妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

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それぞれの決着

125 戦いの結末

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 気が付いた時には、遅かった。
 あれ程に溜め込んだ邪気は、ほとんど残っていない。周りは、神々に囲まれている。
 どうして、こうなった。どうして、自分は追い詰められている。何を間違えた。

 邪神ロメリアが、どれだけ頭を捻ろうと、状況は変わらない。
 敵は目の前の二人だけでは無い。ここまで落ちた力では、逃げる事すら出来ない。勝つ事など到底不可能だ。

 邪神ロメリアは、自身が置かれた状況を、ようやく理解してた。それと同時に、胸に過る奇妙な感覚を覚えていた。

 勝利は目前にあったはずなのだ。もう少しで、大地母神を滅ぼし、全ての神を滅ぼし、世界を滅ぼす事が出来たはずなのだ。
 だが全てが無に帰した。時間をかけて練り上げた策略も、溜め込んだ力も、全てがこの手から零れ落ちた。
 もう、何も残っていない。有るのは、生まれた当時のちっぽけな神気だけ。それも、もう直ぐ消し去られるのだろう。
 
「そうか、これが絶望をするという事か」

 ポツリと呟く、邪神ロメリア。
 絶望という感情を扱いはしてきたが、自分がその感覚を味わう事になるとは、思ってもみなかった。自分の震える体を見ると、笑いすらこみ上げて来る。

「死の恐怖か、これもあのガキ共がいなければ、味わう事がなかったろうな」

 顔を上げれば、二人が近づいて来るのが見える。流石の邪神ロメリアも、自身の最後を悟った。ただ、このままでは終われない。
 
 邪神と呼ばれる神は、自分以外にも多く存在していた。しかし時の流れの中、生まれては消滅させられてきた。嫉妬の神メイロード、混沌の神グレイラスも同様である。
 ただ邪神ロメリアは、天地開闢の時に誕生した最古の存在である。悠久の時を存在し続けた、プライドが有る。
 神々の裁定により、神格を奪われるならまだしも。ただの半神や人間には、消滅させられる訳にはいかない。せめて目の前の二人だけは、必ず殺さねばならない。
 そして邪神ロメリアは、残る神気を解き放った。

「ペスカちゃん。ロメリアの拘束は私達に任せなさい。あなた達は全力であいつを倒すのよ!」

 邪神ロメリアに近づくペスカと冬也に、女神フィアーナから声がかかる。その言葉と前後する様に、神々の神気が集まり、邪神ロメリアを拘束する。
 
「ペスカ。あいつの神格、見えてるか?」
「力の根源は、感じるよ」
「充分だ。お前によく見える様に、余計な部分は俺が斬る。後は任せるぞ」

 ペスカは、無言で頷いた。
 思えば長い道のりだった。
 前世では、邪神ロメリアが遊びと称して始めた、モンスター騒動を収める為に命を費やした。転生してから十六年、ようやく邪神ロメリアを追い詰める所まで来た。

 ペスカの脳裏に様々な記憶が蘇る。
 前世での戦いの記憶は、辛い思い出が多かった。
 義父は自分を庇い大怪我を負い、その怪我が元で半年も経たずに命を落とした。義兄二人は、ロメリア教信徒の残党に、暗殺された。実父も、戦いの怪我が癒える事無く、命を落とした。実母や実兄は、暗殺されて命を落とした。

 自分は病床に伏し、何も出来なかった。大切な人達を守る事が出来なかった。だから、女神フィアーナから転生の話しを聞いた時に、一も二も無く引き受けた。
 大切な人を守れる力が欲しかった。もう二度と悔しい思いはしたくなかった。
 
 ドルクは、良いライバルだった。肉体を失って尚、邪神ロメリアに操られた。
 シグルドは良い奴だった。最後の一瞬まで勇猛に戦った、まさしく勇者と呼べる人物だった。
 どれも、失って良いはずが無い命だった。
 
 生前とは比べ物にならない丈夫な体を手に入れた。それでも、守れないものは多かった。
 エルラフィア王国の半壊。ライン帝国を含めた中央諸国の壊滅。南部三国の壊滅。数えればきりが無い。
 全て守れるなんて、傲慢な考えかも知れない。でも、守りたかった。救える命が有ったはずだった。

 ペスカの眼がしらが熱くなる。
 
 郷愁にかられるペスカの頭に、ふいに優しい温もりを感じる。冬也がペスカの頭を優しく撫でていた。優しくも強い兄の想いが、手のひらを通して伝わってくる。

 泣くのは終ってからにしろ、存分に泣かせてやる。
 だから、今は戦え。最後まで、やり通せ。
 
 ペスカは冬也を真似て、神剣を作り出す。冬也の様に長い剣では無いが、止めを刺すには充分な長さ。ペスカは思いの丈を、全て神剣に注ぎ込んだ。

 冬也が邪神ロメリアの抵抗をものともせずに、体を切り裂いていく。削ぎ取られる肉体から、神格が見え始める。
 冬也から視線で合図が送られてくる。ペスカは間髪入れず、自分の神剣で邪神ロメリアの神格を貫いた。
 もう、叫び声すら上がらない。邪神ロメリアの神格が粉々に砕け、次第に悍ましい姿が薄くなっていき、最後は完全に消滅した。
  
