気付くのはいつも遅すぎて

横田碧翔

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 駅の改札を出ると、すぐ目の前にマックがあり、そこに入った。
「好きなもの頼んでいいよ。私バイトもしてるから遠慮しなくていいからね」
好きなものと言われても、女子に奢ってもらうだけでも肩身が狭いのに、相手が相手なこともあって注文に悩んだ。とりあえずチキンクリスプをお願いする。
「わかった。先に席取って座ってて。」
もう考えるのはやめた。言われた通りに席に向かう。もし誰か来ても見つかりにくいように、2階の1番端の席を取った。
「お待たせ。なかなか見つからないから帰っちゃったかと思ったよ。」
そう言って彼女は微笑む。初めて笑顔をみた。今までの不気味な印象とは対照的に、えくぼがかわいらしい笑顔だった。
「ごめんごめん。見つかったら恥ずかしいかなと思って」
自分のことを棚に上げて、相手を気遣った風を装う。
「私は全然いいけどね。そりゃ見つかりたくないよねごめんね。」
不気味だからといって、適当な態度をとっていたが、真剣に向き合おうとしてくる彼女に、なんだか申し訳なくなった。
 それから改めて自己紹介をして、学校のこととか、部活のこととかいろいろ話した。話してみると意外と気さくで、驚いたり笑ったりして、意外にも感情豊かな性格だった。結局、1時間以上も話してしまった。
「結構時間経っちゃったね。30分って約束だったのにごめんね。」
「いや、俺も楽しかったから。てゆうか本当にありがとうね。おかげで元気でたよ。」
「そっか!それはよかった!」
そう言って今日1番の笑顔を見せてくれる。優しくニコニコ微笑む美紀とは全然違うけど、楽しそうに歯を見せて笑う彼女の笑顔も素敵だと思った。
「俺にさ、今度は俺が奢るよ。来週の今日とかどう?」
「嬉しい!」
「じゃあそれで。食べたいものは考えておいてね。」
「分かった!」
そんな会話をしてる間に駅についた。彼女は裕也とは逆方面のホームに向かう。
「あれ?そっちなの?」
「うん。さっきは裕也くんが見えたからこっち方面に乗ってみただけ!また明日学校でね!」
そう言って、手を振りながら階段を降りていった。裕也は黙ってその姿を見つめていた。
 帰りの電車の中で今日のことを振り返る。出来事がありすぎてかなり疲れた。朝は別れたことをいじられ、席替えは最悪。そして放課後は、わけのわからない女子とマックで談笑。そこまで振り返って、彼女の笑顔を思い出す。初めて面と向かってみると、綺麗な白い肌に黒いストレートヘアがよく似合う子だった。そして、暗い印象とは正反対の明るい性格というギャップが可愛かった。別れたばかりで何を考えているんだろう。いや、別れたばかりだから人恋しくなっているのだろうか。寂しいときに声をかけられて嬉しかったから楽しかったのだろうか。それを確かめるためにも、1週間後という日にち設定は我ながらいいチョイスだと思った。
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