妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

文字の大きさ
268 / 415
変わりゆく日常

266 失踪事件を追え その2

しおりを挟む
「厄介な事件?」

 エルラフィア王の言葉に、ペスカはコテンと首を傾げた。
 それもそのはず、トールを始めエルラフィア軍には優秀な人材が居るはずだ。
 更には、この国で神の姿を見つけるのは、そう難しい事ではない。
 何しろ、城の直ぐ近くに、女神フィアーナの滞在拠点があるのだから。

 なのに、何故わざわざ自分達を呼んだのだろう。
 ペスカの疑問が、表情に現れていたのか、それとも冬也がわかりやすく顔を顰めていたのか。
 恐らく両方であるのだが、エルラフィア王は静かに口を開く。

「フィアーナ様に、お願いをしたのだ。しかし、フィアーナ様はお二人をご指名なさった」

 エルラフィア王の言葉に、冬也は深いため息をついて頭を掻く。

「あのロリ! また人に仕事を押し付けたぁ~! 自分は暇で食べ歩きをしてる癖に!」

 城内にペスカの声が響き渡る。
 その瞬間、城中の人々が一斉に足を止めたのは、言うまでもない。
 そして冬也は、やれやれとばかりに、ペスカの頭を軽く叩く。

「でけぇ声出すんじゃねぇ、ペスカ」
「だってお兄ちゃん!」
「嫌なら、断ればいいじゃねぇか。何だかんだで、いつも引き受けるお前も悪い!」
「何その四面楚歌! お兄ちゃんは、私の見方じゃないの?」
「馬鹿! 取り合えず、話を聞いてから判断しろって言ってんだ!」
「うぉ~! お兄ちゃんにまともな事を言われると、無性に腹が立つよ!」
「うるせぇ!」

 そして、ペスカの頭には、冬也の鉄拳が降り注ぐ。
 涙目になったペスカは、頭を押さえながら、エルラフィア王に視線を向ける。

「仕方ないから聞いてあげる」

 ペスカはそう言うと、鼻をぐずらせた。
 エルラフィア王は、少し困った様な表情で冬也に視線を送る。
 しかし、冬也からは早く話せと言わんばかりに、冷たい視線が返って来る。
 そしてエルラフィア王は、神妙な面持ちになり話し始めた。

「何から説明すれば良いか・・・」
「最初から、全部だよ」
「承知した、ペスカ様。事の起こりは半年前の事だ・・・」

 モンスター騒動がひと段落した後、一連の騒動での死亡者を確認する為に、調査が行われた。
 飢餓で死亡した数は多く、モンスターの被害に合い死亡した数も少なくはなかった。
 当時は身元不明の死体も多く発見された為、死亡者と生存者の数を照らし合わせるのは、非常に難航した。
 半年かけて調査が完了した時に、出生届けが無い者を除き、行方不明の子供が数十名ほど居る事が判明する。
 更に調査を重ねると、目撃者が現れる。
 ただ、誰もが口を揃えて、忽然と姿を消したと証言した。
 訳のわからない証言と、かなりの月日が経過している事から、行方不明の子供達の捜索が行われる事は無かった。

「その子供達の親御さんは?」
「皆、死亡している」
「で、今更なんでそんな話が出てくるの?」
「数日前の事だ。南部の旧国境近くで、行方不明の子供らしい姿を見たと報告が有ったのだ」
「どういう事?」
「現場の責任者は、目撃情報を唯の幻覚だと思ったらしい。念の為に目撃が有った付近を捜索すると、結界らしき物が有る様でな。それも、広範囲に」

 エルラフィア王が言い終えると、ペスカは考え込む様に目を閉じる。
 ただ冬也だけは、怪訝そうな表情を浮かべていた。

「なぁ。早く子供達を保護しなくちゃ不味くねぇか?」
「あのね、お兄ちゃん。例え半年の間でも、子供達だけで生活出来るはず無いじゃない」
「はぁ? そんなの別に難しい事じゃねぇだろ?」

 首を傾げる冬也。
 次は、ペスカが深いため息をつく番であった。
 
「はぁ・・・。お兄ちゃんは、もぉ」
「何でだよ! 普通の事だろ?」
「お兄ちゃんと、普通の六歳児とは違うんだよ。お兄ちゃんみたいに、ジャングルの最深部からサバイバルナイフ一本で、無事に生還しないんだよ!」
「ペスカ、そういう問題じゃねぇだろ?」
「わかってないね。子供達が無事かどうかが問題じゃないの。もし子供達が無事なら、その理由が問題なんだよ」
「それは、結界がどうのってやつか?」
「そうだね。何か裏が有りそうだし、調べてみよっか」

