19 / 49
17
しおりを挟む
「ミシェラ、手伝いを呼ぶから湯あみをしておいで。その後に食事にしよう」
優しい口調で言われ、自分の格好を見る。
ミシェラからすれば今日は昨日水浴びをして、さらには石鹸を使ったのだ。新しい服も着ているしピカピカだと思っていた。
「……もしかして、汚かったですか?」
「いや」
反射的にハウリーは否定したが、その後ため息をついて続けた。
「……村では大丈夫だろうが、この先は貴族も多い。身なりは完璧にしておいて間違いない。基本的には毎日湯に浸かり、洗い、新しい服を着る。場面ごとに相応しい服があり、1日に何度も着替えることもある。出来るだけ隙はなくすべきだ」
「教えていただきありがとうございます。わからない事が多いので、今後も教えてもらえると助かります。よろしくお願いいたします」
ハウリーは優しい。ミシェラが汚いなどという話は言いにくかっただろう。それでもミシェラの為を思って言ってくれたのがわかって、温かな気持ちになる。
ハウリーの為にも粗相は出来ない。
ミシェラは再び決意を硬くした。
「ここの師団長は、私の事を嫌っているのを感じたか?」
「ええと、そうですね……多分……」
感じたけれどはっきり言うとハウリーを傷つけてしまいそうで、ミシェラは言葉を濁した。
「いや、師団だけではないな。私の事を恐れていないのは、私の部下ぐらいだ」
そんなミシェラの頭を撫で、ハウリーはそっと目を伏せた。
「ごめんな、ミシェラ。あの環境から連れ出したものの、突出した魔力を持つミシェラに嫉妬する人はたくさんいる。俺のように、化け物と呼ばれることもあるかもしれない。……でも、それでも、私は……」
そんな風にハウリーが苦しそうに言うから、ミシェラはハウリーを抱きしめたい気持ちになった。
あんなに大きくて、強くて、格好いい彼を、守ってあげたいと思うだなんて。
不思議な気持ちになりつつも、ミシェラは心のままにハウリーの手をとった。
「ハウリー様が化け物と呼ばれるのならば、私も化け物になって、ハウリー様の隣に並び立てるような魔術師になりたいと思います。その為の努力は惜しみません」
まっすぐと目を見つめながら告げたミシェラの言葉に、ハウリーは虚を突かれた顔をした後、片手で顔を覆った。
伝わるといいなと思って、ぎゅっと手に力を籠める。
「ああもう。私が君を救おうとしているのに……これじゃまるで逆だ」
「私はもう救われてますよ。今何かあっても、ハウリー様には感謝するばかりです」
「何にもないよ。君は私が守るからね」
下を向いたままのハウリーに言われ、ミシェラはじっとその言葉をかみしめた。
本当に、人生の中で一番幸せな瞬間に違いないと思った。
控えめなノックな音がして、慌てて手を離す。
「ミシェラ様。お手伝いさせていただくフィアレーと申します。よろしくお願いいたします」
部屋に入り頭を下げたのは、ハウリーが呼んだメイドらしい。
フィアレーと名乗ったメイドはハウリーと同い年位の優し気な女性で、ミシェラを見る目も優しかった。
「彼女は私の持つ第五師団についているメイドだ。安心してほしい」
「よろしくお願いいたします」
ミシェラが頭を下げると、フィアレーはにっこりと笑った。
メイドなので、敬語は使わないようにと注意を受ける。年上なので、意識しないと危なそうだ。
「じゃあ、湯あみはこちらでしましょう。スカイラ様には、別のものを手配しておきました」
「私は一人で大丈夫だ。知っているだろう」
「ここでは念のため、つかせてください」
「……まあいいだろう」
二人の関係の時間の長さを感じさせる会話を見て、ミシェラは少し羨ましくなった。なんだかどんどん欲深なる気がして、慌てて首を振る。
フィアレーについて、別室に入る。
「こちらで服を脱いでくださいね。……あら」
手伝われながらミシェラが白いワンピースを脱ぐと、フィアレーはそっと眉を寄せた。
「どうかしましたか……?」
「いえ、お怪我をされているようなので、治癒が必要かと」
「……ああ!」
ミシェラは見慣れていて気が付かなかったけれど、青あざがそこら中についている。
手は既にかさぶたになっていたが、特に村長に倒されて棚にぶつかってしまった肩は派手に青くなっていた。
普通の人は、見慣れない傷かもしれない。
「ああ、こんなに悪そうで……大丈夫かしら。痛いですよね。石鹸は染みるかもしれないわ」
心配そうにそっと肩に触れられる。
その温かな手に、心配をかけてしまっていると慌ててしまう。
優しい口調で言われ、自分の格好を見る。
ミシェラからすれば今日は昨日水浴びをして、さらには石鹸を使ったのだ。新しい服も着ているしピカピカだと思っていた。
「……もしかして、汚かったですか?」
「いや」
反射的にハウリーは否定したが、その後ため息をついて続けた。
「……村では大丈夫だろうが、この先は貴族も多い。身なりは完璧にしておいて間違いない。基本的には毎日湯に浸かり、洗い、新しい服を着る。場面ごとに相応しい服があり、1日に何度も着替えることもある。出来るだけ隙はなくすべきだ」
