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第27話 優しさの理由は?

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 フィスラの私室は思っていた以上に豪華だった。

 天蓋付きのベッドにサイドテーブル、そして良くわからない何かがたくさん置いてある一角。
 テーブルセットも何もかもが私のものとは雲泥の差の質のものだとわかる。

 私の部屋も日本の時と比べて相当豪華だと思っていたけれど、本当のお金持ちはちがう……!

 さり気なく置かれている布類もすべて手の込んだ厚い刺繍が施されている。キラキラとついている飾りは宝石なのか……。
 ガラスであってほしいと思いつつ宝石なんだろうなという謎の諦めを持ちつつ、案内されたソファに座る。

 フィスラは、自分は座らずに良くわからないものがたくさん置いてある一角に向かう。そして、紅茶をもって私の隣に座った。

「あの場所、ミニキッチンなんですね」

「魔導具が置いてある場所だ。飲み物が欲しいときにも便利だろう? 夜だとメイドを呼ぶのは面倒な時もある」

 夜でもメイドさんってお茶入れてくれるんだ。新しい発見だ。

「魔導具って便利ですね」

「そうだな。便利にする為に作っている」

「そういうのって有り難いですよね。きっと私もお世話になる事も多いと思いますし」

「そうだな……。私の作品を見かける事は多いかもしれない。生活になじんでいて気が付かない事の方が多いと思うけれど」

「いいお仕事ですね。生活が良くなるのって、嬉しいですよね」

「ああ。当たり前のように必要とされているのを見るのも楽しいものだ」

 魔導具の話で微笑むフィスラは、この仕事が好きなんだな。私はなんだか嬉しくなって、お茶を飲んだ。

 フィスラの入れてくれたお茶は、覚えのある華やかな味のものだった。

「これって、もしかして」

「そうだ。この間美味しいと言っていただろう? 手配していたのだがまだ渡せていなかったので丁度良かった。後で持っていきない」

「ありがとうございます。嬉しいです」

 私の好みを覚えていてくれたなんて嬉しい。

 生活もそうだし、会話も楽しい。
 この人と仕事をするのも忙しくなりそうだけど楽しそうだ。
 先の事が少しずつ楽しみになってきているのを感じた。

 私はすっかりフィスラに依存してしまっている気がする。危ない危ない気をつけなければ。
 そう思う私に、フィスラは眉を下げて答えた。

「私は、君には快適に過ごしてもらいたいと思っている。聖女と同等に」

 その表情とその言葉に、私は思い知らされた。

 フィスラは私に責任を感じている。

 その事実が私の心に重くのしかかった。

「快適に過ごしてますよ。ドレスだっていただいて、きっと、パーティーだって楽しいと思うし、マスリーも可愛いし、食事も美味しくていいところだし、仕事だってこれから安定して働けるって……」

 振り払うような気持ちでここに着て良かったところを、指折り数えてみせる。それで、フィスラが感じている責任の重さに更に気が付いてしまう。

 全部フィスラが私の為にしてくれたことだ。
 フィスラが召喚したから。
 してしまったから。

 身体冷えて、息苦しくなる。
 浮かれていた気持ちに冷水をかけられたように、私の気持ちは大きく沈んだ。目の前が暗くなって、フィスラの事が遠くに感じる。

「ならば、良かった。ツムギがこんな風にお礼など、本来なら必要もないので気にしなくていい」

 フィスラはほっとした表情で頷いて見せたが、私はなんだかもう、限界だった。

「私はフィスラ様にとって、召喚に巻き込まれたかわいそうな子ですか? そうではないのです。そう思ってほしくないんです!」

 気が付いたらフィスラに向かって早口でまくし立ててしまった。

 馬鹿みたい。
 あまりにも馬鹿みたいで、私の目には涙がにじんだ。

「ツムギ」

 戸惑ったフィスラの声が聞こえる。当然だ。
 優しくしてくれたのに、私が急に怒り出してびっくりしただろう。

 わかっているのに、止められなかった。

「私に責任を感じて優しくされるのは、有難いってわかってます。それでも、その行為の理由が責任だけだなんて!」

 仲良くなった気がしてた。でも、相手が責任感だけだって思ったら嫌すぎた。
 会話は楽しかったし、楽しんでくれていると思っていた。

 馬鹿みたい。

「ごめんなさい。今日はもう帰ります。お茶ありがとうございました。お菓子は良ければもらってください。捨ててもいいので」

 フィスラの顔が見られなくて、私はそのまま下を向いてドアからさっと出た。

 フィスラが私の名前を呼んでいたが、恥ずかしくてもう無理だった。

 マスリーは泣きながら戻ってきた私を見て驚いた顔をしたが、そのままベッドに向かった私に声をかけずにそっと出て行ってくれた。

 本当にできるメイドさんだ。

 私と彼女の間にあるものは、友情なのかな。それともただの主従関係なのだろうか。

 私は、良くわからなくなってしまった。
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