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第四十五話 人間の限界
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─北の大森林─
大陸のほぼ半分を占める、北の大森林。
多数の魔獣が生息し、その大半が人類未踏の地。
「gy......」
「gyyyy...」
そんな危険な場所に三人の男女の姿。
男の名前はスズムラ・ジロウ。
女の方はアストルテとミシュール。
「爆炎獄鎖」
三人を囲んでいた黒色の狼型の魔獣、ブラックウルフ数十匹を膨大な炎が包む。
炎が消えると、そこには黒い塊しか残ってはいなかった。
「凄い魔法だな・・・あれだけの数の魔獣を一瞬で・・・」
ミシュールが呟く。
「炎で軽く撫でただけよ」
アストルテが涼しい顔で周囲を見回す。
「もう魔獣はいないようですね」
スズムラが周囲にオーラを発して確認する。
「へえ、それが分かるの?」
「ええ、瞬間的にオーラを放射状に発し、魔獣のオーラで跳ね返った微弱なオーラを感知する事で、だいたい把握する事ができます」
「面白いわね。魔法でも応用できそうじゃない」
早速、アストルテは魔法陣を脳内に構築し、魔法を放つ。
「へえ、便利ね。私もこれから使わせてもらうわ」
「お見事です。さすがですね」
魔法陣の構築式を読み取ったスズムラは、自分の行っている動作と、寸分違わない事を確認する。
「・・・」
「どうしました?ミシュール」
「いや、なんでもない。調査を続けよう」
大森林に足を踏み入れてから、魔獣と連戦続きだ。
さすがのミシュールも疲れているのかも知れない。
「・・・・」
スズムラを先頭に、アストルテ、ミシュールと奥地へ進んで行く。
二人の後ろを歩くミシュールは、二人の奥底にある深淵を覗こうとしていた。
スズムラのオーラは以前にも増して、更に洗練度が増したように思える。全力で放出している訳ではないので、容量に関しては全容が掴めないが、それでも時折見せる片鱗から考えて、総量もかなり増したように思う。
そこに加えて、魔力も随分と増している。
魔力で言えばアストルテは桁違いだ。
先ほど魔法を使う時に魔力の一端が垣間見えたが、下手をすればスズムラのオーラ量に匹敵するほどにも感じた。
魔法学園に来るまでは、魔法など一切使った事が無かったので、魔法使いの魔力量など見る事はできなかったが、戯れに魔法や魔力について勉強している内に、ある程度は扱えるようになり、魔法学園の生徒には遥かに劣るものの、炎の魔法を使う事もできる。
これによって二人の現状を考察する事ができるようになった訳だが、スズムラの魔力量は魔法学園にいる一般的な生徒に、少し劣る程度にまで高まっていた。
フォールガに比べれば5分の1から、10分の1といった程度になるだろう。
アストルテはといえば、スズムラのオーラ量と同じように全容が掴めないほどで、莫大な魔力を有している事は予想できる。
先ほど彼女が使った魔法も、一般の生徒からすればかなりの魔力を消費する魔法だった。
フォールガの生徒でも、一日に何発も撃てるようなものではあるまい。
そんな魔法を使用しても、彼女の魔力量は全く減った様子は無い。
いかに魔力量の桁が違うかが分かる。
ここで湧き上がる疑問がある。
二人は人間が保有できるオーラ量や、魔力量を遥かに超越している様に思うのだ。
千人を越える様々なレベル3や二つ名持ちを見て来たが、この二人ほど桁違いに違う者は見た事が無い。
自分は今も様々な鍛錬を続けており、オーラ保有量は二つ名持ちの中でも、上位にあると確信している。
最もオーラを保有する者と比べても、せいぜいが1%や3%違うレベルだろう。
毎日必死に鍛錬をしても、体調次第では前日よりも総量が少ない事もある。
今まではスズムラだけが桁違いだったので、スズムラだけが特別な、突然変異的な存在だと思っていた。
しかし、アストルテも明らかにスズムラと同じ領域にある。
しかも最初に会った頃よりも、明らかに総量が増えている。
これはつまり、自分が今感じている限界には、まだ先があるという事に他ならないのではないだろうか。
人間の肉体はいくら鍛えても大岩を持ち上げる事ができず、大きな大河を飛び越える事は絶対にできない。
これは肉体が物質的な理によって、限界を決められているからだ。
しかしオーラや魔力は物質ではない。
己の内から沸きあがる"何か"だ。
・・では、オーラや魔力とは何だ?何処から出て来るのだろうか。
────頭の中から?心臓から?内臓から?
