異世界転移したよ!

八田若忠

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2巻

2-2

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「さあ、そんな奴の挑発なんぞ無視して、帰るぞ」
「……わかった。ウォタレンがそう言うなら、ここは退こう」

 エルフさん二名が、あとの一人が待つ出口に向かって歩き出した時――。

「じゃあね~。あ、そうだ~、あんまりドングリとかマツボックリを拾って食べると、お腹壊すわよ~」
「腹など壊さん!」

 今度はクールエルフさんがブチ切れた。
 ……つか、食べてるの?
 ギルド内で、ボソボソとささやく声が聞こえてくる。

「ないな」
「ないわー」
「ねぇな」
「ないでござる」

 エルフさん方に注がれる、大量の冷たい視線。

「ぐぬぬぬ! 覚えていろ! この……鍛冶屋めが!」
「は~い、鍛冶屋ですよ~」

 ひらひらと手を振るヴィータ。
 どう考えても、一枚も二枚もヴィータさんのほうが上手うわてです。

「あー! すっとしたわ!」

 そう言って、ナナさんがいつもと違うテンションで伸びをする。

「前に言ったことあったでしょ? ボードに張ってある依頼書をポケットに入れて依頼キープするおバカさんがいるって。それ、あいつらなのよ! おかげでボードが使えなくなっちゃって、こんなファイル式の、時間がかかるやり方しかできなくなって……いい迷惑よ、こっちは!」
「あー、張り紙剥がしてキープしちゃうおバカさん……確かに聞いた覚えありますね」

 ナナさんはため息をついた。

「まあ、彼女達がこのあとやりそうなことは察しがつくけど……一応気をつけてね。おバカさんっていうのはね、常識じゃ考えられないようなことをしてくるものよ」

 ヴィータはふわりと微笑んだ。

「大丈夫~、あたし達も心配事がなくなったから、そろそろ本気出すし~」
「あら、それはおめでとう、こっちも負けていられないわね」
「何の話っすか?」

 俺はわけがわからずそう聞く。二人が同時に答えた。

「「結婚よ!」」
「……そうですか」

 今までは結婚相手候補が減るのが怖くて、実力を出していなかったってことか……ヴィータはじめ三姉妹が本気になったら、一体どれくらい強いのか。……考えただけでも恐ろしい。

「で、ようやくハンター稼業に本腰入れるっていうなら……ちょうどよくこんな依頼があるんだけど」

 ナナさんが開いたページの依頼書には、赤い文字で「緊急」と書かれていた。
 ものすごく嫌な予感がする!

「お断りしま――」
「おっけえー」

 俺より先にヴィータが答えてしまった。

「ええ……」
「そう言うと思ったわ。この依頼ね、ゴブリンの巣の調査なの。つい先日、ゴブリンの目撃情報があったのよ」

 少しがっかりしたような顔をするヴィータ。

「え~、それ、調査だけ?」

 ナナさんが首を横に振る。

「基本はね。でももちろん、連中を潰してくれたらその分の報酬は出るわ。場所はちょっと遠いから泊まりになると思うけど」
「討伐報酬が出るってわけね。じゃ、やる~」
「えー……」

 再び微笑みを浮かべるヴィータとは対照的に、俺の顔はさぞ憂鬱ゆううつなものになっていることだろう。
 デックスとエステアはギルドを探しても見つからなかったので、ヴィータと二人、ベスパに乗って帰宅した。
 先に帰っていたらしい二人は食堂にいて、ヴィータがギルドでのエルフさん達との出来事を早速報告した。
 俺はそばで茶を飲みながらそれを聞いていたのだが、だんだんと殺気を放ち始めた三人の近くにいると何かの拍子に殺されそうなので、彼女達を食堂に残し、明日からの調査に備えてお泊まりセットを準備することにした。
 余裕があれば、現地でまた土魔法を使って露天風呂でも掘るか。
 そう思って、大量のタオルを用意し、それから着替えも揃えたら、もう準備が終わってしまった。他にも必要なもの、あるだろうか? わからないな。
 まぁいいか……もし荷物に不足があっても、この前みたいに現地で適当に何とかすればいいだろう。土魔法で大体のものは造れちゃうからな。


