とある世界の日常録

雅楽と化す

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とある豚子鬼と強者の遭遇。

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今日も人間が襲撃に来た。
来る日も来る日も飽きずに襲ってくる。
俺達の集落にどかどか入り込み、同胞を殺そうとして来た。
同胞が一人死んでしまった。だが奴ら5人のうち、2人を殺すことができた、残り3人も深い傷を付けてやった。
当然の報いだ。
だが俺達の戦士にも傷を負った者がいる、薬になる葉もじきに無くなる。
この集落の隊長として、薬の葉を取りに行かねば。
「オイ、薬ノ葉ノ在庫ハ?」
「ハイ、アト一人分シカアリマセン。ドウシマショウカ?」
「俺ガ取リニ行ク。」
「ワザワザ隊長ガ行カナクテモ、取リニ採取班ニイカセマス。今アナタガイナクナッテハ……!」
「ダカラダ。コンナ時ニコソ、俺ガ率先シテ行動シ、士気ヲアゲ人間ノ侵攻ニ備エルベキナノダ。」
「……ハッ、分カリマシタ。アナタサマノ仰セノママニ。」
そして護衛を2人付けて俺は近くの森へ足を踏み込んだ。

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運が良かった、薬の葉が群生している。これなら負傷した戦士達全員を手当できる。
俺は護衛の2人に薬の葉が入った袋を持たせ先に拠点に帰らせた、彼らも熟練の戦士、2人でも大丈夫だ。
俺も太古の獣の骨を使って作られた〔古獣骨ブタブリン闘槍〕を持っている、それに俺自身もレベル最大の“大戦士”だ。
よほどの者が出ない限り負けることはない。
俺も帰ろうか、そう思い帰路についたが背後に悪寒が走り横に飛び退いた。
その瞬間俺が居た場所に大きな影が居た、だがすぐに土煙で掻き消される。
土煙が晴れた時、俺が見た影の正体が分かる。
獅子の頭に捻れた二本の角、鍛え上げられた身体に馬のような下半身。知恵をもつ者のなかでも最強と名高い獣人、レオタロスだった。
「レオタロス……。何故コンナ所ニ……。」
俺はそう呟いた、独り言のように吐いた言葉に返事が帰る。
「私は強い。お前よりもずっと、ずっとな。私は、強いんだ。お前を倒し私はもっと強くなる。」
猟奇的な笑みを浮かべ奴は自分の武器を構え攻撃を仕掛けてくる。
「クソッ!ヤルシカナイノカ…。」
俺も攻撃に対応するため槍を構えた。

凄まじい速度で振り下ろされる鉄塊のような奴の大剣は、その速度と重量でまるで旋風が吹き荒れたように風を生み出す。
何とか槍でまともに受けないように逸らしているが、恐ろしい力だ…!
「ハハハ!どうした?お前があの中でも一番強そうだったぞ?もっと力を出せよ?」
奴がそう煽ってくる、確かに我が集落の中では俺が一番強い。
だが俺は所詮ブタブリン種、奴のようなレオタロスではない。この世界は種族による差が激しい、上位の種族には下位の俺達など障害になどならない位だ。
「クッ……!」
それでも俺が戦えているのは俺の種族がオーガブタブリンだということと、この〔古獣骨ブタブリン闘槍〕のお陰だ。
古代の獣の骨はとても硬い、魔鉄と同等の硬さらしい。そのお陰で奴の攻撃を受け流すことができている。
「何故オマエホドノ強者ガ俺と闘ウノカ?」
「何故かって?戦えそうな相手がいれば闘うのが礼儀だからだ!」
奴がそう言い放つ、その間にも連撃を叩き込まれる。
闘いこそが礼儀?本当にレオタロスは武闘派らしいな。闘えれば何でもいいのか…。
「グギッ……。」

だが、取り敢えず集落からは引き離せそうだ。このまま集落から反対方向に行けば-------------
「ミテミテ!キレイナオハナ!」
「ワー!カワイイー!スコシツンデコ!」
ッ!子供達がっ!
「オイッ!オ前達!早ク集落ニ逃ゲロ!」
「ア、タイチョーダ!オーイ!」
「ウシロノコ、ダァレー?」
子供達が近づいてくる、直ぐ後ろにはあいつがいる。
この子達を助けなければ隊長のなど何の意味もないっ!
「ワッ!」
「ウワッ!」
ザンッッ!
「グッ………」
奴の攻撃をまともに受けてしまった。血がドクドクと背中を流れる感触が伝わる。
「タイチョー!」
「ダイジョウブ?タイチョー………」
良かった、子供達は無事だ。ケガも無いらしい。
「グギギ…オ前達、怪我ハ無イカ?」
「ウン、タイチョーノオカゲデ。」
「ケドタイチョーハ…?」
「ハハハ…大丈夫ダ。ダカラ集落ニ早ク帰ルンダ。」
「ウン、ワカッタ。」
「キヲツケテネ。」
まだ子供でもブタブリンの本能で危険と分かったんだろう。聞き分けがよくて助かる。
「……だ…。」
「ナンダ…?」
奴が何か言っている。
「何故だッッ!何故、そのような弱き者を助けるッ!?何故だッ!答えろッッッッ!!!」
奴は今しが俺がした行為の意味がわからないようだ。
「何故、カ…。ソンナモノ、聞カレルマデモナイ。弱キヲ助ケ、強キヲ挫ク…。ソレガ俺ノ、信念ダ!」
そう言い放った、が……。俺は倒れこんだ。限界だった…。
奴は何故か此方をじっと見ている…。あの子供たちは逃げ切れただろうか…。
意識が薄れていくなか、微かにヤツノ声が聞こえた。
「……気に入った。」
その言葉の意味を考える前に俺の意識は闇に消えた。

