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49.人狼の呪い

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 日付が変わり、朝になっている。

 僕は得体の知らない培養液の中に入り、まっすぐ前だけを向いていた。
 僕の前には、唯香が培養液の壺の上の木蓋に突っ伏して眠っていた。

 可愛い寝顔だな。
 両手を動かして彼女を撫でたいと、そんな考えを持ち身体が動いた。

 木蓋を開けて、彼女に触れることができた。

 今まで欠損していた左腕が完治していた。
 利き手で彼女の髪を撫でて、左手で彼女の頬をつついた。

「唯香。おはよう」

 少し唯香は寝ぼけているみたいだ。

「ん?  拓郎君、おはよう」

 唯香は、まだ眠いのか両目を擦っていた。

 しばらくして、唯香は頬に僕の指が触れていることに気づいた。

「拓郎君、治ったんだね。
 よかった……」

「うん、おかげさまでね。
 唯香が僕の相手をしてくれたから、退屈せずにすんだよ。
 ちくしょう、金子のヤツはあれからきてくれなかったぞ。
 薄情なヤツだ……」

「拓郎君、金子君は大切な用事があったから。
 そう言わないであげて」

「あー、そうなのか。
 わかったよ。
 それじゃ、唯香……そっちの部分の木蓋も開けるから、【医者】の部屋に動いてくんない?
 培養液には裸で入ってるからさ……。裸を見られるのは流石に恥ずかしいや」

「うん、わかった。
 薮さんとの所で待ってるね」

 唯香は、一人でこの部屋から出て行った。

 僕は、培養液の木蓋を開けて階段状になっている道を通り、培養液から出てきた。
 培養液が身体中から滴り落ちていた。

 僕は自分の両手を確認して、裸のまま柔軟体操を行った。

 よし、大丈夫だ……違和感も痛みもない。
 無事に治療が済んだみたいだ。

 そのことに、ホッとした僕は身体から培養液を拭き取り用意していた着替えに着替えて二人が待つ診察室へ移動した。

 薮さんの診察室には、部屋の主の薮さんと唯香と金子が僕を待っていた。

 僕は利き手ではなく、治療したばかりの左手で手を挙げて挨拶をした。

「おはよう」

「人吉、左腕の治療おわったんだな」

「あぁ、おかげさまでな。
 金子もなんか、用事があったんだろう。
 お疲れさん」

「あっ……」と、唯香が口ごもる。

 二人の表情が曇ったので二人に確認をとった。

「ん?  昨日、何があった?」

「す、すまん。
 オレの力不足でオマエを救えそうにない」

「えっ?  なになに?
 何があったんだよ?」

 僕は、三人から事の一部始終を聞き全てを理解した。

「えーっと、つまり僕が処刑位置?
 うーん、そうだろうね。無投票が多かった時点でそんな気はしてたよ。
 まぁ仕方ないかなぁ。
 ゲームマスターも嘘は言ってないからな。
 僕も最終日まで、唯香を守れればいいと思ってたからさ」

「拓郎君、今すぐ【人狼】の報酬で脱出してよ!!」

「そうだ、わざわざオマエが殺される必要はない」

「残念ながら、それは出来ない相談だな」

「な、なんで?  拓郎君が死んじゃうんだよ?」

「僕はキミだけは絶対に守るって言っただろ?」と言って、僕は唯香の頬を指でつついた。

「僕が脱出したら最後に市民班の連中、特に男子が唯香を標的にしてくる。
 現に、ロクでもないヤツに絡まれたんだろ。
 あと一日あったら襲撃でソイツを殺してやったのにな。
 僕一人だけ逃げた挙句に、唯香が他の男に襲われて殺されるなんて想像したくない。
 それなら、僕が素直に処刑位置に上がるよ【人狼】だしな」

 ……と、僕は全てを理解して三人に伝えた。


「それでさ、唯香。
 今日で最終日だから告白の答え聞かせてもらっていいかな」

 ……
 …………

 少しの沈黙が流れた。
 外野の二人も僕達を見守っているようだった。

「うん!!  拓郎君の事、大好きだよ」と言って、彼女は僕に抱きついてきた。

「うん、ありがとう。
 最後に返事が聞けてよかったよ」と言って、僕は彼女に唇にキスをした。

 そして、いつも通りの空気を読まないアナウンスが入った。

「はぁーい!!  皆さんおはようございまーす。
 今日で最後の会議を始めますよー!!
【市民】・【人狼】共に、教室に集まってねー!!」

 ピエロ男のアナウンスなど、無視するかのように2名が声を出していた。

「いいなぁ……彼氏……私もこんな風に守ってくれる彼氏が欲しいな」

「いいよなぁ、……彼女……オレをこんな風に慕ってくれて守りたいって思える彼女が欲しい」

 同じような発言を同時にした薮と金子は顔を見合わせていた。

「えーっと、薮さん……オレと付き合ったりしてみないか?」

「そうね、元の世界に帰ったら。
 考えさせてね」

 僕ら二人がキスしている間に、なぜか恋人が新たに誕生していた。
 キスを終えた僕達は二人の様子を見て、笑っていた。

「僕も、無駄死にするために昼の会議に行くんじゃないし。
 全力で争ってみせるよ」

 そして、僕達は昼の会議が行われる教室へと向かった。

 教室に到着し、僕は空いた席へ着席した。
 そして、明らかに僕に対する視線が冷たい事を身体全体で受け止めていた。

 フーン、こういうことか。
 明らかに、ダンジョンへ向かった前日とは雰囲気が違っているな。

 この流れなら……
 さっさと進行を進めて処刑無しに強引に持っていくか?

