きっと僕には、昨日の僕が住んでいる

三澤 透一

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幼なじみさん

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 一時間目から六時間目まで、寸分の狂いもなく、予想通りにつまらなかった。
途中でなんどか、彼が話しかけてくることがあったが、それもまた予想通りに、会話は弾まなかった。弾まなかったというか、言葉のキャッチボールができなかった。これまた彼には悪気がないだろうが、彼の球はすべてが豪速球で、かつ一度に何度も投げるものだから、僕に捕れる球がひとつもなかった。僕に唯一聞き取れたのは、彼が嬉しそうに話すハルノさんのことだけだ。それに反応して言葉を返すと、彼が照れてしまってあまり会話が続かないので、やっぱり会話は続かなかった。彼にはほんの少しだけ申し訳ないことをしたかもしれない。
 六時間目まで終わって雑多と残る用事もあらかたすませた。つまりは現在放課後。あいにく僕は仲間と共に切磋琢磨できるほどの才能があるものはひとつも無いので、部活には所属していない。足早に学校を去りたいところではあるのだが、今日はやることがまだひとつ残っている。僕は図書館へと足を進めた。
「これ、お願いします」
「はーい、ちょっと待ってね」
 今日読み終わった本を返却して、また新しい本を借りる。図書館の使い方の基本中の基本。僕もまた例に漏れずその基本の一員だ。いつも教室でひとりでいるためには、隠れ蓑が必要不可欠だ。本はその蓑にちょうどいい。
「はいどうぞ、分かってるだろうけど、一週間以内にはちゃんと返してね」
「あぁ、ありがとう」
 本を受け取りそそくさと退散しようとすると、突然首根っこをつかまれる。
「ねぇねぇ、最近宮田とどう?なにか情報ないかな?」
 僕はこの一瞬で話が長くなることを理解した。彼女は彼の幼なじみさんだ。クラスで余った委員会を自分で受け入れて図書委員になったらしい。彼も彼女も清々しいほど聖人である。僕も見習いたい。いや、やっぱり遠慮しておこう。僕が彼らに近づいていったら浄化されてしまうかもしれないし。
 やはりもいうか、彼女も彼に似て底抜けに明るい性格をしている。彼に影響を受けたのか、それとも彼が影響を受けたのか、もしくは二人とも生まれつきか、それは僕には分からないが、一つ確かに言えることは、この話になると確実に面倒くさいことになるということだ。彼女は、絶賛彼に片想い中だ。彼も彼女も、間違いなく片想いではないのだが、本人達が片想いと言っていたので、とりあえずそういうことにする。もうこの時点で面倒くさいのだが、ほんとに面倒くさいのは次だ。
「特になにもなかったよ」
「えー、じゃあさ!今日は何話したのかだけでも教えてよ!」
「何もなかったんだって」
 僕はクラスメイトの中で、彼と最も仲の良くない人物といっても過言ではない。仲が悪いわけでは無いのだけれど、いかんせん会話が続かなければ、なにか共通する趣味もない。では、なぜ彼女が僕に彼のことを聞くのかと言えば、彼と彼女が明るいからだ。彼は、あまり仲良くない僕と仲良くなろうとしてくれているのか、他の人より多めに話しかけてくることが多い。それで、それを知っている彼女は、一週間に一度僕が本を借りに来るたびに、彼の話をこぞってするのだ。とはいえ、何度もいうが彼と僕は会話が続くことが全くと言っていいほどないから、彼女に与えられるような情報は
これといってない。別に彼が君の話をしていたよ。とでも言っておけばいいのかもしれない、嘘はついていないし。でもそんなことをした日には彼女に茶化すなと怒られ、ついでに次の日には彼に、なぜ言ってしまったのかと怒られることは避けられない。彼に怒られることは問題ないが、彼女に怒られるのは正直避けたい。本が借りにくくなるかも知れないし、彼女は女子にしては身長が高いほうで、しかもかなり凛々しい顔立ちをしているので、正直恐い。彼女に怒られた次の週は、借りやすくても借りにくくてもどちらにしろ、僕は本が借りられなくなる。それくらい僕は彼女が恐い。明るい性格なのは分かっているし、彼が惚れるほどには優しいひとなのだろうとは思っているのだけれど、やっぱりあの猛獣のような瞳で見られると、草食動物の僕は萎縮してしまう。
「もう、じゃあ何かあったら絶対教えにきてね!絶対!」
「あぁ、分かったよ」
 数十分の時を経てようやく猛獣の餌から解放された。解放というのか一時の自由というのかは人それぞれである。ちなみに僕は仮釈放だと思っている。だってまた本借りに行くし。彼と何かあるときは一度もないだろうな、と思いつつも良い返事だけしておいて、草食動物は猛獣の檻から逃げ出したのだった。
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