「・・・・・・?」
気付くと、真っ白い世界にいた。
少し先には大きな扉が1つ。
「あれはなんだ・・・?」
やけに重厚な、両開きの閉ざされた扉。
その扉を開け放つ。
「・・・・これは」
扉の先に広がるのは、広い草原だった。
草木にはオーラが宿り、空には魔力が満ちている。
何処かで見た事のあるような景色だが、初めて来た場所。
この世には有り得ない場所。
扉を超えたその遥か先には、一人の男が歩いて行く後ろ姿が見える。
「・・・スズムラ」
スズムラが私の声に振り向き、笑みを浮かべた。
「・・ミシュール?」
誰かに呼ばれて現実世界の色が戻ってくる。
「・・・・」
俯いていた頭を持ち上げ、思わず辺りを見回すと、立ち止まった二人が私に目を向けていた。
呼んだのはアストルテか。
「あ、ああ、すまない。ちょっと考え事をしていた」
「疲れているようだけれど、大物が来たわ。注意してちょうだい」
バキバキバキバキ・・・・
木々をなぎ倒して現れた、大型のトカゲ型魔獣、グランド・ドラゴン。
再生能力が低いので準厄災認定されていないが、破壊力だけでいえば準厄災のハイオーガに匹敵する化け物。
「私がやろう」
「大丈夫?グランド・ドラゴンはなかなか手強いわよ?」
二人に余計な心配をかけたばかりだ。
疲れてなどいない所を見せておこう。不安げな表情をアストルテが浮かべたが無視だ。
それに今は、身体が軽かった。
今まで感じた事が無いほど、身体にはオーラが満ち溢れ、グランド・ドラゴンの一挙手一投足が、まるでスローモーションのように見える。
全身にオーラを巡らせる。
草原の気持ちよい感触と風を感じる。
スズムラを近くに感じられる。
今まで見えなかったスズムラの背中が見える。遥か先にスズムラがいるのが見える。
暗闇の中で必死に探していた背中が見えるのだ。
「ははは」
思わず笑みがこぼれる。
グランド・ドラゴンに接近すると、尻尾が横から飛んできた。
「gruuuuu!!!??」
切り飛ばした尻尾が、グランド・ドラゴンの後方に吹き飛んでいく。
「guwoooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
グランド・ドラゴンが全身にオーラを漲らせ、前足を振り下ろしてくる。
ロングソードの柄を握ってオーラを行き渡らせ、姿勢を低くする。
さあ、いこうか。
「・・・ふっ!」
グランド・ドラゴンが間合いに達した瞬間、私は剣を抜き放った。
「go.......」
ボトッ……ボトッ………ボトボトボトボトッ
巨大なグランド・ドラゴンが崩れていく。
細切れになりながら、血を噴出しながら、巨体が拳の大きさに切り刻まれ、肉塊の山が出来上がった。
刃こぼれはおろか、血のりすら残っていない剣を鞘に収めた。
「この通り。私は疲れてなどいない」
二人の元へ歩いて行く。
「何よ。貴女、力を隠してたのね」
アストルテが呆れ半分驚き半分といった表情で迎えてくれる。
苦笑いをしながら、そんな事はないさ、と返す。
隠していた訳ではないからな。
「お見事です。ミシュール」
スズムラが笑顔で迎えてくれる。
これほど彼の言葉が嬉しいと思った事はない。
「ふふ。私はお前の副官だからな」
大陸のほぼ半分を占める、北の大森林。
多数の魔獣が生息し、その大半が人類未踏の地。
「gy......」
「gyyyy...」
そんな危険な場所に三人の男女の姿。
男の名前はスズムラ・ジロウ。
女の方はアストルテとミシュール。
「爆炎獄鎖」
三人を囲んでいた黒色の狼型の魔獣、ブラックウルフ数十匹を膨大な炎が包む。
炎が消えると、そこには黒い塊しか残ってはいなかった。
「凄い魔法だな・・・あれだけの数の魔獣を一瞬で・・・」
ミシュールが呟く。
