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今夜もガーラは酒場でカジノを開いていた。そしてクオの宿屋の部屋にはフローが来ていた。
窓から雉が入ってきた。寝台に座っていたフローの元にその鳥が止まると、フローはその足に括られた紙を解いて手紙を読んだ。クオはその鳥はフローの裏の“仕事”の連絡だと知っていた。フローは読み終わると紙を二つに破った。紙は消えた。フローは鳥を窓から放った。
フローは少し困った顔をしてクオに言った。
「明日の朝から二三日、“仕事”してくるからさ、ガーラにも宜しく言っといて」
フローの意外な表情にクオは少し心配が浮かんだ。クオはフローの仕事の話はしない。悪いことを含めて、おそらく何かを“盗む”のが仕事である。余計なことは聞かなかったが、フローは少し寂しそうに見えた。クオは立ち入ってみた。
「その、大変なのか?」
フローは大人しく笑った。
「城に囚われた“人”を盗む依頼でさ、まぁ、結構大仕事だね」
フローの話し方から、クオは危険が伴うのだと推察した。フローは続けた。
「オレが戻らないかもしれないからさ、クオに今、頼んでもいい?」
「何をだ?」
心配そうにするクオにフローは控えめな声で言った。
「クオからのキスでオレを送ってくれる?」
クオはさっと紅潮した。クオはフローの寂しそうにしていた訳が自分にあることを知り、心が熱くなり恋心の酔いが回った。フローの仕事はもう戻らないかも知れない危ういものだと言う。クオはフローの甘えを受け入れた。
「ああ。……目を瞑ってくれ」
クオは目を瞑ったフローに静かに唇を重ねた。穏やかに、長く心を絡めた。
クオは唇を離して、フローを見た。ふと引き止めたい気持ちが小さく浮かんだ。フローはしばし無言でクオを見つめた。小さな間はフローが遮った。
「サンキュー、クオ」
フローは明るく言った。クオは口ごもりながら小声で心を伝えた。
「すまない、その……、あまり心配かけさせないでくれ」
フローは大人しく笑んだ。
「そだね。また帰ってきたら、クオのワインで乾杯しようぜ」
「ああ、分かった」
クオはため息を吐くように応えた。
朝になり、クオは一人で食堂で食事をした。昨夜はフローと部屋で別れた。クオは食事前にガーラの部屋を訪ねたが、ディアドラが扉を開けて、就寝中の主を示した。
クオは食事を終えると、教会へ行き、一日町の人達に魔術を教えた。集まったお客はだいたい魔術師志望の若者と、魔力のある子どもだった。瞬間移動などの異空間魔術は、感覚的なものなので教えるのが難しいが、クオが見本を見せると、生徒達は喜んだ。
授業は好評で、二三日続けることになった。謝礼は教会の僧侶から受け取った。
夕方、魔術の授業が終わり、クオは宿屋へ戻った。一階の食堂では、ガーラが珍しき品物を並べて商い、町の人達が集まっていた。
ガーラはクオを見つけて挨拶をした。
「あら、お帰りなさい。フローはどこかしら?」
クオはガーラのそばの椅子に座った。
「フローは昨晩、“仕事”に行って二三日帰らないということだ。俺も二三日、この町で講師の仕事を引き受けているから、しばらく滞在するつもりだが……。ガーラもいいか?」
ガーラはクオの様子を見て心配そうに言った。
「ええ、私は大丈夫よ。……」
「何かあったか?」
「クオはせっかくフローと仲が深まったのに、と思ってね。余計なことだったらごめんなさい」
クオは小さくため息を吐いた。そして正直に今日一日の何か重たい気分に目を向けて話した。
「いや、そうか。ガーラの言うとおり、たぶん一理あるな。今日は時間が長いと思っていたが……」
ガーラはクオを思い遣った。
「話なら聞くわよ。夕食の後にでも」
クオは複雑な気持ちになった。今の気持ちはフローに傾いていた。それをガーラに話すのは抑えた方がいいと思った。
「すまないな、ガーラ。だか今の俺の気持ちをガーラに伝えるのは、心が落ち着かないが……」
ガーラは温かい言葉を贈った。
