妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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混乱のドラゴンとゴブリンの進撃

166 ペスカの状況確認

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 ドラゴンの谷へ着くと、ペスカと冬也はスールの背から降りる。そして背から降りた二人は、直ぐに体を横たえた。
 航空機でも、気流によって大きな揺れを起こすのだ。それよりも早く飛び、乗り心地の悪いドラゴンの背は、疲れた体に意外なダメージを与えた。

「お兄ちゃん、気持ち悪い。吐きそう」
「俺もだよペスカ。マーレの戦艦を思い出した」

 スールから声がかけられた気がするが、二人の耳には届いていない。
 ペスカと冬也は、共に力を使い過ぎた。

 ペスカはトロールの回復から、スールの蘇生に至るまで、マナや神気だけではなく、碌に休みや食事もとらずに、体力を使い過ぎている。
 碌な休みを取っていないのは、冬也とて同様である。女神ミュールを降臨させてからここに至るまで、ほぼ不眠不休で動き続けていた。
 
 どっと疲れが出た二人は、横になったまま眠りにつく。
 どの位の時間が経ったか、二人の目を覚まさせたのは、肉の焼ける香ばしい匂いであった。
 辺りに充満する様な香ばしい匂いは、起き掛けの空っぽになった二人の胃袋を刺激する。まるで目覚まし時計の様に、何か食わせろと腹の虫が訴える。
 
「主とペスカ様、目が覚めたようですな。食事は如何ですか?」

 香ばしい香りが、二人の鼻腔をくすぐる。

「お兄ちゃん。よだれ、よだれ」
「お、おぅ。だってよ、なぁ」

 冬也は目の前に用意された、肉を見る。獲って来た獲物を、皮をはいで丸焼きにしただけ。そんな原始的な物に食指を動かされるとは、空腹とは何とも恐ろしい。
 だが冬也は、置かれた食事の量を見て、違和感を感じた。

「なぁ、スール。これは俺達の分だけか? お前は食わねぇのか?」
「主よ。儂ら原始のドラゴンは、睡眠や食事を必要としませぬ」
「じゃあ、何食ってんだよ」
「大気中に含まれるマナですかな」
「そりゃあ、植物みてぇなもんか?」
「ハハハ。然程の変わりはありますまい」
「お兄ちゃん。植物とドラゴンを一緒くたにしちゃ駄目だよ。ごめんね、スール」
「構いませんペスカ様。儂ら原初のドラゴンは、世界のマナを食らいます。血族を増やせないのは、その所以も有っての事です」
「じゃあ、この肉はどうしたんだ? お前が獲って来たのか?」
「これは、眷属達の食事です。眷属達は、儂らの力で他種族からドラゴンに成った者達。それ故に物理的な食事を必要とします」

 スールの言葉を冬也は大して気に留める事も無く、聞き流して肉を貪る。ペスカはリスの様に、口いっぱいに肉を頬張って、咀嚼をしている。
 
「もももでふぁ、フール」
「おい、ペスカ。ちゃんと呑み込んでから喋れ! 行儀が悪いぞ」
「ふぁって。んぐ。お肉だけなんだもん。呑み込めないよ」
「せっかく食事を分けてくれたんだぞ。文句言わずに食え!」
「野生児のお兄ちゃんとは、違うんだよ。私はか弱いの」
「どの口が言ってやがる。英雄って呼ばれてる癖に」

 スールは、二人のやり取りを目を細めて見つめていた。
 とても暖かい雰囲気を、二人からは感じる。それは、スールが今まで感じた事の無い、ほっとする感覚であった。

「スール、どうかしたか?」
「いえ、何も」
「ところでさぁ、スール。あんたは、神の存在がわかるんだよね」
「仰る通りです、ペスカ様」
「今、この大陸の南にどの位の神様が残ってるかわかる?」