   ◇◇◇


 次の日の早朝、俺達四人は早速ゴブリンの巣に向かうべく、町の貸馬屋に出かけた。
 うちの自家用馬・ルッソくんは世話が大変なので、貸馬屋のプロフェッショナルに面倒を見てもらっているのだ。店には、今朝行くことを昨日のうちに知らせてある。
 で――。
 店先にて、昨日のエルフ三姉妹とバッタリ出くわしてしまった。


 最悪だ。
 こっちを、というか主にヴィータを睨みつけたウィドレンさんは――。

「あら、泥臭いドワーフなんかでも、いっちょまえに馬に乗りたがるのねえ? ドワーフらしく、地面をってるほうがお似合いじゃないの? おチビさん」
「うふふ、未開の猿でも馬に乗りたがるものなのかしら? 馬にはマツボックリなんて食べさせないでね? お婆ちゃん」

 朝から激しい火花を散らす二人。
 目を吊り上げたウィドレンさんは、店内を振り返って怒鳴った。

「うちの馬を呼んでらっしゃい! 今すぐ! いい、うちの自家用馬よ!」

 俺の顔見知りであるタフィーロさんは不在なのか、名も知らない別の店員がその怒号に驚いて奥へと駆けていき、やがて一頭の馬を連れてきた。
 店は中央に大きな通路が延びていて、馬が店内を歩けるようになっている。
 やってきたのは、ツノが直列に並んだ「直4」タイプの、小ぶりな馬だった。

「どう? ワタクシ達の自家用馬よ。この子に乗って、ワタクシ達は今から狩りに向かいますの。あなた方は……きっとレンタルかしらね? ほほほほほ!」

 その直4はかわいらしい瞳をしていて、ワックスでピカピカに磨かれたのか、小豆あずき色の体が輝いていた。

「うちの馬は、この体色にちなんで名を『真紅』というのよ。外を歩けば誰もが振り向く、我が家の自慢の馬ね! ほほほほ!」

 うわぁ、この展開……嫌な予感がするぞ。

「真紅? どっちかっつーと、茶色だろ」

 すかさずツッコむエステア。

「茶色ね」
「薄汚れた赤茶って感じ~」

 姉二人の援護射撃もスピーディで的確だ。

「茶色じゃない! 真紅よ! 赤よ! 赤!」

 そこへ――。

「おーい、同志よ。ルッソを連れてきたぞー」

 最悪のタイミングで、この貸馬屋の二代目、タフィーロさんがルッソくんの手綱を引いてやってきた。

「赤っていったら、この色よね~?」

 ルッソくんの背をさすりながらヴィータが呟く。
 光り輝くイタリアンレッドに、パッチリとした瞳。
 背中からV字型に生える12本のツノ。

「ブ……V型の、ツノ12本……?」

 呆気あっけにとられるエルフ三人。

「で、でも、見るからになつかなそうな馬ね! きっと乗馬には向きませんわ!」

 ウィドレンさんはそう言うが――俺と目が合ったルッソくん、地響きを立てて駆け寄ってきた。

「ルッソくん、昨日ぶりですね? 寂しくなかったですか?」

 喉もとをでると、ルッソくんは猫のようにゴロゴロと鳴らし、うちの三姉妹にも頭をこすりつける。

「さあ、荷物を積むわよ」

 デックスの号令のもと、俺達はルッソくんの背中に荷物を積み始めた。

「ど、泥臭いドワーフに、馬の維持なんてできるのかしらね?」

 負け惜しみのように眉を吊り上げながら嫌味を言うウィドレンさん。それを聞いて彼女のほうを見たタフィーロさんが、思い出したようにポンと手を打った。

「ああそうだ、ウィドレン殿。維持費といえば、真紅の飼葉かいば料金が三ヶ月ほど滞納されているのだが。これ以上は、ウチとしても見過ごすわけにはいかな――」
「払いますわよ! 何も今言う必要ないじゃないの!」

 声を張り上げるウィドレンさん。

「今日を逃すと、次いつ来るかわからんのでな」
「だから、支払いますわ! ……今は持ち合わせがないので、月末にまとめて!」
「む、今日は無理なのか? まあいい、では月末に必ず。よろしく頼む」

