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神の戦争と巻き込まれる世界
70 混沌の神グレイラス
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神グレイラスは、周囲に禍々しい神気をまき散らす。女神ラアルフィーネは、倒れ伏す亜人達に向けて大きな結界を張る。そしてペスカは大声を張り上げた。
「空ちゃんは女神様と一緒に結界を強化! 翔一君は亜人達の治療を引き継いで! 二人共、ここが正念場だよ!」
「任せて!」
「わかった!」
「ちょっと、あなた達も来なさい!」
女神ラアルフィーネは、ペスカと冬也にも結界内に入る様に命じる。しかし、空は女神ラアルフィーネの手を取り、首を横に振った。
本来の作戦であれば、キャンピングカーに入り、ペスカ達の援護をするはずだった。しかし、濃密な瘴気にも近い神気が周囲に溢れている。土地神、女神ラアルフィーネの加護を受けた空と翔一でも、この瘴気を直に触れれば、ただでは済むまい。
何も出来ない。生き延びる事しか出来ない。ならば、足を引っ張らない様に立ち回る。そして、二人は必ず邪神を打ち破る。それは、単に信じるよりも、確信に近かった。
「女神様、ペスカちゃんと冬也さんを信じて下さい」
「そうです。冬也達は必ずやります。私達は、この人達を守りましょう」
「あなた達・・・。あなたは結界を強化しつづけなさい。私は、もう一つ結界を張る」
女神ラアルフィーネは、空と翔一を見やり溜息をつくと、国境門周辺を大きく取り囲む様な結界を張る。
「この一帯の空間を遮断しました。グレイラス。これで、もうあなたは逃げられない」
「ラアルフィーネ、余計な事を。まあ良い。小虫共を潰した後、お前も殺せば済む事だ」
「女神の結界を甘く見ない事ね。冬也君、私は結界で手一杯になる。任せたわよ」
神グレイラスの禍々しい神気は、女神ラアルフィーネが閉じた空間いっぱいに広がる。台地は腐食し、空気は淀む。息を吸えばたちまち死に至る。瘴気に満ちた空間は、さながら地獄の様相を様相を呈していた。
しかし、冬也は地獄の中でも平然と立つ。女神ラアルフィーネを見やると、静かに大きく頷いて神剣を権限させる。そして、ゆっくりと神グレイラスに歩み寄る。
「生意気な目だ。いつかのクソガキと似た目。気に食わないな」
「誰の事言ってんだか知らねぇけど、油断してていいのかよ」
神グレイラスが冬也に目を向けている隙に、ペスカが呪文を詠唱する。
「天より来たり、邪を滅せよ。その魂を永劫に消し去れ! 破邪顕正」
呪文の詠唱と共に、ペスカの柏手が鳴り響く。見る間に周囲から清浄な光が広がり、禍々しい神気を抑え込んでいく。自分の神気が抑え込まれて行く状況に、神グレイラスは眉をひそめる。
神グレイラスは、油断するべきでは無かった。二人は、人を簡単に殺す瘴気の中でも、平然としている。二人は邪神との戦い方を知っている。既に邪神ロメリアを二回も、消滅の瀬戸際まで追い込んだのだから。
冬也はゆっくりと歩きながら、虹色に輝く剣を現出させる。冬也の神気で作られた、邪悪を切り裂く剣。軽く振るだけで、神グレイラスから放たれる瘴気を消滅させていく。
対する神グレイラスは、身に纏う禍々しい光を剣に変え構える。そして大きく剣を振り、光の斬撃を放った。かつてシグルドと対峙した時に、放った技である。同じ技が、神剣を持った冬也に通じるはずが無い。冬也は回避するまでもなく、光の斬撃を切り裂いた。
「そんなもんかよ。神が聞いて呆れるぜ」
「図に乗るな、混血ぅ! 貴様如きが、神を語るなぁ!」
「そりゃ、てめぇだろうが! 神ってのは、プライドかなんかか? 違うだろ! てめぇは、糞野郎の足元にも及ばねぇ、糞雑魚だ!」