……
………

~~~~~~

「………ココハ…?」
「目が覚めたか。」
目が覚めると見知らぬ洞窟の中だった、そして俺の横にはあのレオタロスがすり鉢で何かを擦っていた。すぐ横だったので奴は直ぐに気付き、こちらに体を向けた。
「もう起きたのか、まだ薬が出来ていないというのに。」
薬?何故敗者の俺にそのような施しをするのか?気づけば言葉に出ていた。
「薬…ダト……?ナニヲ、言ッテルンダ…?」
「?何って、お前を治療しようとしただけだ。」
ますます意味がわからない、まずする意味も利益もない。その疑問に答えるように奴は言った。
「私はお前を気に入ったんだ、だからお前は私の相棒になれ!」
俺が、こいつに、気に入られた?何の冗談か………。自嘲気味に心の中で笑ったがこいつの真っ直ぐな目を見ると冗談なんかじゃないことぐらい分かった。
だが…………。
「オ、オマエハ俺ヲ治療シタラ、ドウスルンダ?」
「勿論旅に出るのだ、更なる強者を求めてな。当然だがお前も行くんだぞ?」
やはりか、レオタロスは自分が強くなるため必要最低限の知識を教え込まれたら各地を放浪するが、こいつも例外ではないか…。
「いやぁ、何故だか血沸き肉踊るワクワクするなぁ!こんなに嬉しいことは久しぶりだな!早く旅に出たいものだな!」
「……スマナイ。」
「なんだ…?何を謝るんだ?別に何もお前はしてないだろう?」
「俺ハ、コレデモ集落ヲ任サレテイル身。アソコカラハ、離レラレナイ。」
言い終えた。あんなに心が弾んでいた様子のこいつは暫く硬直し、悲しそうに俯いた。勇ましさを感じさせた鬣も心なしかゲンナリとショボくれている。
「…そうか、私との旅は嫌だったか」
「イヤソウイウ事デハ」
「少し私は浮かれすぎていたようだな、すまなかったな」
「ダカラ、ソウイウ…」
「いや、大丈夫だ。うん、お前は、自分の居場所へ、帰れ。わ、私は、もう、行く」
そう言うとあいつは俺に背を向けて、立ち上がって洞窟の外へ出ていこうとする。だが、その後ろ姿に覇気はない。身体は震え、活力も無くフラフラとした足並みで遠のいていく。
俺はそんなあいつを見て無意識に手を掴んだ。
「落チ着ケ、オ前ガ嫌イナ訳デハナイ」
「……本当か?」
「何故イマ嘘ヲ言ワナケレバナラナイ?先ノ言葉ハ本当ノコトダ、オ前ニハ殺サレカケタガ、今ハ好マシク思ッテイル」
今抱いていることが咄嗟に口から出た、するとそれまで暗かったこいつの顔が一気に明るくなり、それまでの勇猛さが取り戻された。
「では、私と共に…!」
「スマナイガ、ドウシテモソレダケハ無理ダ…。シカシオ前ニ提案ガアルノダガ………」

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「縺薙s縺ェ縺ィ縺薙↓繝ャ繧ェ繧ソ繝ュ繧ケ縺後>縺溘↑繧薙※縲√¥縺昴′縺」?!」
「今ダ!」
「ッッハァ!!!」
水平に入った重厚な剣は人間の首を一息に断ち切り、鮮血が飛び散る。
「謦、蜿弱□繧。!」
残りの人間どもが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。それを確認し、雄叫びを上げる。
「我等ノ勝利ダァァァ!!!」
「「「「ウオオオオオオ!!!!」」」」
今回の襲撃では殆ど損害も無く撃退することができた、俺は、傍らの四本足の獣人に歩みより…
「助カッタゾ、リアナ」
「どうってことないさ、ネル」
互いの腕をぶつけ合って笑い合う。
あの後、俺がレオタロス……リアナに共には行けないが、我等の集落に来ないかと誘うと
「勿論行くに決まっている、これから宜しくな」
二つ返事で了承した、これで人間からの被害も軽減するだろうと思い嬉しくなってしまった。
あぁ、それと予想外だったのはリアナは雌だったらしい。獅子とは違い雌にも鬣があるらしい。
何はともあれ、強力な仲間が住み着いてこれからは少し落ち着くかもしれない。


…と思っていたのも束の間…………。


「隊長!空カラ大ダコガァ!!!!」
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