 エルフ三人組は、ウィドレンさんを筆頭にプリプリ怒り散らしながら、真紅の背に荷物を積んで逃げるように店をあとにした。

「それではタフィーロさん、行ってきます」
「うむ。気をつけてな、同志よ」

 依頼の場所を知ってるのは三人の奥様達なので、俺はルッソくんの手綱を握れない。デックス、俺、エステア、ヴィータの順で跨り、店を出発した。


 ルッソくんに揺られながらしばらく進んでいると、ふいにエステアが呟いた。

「仕掛けるとしたらどこかな?」
「猿の浅知恵だから、考えてもしょうがないわよ」
「えーと、エステアさん、デックスさん、何の話っすか?」

 間に挟まれた俺は二人に尋ねる。

「エルフの三人が狙ってくるって話だよ、ダンナ」

 そう言って、エステアはきししと笑う。

「え~、何かそういうの、苦手っす」

 できれば戦闘は勘弁してほしい……。
「大丈夫よ~ダーリン。あの子達の企みってレベルが低くて、大抵自分達が大火傷やけどするパターンだから~」 
 ケラケラと笑うヴィータ。

「皆さん、オリハルコンウェアは着てきてるんですか?」

 オリハルコンウェアとは、俺が土魔法を駆使して開発した特殊な防具のことだ。防御力が抜群であるがゆえに、そこに甘えて三姉妹がもともと備えている「戦いの勘」が鈍ってしまわないか、と俺は前々から心配していた。

「ああ、着てるぜ。だけどわかってるよ、ダンナ。油断はしねえ」

 エステアが言い、あとの二人も頷く。三人とも俺の心配をしっかり理解してくれているみたいで嬉しい。

「ダンナ」

 後ろにいたはずのエステアが、いつの間にか俺の膝の上に移動している。

「連中、殺す気はないけど、傷つける気満々って感じだな」
「そうなんすか、エステアさん?」
「ほら」

 そう言って見せてきたのはやじりの外された二本の矢。
 ……何ですか、それ?

「今、飛んできた。山なりで速度の遅い矢と、直線的で速い矢を同時に放ってきやがった。性格の悪さが攻撃ににじみ出てるな」
「そうなんですか。それで、どうしてそれをエステアさんが持ってるんですか?」
「放っておいたらダンナに刺さっちまうところだったから、掴んだんだよ」
「二本とも?」
「たまたま手が二つあったからな」
「ありがとうございます」
「お礼なんて言わなくていいぜ、夫婦だろ? 夫婦の愛情表現で十分だよ」

 ぽいっと矢を投げ捨て、むちゅっとっぺたにキスしてくるエステア。

「ちょ、ちょっとエステア、手綱替わりなさいよ。次、私!」
「エステアちゃん、ズルい~」

 デックスとヴィータがそんなことを言っている。
 ……ああ、これがハーレムかぁ。
 年上のお姉様方に甘やかされる、まさに甘々な生活ですねえ。
 ……そのお姉様達の見た目が、もう少し大人だったら。


 さて、そんなこんなで現地付近に到着しました。
 あのあと、エルフさん達からの攻撃はなかった。二本の矢をあっさり掴まれちゃったので、諦めて帰ったのかな?
 ルッソくんから下りて、さあゴブリンの巣を探そう……と思ったら、あっという間に発見してしまった。
 巣、というよりはもう「村」という感じ。森の中の一画に、身長一メートルほどの、緑色をした裸の子供みたいに見えるゴブリンが、大量にたむろしていた。
 ゴブリンというのは、基本的に知能が低いらしい。とはいえ、武器を持つくらいの知恵はあるそうだ。
 三姉妹いわく、「個体の戦闘能力は低いが群れを相手にする場合、総じて数が多いので厄介。逃げ足が早いので劣勢になるとすぐに逃走してしまう、討伐が難しい部類に入るモンスター」とのこと。
 場所がわかったので「調査」はもう完了だと思うんだが……三姉妹は当然ここで引き返すつもりもなく――。

「さ、討伐始めるわよ」

 デックスの一言で、ゴブリン掃討の準備がスタートした。
 俺は罠のエキスパートであるヴィータの指示で、風下からゴブリン村に近づき、村のすぐ近くに土魔法で落とし穴――ではなく、「地下室」を造った。
 その地下室に通じる穴を、地上に三箇所ほど作成。地下室の広さは二十畳ばかりで、高さというか、深さは五メートルほど。
 こうすると、地面の穴からホイホイ入ってきた身長一メートルのゴブリン達は這い上がることができず、どんどん中に溜まっていくらしい。「ゴブリンホイホイ」である。
 仕上げに、ゴブリンホイホイとゴブリン村の間の獣道を、土魔法できれいに舗装して――準備完了!