 二十年に渡るペスカの長い戦いに、決着が着いた。
 呆然と立ち尽くすペスカを、冬也が優しく抱きしめる。優しい兄の温もりに包まれた瞬間、決壊した様にペスカの瞳から涙が溢れ出した。

「おに~ちゃん、お゛に゛~ぢや~ん」

 溢れる涙は止まらない。ペスカに去来する感情の渦。
 ようやく成し遂げた。家族の敵も討った。しかし、大切な仲間を失った。親友を危険な目に合わせた。多くの人を巻き込み、無垢な命を犠牲にした。
 多くの犠牲の上に成し得た結果を、容易に享受出来るはずが無い。
 達成感や後悔等、複数の想いがペスカの中で混ざり合い、溢れ出す涙を止める事が出来ない。
  
「いいんだ、ペスカ。よく頑張った。だから胸を張れ! 失くしたものを数えるな! 救った命を思い出せ! お前が頑張ったから、多くの命が救われた。お前は、誰よりも多くの命を守った。誇れペスカ! 全部、自分で抱えるな! お前は王でも神でも無い。ただの女の子だ。俺の大切な妹だ。痛い所は全部治してやる。辛い気持ちは、俺が全部抱えてやる。俺は、お前の兄ちゃんなんだぞ」

 冬也の優しい声が、温かい心が、ペスカの胸に響く。  
 
「う゛ん、う゛ん」

 ペスカは、ただ嗚咽をしながら、冬也の胸の中で頷いた。やがて冬也から離れたペスカに、意識を取り戻した空が走り寄り、後ろから飛びつく。

「ペスカちゃん、ペスカちゃん、ペスカちゃん」

 不思議な能力を扱えるだけの少女が、邪神と対峙していたのだ。最も命の危険に晒されてたのは、空であっただろう。しかし空は、親友の無事が何よりも嬉しかった。
 絶対に生きていると信じていたから戦えた。でも、不安が無かった訳では無い。
 空は滂沱の涙を流す。ペスカはそれを受け止める様に、力強く抱きしめた。
 
「冬也、ペスカちゃん。やったな」
「翔一」

 翔一は優しい眼差しで、三人を見つめる。翔一がいなければ、邪神を倒せなかった。
 神々が到着すれば、救出してはくれただろう。しかし、ペスカに決着をつけさせる事は出来なかったはずだ。
 冬也は翔一に近づくと、がっちりと手を握り合った。

 空と翔一に、ペスカ程の抱えた想いは無かったろう。それは冬也も同じである。だが嫌という程に、惨状を見て来たのだ。失われる命を、その目に焼き付けてきたのだ。
 だからこそ、大切な人を守りたい。その想いは変わらない。
 今は勝利の喜びよりも、終わった事への安堵が大きいだろう。
 なにせ生き残る事すら、不可能と思われる状況だったのだ。全員が死んでいても、おかしくはなかったのだ。

 生き残る事が出来たのは、全員が信じ合えたから。だから、それぞれが力を全力以上に発揮する事が出来たのだろう。空、翔一、冬也、ペスカ、クラウス、この中で誰が欠けても、邪神をこの場で止める事は出来なかった。

 邪神ロメリアの消滅と共に、旧メルドマリューネ軍への影響が完全に途切れる。
 エルラフィア軍、三国連合軍共に、傀儡と化し襲い掛かる兵達を、完全に無効化した。
 完全にモンスター化した兵の命は、奪わざるを得なかった。しかし、一部モンスター化した兵達の意識は奪い、拘束する事に成功した。
 シリウスが指揮するエルラフィア軍は、拘束した兵達をエルラフィア王都へ搬送をし始め、サムウェル率いる三国連合軍は、グラスキルス王都へ兵達の搬送を急いでいた。
 各王都では、ペスカの開発した魔法が共有され、旧メルドマリューネ軍の治療が進む。
 そして意識を取り戻し、ペスカ達の様子を見届けていたクラウスは、自分の持つ通信機で各所に連絡を入れる。

「終わった。我々の勝利だ!」
 
 その通信は、前線で戦い続けていた兵達に、歓喜の声を上げさせた。シリウスは拳を強く握り、雄叫びを上げる。モーリス、ケーリア、サムウェルは、三人で手を強く握り合った。
 必死に足掻き、戦い続けた人間達の勝利であった。
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