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マウレツェッペ
1-5 斬馬刀
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数日の間ムサシと小次郎はカレンの店で過ごし、ムサシはカレンの店を手伝い、小次郎は予定通りひっそりと闇医者をやっていた。料金設定は全てカレンに任せていたので、どれ位の蓄えが出来たかはわかって無いが、今朝になって商店街に買い物に行く事を告げられたので、装備を多少買える位は蓄えられたのであろう。
「ムサシ、迷子になったら困るからこっちに来な」
すっかりカレンに懐いたムサシをカレンは呼び寄せて、ひょいと自分の肩の上に座らせた。
「高い! 高いよ! カレンママ高いよ!」
肩の上ではしゃぐムサシを連れて、カレンは小次郎と並んで歩く。
「ムサシ、あまりはしゃぐとカレンママが歩きにくいだろ?」
小次郎がカレンにママを付けて呼ぶようになったのは、ママを付けて呼ばないと殺気が飛んでくるからであるが、小次郎自身も結構満更でもなかった。
「おや、カレンちゃん可愛い子を連れて歩いて、どこへ行くんだい?」
「うちの子達は育ち盛りだからね、色々と買うものがあるんだよ」
すっかり母親気分を満喫しているカレンにあちこちから声がかかる。
「よお! カレン、可愛い子を連れてるな? 弁当か?」
「食わねえよ! ねじ切るぞ!」
途中の串焼き屋で買い食いをして、一本の串をムサシとカレンが分けあって食べる姿に、商店街の人々はほっこりとした気分に浸っていた。
「着いたよムサシ」
カレンは肩の上のムサシを降ろし、一軒の武器屋に入って行く。
「おう、カレン、どうした? 現役復帰か?」
店の中に居たのは筋肉がみっしりと凝縮された様な髭面の小男だった。
「いや、今日はあたしのじゃないんだよ、ドウェルグの爺さんに作って貰いたい物があってさ」
カレンがスカートの裾の陰に隠れて、足にしがみついているムサシを押し出した。
「この子の重武器を作って欲しい」
武器屋のカウンターの向こう側で、ぎょっと目を剥きムサシを見るドウェルグは、溜息を吐きながら首を振った。
「カレン、俺ぁ武器に関する事で冗談を言われるのは嫌いだ。ガキのおもちゃなら露天商人でも当たりな」
昔気質の職人らしく、カレンの言葉をこれ以上聞く気は無いと、背中を向けるドウェルグ。
「カレンママ……」
ムサシが不安気にカレンを見上げると、カレンはまたムサシを抱き上げる。
「ムサシ、お前が力を隠しているのは解ってるよ、だけどね、自分の命を守り、自分の大事な人を守る武器に嘘をついちゃいけないよ? 体面や見栄を張って自分の武器に嘘をつくと、後から後悔する事がきっと来る。その後悔は一生ついて回る後悔さ、命を左右する武器だからね、いいかいムサシ、武器や防具に嘘をついちゃいけないよ」
視線を合わせてムサシに言い含める様に諭すと、ムサシが拗ねた様に口を尖らせながらも頷いた。
「はっ! いい加減にしろよカレン、うちは重武器専門だぜ? 百歩譲ってその子が武器を必要としているとしても、お前の見立てが間違っているぜ」
カレンはニヤリと笑いながら、ムサシを床に降ろした。
「爺さんアタシの見立てが間違ってるか、あんたの見立てが間違っているか、賭けるかい? それとも自分の目が耄碌したって認めるかい?」
小次郎の二の腕にブワリと鳥肌が立った。カレンの安い挑発に乗っかったドウェルグの放つ殺気に、小次郎が無意識にカレンの服の袖を掴んだ。
「乗ったぜカレン、俺の目が確かだったら町中をセクシー下着で営業活動させてやる」
「アタイの見立てが正しかったら、この子達に最高の装備を無料で作りなよジジイ」
怒りを露わにしないが頭に血が上り切って、真っ赤な顔になったドウェルグが店の裏手にドスドスと歩いて行く。
