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第12話 夜の散歩
しおりを挟むマスリーにも迷惑をかけてしまった事に悲しくなる。マスリーは慌てたように両手を振った。
「いえいえ。出てはいけないなんて事ありませんよ。でも王城は広いですし、今は混乱しているところもあるので不快な思いをさせたのでは、と」
「私は大丈夫だけど、混乱って?」
「そうです。聖女様が召喚されて、ツムギ様の立場がはっきりしていないので皆がどういう風に接していいかわからないというか……」
言葉を選んで言ってくれるマスリーは優しい。
多分、一緒に召喚されて邪魔者扱いなのだろう。昨日の今日で、すでに王城全体がそういう雰囲気になっているとは思わなかったけれど。
フィスラは普通だったし。彼とマスリーが特別だったのだと、今更ながらに思い知る。
「マスリーありがとう。私は本当に大丈夫だったから」
「ツムギ様……。私、お茶を用意してきますね!」
気にしてないと言うように笑いかけると、マスリーは眉を下げて笑った。手をぎゅっと握って、目線を合わせて笑いかけてくれた。
その優しさに、私もやっと笑い返すことができた。
マスリーは私が立て直したのを見ると、すぐにお茶を用意してくれた。
暖かいお茶が美味しい。
いい香りが広がる紅茶は、甘くて心が落ち着く。
「お砂糖たっぷりだね……美味しい」
「ツムギ様はお疲れそうだったので、勝手に、ですけど。甘いもの取ると落ち着きますよね」
「うん。すんごく落ち着いたよ。やっぱりちょっとまいっちゃってたところもあったから」
「……私が言うのも微妙だと思うんですけど、聖女召喚っていう三百年ぶりの一大イベントで、凄くピリピリしていたんです。それで、聖女様とツムギさまが召喚されたことで混乱があったんです。更に、コノート師団長はその事に言及していないですし、それなのにツムギ様の方を大事に扱っているように見えて……」
申し訳なさそうに、マスリーが教えてくれる。フィスラの態度は、やっぱり少し一般的ではないようだ。ただ、私が気に入っているからとかではない。
聖女そのものよりも、自分の興味の方に引っ張られているせいだろう。
「確かに、ピリピリしていたところに二人いたら混乱しますよね……」
「そうなんです。でも、私はツムギ様の事とても好きですし、皆もそのうち慣れると思うので!」
ぐぐぐっと力を込めて力説される。彼女の優しさが嬉しい。私も、すっかりマスリーの事が大好きだ。
「私、今日やる事がなくて困っていたの。良かったら、一緒にお茶してくれないかな」
メイドという立場的にどうか心配だったけれど、マスリーは嬉しそうに頷いてくれた。
マスリーはその後も予定がない私に気遣って、王城を案内してくれたりした。
周りの視線は気になったものの、数は少ないが挨拶をしてくれる人も居て全員が私の存在を疎んでいるわけでもない事がわかって、ほっとした。
王城は広大で、歩き回って疲れた私はお昼寝までしてしまい、あっという間に夜になった。
「いい風だなあ」
夜になって、マスリーから日中案内してもらった庭園に一人で出てきた。夜でも見張りの人は居るし、王城自体は誰でも入れるところではないので安全だ。
何というか、一人で星を見る気分だったのだ。昨日部屋に一人で、静かすぎる事に悲しくなってしまったのもある。
庭園にあるベンチの一つに座る。
近くにはバラがたくさん咲き誇っていて、とてもいい匂いがする。
どういう仕組みかあたりは薄ぼんやり明るく、幻想的だ。
薔薇の香りにはリラックス効果があると見た事がある。
目をつむってその匂いを嗅いでいると、確かに心が穏やかになるような気がする。
上を見ると、驚くほどにはっきりと満天の星が見えた。
「綺麗……。日本では、星なんてしばらく見た事なかったな……」
キラキラと光る星はたくさんで、目の前に広がる雄大な光景に目を奪われる。
広がる空に寂しい気持ちになってしまった私は、気持ちを切り替えようとマスリーが用意してくれたバスケットを開けた。
「わー可愛い」
中には水筒に入ったお茶と、可愛くアイシングされたクッキーが入っていた。誰が作ったのだろう、リボンのついた猫の形のクッキーに自然と笑みがこぼれる。
「ここの世界にも、猫がいるんだなー。そのうち飼いたいな」
誰もいなくても、猫が居ればそれで大丈夫かもしれない。
なんとなく齧る気になれなくて、クッキーを持ったまま、星を見ながらお茶を飲んだ。
寒くないけれど、こういう時にあったかいのは何だか嬉しい。
「こんな所でなにをしているんだ君は」
呆れたような声が聞こえて、そちらに目を向けるとこんな時間なのにかっつりと着込んだ格好をしたフィスラが立っていた。
「え? フィスラ様何をなさっているんですか?」
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