妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

文字の大きさ
73 / 415
神の戦争と巻き込まれる世界

72 死と生の女神セリュシオネ

しおりを挟む
 冬也に抱き着き、ペスカは泣き止まない。そんなペスカを冬也撫でてあやす。そして二人に、空と翔一が走り寄る。しかし空と翔一は、不安に表情を曇らせる。

 空と翔一は、女神の結界に守られ全てを見ていた。神二柱との戦い。その壮絶さは、見てわかる。
  激昂し慟哭し、ペスカと冬也はどんな想いで戦ったのだろう。二柱の神共に、現れた時に肌が粟立つのを感じた。今も未だ震えが止まらない。
 最初の神に感じたのは、禍々し恐怖。次の神に感じたのは、圧倒的な強者からのプレッシャー。拙い自分達にもわかる、理不尽な神の力。ペスカと冬也は果敢に挑み、神二柱を打ち滅ぼした
  自分達が無暗に手を出して良いレベルを超えていた。もし、結界から一歩でも外に足を踏み出せば、命は無かっただろう。そんな確信を持てる程、狂気じみた空間が広がっていた。

 神二柱を倒した。そんな奇跡に驚くよりも、ペスカと冬也の事が心配であった。体は無事なのは、何よりである。それよりも、大切な友人を失う事が、どれ程の喪失感であろうか。二人に駆け寄っても、かける言葉が見つからない。

「二人共、無事だったか。良かった」

 冬也は優しく微笑んで、空と翔一を見つめる。何故、そんな優しい笑みを浮かべる事が出来る。空と翔一は冬也に軽く頷き、二人をただ見つめる事しか出来なかった。

 この二人を支えた想いは何だったのだろう。世界を守る正義感か、亡き友人への弔いか、それとも別の何かが有ったのだろうか。

 今もペスカは、感情を露に泣き続ける。神アルキエルに向けたペスカの殺気には、恐怖すら感じた。悔しさに震える姿は、涙を誘った。
 友人の死を知らされた後の冬也には、凍える様な冷たさを感じた。理不尽な暴力を理不尽に消し尽くす。どれだけ身と心を削れば、そんな力を出し得たのだろう。

 空と翔一は、掛ける言葉が見つからない。ただ、冬也は二人に優しく微笑む。

「良いんだ。ありがとう」

 空と翔一は、思わず涙を零した。そしてペスカも涙を流しながら、空と翔一に頷く。堪らず空と翔一は、ペスカと冬也を抱え込む様に抱きしめた。
 ほんの一時、四人が固まり抱きしめ合う所に、怒声が聞こえる。

「冬也君。貴方ねぇ、何て力の使い方してるのよ!」

 女神ラアルフィーネが、顔を顰めて近づいて来る。

「聞いてるの! 冬也君! 危ない力の使い方しないでって言ってるのよ!」
「ラアルフィーネさんか。何がだよ」
「あのね。神気を碌に扱えない癖に、神気の一極集中なんてしちゃ駄目よ」
「あぁ。でも、奴を倒すにはそれしか無かった」
「馬鹿! 少しでも力の調整を間違えたら、この辺一帯が消滅していたのよ! それに剣に神気を集めてたら、他は無防備でしょ! アルキエルに勝つつもりあったの?」
「当たり前だ! そもそも、あれは勝負にすらなってねぇ。なぁ、ラアルフィーネさん。神様ってのは、地上では力を制限させられてるんじゃねぇのか?」
「そうよ。神の神気は、生物に影響を与える。良くも悪くもね」
「あれは、力の差でも、技量の差でもねぇ。勝負以前の問題だ。俺は奴の本気を出させなかった。だから生きている。それだけだ」

 淡々と答える冬也に、女神ラアルフィーネが深い溜息を吐く。その時だった。彼方から声が聞こえた。

「そうですね。危ない所だった。ともすれば、この大陸全土がタールカールの二の舞となる所でしたね」
「セリュシオネ! 貴女まで何しに来たのよ!」
「ラアルフィーネ。随分なお言葉ですね。私はフィアーナの指示で、そこの子供達を探していたんですよ」
「何故ここがって、聞かなくてもわかるか?」
「そうですよ。これだけ派手に神気が放たれれば。まさか背信の二柱を、人間が倒すとは思いませんでしたが」

 更に一柱、神の出現に空と翔一の表情が引き締まる。しかしペスカは、涙を拭い女神セリュシオネに頭を下げる。

「女神セリュシオネ、お久しぶりです」
「頭を上げなさい、ペスカ。それで、そこの君がフィアーナの息子かな?」
「そう言うあんたは誰だよ!」
「確か冬也君だったね。君はもう少し、礼儀を学ぶべきだね」

 冬也は訝し気に女神セリュシオネを睨む。しかし、女神セリュシオネは、冬也の視線を気に留めず辺りを歩き回り、転がる二つの球を拾った。

「ラアルフィーネ。これは、私が回収していきます」
「ちょっと待てよ。それをどうする気だよ?」

 女神ラアルフィーネに向いていた視線を、女神セリュシオネは冬也に向ける。

「半神なら、知らないのも仕方ない。これは神格と言う物。神の根幹を成す物だよ。君達が倒した神々は、背信により神格剥奪が決定されている。神格剥奪は、生と死を司る私の役目だ」
「セリュシオネ、ちゃんと神格剥奪するの? まさか、アルキエルを蘇らせる気は無いわよね。あなた達、仲良かったじゃない」