神グレイラスの目には、狂気が浮かぶ。そして何度も、何度も、光の斬撃を放ち続ける。冬也は尽く切り裂き、ゆっくりと神グレイラスに近づく。神グレイラスの目の前まで近づいた冬也が、神剣を一振りする。神グレイラスは、冬也の神剣を受け止めようと剣を構えるが、一瞬背に痛みを感じ怯む。
そして冬也の神剣は、神グレイラスの剣を体ごと両断した。
神グレイラスの胴には、縦一直線の深い切り傷が刻まれる。そして、叫び声が響き渡った。地の底を揺さぶり、人の恐怖を呼び覚ます。そんな悍ましい叫び声だった。
「もしかしてお前、背中に怪我してんだろ。誰にやられたんだよ。神か? 違うな。てめぇが馬鹿にしてる人間だろ? てめぇみてぇな雑魚なら簡単に倒せる奴を、俺は知ってるぜ」
冬也は少し馬鹿にする様に、笑いかける。そして神グレイラスは、呪い殺す様な目で冬也を睨み、語り始める。その声には、禍々しい怨念が宿っている。全てを呪い尽くさんとする、神グレイラスの声は、空が強化し続けている結界をビリビリと震わせた。
「糞忌々しいガキ共だ! 貴様も、あのシグルドと言うガキもだぁ! 我の背に傷を付けたあのガキは、何度転生しても殺し尽くす! それは貴様もだ!」
怨念が籠った声を聞いても、冬也とペスカは少し心が弾んでいた。なぜなら、言葉の中にあった名前。その名前を聞いただけで、二人の中に熱いものが込み上げた。
混迷の中、シグルドが生きている。しかも神に傷を付ける程、勇敢に戦った。
道中、胸騒ぎが消えなかった。三柱の神が暴れ回っているならば、ラフィスフィア大陸は壊滅の危機なのだ。しかし、シグルドの名を聞いただけで、安堵する気持ちが沸き上がって来る。それは二人にとって、光明だった。しかしそんな希望は、一瞬で砕かれる。
「あのシグルドと言うガキ。アルキエルと戦ったのなら、今頃は死んでいるだろう。我がこの傷の仇を討つのは、転生後であろうな」
神グレイラスがそう言い放った時、ペスカのマナが爆発する様に増加する。冬也の神気は、女神ラアルフィーネが張った空間遮断を大きく震わせた。
「あんた! 口に気を付けなよ! 誰が死んだって? 誰が? あぁ? もう一度言ってみなよ!」
ペスカは射殺す様な視線で、神グレイラスを睨め付ける。
「シグルドとか言うガキだ。もしかして知り合いか? これは傑作だ! 死んだぞ、間違いなくな!」
「糞野郎~!」
これまで神グレイラスの、禍々しい神気を抑え込んでいた魔法を破棄すると、ペスカは別の魔法を唱える。
「痛みを知らぬ愚か者へ、永劫に続く恐怖を与えよ! 滅しても消えぬ、痛みを刻みつけよ! 重苦の輪舞!」
ペスカが魔法を唱え終わると、大地が光り輝き神グレイラスを包む。神グレイラスは必死の形相で、禍々しい神気を高めて光に対抗する。
「ゴァ、グ、グ、グ、ゲェ、ゴゥア~!」
ペスカの放った光が、神グレイラスを侵食していく。神グレイラスは苦悶の表情を浮かべて、必死に堪える。そしてペスカの魔法を補助する様に、冬也は圧倒的な神気で神グレイラスを抑え込む。
「おい、糞野郎! あの鬼強ぇシグルドが、負けるはずねぇんだよ! あの糞強ぇシグルドが、死ぬはずねぇんだよ! 誰が誰を殺したって? 吹かしこいてんじゃねぇぞ!」
神グレイラスは、ペスカの魔法に耐えきれず、段々と小さくなっていく。空間を汚染しつくした淀んだ空気が、清浄化されていく。腐食した台地が、元の緑に戻っていく。
「グ、グ、グ、ゴ、ゲ、ギェ、ギャ、ギャ、ギュギャ」
シグルドに背中を斬られていなければ、状況は変わっていただろうか。少なくとも深手を負っていなければ、対等には戦えたかもしれない。しかし、結果は変わらなかっただろう。
弱点を攻めるのは、戦いのセオリーである。帝国内での戦いの様に、生物からマナを吸い取ったとしたらどうだろう。この場にいる亜人達は、結界に守られているとはいえ、ほとんどの者が意識を失っているのだ。
邪魔な結界を崩壊させるなら、それを維持している空を狙えばいい。女神ラアルフィーネは、周囲の空間を遮断する事に力を注いでいるのだから。ましてや治療にあたっている翔一は、完全に無防備である。