 ペスカが冬也に向かい頷くのを確認すると、エルラフィア王はすぐさま部下達に、現地案内等の指示を出す。
 それと共にペスカに目撃情報が有った現場を示した。
 やや騒がしくなり始めた謁見室内で、ペスカは最後の質問をエルラフィア王にした。
 
「この話は、セリュシュオネ様にはした?」
「勿論だ。フィアーナ様からして頂いた。セリュシュオネ様も、これはペスカ様の案件だと仰られて」
「ペスカ。セリュシオネがどうかしたのか?」
「いや、ただの確認だよ。それよりお兄ちゃん、出発しよっか」

 そう告げると、エルラフィア王に背を向け、謁見室を出るペスカ。
 冬也はその後に続いた。
 
 極力明るく努めたつもりであった。
 しかし、ペスカの心は重く沈んでいた。
 何故なら、エルラフィア王から聞いた犯行手口は、かつて見た事があるから。
 女神フィアーナや女神セリュシオネが自分を使命した理由からも、ペスカの懸念を確たるものにしていた。
 
「ペスカ。気が乗らねぇなら、止めて良い。俺が代わりに片づけてやる」
 
 ペスカの僅かな機微を、見逃す冬也ではない。
 そんな冬也の問いかけに、ペスカは首を横に振った。

「ううん、行くよ。これは、私が片づけなきゃいけない因縁なんだよ。だからフィアーナ様は、私を選んだんだ」  
 
 ペスカは精一杯の笑顔で、冬也に応える。
 冬也は優しく微笑み、ペスカの頭を撫でた。
 
 城を出ると、ペスカと冬也は目撃現場付近へ転移する。
 エルラフィア王国の南部、かつて小国との国境付近。
 もう存在しない小国へと行き交う者は無く、手付かずの鬱蒼とした森が続いていた。
 教えられた場所まで辿り着くと、確かに結界らしきものが存在した。
 
「おい、ペスカ。これって」
「わかってる」

 全てを察したのか、ペスカは酷く悲しそうな表情を浮かべた。
 
「本当に、良いのか?」
「大丈夫、行くよ」
「そっか」 
 
 そっと手をかざし、結界を破壊するペスカ。
 二人が森の中に足を踏み入れようとした頃、遠くから蹄の音が聞こえてくる。
 目をやると、警邏隊が近づいて来るのが見える。
 エルラフィア王の手配であろう。
 ペスカは、警邏隊の到着を待ち、自分達の後に続くように指示をした。

 森に足を踏み入れるペスカと冬也。
 そこには、明らかな違和感が有った。
 奥に進むと、道の様な物が有る。
 誰かが森の中に居る事は、間違いないだろう。
 一度世界は壊れかけた。
 再びこの周辺に、木々が生まれて森が作られたとすれば、意図的に誰かが道を作った事になる。
 
 更に奥に進むと、やや開けた場所に何かを栽培している畑が見つかる。
 警邏隊からは、口々に驚きの声が漏れていた。
 そして、その先には拙く作られた、掘っ立て小屋がある。
 森の奥には、小さな集落が出来ていた。

 ペスカは一つ一つ確認する様に、奥へと進んでいく。
 冬也は、全てを見届けようと後に続いた。

 集落の奥には、やや大きめの小屋が見える。
 中からは、高めの声が聞こえて来た。
 その様子に、警邏隊が騒然とする。
 ペスカは、人差し指を口に当て、静かにする様に警邏隊に促す。
 
 子供の声で間違いないだろう。
 それも、一人や二人ではない。
 はつらつとした声は、何かの問に答えている様に聞こえる。
 優しく響く声と、楽しそうな声が森の中に響く。
 それは、まるで小学校の授業を彷彿とさせた。
 
 冬也がペスカを見やると、涙を瞳いっぱいに溜め堪えていた。
 結界を作った者の気配は、冬也も心当たりがある。
 もしかすると、ペスカは最初からこの状況をわかっていたのかもしれない。
 冬也は掛ける言葉が見つからず、ただペスカの肩に手をやった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...