「教えていただきありがとうございます。わからない事が多いので、今後も教えてもらえると助かります。よろしくお願いいたします」
ハウリーは優しい。ミシェラが汚いなどという話は言いにくかっただろう。それでもミシェラの為を思って言ってくれたのがわかって、温かな気持ちになる。
ハウリーの為にも粗相は出来ない。
ミシェラは再び決意を硬くした。
「ここの師団長は、私の事を嫌っているのを感じたか?」
「ええと、そうですね……多分……」
感じたけれどはっきり言うとハウリーを傷つけてしまいそうで、ミシェラは言葉を濁した。
「いや、師団だけではないな。私の事を恐れていないのは、私の部下ぐらいだ」
そんなミシェラの頭を撫で、ハウリーはそっと目を伏せた。
「ごめんな、ミシェラ。あの環境から連れ出したものの、突出した魔力を持つミシェラに嫉妬する人はたくさんいる。俺のように、化け物と呼ばれることもあるかもしれない。……でも、それでも、私は……」
そんな風にハウリーが苦しそうに言うから、ミシェラはハウリーを抱きしめたい気持ちになった。
あんなに大きくて、強くて、格好いい彼を、守ってあげたいと思うだなんて。
不思議な気持ちになりつつも、ミシェラは心のままにハウリーの手をとった。
「ハウリー様が化け物と呼ばれるのならば、私も化け物になって、ハウリー様の隣に並び立てるような魔術師になりたいと思います。その為の努力は惜しみません」
まっすぐと目を見つめながら告げたミシェラの言葉に、ハウリーは虚を突かれた顔をした後、片手で顔を覆った。
伝わるといいなと思って、ぎゅっと手に力を籠める。
「ああもう。私が君を救おうとしているのに……これじゃまるで逆だ」
「私はもう救われてますよ。今何かあっても、ハウリー様には感謝するばかりです」
「何にもないよ。君は私が守るからね」
下を向いたままのハウリーに言われ、ミシェラはじっとその言葉をかみしめた。
本当に、人生の中で一番幸せな瞬間に違いないと思った。
控えめなノックな音がして、慌てて手を離す。
「ミシェラ様。お手伝いさせていただくフィアレーと申します。よろしくお願いいたします」
部屋に入り頭を下げたのは、ハウリーが呼んだメイドらしい。
フィアレーと名乗ったメイドはハウリーと同い年位の優し気な女性で、ミシェラを見る目も優しかった。
「彼女は私の持つ第五師団についているメイドだ。安心してほしい」
「よろしくお願いいたします」
ミシェラが頭を下げると、フィアレーはにっこりと笑った。
メイドなので、敬語は使わないようにと注意を受ける。年上なので、意識しないと危なそうだ。
「じゃあ、湯あみはこちらでしましょう。スカイラ様には、別のものを手配しておきました」
「私は一人で大丈夫だ。知っているだろう」
「ここでは念のため、つかせてください」
「……まあいいだろう」
二人の関係の時間の長さを感じさせる会話を見て、ミシェラは少し羨ましくなった。なんだかどんどん欲深なる気がして、慌てて首を振る。
フィアレーについて、別室に入る。
「こちらで服を脱いでくださいね。……あら」
手伝われながらミシェラが白いワンピースを脱ぐと、フィアレーはそっと眉を寄せた。
「どうかしましたか……?」
「いえ、お怪我をされているようなので、治癒が必要かと」
「……ああ!」
ミシェラは見慣れていて気が付かなかったけれど、青あざがそこら中についている。
手は既にかさぶたになっていたが、特に村長に倒されて棚にぶつかってしまった肩は派手に青くなっていた。
普通の人は、見慣れない傷かもしれない。
「ああ、こんなに悪そうで……大丈夫かしら。痛いですよね。石鹸は染みるかもしれないわ」
心配そうにそっと肩に触れられる。
その温かな手に、心配をかけてしまっていると慌ててしまう。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました
さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。
裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。
「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。
恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……?
温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。
――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!?
胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる