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web連載
聖なる裁定
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伯爵の高笑いを聞きながら意識が遠くなるのを感じ始めた時、伯爵の力が不意に弱くなった。
ホールドが弱まったと感じた途端に俺は必死でもがき、強力なホールドを振り解いて転がりながら距離を取り、大きく深呼吸をして酸素を取り入れた。
「はぁはぁ……なんて奴だ」
酸素を取り入れて、人心地付いた所で伯爵を睨みつけると、伯爵も距離を取っているところだった。
「うははははは! なかなかやるのう、ここまで粘るとは思っていなかったぞ、魔王よ」
上半身の服を弾け飛ばした伯爵の姿は、ガリガリのヒョロヒョロだった。
「お前もう少し表で遊んだりしろよ、ガリヒョロじゃん……」
ガリヒョロの伯爵に苦言を呈すると伯爵は猛烈に反論して来た。
「ヴァンパイヤミストを使うとカロリー消費が激しいのだ! 何時もはもっと健康的だ! 後ガリヒョロ言うな!」
何か心の琴線に触れたらしい。
「あれ? ガリヒョロって言っちゃまずかった? ごめんなガリヒョロ君」
俺は奴の心の琴線を盛大に掻き鳴らした。
「ぐぬぬぬ! 貴様貴様……許さんぞ……」
セコンド席の奥様達に思いっきり無邪気な笑顔で勝利のVサインを送ったら、デックスは目を逸らし、エステアは「うわ……邪悪な笑顔だ」ヴィータは「素敵……」
と三者三様だった。
「さてガリヒョロ君勝負だ」
俺はガリヒョロクマ兄さんを二体作成して、伯爵にけしかけたがガリヒョロクマ兄さんは、伯爵にたどり着く前に膝に手を付き息切れしている。
「ぐぬぬぬ、馬鹿にしおってえええ!」
「むむ、失敗か」
盛大に煽っていると伯爵はその場に座り込み突然両手を広げた。
「これだけは使いたくなかったが、しょうがあるまい……」
伯爵は細い腕を目一杯広げた状態を維持したまま大きく叫んだ。
「メタモルフォーゼ! コウモリへ!」
伯爵の細い腕に無数の獣毛が蠢く様に生え出した。
「ふんぬぅ!」
伯爵の顔も人間では無く獣のそれに変形していく、鼻は尖り出し口元からは獣の牙がチラチラと覗き見える、それまで細く弱々しかった体躯が獣毛と共に質量を増していく、頭からはまるで獣人の様に耳が生え始めた。
「お、おいおい……」
みるみる増して行く体躯は体長2メートル程の獣の姿に変わって行く、背中からは黒く濡れ光る蝙蝠の翼が張り出して来ている、手の平からは鋭い爪が生え始め……あれ? 手の平? 背中から翼? こっちの蝙蝠は地球の蝙蝠とは違うのか?
「むおおおおお! むお……」
伯爵が唸り出した。
俺はジリジリと後ずさりながら、伯爵の変身を見ながら身体が硬直してしまう。
「むお、むお……モキュ?」
変身が終わった伯爵の姿は、地球のパンダの姿そっくりだが、背中に蝙蝠の翼が生えていた。
俺は伯爵を指差しながらセコンド席を向いて、口をパクパクさせていた。
「コウモリね」
「コウモリだな」
「コウモリ〜」
セコンド席の三人は揃って頷いた。
伯爵に視線を移すと、意味の無いでんぐり返しを得意気に決めて、観客席から拍手喝采を受けている。
「イント兄ちゃんコウモリをいじめないで〜!」
数少ない味方である筈の孫の湯の子供達が敵に寝返った。
「いつの間にかアウェイになっている……」
その時伯爵のセコンド席からは、バランスボール程の大きさのボールが投げ込まれる。
「武器か?」
コロコロと転がり込むボールを伯爵は受け取り、ボールと戯れ出した。
「モキュ〜」
「モキュとか言うんじゃねぇ! パンダはモキュとか言わない! 騙されるなみんな!」
観客席は既に魅了の状態異常に陥っている。
「モッキュッキュ……」
あの野郎笑っていやがる、武器を伴う精神攻撃は初めての経験で戸惑ってしまい、相手のペースになってしまっている。
「クソッ! 奴の独壇場じゃないか……」
