妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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それぞれの決着

106 三将の本領

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 神々の手により、北部街道が土石流で埋め尽くされた。しかし、メルドマリューネ軍は進軍を止めず、速度を落としながらも進み続ける。
 土石流では、メルドマリューネ軍の足止めは出来なかった。未だ到着しないグラスキルス軍とモーリス達。そして逃げる住民達。
 進む速度が明らかに異なる。訓練をされていない住民達には、崩れた道を進むのは困難である。再び住民達の眼前に、メルドマリューネ軍が迫ろうとしている。
 その時、先行したサムウェルは、住民達を守る様に立ちはだかった。

 サムウェルは住民達に迂回路を示すと自ら殿を務め、思いつく限りの罠を進路上に仕掛ける。極短時間で、一万のメルドマリューネ軍を足止めできる罠が、仕掛けられるのか。サムウェルならば、可能であろう。崩れた山裾、地割れで出来た谷、全てがサムウェルにとっては、罠の材料となろう。

 振り返れば、直ぐ後ろに大軍の姿が有る。しかし、サムウェルに焦りの表情は無かった。不敵な笑いを浮かべ、メルドマリューネ軍を引き付けた。
 
 メルドマリューネ軍は、崩れた道や地割れを回避する為、縦に一列に行軍している。ようやく住民達が、崩れた街道を抜けた頃に罠が発動した。 

 山の稜線から、火の矢が雨の様に降り注ぐ。先ずサムウェルは、魔法を操作しあたかも兵が配置され狙撃している様に見せかける。メルドマリューネ軍は、上空の魔法防御を強化し警戒を余儀なくされる。
 覚束ない足元、降り注ぐ火の矢、メルドマリューネ軍は行軍速度を落とさざるを得ない。それでも進み続けるメルドマリューネ軍の左右から、巨大な岩石が転がり落ちて来る。
 巨大な岩石は、魔法防御に徹していたメルドマリューネ軍を粉砕し、縦に伸びきった軍をいとも簡単に分断した。
 
 分断されようと、前線の部隊は構わず進み続ける。しかし、そこに待ち受けていたのは、地雷の様に地下に埋められた魔石。一定地点まで進軍した所で、サムウェルは魔石を遠隔起爆させた。連鎖的に巻き起こる地下からの爆発に、メルドマリューネ軍は成す術も無く巻き込まれ前線は壊滅。
 サムウェルの罠により、メルドマリューネ軍は数時間でおよそ三割の兵を失った。

 更にサムウェルの罠が時間差で発動する。分断された後続部隊の地下から噴出する毒ガス。メルドマリューネ軍は倒れる兵が続出した。

 サムウェルは笑いが止まらない。敵軍の目の前で罠を仕掛けているにも関わらず、メルドマリューネ軍は気に留める様子も無く、進軍を優先させていたのだ。
 しかも、こんな簡単に罠に掛かるとは、愚の骨頂であろう。
 
「ぷ、ぶふぁはははは、うゎはっははは~! 馬鹿野郎ばかりだな! 人形には理解出来ねぇだろうよ。魔法はバカスカ撃てば良いってもんじゃねぇんだよ。ひぃっひひひゃひゃひゃひゃ~! こんなに見事に引っ掛かるのは、知能のねぇモンスター位だぜ!」

 サムウェルは馬に積んでいた糧食を取り、地面にドカッと胡坐をかいて座った。そして糧食を貪りながら、時が経過するのを待つ。

 サムウェルが配置した毒ガスは、精々五百人程度の範囲を麻痺させる物である。しかし、この地域には南から北に向けて風が吹き抜ける。風に乗った毒ガスは、メルドマリューネ軍の後部まで届く。
 ゆっくりと待ち、弱った所を捕虜にするなり、殺すなりすればいい。

「おう、俺だ。多少予定が狂ったが、作戦は上々だ。モーリス達と合流したら、掃討に移る。そっちはどうだ?」
「エルラフィア、ペスカ殿、両方からは特に連絡は有りません」
「そうか。神の介入に気を付けろと、クラウスに伝えておけ。それと兵站の件で、問題が発生した」
「どうなさったんです?」
「北の街道が山崩れで、封鎖されてやがる。馬車なんかじゃ通れねぇぞ。暫くあの辺りの採掘場も封鎖だ」
「採掘場の封鎖は、私から陛下にご報告申し上げます」
「ペスカ殿に連絡して、乗り物の設計図を貰え。急いで同じものを作り上げるんだ」
「お任せください」
「あぁ、それとな。メルドマリューネ軍の始末をどうするかを、陛下にお伺いを立てろ。三国で労働力が足りない様なら、捕虜を連れ帰ってやる」
「承知しました。後ほどご報告致します」

 城への通信を終え一呼吸着いた時に、後方から声が聞こえる。耳を澄ませば、自分を呼ぶ声である。サムウェルが振り返ると、モーリス、ケーリアを先頭にした東方連合軍が見えた。
 
「サムウェル~! 無事かぁ~?」

 大声で叫ぶモーリスを見て、サムウェルは苦笑いした。到着したモーリスは、笑いながら言い放つ。

「派手にやったな、サムウェル。採掘場は暫く使えないな」
「馬鹿野郎! 俺じゃねぇよ、モーリス」
「そうだ、モーリス。流石にサムウェルとて、ここまで酷い事はしない」
「だが、間に合った様だな」

 不敵に笑うモーリスの視線の先には、毒ガスに魔法で対抗して逃れた、メルドマリューネ軍の姿があった。ざっと約五千の兵が、土砂を乗り越えて広がっていた。

「大して減らせなかったか」
「無理もない、サムウェル。ここからは俺達の番だろ」

 大剣を構えたケーリアがサムウェルの肩を叩く。その反対の肩をモーリスが叩く。例え弱りきっていても、その瞳には闘志が宿っている。ケーリアとモーリスの闘志は、サムウェルを挑発した。

 お前は戦えるのか? 腕はなまってないのか?

