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 先ほどまでの品物が並んでいるところではなく、確かに食べ物関連の屋台が急に表れた。
 どのお店からもいい匂いがしていて、ミシェラはおなかがすくのを感じた。

 たまに謎の魔物が解体されて並んでいるお店があったりして、驚きも多い。

 しばらく二人で歩き、ある屋台の前でハウリーは止まった。

「俺はここの串焼きが好きなんだが、ミシェラは何か気になるものはあるか?」
「すべてが目新しくなにがなんだかさっぱりつかめていません。申し訳ありません……」

 ミシェラはしょぼんとして答えた。

 ハウリーから気になるものがあったら言うように言われていたので、必死で歩きながら品物を見た。
 ハウリーはいちいち品物の紹介を美味しそうにしてくれるので、目移りしているうちにその前に聞いた品物の事が抜けていく。

 どれもが初めて聞くもので、全く味の想像もつかないので何が何だかわからない。
 名前も聞いたそばからどんどん抜けていってしまう。
 とても集中していたのに残念だ。

 なにもしゃべらないミシェラに、ハウリーは怒ることもなく、にこりと笑う。

「じゃあ、私のおすすめセットにしよう」

 ハウリーは好きだという屋台で、慣れた感じで注文した。そうして、袋を持って戻ってきて、また別の店に向かった。

「えっ。ほかにも行くんですか?」
「それはそうだ。こんなにあるんだ。一つの店でおなか一杯にしたらもったいないだろう?」

 言われるままに屋台を歩き、結局四つのお店からそれぞれ別の品物を買った。

「近くに食べられるベンチがある。こっちに行こう」

 ちょうど開いていたベンチの一つにハウリーとミシェラは並んで座り、品物を広げた。

「これは串焼き、ホーンラビットを甘辛いたれで焼いたものでおなかがすく味だ」
「えっ。食べているのにおなかがすくとは何らかの呪いでは?」
「まあまあ、食べてみればわかる。それとこっちは野菜とかお肉とかを小麦粉の皮で巻いたもの、健康的な味」
「健康的な味……」

 全く想像がつかない味だ。でもいいにおいがする。

「もう二つはミシェラが好きかなと思って、甘い焼き菓子とクリームとフルーツを和えたもの! ばっちりのバランスだろう。飲み物は冷えたコーヒーだ!」

 自慢げにハウリーは手を広げたが、ミシェラにはどれもおいしそうに見えるし味の想像は全くついていない状態だった。

 すすめられるままに串焼きをほおばる。

「!! おいしい……!」

 しょっぱい濃い味と甘さが後を引く味で、どんどん食べ進んでしまう。
 あっという間に一本丸まる食べてしまい、ミシェラは名残惜しい気持ちで串を見つめた。

「どうだ、おなかがすく味だろう?」
「本当です……!」

 本当に呪いではないかというぐらい食欲がわいてきた。ハウリーも串をかじりながらにやりと笑う。

 本当にどれもおいしい。

 両手でロールサンドを握りながら、ミシェラは足を延ばして上を見た。
 空が高い。遠くに鳥が飛んでいる。

 見上げる空は小屋から見るものと変わらないのに、とても気分がよかった。

 ハウリーもいつの間にか空を見ていた。ミシェラはそっと彼と空を見て、続きに手を伸ばす。

 あっという間にどれも食べ終わってしまい、おなかもいっぱいになった。
 どうやら串焼きの呪いは解けたようだ。

「すごくすごくすごく美味しかったです。外で食事をとるのもなんていうかとても開放感があって。あと串焼きが本当においしくてびっくりしました。おなかがいっぱいです。おなかがいっぱいになるのってなんだかとっても幸せな気持ちですね」
「そうだろう。あとは露店を見ながら帰ろう」
「……おなかが重くて動きにくいです」
「自分の食べれる量はこれから勉強していこう……」

 重い体でゆっくり歩く。ハウリーも同じ速度で歩いてくれる。露店エリアまでたどり着くと、ハウリーはアクセサリーの売っている店の前で止まった。

「これなんか、可愛いんじゃないか?」
「どれもキラキラしていてとってもかわいいですね」
「きれいなお嬢さんにはお似合いだよ! 質のいい石を使っているからきれいだよ」

 お店のおじさんがニコニコと話しかけてくる。
 自分に突然話しかけられ、ミシェラはどうしていいかわからなくなって、ハウリーの後ろに隠れた。

「あらら。驚かせたかな、ごめんなお嬢さん」
「……ごめんなさい」
「確かにどれもかわいいですね。これなんかミシェラにも似合いそうだ」

 ハウリーはお店のおじさんに如才なく笑いかけ、ひとつのネックレスを手に取った。

「ミシェラの瞳の色と一緒だ」

 ハウリーはミシェラの顔の前にネックレスの石を並べた。嬉しそうに微笑まれ、ミシェラは目をそらした。

 自分の瞳はこんなにきれいじゃない。

「ありがとうございました!」

 ハウリーはそのままお金を払い、ミシェラの肩にそっと触れた。

「後ろを向いてくれるかな?」
「……はい」

 手慣れた様子でハウリーがネックレスを留め、ミシェラの胸の上には、きらきらとして深い赤の石が乗っていた。

「城でつけるにはランクが良くないが、今日のお出かけの記念ってやつだ。私はとても楽しかった。贈らせてくれ」
「ありがとう、ございます」

 ミシェラは震えそうになる手で、そっと石に触れた。
 光を反射し、とてもきれいだ。

 石をつかみ、ミシェラはハウリーを見上げた。

「私も、とても楽しかったです……!」

 勇気を出して告げた言葉は、ハウリーのほほえみで帰ってきた。
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