妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

文字の大きさ
225 / 415
大陸東部の悪夢

224 大陸東部の悪夢 その3

しおりを挟む
 無残に横たわるペスカと冬也の体。唖然とする一同。この異常事態にいち早く動いたのは、風の女神ゼフィロスであった。

「クロノス! 二人をセリュシオネの下に運べ!」

 辺りに怒声が響き渡り、皆が覚醒していく。クロノスはハッとして、倒れたペスカと冬也の体を抱えて転移する。
 
「スール! 皆を連れて、逃げな!」

 スールは未だ混乱中であった。それはブルやエレナ、ミューモとて同様であった。
 しかし怒声にも近い、風の女神の声に押される様に動きだす。
 アルキエルは、スール達には一瞥すらせずに、三柱の神を見据えている。

「ちっとばかり足りねぇが、仕方ねぇか」

 酷くつまらなそうな感情を、あからさまに表情へ浮かべるアルキエル。
 唖然としていた山の神や水の女神にも、事態は理解が出来た。何が起きたなど、はっきりしている。邪神やペスカ達の失踪は、全て目の前に居る神の仕業である。

「お主! 何をしたのかわかっておるのか!」

 山の神は、激しく声を荒げた。
 水の女神は、童顔に似合わぬ程に吊り上がった目で、アルキエルを睨め付けた。
 
「ベオログぅ~、わかってるだぁ? 当たり前だろが! 戦争だよ!」

 咆哮するかの様に、アルキエルは言い放つ。

「何を言ってんだい! そんな事、させる訳ないだろ!」
「ゼフィロス! てめぇに止められんのかよ! 頼みの綱は、もう居ねえんだぜ」

 風の女神は、アルキエルを睨め付ける。
 確かにペスカと冬也が揃って、止める事が出来ない相手に対し、何が出来ると言うのだ。
 しかし、自分達はあの二人に未来を託した、夢を託した。ならば、自分達がなすべき事は一つしかあるまい。

 三柱の神は、神気を高める。そして互いに視線を交わした。

「随分と、物わかりが良いじゃねぇか。全員でかかって来いよ。そうじゃねぇと一瞬で終わっちまう」

 アルキエルの口角が吊り上がる。そして手に持っていた折れた大剣を、投げ捨てた。

「武器を捨てても、勝てると思っとるのか? 舐められたもんじゃのぅ」
「ベオログよぅ。こいつは、冬也と戦う為に用意した特別なもんだ。お前ら相手に使うのは勿体ねぇんだよ」
「その驕りが、お主の敗北となる事を知るが良い!」

 山の神が大きく柏手を打つと、大地がせり上がりアルキエルの足を固定する様に掴む。アルキエルは足を動かそうとするが、その大きな力を持ってしても、ピクリとも動かす事は出来ない。

 それを合図に、多くの土地神がアルキエルを中心にした数キロに、強固な結界を張る。
 すかさず風の女神が、右の手に神気を集中させて強く握り絞める。するとアルキエルを中心に、空気が圧縮されていく。
 空気を圧縮しきった所で、風の女神は拳を一気に開く。圧縮された空気が一気に膨張し、周囲の大気を巻き込みながら、アルキエルを凄まじい威力の爆発が襲う。

 爆発の衝撃は、周囲の木々を軽々と吹き飛ばす。結界内の緑が一瞬で失われる。結界すらもビリビリと振動する。
 それは、アルキエルを囲む三柱の神が力を籠めて立たねば、吹き飛ばされかねない程の破壊力であった。

 爆風が収まらぬ中で、水の女神が右手を振り上げる。すると上空には、数千にも及ぶ氷の槍が現れる。水の女神が右手を振り下ろすと、豪雨の様に氷の槍がアルキエルに向かって降り注ぐ。
 数千の槍が尽く、アルキエルに突き刺さっては消えていく。
 
 やがて爆風が収まり、氷の槍も消え去る。あれだけの攻撃を、防御する姿勢を見せずに、アルキエルは受け続けた。
 流石に無事なはずが無い。仮に倒しきれなかったとしても、致命傷は与えたはず。しかし、アルキエルは、何事も無かった様な表情で立っていた。