俺が自暴自棄になって、水着のお姉様ゴーレムを作るか悩んでいた時にそれは唐突に起こった。
ポソリ……
伯爵の足元に何かが落ちた。
「毛?」
俺の呟きに伯爵が慌てて後頭部を隠すが時既に遅く、身体中の毛が落ち始める。
「モキュー!」
明らかに伯爵は慌てている、身体中からまた湯気を放ちながら転げ回る伯爵。
「まさか……時間切れか?」
湯気に包まれたコウモリ伯爵は質量を急激に減らし始め、どんどん小さくなって行く。
「なんだ? チャンスなのか?」
観客席もざわつき始めた。
湯気が晴れた後に残ったモノは10歳位の子供エルフだった。
「くっ! 殺せぺした……」
子供エルフは伯爵の服の残骸で身体を隠し、顔を赤らめプルプルと震えていた。
「吾輩つい夢中になって時間を忘れていたでぺした」
その時背後からリンダの絶叫が聞こえ、俺の意識はブラックアウトした。
「ごおおおおほおおおう! 合法合法合法!」
次に意識を取り戻した時に目の当たりにした光景は、鼻血を吹き出す聖女リンダが子供伯爵に抱きつき、子供伯爵は白目を剥いて気絶している地獄絵図だった。
「吾輩っ子! 合法!」
「吾輩っ子! 合法!」
セコンドにどういう事か聞いた所、子供伯爵に興奮した聖女リンダが観客席から飛び出して、俺の後頭部を一升瓶で殴りつけ、子供伯爵を押さえ付けて失神させたらしい。
ジャッジの裁定は……
ノーコンテスト。
ドラキュラ伯爵☓ (だいしゅきホールドにて失神)
エンガル魔王☓ (一升瓶にて失神)
聖女○ (乱入にて勝利)
勝者聖女リンダ。
賭け金は払い戻しになるそうな。
聖女は騎士団相手に中央でまだ暴れていた。
ホールドが弱まったと感じた途端に俺は必死でもがき、強力なホールドを振り解いて転がりながら距離を取り、大きく深呼吸をして酸素を取り入れた。
「はぁはぁ……なんて奴だ」
酸素を取り入れて、人心地付いた所で伯爵を睨みつけると、伯爵も距離を取っているところだった。
「うははははは! なかなかやるのう、ここまで粘るとは思っていなかったぞ、魔王よ」
上半身の服を弾け飛ばした伯爵の姿は、ガリガリのヒョロヒョロだった。
「お前もう少し表で遊んだりしろよ、ガリヒョロじゃん……」
ガリヒョロの伯爵に苦言を呈すると伯爵は猛烈に反論して来た。
「ヴァンパイヤミストを使うとカロリー消費が激しいのだ! 何時もはもっと健康的だ! 後ガリヒョロ言うな!」
何か心の琴線に触れたらしい。
「あれ? ガリヒョロって言っちゃまずかった? ごめんなガリヒョロ君」
俺は奴の心の琴線を盛大に掻き鳴らした。
「ぐぬぬぬ! 貴様貴様……許さんぞ……」
セコンド席の奥様達に思いっきり無邪気な笑顔で勝利のVサインを送ったら、デックスは目を逸らし、エステアは「うわ……邪悪な笑顔だ」ヴィータは「素敵……」
と三者三様だった。
「さてガリヒョロ君勝負だ」
俺はガリヒョロクマ兄さんを二体作成して、伯爵にけしかけたがガリヒョロクマ兄さんは、伯爵にたどり着く前に膝に手を付き息切れしている。
「ぐぬぬぬ、馬鹿にしおってえええ!」
「むむ、失敗か」
盛大に煽っていると伯爵はその場に座り込み突然両手を広げた。
「これだけは使いたくなかったが、しょうがあるまい……」
伯爵は細い腕を目一杯広げた状態を維持したまま大きく叫んだ。
「メタモルフォーゼ! コウモリへ!」
伯爵の細い腕に無数の獣毛が蠢く様に生え出した。
「ふんぬぅ!」
伯爵の顔も人間では無く獣のそれに変形していく、鼻は尖り出し口元からは獣の牙がチラチラと覗き見える、それまで細く弱々しかった体躯が獣毛と共に質量を増していく、頭からはまるで獣人の様に耳が生え始めた。
「お、おいおい……」
みるみる増して行く体躯は体長2メートル程の獣の姿に変わって行く、背中からは黒く濡れ光る蝙蝠の翼が張り出して来ている、手の平からは鋭い爪が生え始め……あれ? 手の平? 背中から翼? こっちの蝙蝠は地球の蝙蝠とは違うのか?
