The Chess 番外編 魔術師と盗賊と行商娘篇 〜 三人組で結婚します

今日のジャム

文字の大きさ
13 / 22

13

しおりを挟む
 今夜もガーラは酒場でカジノを開いていた。そしてクオの宿屋の部屋にはフローが来ていた。
 窓から雉が入ってきた。寝台に座っていたフローの元にその鳥が止まると、フローはその足に括られた紙を解いて手紙を読んだ。クオはその鳥はフローの裏の“仕事”の連絡だと知っていた。フローは読み終わると紙を二つに破った。紙は消えた。フローは鳥を窓から放った。

 フローは少し困った顔をしてクオに言った。

「明日の朝から二三日、“仕事”してくるからさ、ガーラにも宜しく言っといて」

 フローの意外な表情にクオは少し心配が浮かんだ。クオはフローの仕事の話はしない。悪いことを含めて、おそらく何かを“盗む”のが仕事である。余計なことは聞かなかったが、フローは少し寂しそうに見えた。クオは立ち入ってみた。

「その、大変なのか?」

 フローは大人しく笑った。

「城に囚われた“人”を盗む依頼でさ、まぁ、結構大仕事だね」

 フローの話し方から、クオは危険が伴うのだと推察した。フローは続けた。

「オレが戻らないかもしれないからさ、クオに今、頼んでもいい?」
「何をだ?」

 心配そうにするクオにフローは控えめな声で言った。

「クオからのキスでオレを送ってくれる?」

 クオはさっと紅潮した。クオはフローの寂しそうにしていた訳が自分にあることを知り、心が熱くなり恋心の酔いが回った。フローの仕事はもう戻らないかも知れない危ういものだと言う。クオはフローの甘えを受け入れた。

「ああ。……目を瞑ってくれ」

 クオは目を瞑ったフローに静かに唇を重ねた。穏やかに、長く心を絡めた。
 クオは唇を離して、フローを見た。ふと引き止めたい気持ちが小さく浮かんだ。フローはしばし無言でクオを見つめた。小さな間はフローが遮った。

「サンキュー、クオ」

 フローは明るく言った。クオは口ごもりながら小声で心を伝えた。

「すまない、その……、あまり心配かけさせないでくれ」

 フローは大人しく笑んだ。

「そだね。また帰ってきたら、クオのワインで乾杯しようぜ」
「ああ、分かった」

 クオはため息を吐くように応えた。


 朝になり、クオは一人で食堂で食事をした。昨夜はフローと部屋で別れた。クオは食事前にガーラの部屋を訪ねたが、ディアドラが扉を開けて、就寝中の主を示した。

 クオは食事を終えると、教会へ行き、一日町の人達に魔術を教えた。集まったお客はだいたい魔術師志望の若者と、魔力のある子どもだった。瞬間移動などの異空間魔術は、感覚的なものなので教えるのが難しいが、クオが見本を見せると、生徒達は喜んだ。
 授業は好評で、二三日続けることになった。謝礼は教会の僧侶から受け取った。

 
 夕方、魔術の授業が終わり、クオは宿屋へ戻った。一階の食堂では、ガーラが珍しき品物を並べて商い、町の人達が集まっていた。

 ガーラはクオを見つけて挨拶をした。

「あら、お帰りなさい。フローはどこかしら?」

 クオはガーラのそばの椅子に座った。

「フローは昨晩、“仕事”に行って二三日帰らないということだ。俺も二三日、この町で講師の仕事を引き受けているから、しばらく滞在するつもりだが……。ガーラもいいか?」

 ガーラはクオの様子を見て心配そうに言った。

「ええ、私は大丈夫よ。……」
「何かあったか?」
「クオはせっかくフローと仲が深まったのに、と思ってね。余計なことだったらごめんなさい」

 クオは小さくため息を吐いた。そして正直に今日一日の何か重たい気分に目を向けて話した。

「いや、そうか。ガーラの言うとおり、たぶん一理あるな。今日は時間が長いと思っていたが……」

 ガーラはクオを思い遣った。

「話なら聞くわよ。夕食の後にでも」

 クオは複雑な気持ちになった。今の気持ちはフローに傾いていた。それをガーラに話すのは抑えた方がいいと思った。

「すまないな、ガーラ。だか今の俺の気持ちをガーラに伝えるのは、心が落ち着かないが……」

 ガーラは温かい言葉を贈った。

「私なら大丈夫よ。同じパーティでしょ? 私もフローのことは大切だと思っているわ。それじゃ、これから一緒に夕食にしましょ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...