
 不快な何かが胸中に湧き上がるのを感じながら、青年はモニターに目を向けた。
 画面に大きな変化は見受けられなかったが、一箇所だけが、先程と異なっているのに気がついた。
 青年の写真の下に、小さく丸が3つ並んでいた。
 それを見た途端、胸の鼓動が跳ね上がるのが分かった。
 なんだよ。なんなんだよこれは。
 頭の中で自問する。
 やがて画面全体が白く薄れていき、全てが消えていった。
 一呼吸おいたのち、次に画面に現れたのは、たった1つの単語だった。
 
『Execution.』
 
「なんだこりゃ、意味わかんねぇよ。ふざけやがって。てめーら、全員ぶち殺……。」
 
 プシュッ
 
 脅迫めいた言葉を口にしかけた青年の耳に、何かが弾けるような、そんな音が聞こえた気がした。
 そして次の瞬間、青年の頭は胴から離れて、地面へと落下していった。
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