弱手をつくなら、幾らでも手は有った。しかし、どんな策を講じようとも、ペスカと冬也の怒りを買うのは必然であろう。
神グレイラスの過ちは、慢心である。たかが人間と侮ったが故に、背中に深手を負った。たかが半神、たかが小娘と侮ったが故に、己の存在が潰えようとしている。
もう発声すらまともに出来ない程に、神グレイラスは小さく細く変わっていく。神グレイラスは本能で悟る。消滅させられると。
痛みに悶え苦しみながら、神グレイラスは逃げようと蠢く。女神ラアルフィーネが張った結界は、未だに健在である。何処にも逃げ場所が無い。
必死に蠢く神グレイラス。もうこの光に耐えきれない。このままでは消されてしまう。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
神グレイラスは、どんどんと小さくなっていく。呪いの力は失い、神気も残っていない。光に対抗出来ない、消えたくない、消えたくない。
「消しちまえ、ペスカ!」
冬也は言い放つ。そしてペスカは、小さくなった神グレイラスを踏みつけた。神グレイラスは、初めて死の恐怖を味わった。
ペスカがマナを強める。神グレイラスは更に小さくなり、最後は手のひらに収まる球体になった。もう、神グレイラスの禍々しい気配は残ってない。神気も感じられない。
終わった。
誰もがそう思った時、女神ラアルフィーネが張った結界が、外側から壊された。
「あ~、やっちまいやがったか。ちっとばかり遅かった様だな。でも、面白そうな奴が残ってるじゃねぇか」
「アルキエル。何故あなたがここに」
女神ラアルフィーネは、青ざめた表情を浮かべる。そして冬也は、威嚇する様に男を睨め付ける。
「てめぇ、誰だよ」
「あぁ? 今、ラアルフィーネが言ったろ。アルキエルだよ。戦の神アルキエルだ」
神アルキエルは鷹揚な態度で、冬也に答える。
「面白れぇな、お前。混血か? それにグレイラスをやりやがったガキ。良いねぇ! 勿論、俺とも遊んでくれるんだろうなぁ」
「待ちなさい、アルキエル」
「止めんなよぉ、ラアルフィーネ! 俺だって、神殺しはしたくねぇんだ」
ペスカ達の前に二柱目の神が立ち塞がる。神との戦いは、未だ終わりを見せなかった。
「空ちゃんは女神様と一緒に結界を強化! 翔一君は亜人達の治療を引き継いで! 二人共、ここが正念場だよ!」
「任せて!」
「わかった!」
「ちょっと、あなた達も来なさい!」
女神ラアルフィーネは、ペスカと冬也にも結界内に入る様に命じる。しかし、空は女神ラアルフィーネの手を取り、首を横に振った。
本来の作戦であれば、キャンピングカーに入り、ペスカ達の援護をするはずだった。しかし、濃密な瘴気にも近い神気が周囲に溢れている。土地神、女神ラアルフィーネの加護を受けた空と翔一でも、この瘴気を直に触れれば、ただでは済むまい。
何も出来ない。生き延びる事しか出来ない。ならば、足を引っ張らない様に立ち回る。そして、二人は必ず邪神を打ち破る。それは、単に信じるよりも、確信に近かった。
「女神様、ペスカちゃんと冬也さんを信じて下さい」
「そうです。冬也達は必ずやります。私達は、この人達を守りましょう」
「あなた達・・・。あなたは結界を強化しつづけなさい。私は、もう一つ結界を張る」
女神ラアルフィーネは、空と翔一を見やり溜息をつくと、国境門周辺を大きく取り囲む様な結界を張る。
「この一帯の空間を遮断しました。グレイラス。これで、もうあなたは逃げられない」
「ラアルフィーネ、余計な事を。まあ良い。小虫共を潰した後、お前も殺せば済む事だ」
「女神の結界を甘く見ない事ね。冬也君、私は結界で手一杯になる。任せたわよ」
神グレイラスの禍々しい神気は、女神ラアルフィーネが閉じた空間いっぱいに広がる。台地は腐食し、空気は淀む。息を吸えばたちまち死に至る。瘴気に満ちた空間は、さながら地獄の様相を様相を呈していた。