「むおおおおお! むお……」
伯爵が唸り出した。
俺はジリジリと後ずさりながら、伯爵の変身を見ながら身体が硬直してしまう。
「むお、むお……モキュ?」
変身が終わった伯爵の姿は、地球のパンダの姿そっくりだが、背中に蝙蝠の翼が生えていた。
俺は伯爵を指差しながらセコンド席を向いて、口をパクパクさせていた。
「コウモリね」
「コウモリだな」
「コウモリ〜」
セコンド席の三人は揃って頷いた。
伯爵に視線を移すと、意味の無いでんぐり返しを得意気に決めて、観客席から拍手喝采を受けている。
「イント兄ちゃんコウモリをいじめないで〜!」
数少ない味方である筈の孫の湯の子供達が敵に寝返った。
「いつの間にかアウェイになっている……」
その時伯爵のセコンド席からは、バランスボール程の大きさのボールが投げ込まれる。
「武器か?」
コロコロと転がり込むボールを伯爵は受け取り、ボールと戯れ出した。
「モキュ〜」
「モキュとか言うんじゃねぇ! パンダはモキュとか言わない! 騙されるなみんな!」
観客席は既に魅了の状態異常に陥っている。
「モッキュッキュ……」
あの野郎笑っていやがる、武器を伴う精神攻撃は初めての経験で戸惑ってしまい、相手のペースになってしまっている。
「クソッ! 奴の独壇場じゃないか……」
俺が自暴自棄になって、水着のお姉様ゴーレムを作るか悩んでいた時にそれは唐突に起こった。
ポソリ……
伯爵の足元に何かが落ちた。
「毛?」
俺の呟きに伯爵が慌てて後頭部を隠すが時既に遅く、身体中の毛が落ち始める。
「モキュー!」
明らかに伯爵は慌てている、身体中からまた湯気を放ちながら転げ回る伯爵。
「まさか……時間切れか?」
湯気に包まれたコウモリ伯爵は質量を急激に減らし始め、どんどん小さくなって行く。
「なんだ? チャンスなのか?」
観客席もざわつき始めた。
湯気が晴れた後に残ったモノは10歳位の子供エルフだった。
「くっ! 殺せぺした……」
子供エルフは伯爵の服の残骸で身体を隠し、顔を赤らめプルプルと震えていた。
「吾輩つい夢中になって時間を忘れていたでぺした」
その時背後からリンダの絶叫が聞こえ、俺の意識はブラックアウトした。
「ごおおおおほおおおう! 合法合法合法!」
次に意識を取り戻した時に目の当たりにした光景は、鼻血を吹き出す聖女リンダが子供伯爵に抱きつき、子供伯爵は白目を剥いて気絶している地獄絵図だった。
「吾輩っ子! 合法!」
「吾輩っ子! 合法!」
セコンドにどういう事か聞いた所、子供伯爵に興奮した聖女リンダが観客席から飛び出して、俺の後頭部を一升瓶で殴りつけ、子供伯爵を押さえ付けて失神させたらしい。
ジャッジの裁定は……
ノーコンテスト。
ドラキュラ伯爵☓ (だいしゅきホールドにて失神)
エンガル魔王☓ (一升瓶にて失神)
聖女○ (乱入にて勝利)
勝者聖女リンダ。
賭け金は払い戻しになるそうな。
聖女は騎士団相手に中央でまだ暴れていた。
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