 女神ラアルフィーネの言葉に、冬也が殺気立つ。ビリビリとする神気が辺りに広がる。咄嗟に女神ラアルフィーネが庇わなければ、空と翔一は気を失っていただろう。

「おい! それが目的なら、そいつを渡す訳にはいかねぇな」
「駄目! お兄ちゃん!」
「止めんなペスカ! こいつが糞野郎共を復活させられたら、どうすんだ!」
「お兄ちゃん、抑えて! セリュシオネ様を倒したら、生命の輪廻が途絶えちゃう」

 女神セリュシオネに近づこうとする冬也を、ペスカが必死に食い止める。深い溜息をついた女神セリュシオネが、女神ラアルフィーネに視線を送った。

「止めて下さい、ラアルフィーネ。貴女の不用意な一言で、子供が殺気立ってます。そもそもアルキエルは、勝手の良い駒ですよ。アルキエルの神格を奪っても、別に戦いの神が生まれます。新たな神を手駒にすれば良いだけです」
「それもそうね。ごめんね~、冬也君。未来の妻に免じてここは抑えて~」
「誰が未来の妻だ! 意味がわかんねぇよ。俺はどいつを、ぶっ飛ばせば良いんだ?」
「お兄ちゃん、落ち着いて。ラアルフィーネ様、お戯れが過ぎますよ」

 ペスカは必死に、冬也を宥めて落ち着かせる。女神セリュシオネは、更に深い溜息をついた。

「全く、酷い三文芝居に巻き込まれたものだ。目的を忘れたら、フィアーナに叱られる所です。あぁその前に」

 何かを思い出した様に、女神セリュシオネは、懐から虹色に輝く球を取り出す。

「生憎、肉体の再生は叶いませんでしたが、君達と最後の別れ位はさせてあげようと思い、連れて来ました」

 女神セリュシオネが呟くと、虹色に輝く球は人の体を成していく。そこには一人の男が立つ。光に溢れ表情は良く見えない。しかしそこに立つのは紛れも無く、失った友人の姿だった。
 ペスカと冬也は目頭が熱くなるのを感じる。男はゆっくりとペスカに近づき、膝を突き頭を垂れる。

「ペスカ様。ご命令を守れず、申し訳ありません」

 ペスカの瞳からは、滂沱の涙が溢れる。ペスカは言葉を詰まらせ、ただ首を横に振る。
 そして、男はゆっくりと頭を上げ立ち上がり、冬也に視線を向ける。

「冬也、見ていたよ。強くなったな」
「シグルド、シグルド、シグルド~!」

 冬也から、涙が溢れる。神々との戦いにおいて、冬也は怒りを捨て心を凍らせた。だが、目の前にいる男を前に、熱い涙が溢れる。激情に駆り立てられ、叫び声を上げる。

「神を倒した男が、そんなに泣き喚くものじゃ無いよ」
「それはお前がいたからだ! シグルド、お前はあの糞雑魚に深手を負わせてた。だから、俺達が勝てた。アルキエルにも」
「違うよ冬也。あれは、君達の勝利だよ。よく頑張ったな。それに、ありがとう」

 冬也の目から涙が止まらない。シグルドは、冬也の肩を軽く叩く。

「君と出会えた事を誇りに思う。君と友人であった事が私の宝だ、冬也」
「俺もだ。俺もだ。シグルド!」

 シグルドは、再びペスカに体を向けて、頭を下げる。

「何も守れませんでした。何も」
「そんな事無い! シグルド、あんたは良くやったよ。良く戦ったよ」

 掠れた声で、ペスカは叫ぶ。

「私は、貴女達の様に勇敢で有りたかった。貴女達の様に守れる強さが欲しかった」

 ペスカは首を横に振る。

「ねぇシグルド。あんたの様な奴の事を勇者って呼ぶのよ。勇敢な者と書いて勇者」
「ペスカ様・・・」
「高潔なる勇者シグルド! 此度の任務、誠に大儀で有った!」
「有難きお言葉です。ペスカ様」

 肉体を持たぬシグルドに涙は流れない。しかし、シグルドの目には光る物を感じる。晴れやかな笑顔は、やり遂げた男の笑顔その物だった。
 やがてシグルドの体が崩れていく。

「どうやら時間の様です。ペスカ様、冬也。後はよろしくお願いします」
「うん、わかってるよ」
「あぁ、任せろ」

 シグルドは最後に微笑むと、完全に形を崩し、元の虹色に輝く球になった。

「「シグルドぉぉぉぉぉぉ~!」」

 ペスカと冬也の叫び声は、天まで届く様に響き渡る。

「こんなに虹色に輝く魂魄は、なかなか無いんだよ。確かに勇者かもしれないね」
「セリュシオネ様・・・」
「この魂魄は、私が責任を持って転生させるよ」
「頼むよ。セリュシオネさん」

 ペスカと冬也は、涙を拭わずセリュシオネに頭を下げる。
 勇敢に散った魂に安らぎを。どうか、その魂に幸運が訪れる事を。
 ペスカと冬也は願わずにはいられなかった。

「ペスカ、行こう。俺達は、あいつの分まで世界を救う!」
「うん。お兄ちゃん。行こう!」

 ペスカ達は向かう。戦い止まぬラフィスフィア大陸へ。
 友の想いを胸に。危機迫る仲間を救いに。
 世界を守る為に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...