BURSTERS

いかみりん

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轟雷攻略戦

対峙

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「(さっきの女声すっごい恥ずかしかったな…)」
戦闘区域へと走りながらそんなことを思った。イリヤの説得をしていた時、彼は直接自身の身体を動かせた訳ではなかった。しかし、外側・・から自身をみている様な形で先の出来事を認識していた。急にギアが発動したと思ったら意識を文字通り奪われ変な(正直かなり好きな声ではあったが)声で喋り出されその上イリヤ達との空気感が悪くなってしまった。
「あの人、もっかい出てくんないかな?」
それとなく呟いてみるが右腕のギアは静かな駆動音を発するだけである。
「なんだかなあ…」
「あー、聴こえるか~?願わくば聴こえてて欲しくはない~」
耳元から気だるげなイリヤの声が聴こえる。レイのターンの時に三中から渡されたインカムからだ。
「残念だけど、聴こえてる。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
とても大きなため息をつかれた。なんだか罪悪感がうまれる。
「な、なにようでしょうか?」
謎の緊張からおかしな口調で聞いてしまう。
「お前が今から倒す相手、そいつまでのナビゲートを不本意ながらさせていただく。」
「1回しか言わないからな。まず、200m直進、角を右に曲がって30m直進十字路に出るからそれを左に100m。そしたら現場。はい終わり。」
「あ、ちょっ!」
一方的に言うことだけ言って通信は切れた。
「第一印象と大分違うな…」
そんなことをぼやきながら言われた通りに進んでいく。
「…えーと?これが十字路か。」
ギアの恩恵もあり直ぐに十字路まで着いた。
「これをひだ…っ!」
左を向いた瞬間、凄まじい殺気を感じた。今時、殺気などという曖昧な定義は過去のものとなっているがこれは殺気以外に表しようがない。そして純粋だ。ただ、何かを殺す。殺す。それだけの感情。
「…」
今まで無意識に出ていた独り言も身を潜め、走ることもせず、ゆっくりと進んでいく。
徐々に、なにか・・・のシルエットが見えてきた。それは人間を大きく逸脱していた。近づくにつれ細部が明らかになってくる。すると、ある事が分かった。
「…ぐっ!」
そのなにか・・・の足下には、腹を抉られた人間の死体が横たわっていた。それだけでなくその死体を、なにか・・・が喰っていた。
竜一は思わず身を引いてしまう。その時鳴った足音でこちらの存在がバレてしまったようだ。なにか・・・がこちらへ首を向けた。そして、一気に距離を詰めてきた。
「ぐぅぅ!」
辛うじて右腕で受けることに成功し、ダメージほ少ない。しかし、その巨躯からは想像できない速さである。
「(どうする…?)」
一瞬の内に仮の計画を立てる。これは竜一の得意とすることだ。
「とりあえず…!」
まず、戦闘を行うためにギアを展開する。その間にも「なにか」は攻撃を加えてくる。ギアの展開を終え、A-T.W.を起動させつつ「なにか」を殴る。そして現実世界に被害を与えないよう小規模の亜電子フィールドを展開、構築する。
「よし…やるか!」
足に力を込め、翔ける。何かが爆ぜたような勢いで「なにか」に向かい右腕を構える。構えた右腕は形態変化をしていく。後部にブースターを、前腕部に超大型パイルバンカーを構築。翔けた勢いのままそれを叩きつける。
「おるぁ!」
ガゴォンという金属がぶつかりあった様な音を立て、杭が「なにか」にめり込む。その勢いのまま「なにか」は大きく吹き飛んだ。
「やったか…?」
土煙でよく見えないが、巨大なシルエットは動いていない。撃破を確信し、ギアを解除しようとした瞬間、「なにか」が飛びかかってきた。その、右腕に生えていた、湾曲した爪が、
竜一の身体を、貫いた。
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