「村の反対側から追い立てればいいんですね、ヴィータさん?」
「そうよー、あたしは地下室で待ってるからー。……でも、追い立てはたぶん三人じゃ足りないから、クマさん出してもらっていい?」

 ご指名いただきました! イント特製、クマさんの出番です!

「任せてください、ちょっと強面こわもてのクマさんを出しちゃいますよ!」

 そして召喚されたのは、いつものリラックスムードのクマフェイスに、阿形吽形あぎょううんぎょうの体を持つ身長三メートルのクマ兄さん数体。

「ダーリン、どこが強面なのー?」

 首を傾げるヴィータ。

「よく見てください! 頭にツノが生えてます!」

 俺が言うと、クマ兄さん達が誇らしげにポージングを決める。

「ダンナ……アタイ、あいつらと一緒に追い込みかけるのはちょっと嫌だな……」
「何を言ってるんですか、エステアさん! 今回の作戦は、クマ兄さん達がいないと始まりませんよ!」

 ヴィータを残してゴブリン村の反対側にそっと回り込み、それぞれ配置についた。
 デックスが片手を上げて合図する。
 俺達は煙が大量に出るタイプの松明たいまつを掲げ、木の棒でそばの立木を叩いて音を出し始めた。
 突然の事態に慌てふためいたゴブリン達はパニックを起こして逃げ惑う。やがて、村の周囲のあちこちから大きな音と煙が上がりだした。
 唯一音と煙の気配がない方角に向かって、一斉に逃げ出すゴブリン達。
 子供サイズのゴブリンの群れを、中腰で脇に抱えた太鼓を叩きながら、鬼のようなツノを生やしたクマ兄さん方が追い込んでいく。その光景はまるで「なまはげ」だ。
 一方向に駆けていくゴブリン達は、できるだけ速く逃げようと少しでも走りやすい場所を選ぶ。つまり、さきほど俺が舗装した道だ。
 何も知らないゴブリン達が不自然に舗装された道を列を成して走っていった先に――彼らがギリギリ入れそうな三つの穴。
 ゴブリンホイホイの穴である。
 ゴブリン達は我先にと穴に飛び込む。前を走っていた仲間にならって、次々穴に身を投じていく彼ら。
 俺達追い込み組がそこに行き着く頃には、村にいたゴブリンは一体残らず穴の中だった。
 穴からヴィータの声がする。

「ダーリン、穴を一つにしてー」
「え、全部ふさがなくていいんですか?」
「中から助けを呼ぶ声に反応して、外出から戻ったゴブリンもここに入ってくるからー」

 一網打尽ってやつですね。

「へえ、さすがヴィータさん。黒い罠に詳しいですね」
「あらゆる罠をエステアちゃんで試したからねー。でも、『黒い』は余計よー」
「昔はよく罠にかけられたなあ。本当にひどい目にったよ……」

 エステアが遠い目をする。
 ほらほら、と手を叩くのはデックスだ。

「さあさあ、ゴブリンはヴィータに任せて、私達は巣のほうを探索するわよ。ごくまれにだけど、さらわれた人間の子供とかがいる場合もあるからね」
「お宝があったらいいな、ダンナ!」

 というわけで、それぞれ手分けをしてゴブリンの巣の調査をしたが……目ぼしいものは見つからなかった。
 ヴィータも穴から出てきた。穴の中に入ったゴブリンは……全滅させたようだ。
 気づけば、日が暮れ始めている。

「何も見つからなかったわね。きっと、新しい巣だったのよ。さ、もう遅いし、今夜はここに野営しましょ。念のため巣から少し離れたところがいいわね。イント、野営用の地下室をお願いできる?」
「ダンナ、風呂も入りたい!」