「炎で軽く撫でただけよ」
アストルテが涼しい顔で周囲を見回す。
「もう魔獣はいないようですね」
スズムラが周囲にオーラを発して確認する。
「へえ、それが分かるの?」
「ええ、瞬間的にオーラを放射状に発し、魔獣のオーラで跳ね返った微弱なオーラを感知する事で、だいたい把握する事ができます」
「面白いわね。魔法でも応用できそうじゃない」
早速、アストルテは魔法陣を脳内に構築し、魔法を放つ。
「へえ、便利ね。私もこれから使わせてもらうわ」
「お見事です。さすがですね」
魔法陣の構築式を読み取ったスズムラは、自分の行っている動作と、寸分違わない事を確認する。
「・・・」
「どうしました?ミシュール」
「いや、なんでもない。調査を続けよう」
大森林に足を踏み入れてから、魔獣と連戦続きだ。
さすがのミシュールも疲れているのかも知れない。
「・・・・」
スズムラを先頭に、アストルテ、ミシュールと奥地へ進んで行く。
二人の後ろを歩くミシュールは、二人の奥底にある深淵を覗こうとしていた。
スズムラのオーラは以前にも増して、更に洗練度が増したように思える。全力で放出している訳ではないので、容量に関しては全容が掴めないが、それでも時折見せる片鱗から考えて、総量もかなり増したように思う。
そこに加えて、魔力も随分と増している。
魔力で言えばアストルテは桁違いだ。
先ほど魔法を使う時に魔力の一端が垣間見えたが、下手をすればスズムラのオーラ量に匹敵するほどにも感じた。
魔法学園に来るまでは、魔法など一切使った事が無かったので、魔法使いの魔力量など見る事はできなかったが、戯れに魔法や魔力について勉強している内に、ある程度は扱えるようになり、魔法学園の生徒には遥かに劣るものの、炎の魔法を使う事もできる。
これによって二人の現状を考察する事ができるようになった訳だが、スズムラの魔力量は魔法学園にいる一般的な生徒に、少し劣る程度にまで高まっていた。
フォールガに比べれば5分の1から、10分の1といった程度になるだろう。
アストルテはといえば、スズムラのオーラ量と同じように全容が掴めないほどで、莫大な魔力を有している事は予想できる。
先ほど彼女が使った魔法も、一般の生徒からすればかなりの魔力を消費する魔法だった。
フォールガの生徒でも、一日に何発も撃てるようなものではあるまい。
そんな魔法を使用しても、彼女の魔力量は全く減った様子は無い。
いかに魔力量の桁が違うかが分かる。
ここで湧き上がる疑問がある。
二人は人間が保有できるオーラ量や、魔力量を遥かに超越している様に思うのだ。
千人を越える様々なレベル3や二つ名持ちを見て来たが、この二人ほど桁違いに違う者は見た事が無い。
自分は今も様々な鍛錬を続けており、オーラ保有量は二つ名持ちの中でも、上位にあると確信している。
最もオーラを保有する者と比べても、せいぜいが1%や3%違うレベルだろう。
毎日必死に鍛錬をしても、体調次第では前日よりも総量が少ない事もある。
今まではスズムラだけが桁違いだったので、スズムラだけが特別な、突然変異的な存在だと思っていた。
しかし、アストルテも明らかにスズムラと同じ領域にある。
しかも最初に会った頃よりも、明らかに総量が増えている。
これはつまり、自分が今感じている限界には、まだ先があるという事に他ならないのではないだろうか。
人間の肉体はいくら鍛えても大岩を持ち上げる事ができず、大きな大河を飛び越える事は絶対にできない。
これは肉体が物質的な理によって、限界を決められているからだ。
しかしオーラや魔力は物質ではない。
己の内から沸きあがる"何か"だ。
・・では、オーラや魔力とは何だ?何処から出て来るのだろうか。
────頭の中から?心臓から?内臓から?