 それはサムウェルが告げるべき言葉だろう。今にも倒れそうな男達が、過酷な戦争に挑もうというのだから。しかしそれは、杞憂だろう。彼らを見ればわかる。
 彼らの闘志は問いかけているのだ。確かに情報を制して、平和を維持して来たのだろう。相手の行動を先読みして、罠を張り行動不能にしてきたのだろう。

 でも、お前自身は戦えるのか? その意思はあるのか?

 その問いかけに、サムウェルは笑みを浮かべる事で答えた。そして三人の視線が交差する。
 この三人が同じ戦場に立つのは、二十年以来となる。あの過酷な戦いを生き抜いたのだ、そして今も。
 サムウェルは今更ながら実感していた。通信でクラウスに言い放った言葉、三人が集まれば敵はいない。それは間違いではなかった。

「サムウェル。久しぶりの共闘だ。ついて来いよ」
「馬鹿野郎、モーリス。俺より弱い奴が何言ってやがる」
「なら、これから証明してやる」

 魔法で作られた大量の火が、メルドマリューネ軍から飛んでくる。モーリスは体に闘気を漲らせて、剣を一薙ぎした。剣圧が風に乗り、烈風を巻き起こす。火の雨は尽く消し飛んだ。 
 
「モーリス。それ位で調子に乗るな。やはり牢暮らしで、鈍っているな」

 ケーリアが大剣を上段から振り下ろす。大剣からは光刃が飛び、土砂を切り裂きながらメルドマリューネ軍に襲い掛かる。そして、ど真ん中をぶち抜く様に、光刃がメルドマリューネ軍を吹き飛ばす。

「いやいや! お前等、二人共鈍ってるぜ。牢暮らしってより、年じゃねぇか?」 

 サムウェルが槍で大地をドンと叩くと、メルドマリューネ軍の周辺に爆発が起きた。
 
「残念ながら、罠はあれで終わりじゃないんだぜ」

 得意気な顔をしてサムウェルは胸を張る。そんなサムウェルの頭を、モーリスが叩いた。

「馬鹿野郎! お前、あそこに俺達が突っ込んでいたら、巻き込まれてたろうが!」
「いてぇな! 馬鹿力で叩くんじゃねぇよ! そんなヘマを俺がするか!」
「いつまでも、喧嘩してると、残りは俺が頂くぞ」

 ケーリアは大剣を抱えて走り出す。その後を追い、モーリスとサムウェルも走り出した。
 
 それからたった十分であった。メルドマリューネ軍は完全に沈黙した。
 剛腕で剣を振るい、次々と敵を薙ぎ払うモーリス。大剣の力で、軽々と敵を吹き飛ばすケーリア。目に留まらない速さで槍を振るい、敵を葬っていくサムウェル。
 三人は、汗もかかずに戦闘を終了させた。東方連合の兵達は、後方で呆気に取られて呆然と見ている事しか出来なかった。
 そしてサムウェルは立ち尽くす兵達に告げる。

「ぼ~としてんじゃねぇ! 生き残った奴がいたら必ず捕らえろ。急げ!」

 サムウェルの言葉に、兵達は慌てて動き出した。続いてサムウェルは、城にメルドマリューネ軍壊滅の連絡を入れる。
 
「閣下。先の件は、捕虜にせよとの陛下から御達しがありました。守備兵の一部を向かわせましたので、引き渡しをお願い致します」
「おう、わかった。それで、乗り物は?」
「間諜部隊の一人が、ペスカ殿から図面を受け取り、城へ戻っている最中です」
「そうか。急げよ」
「承知しました」

 通信を終わらせたサムウェルに、モーリスとケーリアが近づいて来る。
 
「連絡は終ったのか? 向こうの様子はどうだ?」
「特に連絡が無いようだ。お前の愛しいペスカ殿は、健在だぞ」
「な、何を言っているサムウェル!」
「貴様等は、いつも喧しい。サムウェル、モーリスをからかうな」
「良いじゃねぇか。こっちは勝ったんだ」
「ところでサムウェル、これからどうするんだ?」
「モーリス。俺達は、このままメルドマリューネに侵攻する。ここからが正念場だ」

 サムウェルの言葉に、モーリスとケーリアは強く頷く。
 戦いはまだ序盤。一万の大軍とはいえ、あれがメルドマリューネ軍の全力ではない。本当の戦いは、国境を超えてからになるだろう。
 三人の力を持ってしても、太刀打ち出来るかわからない。
 盤面の行方は、まだ見えない。
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