しかし、冬也は地獄の中でも平然と立つ。女神ラアルフィーネを見やると、静かに大きく頷いて神剣を権限させる。そして、ゆっくりと神グレイラスに歩み寄る。
「生意気な目だ。いつかのクソガキと似た目。気に食わないな」
「誰の事言ってんだか知らねぇけど、油断してていいのかよ」
神グレイラスが冬也に目を向けている隙に、ペスカが呪文を詠唱する。
「天より来たり、邪を滅せよ。その魂を永劫に消し去れ! 破邪顕正」
呪文の詠唱と共に、ペスカの柏手が鳴り響く。見る間に周囲から清浄な光が広がり、禍々しい神気を抑え込んでいく。自分の神気が抑え込まれて行く状況に、神グレイラスは眉をひそめる。
神グレイラスは、油断するべきでは無かった。二人は、人を簡単に殺す瘴気の中でも、平然としている。二人は邪神との戦い方を知っている。既に邪神ロメリアを二回も、消滅の瀬戸際まで追い込んだのだから。
冬也はゆっくりと歩きながら、虹色に輝く剣を現出させる。冬也の神気で作られた、邪悪を切り裂く剣。軽く振るだけで、神グレイラスから放たれる瘴気を消滅させていく。
対する神グレイラスは、身に纏う禍々しい光を剣に変え構える。そして大きく剣を振り、光の斬撃を放った。かつてシグルドと対峙した時に、放った技である。同じ技が、神剣を持った冬也に通じるはずが無い。冬也は回避するまでもなく、光の斬撃を切り裂いた。
「そんなもんかよ。神が聞いて呆れるぜ」
「図に乗るな、混血ぅ! 貴様如きが、神を語るなぁ!」
「そりゃ、てめぇだろうが! 神ってのは、プライドかなんかか? 違うだろ! てめぇは、糞野郎の足元にも及ばねぇ、糞雑魚だ!」
神グレイラスの目には、狂気が浮かぶ。そして何度も、何度も、光の斬撃を放ち続ける。冬也は尽く切り裂き、ゆっくりと神グレイラスに近づく。神グレイラスの目の前まで近づいた冬也が、神剣を一振りする。神グレイラスは、冬也の神剣を受け止めようと剣を構えるが、一瞬背に痛みを感じ怯む。
そして冬也の神剣は、神グレイラスの剣を体ごと両断した。
神グレイラスの胴には、縦一直線の深い切り傷が刻まれる。そして、叫び声が響き渡った。地の底を揺さぶり、人の恐怖を呼び覚ます。そんな悍ましい叫び声だった。
「もしかしてお前、背中に怪我してんだろ。誰にやられたんだよ。神か? 違うな。てめぇが馬鹿にしてる人間だろ? てめぇみてぇな雑魚なら簡単に倒せる奴を、俺は知ってるぜ」
冬也は少し馬鹿にする様に、笑いかける。そして神グレイラスは、呪い殺す様な目で冬也を睨み、語り始める。その声には、禍々しい怨念が宿っている。全てを呪い尽くさんとする、神グレイラスの声は、空が強化し続けている結界をビリビリと震わせた。
「糞忌々しいガキ共だ! 貴様も、あのシグルドと言うガキもだぁ! 我の背に傷を付けたあのガキは、何度転生しても殺し尽くす! それは貴様もだ!」
怨念が籠った声を聞いても、冬也とペスカは少し心が弾んでいた。なぜなら、言葉の中にあった名前。その名前を聞いただけで、二人の中に熱いものが込み上げた。
混迷の中、シグルドが生きている。しかも神に傷を付ける程、勇敢に戦った。
道中、胸騒ぎが消えなかった。三柱の神が暴れ回っているならば、ラフィスフィア大陸は壊滅の危機なのだ。しかし、シグルドの名を聞いただけで、安堵する気持ちが沸き上がって来る。それは二人にとって、光明だった。しかしそんな希望は、一瞬で砕かれる。
「あのシグルドと言うガキ。アルキエルと戦ったのなら、今頃は死んでいるだろう。我がこの傷の仇を討つのは、転生後であろうな」
神グレイラスがそう言い放った時、ペスカのマナが爆発する様に増加する。冬也の神気は、女神ラアルフィーネが張った空間遮断を大きく震わせた。
「あんた! 口に気を付けなよ! 誰が死んだって? 誰が? あぁ? もう一度言ってみなよ!」
ペスカは射殺す様な視線で、神グレイラスを睨め付ける。
「シグルドとか言うガキだ。もしかして知り合いか? これは傑作だ! 死んだぞ、間違いなくな!」