 先日、野生馬を捕まえに出向いたヤスク平原で思いつきで造ってみた露天風呂が、三姉妹に大好評だった。
 とくにエステアは、それ以来風呂に夢中だ。彼女のリクエストで、自宅兼鍛冶屋の敷地内に浴場を建設することになったほどである。

「ダーリン、地下室ならここに造ってー」

 ヴィータが、ゴブリンホイホイがある辺りの地面を指差す。

「え、ここでいいんすか? デックスさんの言うとおり、もう少し離れた場所のほうがいいんじゃないですか?」
「いいよーここで。ちょっとね、細工をしてほしいのー」

 そう言って不敵に笑うヴィータを見て、デックスとエステアは、しかたないといった顔で頷いた。巣からは多少距離があるし、中のゴブリンは全滅しているから、ここで野営しても大丈夫みたいだ。

「わかりました」

 その後、ヴィータに言われるがままに、クマ兄さん達に手伝ってもらいつつ、木をしならせたり、凶悪な気配のするとがってギザギザしている物を作ったりした。
 このトラップ群はきっと、対人用なんだろうなあ……。

「あの~、ヴィータさん?」
「な~に?」
「明日は……死体を埋める穴も掘らなきゃいけないんでしょうか?」
「ん~、その必要はないと思うわー。鳥さん達が片付けてくれるだろうから~」

 ニッコリ笑うヴィータ。

「なるほど、それは……地球に優しいですね」

 どういうギミックなのかまったく想像がつかないまま――野営用地下室へのトラップ設置は完了した。
 ちなみにルッソくん用の小屋も、同じくこの地下室内に設けた。ヴィータに言われたからだ。理由はわからないが、とりあえず造っておいた。
 その後――。
 それぞれ風呂に入り、地下室で夕飯を囲んでいると、ヴィータが微笑みながらこんなことを言った。

「みんな~、あのね、久しぶりに本気で罠作りを楽しんだから、気をつけてね~」

 エステアとデックスがぴしりと固まる。
 顔色がずいぶんと悪い。大丈夫だろうか?

「……ちなみに、範囲は?」

 デックスが硬い表情のまま尋ねた。

「んー、ここを中心に半径四百メートル、上空十メートル、地下五メートルの範囲かなー。ダーリンの造ってくれた、細いワイヤーっていうのがあまりに使い勝手がいいから、ついやりすぎちゃったー」

 てへっと笑うヴィータ。
 対照的に、ずうんと沈んだ雰囲気の長女と三女。

「ここは、監獄ってことね……」
「ダンナ、地獄ってのはよ……人の手で作り出すことができるんだぜ……」

 ケラケラとヴィータが声を立てて笑う。

「二人とも、大げさ~」

 夕食後、真っ青な顔のままのデックスとエステアが横になりたいと言うので、まだ夜は少し早かったが全員寝ることにした。
 寝る前にエステアがこっそり教えてくれたところによると、ヴィータが本気でトラップ作りを楽しんだあとは、必ず数名の行方不明者が出るらしい。

「いじめっこでガキ大将だったガフィー。アタイ達の背が低いことを悪しざまに言ってたユリアン。……あいつら今頃、どこにいるんだろうなあ」

 昔のことを思い出したのか、エステアが遠い目で呟く。
 俺は背中に寒いものを感じてしまった。

「ははは、たまたま、ここのところ見てないだけなんじゃないですか?」

 じっと俺の顔を見るエステア。

「ヴィータが本気出した次の日から、十年以上見てないんだぜ……ダンナ」

 いつの間にかエステアの背後にいたヴィータが、彼女の肩に手を置き――。

「エステアちゃん……ガフィーに会いたいの?」

 エステアは、さっきよりもさらに真っ青な顔になり、ブルブルとものすごい勢いで頭を振ってすくみ上がった。
 ヴィータの発している、どす黒いオーラがすさまじすぎる……。エステアの言うとおり、本当にここは地獄なのかもしれない。
 ルッソくんの小屋をわざわざこの地下室に造ったのは……うっかりルッソくんまで罠に巻き込まないように、ということなのかな。

「ルッソくん、小屋の居心地はどうです? 狭くないですか?」

 そう聞くと、ルッソくんはリラックスした様子で頭をすり寄せてきた。
 うん、大丈夫そうだ。
 今夜は……もう寝よう。
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