「・・・・・・?」
気付くと、真っ白い世界にいた。
少し先には大きな扉が1つ。
「あれはなんだ・・・?」
やけに重厚な、両開きの閉ざされた扉。
その扉を開け放つ。
「・・・・これは」
扉の先に広がるのは、広い草原だった。
草木にはオーラが宿り、空には魔力が満ちている。
何処かで見た事のあるような景色だが、初めて来た場所。
この世には有り得ない場所。
扉を超えたその遥か先には、一人の男が歩いて行く後ろ姿が見える。
「・・・スズムラ」
スズムラが私の声に振り向き、笑みを浮かべた。
「・・ミシュール?」
誰かに呼ばれて現実世界の色が戻ってくる。
「・・・・」
俯いていた頭を持ち上げ、思わず辺りを見回すと、立ち止まった二人が私に目を向けていた。
呼んだのはアストルテか。
「あ、ああ、すまない。ちょっと考え事をしていた」
「疲れているようだけれど、大物が来たわ。注意してちょうだい」
バキバキバキバキ・・・・
木々をなぎ倒して現れた、大型のトカゲ型魔獣、グランド・ドラゴン。
再生能力が低いので準厄災認定されていないが、破壊力だけでいえば準厄災のハイオーガに匹敵する化け物。
「私がやろう」
「大丈夫?グランド・ドラゴンはなかなか手強いわよ?」
二人に余計な心配をかけたばかりだ。
疲れてなどいない所を見せておこう。不安げな表情をアストルテが浮かべたが無視だ。
それに今は、身体が軽かった。
今まで感じた事が無いほど、身体にはオーラが満ち溢れ、グランド・ドラゴンの一挙手一投足が、まるでスローモーションのように見える。
全身にオーラを巡らせる。
草原の気持ちよい感触と風を感じる。
スズムラを近くに感じられる。
今まで見えなかったスズムラの背中が見える。遥か先にスズムラがいるのが見える。
暗闇の中で必死に探していた背中が見えるのだ。
「ははは」
思わず笑みがこぼれる。
グランド・ドラゴンに接近すると、尻尾が横から飛んできた。
「gruuuuu!!!??」
切り飛ばした尻尾が、グランド・ドラゴンの後方に吹き飛んでいく。
「guwoooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
グランド・ドラゴンが全身にオーラを漲らせ、前足を振り下ろしてくる。
ロングソードの柄を握ってオーラを行き渡らせ、姿勢を低くする。
さあ、いこうか。
「・・・ふっ!」
グランド・ドラゴンが間合いに達した瞬間、私は剣を抜き放った。
「go.......」
ボトッ……ボトッ………ボトボトボトボトッ
巨大なグランド・ドラゴンが崩れていく。
細切れになりながら、血を噴出しながら、巨体が拳の大きさに切り刻まれ、肉塊の山が出来上がった。
刃こぼれはおろか、血のりすら残っていない剣を鞘に収めた。
「この通り。私は疲れてなどいない」
二人の元へ歩いて行く。
「何よ。貴女、力を隠してたのね」
アストルテが呆れ半分驚き半分といった表情で迎えてくれる。
苦笑いをしながら、そんな事はないさ、と返す。
隠していた訳ではないからな。
「お見事です。ミシュール」
スズムラが笑顔で迎えてくれる。
これほど彼の言葉が嬉しいと思った事はない。
「ふふ。私はお前の副官だからな」
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