「糞野郎~!」
これまで神グレイラスの、禍々しい神気を抑え込んでいた魔法を破棄すると、ペスカは別の魔法を唱える。
「痛みを知らぬ愚か者へ、永劫に続く恐怖を与えよ! 滅しても消えぬ、痛みを刻みつけよ! 重苦の輪舞!」
ペスカが魔法を唱え終わると、大地が光り輝き神グレイラスを包む。神グレイラスは必死の形相で、禍々しい神気を高めて光に対抗する。
「ゴァ、グ、グ、グ、ゲェ、ゴゥア~!」
ペスカの放った光が、神グレイラスを侵食していく。神グレイラスは苦悶の表情を浮かべて、必死に堪える。そしてペスカの魔法を補助する様に、冬也は圧倒的な神気で神グレイラスを抑え込む。
「おい、糞野郎! あの鬼強ぇシグルドが、負けるはずねぇんだよ! あの糞強ぇシグルドが、死ぬはずねぇんだよ! 誰が誰を殺したって? 吹かしこいてんじゃねぇぞ!」
神グレイラスは、ペスカの魔法に耐えきれず、段々と小さくなっていく。空間を汚染しつくした淀んだ空気が、清浄化されていく。腐食した台地が、元の緑に戻っていく。
「グ、グ、グ、ゴ、ゲ、ギェ、ギャ、ギャ、ギュギャ」
シグルドに背中を斬られていなければ、状況は変わっていただろうか。少なくとも深手を負っていなければ、対等には戦えたかもしれない。しかし、結果は変わらなかっただろう。
弱点を攻めるのは、戦いのセオリーである。帝国内での戦いの様に、生物からマナを吸い取ったとしたらどうだろう。この場にいる亜人達は、結界に守られているとはいえ、ほとんどの者が意識を失っているのだ。
邪魔な結界を崩壊させるなら、それを維持している空を狙えばいい。女神ラアルフィーネは、周囲の空間を遮断する事に力を注いでいるのだから。ましてや治療にあたっている翔一は、完全に無防備である。
弱手をつくなら、幾らでも手は有った。しかし、どんな策を講じようとも、ペスカと冬也の怒りを買うのは必然であろう。
神グレイラスの過ちは、慢心である。たかが人間と侮ったが故に、背中に深手を負った。たかが半神、たかが小娘と侮ったが故に、己の存在が潰えようとしている。
もう発声すらまともに出来ない程に、神グレイラスは小さく細く変わっていく。神グレイラスは本能で悟る。消滅させられると。
痛みに悶え苦しみながら、神グレイラスは逃げようと蠢く。女神ラアルフィーネが張った結界は、未だに健在である。何処にも逃げ場所が無い。
必死に蠢く神グレイラス。もうこの光に耐えきれない。このままでは消されてしまう。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
神グレイラスは、どんどんと小さくなっていく。呪いの力は失い、神気も残っていない。光に対抗出来ない、消えたくない、消えたくない。
「消しちまえ、ペスカ!」
冬也は言い放つ。そしてペスカは、小さくなった神グレイラスを踏みつけた。神グレイラスは、初めて死の恐怖を味わった。
ペスカがマナを強める。神グレイラスは更に小さくなり、最後は手のひらに収まる球体になった。もう、神グレイラスの禍々しい気配は残ってない。神気も感じられない。
終わった。
誰もがそう思った時、女神ラアルフィーネが張った結界が、外側から壊された。
「あ~、やっちまいやがったか。ちっとばかり遅かった様だな。でも、面白そうな奴が残ってるじゃねぇか」
「アルキエル。何故あなたがここに」
女神ラアルフィーネは、青ざめた表情を浮かべる。そして冬也は、威嚇する様に男を睨め付ける。
「てめぇ、誰だよ」
「あぁ? 今、ラアルフィーネが言ったろ。アルキエルだよ。戦の神アルキエルだ」
神アルキエルは鷹揚な態度で、冬也に答える。
「面白れぇな、お前。混血か? それにグレイラスをやりやがったガキ。良いねぇ! 勿論、俺とも遊んでくれるんだろうなぁ」
「待ちなさい、アルキエル」
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