セントラルオンライン

花見団子

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ようこそ、セントラルオンラインヘ

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これは始まりの詩。
星が暗闇に包まれ、闇の落し子蔓延る混沌の時代より遥か昔、星が輝き光に満ちた時代。
そこでは星の霊と光の子ら、古き民が明かりを灯し始祖の竜と共に文明を築いていた。
始まりの文明、後にプロメテウスと呼ばれるものである。夜も煌々と輝くその都市は、正に「始まりの火」であったという。
だがその明かりは途切れることとなる。
突然、星の外海より船が降り立ったのだ。
船から現れたのは無数の獣だった。
その獣達は彼らの文明に牙を向いた。
最初に現れ、最初に国を滅ぼしたのは無数の剣を抱く獣だった。彼の身体からはありとあらゆる聖剣、宝剣、魔剣の原点が生み出され無限に撃ち込まれる。盾は貫かれ鎧は砕かれ、民たちは塵となった。
次に現れたのは七つの冠を持つ獣だった。
都市を喰らい未来明日への礎を崩し、冒し消した。
そして最後に現れたのは炎を纏う不死の獣。
彼はありとあらゆるものを比べ、比べ、考え抜いた結果、古き民達に協力した。
彼は他の獣達が行っていることを悪とし獣たちに牙を向いた。
星の霊と民達は炎の獣と共に外の獣達に立ち向かった。
神々も己の権能を用い彼らに協力した。
だがそれでも、剣の獣や七冠の獣には歯が立たなかった。如何なる剣も、槍も、雷も炎も獣達には傷を付けることも叶わなかった。
人々はなすすべもなく蹂躙され、最後には最初の文明プロメテウスの光を失った。
それでも生き残った者はいた。
後に、原初の三神と呼ばれることになる英雄「マルドゥク」である。
彼は己に始祖の竜を下ろし、その力を持って獣に立ち向かった。
だが完全に討伐することが出来たのは七冠の獣のみだった。
剣の獣は始祖の力ですら討伐することは叶わなかった。
だからやむなく英雄マルドゥクは剣の獣を大地の奥底、永遠の穴に封印した。
その後彼は生き残った者たちを集め国を起こし大陸に文明を築いた。名を共に獣に立ち向かった獣の名である「メルポミア」とした。
その後彼の優れた統治のおかげで人々は平和に過ごすことが出来たという。

ーーーーーーーーーー「メルポミア建国記・始まりの詩」より



「だが彼の封印も完璧では無かった。何故かって?たかが人NPCの身に始祖の竜の力は扱いきれない。」
無数の電子の書架に囲まれた机で開発者観測者は独り語る。
誰と語るでもなくキーボードと画面に向き合い最後の調整を続けていく。
「獣は今も生きている。封印は弱まり世界に獣の落とし子が溢れ始める。」
そう、開発者が用意した救済手段始祖の竜は上手く扱えていなかった。否、そもそも扱わせる気すらなかった。
そう設計されていた。
「そしてこれが最後の要素だ…あとは異世界人プレイヤーの自由だ」
そう言って彼は最後のピースを世界に打ち込む。ジョブとレベルというNPCもプレイヤーも人から外れいずれ現れる剣の獣ラスボスへ立ち向かう手段を追加する。

「さて、そろそろサービス開始だ。せいぜい楽しめよ、自由なるプレイヤー諸君」
あと一ヶ月でこの異世界ゲームはサービス開始となる。
名前を【セントラルオンライン】という。






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「【セントラルオンライン】いよいよ大型アップデート、か…」
少年は自室で機材の準備をしながら、先程読んだネット記事の名前を思い返す。
セントラルオンラインはサービス開始時はそれ程人気があったわけではなかった。なんというかお世辞にも良い出来だとは言えなかったのである。
グラフィックは少し粗く、内容も他に発売された完全没入ゲームと似通ったものであったからだ。
だがその後行われたアップデートで見違えるほど評価が変わった。まずはグラフィックの変化である。まるで現実と遜色が無いほどに向上した。その後嗅覚、聴覚、味覚等へ情報を送るシステムの改良により、これもよりリアルな物になった。そして極めつけはNPCである。今までは良くも悪くもNPCであった彼らは、アップデートを堺にまるで本物の人と話している、と感じるほど高度な人工知能を搭載したものになった。
その結果、まるでと感じるほどになった。それからは短期間でプレイヤーが急増し、一度サーバーが落ちたがそれからは落ちることもなく2年が経っていた。
その2周年に合わせたアップデートで実装されるのは【超級ジョブ】である。どうやらかなり難易度が高いらしく超級ジョブの前段階、上級ジョブや特殊ジョブに到達しているプレイヤーですら記事を読んで口を揃えて「これは無理だろ…」と言ったらしい。
受験を終え高校に進み、ようやく始めることができる自分にはまだまだ遠い話だな、先は長いとため息を付きつつようやく【セントラルオンライン】のダウンロードが終わった椅子型のハードに腰掛けた。
肘掛けのスイッチを押すとだんだんと意識が遠のいて行くのを感じる。
いよいよ、待ちに待ったログインの瞬間である。


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『ようこそ、セントラルオンラインヘ』
どことなく無機質な女性のアナウンスで目が覚める。周囲は暗く、目の前にはコンソールと台座がある。
『コンソールを操作し、ゲーム内でのアバターを作りましょう』
アナウンスに従い、コンソールを触ると性別や年齢、体格、種族など様々な項目が表示される。
「えーと、性別は男で…年齢は…15歳で良いか。身長は……」
体格はなるべく現実の自分に近づけたほうが良いらしい、等と先輩からのアドバイスを思い出しながらキャラクリエイトを続けていく。
それから5分程して完成したのは、中肉中背、平凡な顔立ちをした黒髪の少年だった。種族はもちろん人間にした。
『次に初期クラスを設定してください』
初期クラスは「ファイター」「レンジャー」「メイジ」の三種類から選べるようで、ここから様々なクラスに派生するらしい。
なんとなく初期武装がナイフのレンジャーを選ぶことにした。衣装が軽装で動きやすそうだったからである。
『それでは名前を決めてください』
名前……名前………
「じゃあ、キジマ…と」
最後にひと通り確認し直し登録のボタンを押す。
『登録完了しました。ようこそキジマ様。この世界をお楽しみください』
そのアナウンスを最後に、視界が再び暗転した。


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