「僕としては、昼の会議を始めてもらうのは構わないが……
 最深階まで達成が済んでいるんだし、 昼の会議、自体必要がないだろ?」

「最初に言っておくわね。
 探索班のみなさんお疲れ様!! おかげさまで無事に最深階まで探索が終わって、皆で元の世界に戻れるわ」

 ……と、わざとらしく花田は僕達に向けて言ってきた。

「そうだろう。  
 それなら、探索班に感謝を込めてさっさと会議終わらないか?」

「それとこれとは話は別よ。
 私達はよく考えたのよ、野瀬さんが殺された時にゲームマスターは言ってたの。
 元の世界に戻ったから願いを叶えたってね。
 本来の願いと形こそ違えど、彼女は有名になったんじゃないの?」

「花田さん、なんか言い方にトゲがあるよね?
 何が言いたいわけ?」

「私達は逃げ損ねた【人狼】を処刑さえすれば……
 二つ目の願いで元の世界への帰還を願えば、一つ目の願いが叶うって話よ」

 うわぁ……
 あからさまに私欲に走ってますって表情に出てんな。

「ふーん。
 僕は君達みたいなクズを守るタメに、僕は力を尽くしてたんだな」

「ふざけるな、人殺し!!」
「彼氏を殺された、花田さんの気持ちがわかるか? この腐れ外道!!」

 ……などという、僕に対する罵声が様々飛んできた。

「へぇ……
 市民班ってさ、僕に感謝さえしてないの?
 都合良すぎじゃない? 」

「そうだぞ!!  元勇者達が市民班に何してくれたって言うんだ!!
 人吉が、稼いできてくれたからオレらは生活できたんじゃないか。
 そこのバカ女の言う事を真に受けて聞いてんじゃねーよ」

「バカ女って酷い事言うね金子君。
 あなたも人狼に毒されちゃったの?」

 金子を小馬鹿にしたように花田は言った。

「もう、結果はわかってるの!!」

「じゃあ、僕がみんなを今まで生き残らせてたんだ。
 死なせるのも自由でいいよな?」

 ……と、ラチがあかなかったので僕は臨戦態勢に入ろうとした。

「ゲームマスターさん、大事な会議を暴力で片付けようとすると 【人狼】達がいます。
 力を貸してください」

 花田は、演技めいた台詞をピエロ男向けに発言した。

「はーい、ゲームマスターですよー。
 ダメだよー会議の妨害したら。 メッ!!  だよ」

 暴れようとしていた僕と金子に対して、行動不能の状態異常を強制でかけられた。

 まぁ……これも予想してたな。
 ここまでやられると流石に詰んだかな。

「おい、ピエロ男!!  僕がここで人狼の報酬で脱出を希望したらどうなる?」

「え?  そんなことしたら。
 君の大事な彼女が酷い目にあって死んじゃうよ?
 あっ、だけど市民班のみんなも、脱出はできなくなるね。
 それに君の望みはそんな事じゃないんだろう?」

 その通りだ……僕の望みは二つ書いてある。
 僕が無事に脱出できた場合と、今のように処刑されてしまう場合だ。

「願いも悪い方が来ちゃったんだな」

「大丈夫だよ。
【人狼】君の願いは、このゲームが終われば必ず叶えてあげるから」

「人吉。アンタ達は何のことを言ってんのよ?」

「僕はこの展開を探索に出る前から予想してたって話だ。
 文字通りにお前らクズどもに【呪い】をかけてやるよ。
 僕の処刑に挙手するのなら、その覚悟を持てよ市民班」

 僕が、全員を脅すように言った。

「ハッタリよ!!  
 そんなの全員が元の世界へ帰りたいって願いをかけば関係ないじゃない」

 この程度の脅しじゃ、押さえ込めれないか?

「それじゃ、僕の一つ目の願いは【お前達を皆殺しにするチャンスをくれ】という呪いだ。
 この呪いなら、お前らが帰還したいってのも叶うかもな」

 僕が投函した手紙には、

【僕を処刑しなかった人間だけ、元の世界に帰還させてほしい】

 ……と、二重で呪いをかけているのだ。

「全ては教えてやらないさ。
 お花畑にならず、自分でよく考えて投票するんだな。
 無投票は許可しない!! 僕を処刑するか、しないかの二択だ!!」

 生死かけた運命の投票が始まった。
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