「私なら大丈夫よ。同じパーティでしょ? 私もフローのことは大切だと思っているわ。それじゃ、これから一緒に夕食にしましょ」
窓から雉が入ってきた。寝台に座っていたフローの元にその鳥が止まると、フローはその足に括られた紙を解いて手紙を読んだ。クオはその鳥はフローの裏の“仕事”の連絡だと知っていた。フローは読み終わると紙を二つに破った。紙は消えた。フローは鳥を窓から放った。
フローは少し困った顔をしてクオに言った。
「明日の朝から二三日、“仕事”してくるからさ、ガーラにも宜しく言っといて」
フローの意外な表情にクオは少し心配が浮かんだ。クオはフローの仕事の話はしない。悪いことを含めて、おそらく何かを“盗む”のが仕事である。余計なことは聞かなかったが、フローは少し寂しそうに見えた。クオは立ち入ってみた。
「その、大変なのか?」
フローは大人しく笑った。
「城に囚われた“人”を盗む依頼でさ、まぁ、結構大仕事だね」
フローの話し方から、クオは危険が伴うのだと推察した。フローは続けた。
「オレが戻らないかもしれないからさ、クオに今、頼んでもいい?」
「何をだ?」
心配そうにするクオにフローは控えめな声で言った。
「クオからのキスでオレを送ってくれる?」
クオはさっと紅潮した。クオはフローの寂しそうにしていた訳が自分にあることを知り、心が熱くなり恋心の酔いが回った。フローの仕事はもう戻らないかも知れない危ういものだと言う。クオはフローの甘えを受け入れた。
「ああ。……目を瞑ってくれ」
クオは目を瞑ったフローに静かに唇を重ねた。穏やかに、長く心を絡めた。
クオは唇を離して、フローを見た。ふと引き止めたい気持ちが小さく浮かんだ。フローはしばし無言でクオを見つめた。小さな間はフローが遮った。
「サンキュー、クオ」
フローは明るく言った。クオは口ごもりながら小声で心を伝えた。
「すまない、その……、あまり心配かけさせないでくれ」
フローは大人しく笑んだ。
「そだね。また帰ってきたら、クオのワインで乾杯しようぜ」
「ああ、分かった」
クオはため息を吐くように応えた。
朝になり、クオは一人で食堂で食事をした。昨夜はフローと部屋で別れた。クオは食事前にガーラの部屋を訪ねたが、ディアドラが扉を開けて、就寝中の主を示した。
クオは食事を終えると、教会へ行き、一日町の人達に魔術を教えた。集まったお客はだいたい魔術師志望の若者と、魔力のある子どもだった。瞬間移動などの異空間魔術は、感覚的なものなので教えるのが難しいが、クオが見本を見せると、生徒達は喜んだ。
授業は好評で、二三日続けることになった。謝礼は教会の僧侶から受け取った。
夕方、魔術の授業が終わり、クオは宿屋へ戻った。一階の食堂では、ガーラが珍しき品物を並べて商い、町の人達が集まっていた。
ガーラはクオを見つけて挨拶をした。
「あら、お帰りなさい。フローはどこかしら?」
クオはガーラのそばの椅子に座った。
「フローは昨晩、“仕事”に行って二三日帰らないということだ。俺も二三日、この町で講師の仕事を引き受けているから、しばらく滞在するつもりだが……。ガーラもいいか?」
ガーラはクオの様子を見て心配そうに言った。
「ええ、私は大丈夫よ。……」
「何かあったか?」
「クオはせっかくフローと仲が深まったのに、と思ってね。余計なことだったらごめんなさい」
クオは小さくため息を吐いた。そして正直に今日一日の何か重たい気分に目を向けて話した。
「いや、そうか。ガーラの言うとおり、たぶん一理あるな。今日は時間が長いと思っていたが……」
ガーラはクオを思い遣った。
「話なら聞くわよ。夕食の後にでも」
クオは複雑な気持ちになった。今の気持ちはフローに傾いていた。それをガーラに話すのは抑えた方がいいと思った。
「すまないな、ガーラ。だか今の俺の気持ちをガーラに伝えるのは、心が落ち着かないが……」
ガーラは温かい言葉を贈った。
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