 ペスカの言葉を受けて、スールは瞑想する様に少し目を瞑る。神の存在を感じとろうと、集中を始めた。
 数分が過ぎ、スールはゆっくりと目を開ける。
 
「一柱の存在しか感じませんな」
「それって、お兄ちゃんが言ってた、山さんかな?」
「山さんだろうな。でも何でだ? メルドマリューネに駆け付けてくれたドラグスメリアの神様は、もっといっぱいいたよな? 神の協議会でもそうだ。なんで、山さんだけしかいないんだ? 全員、やられちまったって事は無いだろ?」
「主よ。恐らく息を潜めているのでしょうな。土地に縛られる土着の神は特に」
「お兄ちゃん。それだけ、酷い状況って事だよ。それに」

 ペスカは、言いかけた言葉を止め、口を噤む。
 現状の情報では、想定しか出来ない。その想定にすら、欠陥がある様に感じる。

 ニューラを襲った新たな神を自称する存在と、トロールを操っていた存在は、同一なのか?
 東の地でニューラを襲った存在は、話し方が邪神ロメリアと酷似していた。トロールを操っていた存在も、邪神ロメリアに酷似していた。

 それはまるで、邪神ロメリアが復活したと、錯覚する感覚を覚えた。邪神ロメリアが残した悪意から生まれたとは言え、姿まで似るのだろうか? 
 そして新たな邪神ロメリアは、複数体存在しているのだろうか?

 新たな邪神は東の地で生まれ、そこに本体が居るとペスカは想定していた。大陸の東を埋め尽くす様な闇を見て、それは確信に変わった。

 ニューラを襲った存在が本体、トロールを操った存在が分身体だと仮定しても、不可解な点が残る。
 分身体を作る際は、文字通り自分の神気を分ける必要が有る。それには大きな神気が必要になり、分けた後の本体は著しく神気が低下する。
 故に神々は、その様な非効率的な神気の使い方をしない。そもそも生まれたてで、神気が少ないはずの神に、その様な事が可能なのだろうか?

 邪神ロメリアは、かつての魔法研究所の元職員であるドルクを操って、エルラフィア王国を襲った事がある。
 二十年前の動乱で、ドルクは死んだ。その魂が、生と死の神セリュシオネの目を逃れて、地上に存在し得るはずが無い。
 だとすれば、ドルクは生前に邪神ロメリアの眷属となり、死をカモフラージュして生き延びていた。そう考えた方が、妥当かも知れない。

 そうすると、もう一つ想定できるのは、神々の眷属化である。本体である新たな邪神が、東の地に居た数多の神々を取り込み眷属とした。それなら、短期間で闇が広がった事と、存在が複数体になっている説明がつく。しかし、これも非現実的に感じる。

 神を眷属とする事は、圧倒的な力の差が無くしては、成り立たない。この地に居る神々の多くは、女神ミュールの眷属が多いだろう。
 大地母神の眷属を奪う様な行為が、可能とは思えない。それ以前に生まれたての神が、他の神を眷属化する程の力が有ると思えない。

 共通しているのは、力の大きさ。如何にして短期間で、大陸の東を呑み込む程の、強大な力を身につけたのか。何か足りないパーツがある。ペスカは、考えれば考える程、そう感じてならなかった。
  
「ねぇ、私達はどのくらい寝てた?」
「丸一日は寝ていたでしょうな」
「あんたの眷属は、どれくらいで戻るかな?」 
「早ければ明日くらいには」
「じゃあさ、これから山さんの所に連れてってよ。私も会っておきたいし」
「これから、直ぐに出発されますかな?」
「うん。善は急げだよ」

 骨付き肉を持って、ペスカは立ち上がる。そして冬也は、ペスカの服の裾を掴んで座らせた。

「出発は、食ってからだ。出かけたければ、早く食っちまえ」

 勇んで骨付き肉を咀嚼し始めるペスカ。それは少しでも、情報を搔き集めて現状を把握したい、心情の現れであった。
 対して冬也は、既に食事を終わらせ、ストレッチを始めていた。

 ペスカ達が山の神の下へ向かう決断をする一方、西と北に向かったスールの眷属達は、吹き荒れる光り輝くブレスを見る。
 混迷が深まろうとするドラグスメリア大陸。明るい未来は未だ見えない。
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