「お終いか? 俺はただ立っているだけだぜ。ベオログのせいで動けねぇしよぉ」

 ただ立っている、そんな生易しいものではない。
 アルキエルは自身の体の周りに神気を張り巡らせ、防御結界を作っていた。圧縮した大気の爆発や氷の槍は、尽く防御結界に阻まれて、アルキエルの体に届く事が無かった。

「あんた達、一気に行くよ!」

 風の女神の掛け声で、山の神と水の女神が右手を突き出す。風の女神は両腕を大きく広げてから、強く前へ突き出した。
 
 風の女神は、暴風を巻き起こした。その暴風はアルキエルに向かって、吹き荒れる。

 土の神は、巨岩をいくつも作りだして暴風に乗せる。まるで大きな大砲の様な巨岩が、アルキエルを襲う。
 続いて、水の女神が大量の水を生み出す。大津波の様な水が、暴風と相まって巨大なうねりを作り出す。それは最早、都市を全て破壊し尽くす超大型のハリケーン。

 三柱の神が力を合わせた技が、アルキエルに向かう。ただしこれは、単なる大型ハリケーンではない。
 起こる物理現象は、全て神気が具現化したもの。三柱が渾身の力を振り絞り、籠めた神気がアルキエルとぶつかる。

 巨岩が大砲の様にガンガンとぶつかり、防御結界をへこませていく。強力な渦が、アルキエルの防御結界を、ゴリゴリと削っていく。

 どれだけ攻撃が続いただろうか。三柱は神気を籠め続ける。少しずつ、アルキエルの防御結界にひびが入っていく。
 ひびが入っただけで、力を弱める訳にはいかない。目的は、防御結界の破壊ではなく、アルキエルを倒す事なのだから。

 三柱は、更に神気を高める。ハリケーンは激しさを増し、巨岩の数は増えていく。やがてアルキエルの防御結界はひびが広がり、砕けて消えた。
 それと同時にハリケーンは力を失い、巨岩も姿を消した。

「やるじゃねぇか! あんな滓ごときに、神気を使い減らした癖に、上々の結果だぜ!」

 アルキエルは、自身の防御結界が破壊されたにも関わらず、嬉しそうに手を叩いていた。
 
「この調子なら、いやいい。今はてめぇらだ」 
 
 これまでの戦いで、神気を使い浄化をしてきた。どの神も疲労は隠せない。元より三柱の神は、万全の状態ではない。今の攻撃で完全に神気を使い果たし、立っている事さえやっとの状態であった。

 ふぅと軽く息を吐くと、アルキエルは土に埋もれていた足を引き抜く。
 そして一瞬で風の女神との距離を詰めると、軽く拳を握って殴りつける。風の女神の体は、その威力に耐えきれずに消し飛ぶ。
 そしてポトリと、大地に神格だけが、大地に転がった。

「ゼフィロス!」

 山の神が叫ぶと同時に、アルキエルは山の神との距離を詰める。そして再び繰り出される、アルキエルの拳。山の神は消し飛び、神格だけが残された。

「許さない! 許さないよアルキエル!」

 水の女神は、瞳にいっぱいの涙を溜めて、アルキエルを睨め付けた。しかし、アルキエルは気にも留めずに、跳躍しながら水の女神に蹴りを放つ。
 水の女神の体もまた、威力に耐えきれずに消し飛び、神格だけが残された。

「後は雑魚だけか。面白くねぇし面倒だが、仕方ねぇよな」

 アルキエルは神速で、周りを囲み結界を張る土地神達に近づく。そして尽く消し飛ばしていった。
 
 アルキエルは、何も残っていない事を確認する様に、周囲を見渡すと姿を消す。
 グロア大火山の麓には、大量の神格が残された。
 
 ドラグスメリア大陸東部の悪夢。
 これは、まだ始まりに過ぎない。災厄は訪れる。地上の生物全てが望まない形で。
 
 既に賽は投げられた。誰も止められない。
 英雄はもう居ない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...