「行くよ」
カレンがムサシと小次郎を伴い、ドウェルグの後を付いて行くと店の裏手には開けた空き地が有り、藁を巻いた案山子が数本立てられている。ドウェルグは物置小屋らしき建物の中から、刃渡りが二メートルはある巨大な剣を引きずり出した。
「ほらよ、ここまでバカにされたんだ。カレン、手前ぇが現役時代に使ってた斬馬刀と設えは一緒のもんだぜ、文句は無えな? なんなら壊しちまってもいいんだぜ?」
ガランと言う音と共に巨大な斬馬刀が地面に転がった。
「ムサシ、好きな様に振ってみな? なあに失敗してもアタシがとびっきり色っぽい下着で、色気を振り撒くだけでいいんだ。気にしなさんな」
カレンがムサシの背中を押した。
「カレンママにそんな恥ずかしい事をさせられる訳ないんだよ!」
憤然としたムサシが地面に落ちている巨大な斬馬刀を拾い上げた。
「な、なに?」
ブンブンと風を唸らせながら、縦横無尽に巨大な斬馬刀を振り回し始めるムサシと、呆然としてそれを見つめるカレンとドウェルグ。調子に乗ったムサシは片手で勢いを増して振り回し始めるが、目にも留まらぬスピードで斬馬刀が投げられ、物置小屋が吹き飛んだ。
「てへ……握りが太いから手が滑っちゃったよ」
トコトコと物置小屋までムサシが斬馬刀を拾いに行き、瓦礫の中から斬馬刀を引き出した。
「こ、これぁ……どうなってんだ? 俺の目がどうかしちまったのか?」
ドウェルグが呆然と呟いた。
「まだ認めないなら、しょうがないんだよ……」
ムサシが斬馬刀を地面に置き、無理な角度で力を込め始めると、斬馬刀が悲鳴を上げるようにバキバキと音を立て始めた。
「待ってくれええ嬢ちゃん! それは折りたたみナイフじゃねえ! 折りたたまないでくれえええ!」
晴天のマウレツェッペの空に、ドウェルグの悲痛な叫び声が木霊した。
「ムサシ、迷子になったら困るからこっちに来な」
すっかりカレンに懐いたムサシをカレンは呼び寄せて、ひょいと自分の肩の上に座らせた。
「高い! 高いよ! カレンママ高いよ!」
肩の上ではしゃぐムサシを連れて、カレンは小次郎と並んで歩く。
「ムサシ、あまりはしゃぐとカレンママが歩きにくいだろ?」
小次郎がカレンにママを付けて呼ぶようになったのは、ママを付けて呼ばないと殺気が飛んでくるからであるが、小次郎自身も結構満更でもなかった。
「おや、カレンちゃん可愛い子を連れて歩いて、どこへ行くんだい?」
「うちの子達は育ち盛りだからね、色々と買うものがあるんだよ」
すっかり母親気分を満喫しているカレンにあちこちから声がかかる。
「よお! カレン、可愛い子を連れてるな? 弁当か?」
「食わねえよ! ねじ切るぞ!」
途中の串焼き屋で買い食いをして、一本の串をムサシとカレンが分けあって食べる姿に、商店街の人々はほっこりとした気分に浸っていた。
「着いたよムサシ」
カレンは肩の上のムサシを降ろし、一軒の武器屋に入って行く。
「おう、カレン、どうした? 現役復帰か?」
店の中に居たのは筋肉がみっしりと凝縮された様な髭面の小男だった。
「いや、今日はあたしのじゃないんだよ、ドウェルグの爺さんに作って貰いたい物があってさ」
カレンがスカートの裾の陰に隠れて、足にしがみついているムサシを押し出した。
「この子の重武器を作って欲しい」
武器屋のカウンターの向こう側で、ぎょっと目を剥きムサシを見るドウェルグは、溜息を吐きながら首を振った。
「カレン、俺ぁ武器に関する事で冗談を言われるのは嫌いだ。ガキのおもちゃなら露天商人でも当たりな」
昔気質の職人らしく、カレンの言葉をこれ以上聞く気は無いと、背中を向けるドウェルグ。
「カレンママ……」
ムサシが不安気にカレンを見上げると、カレンはまたムサシを抱き上げる。
「ムサシ、お前が力を隠しているのは解ってるよ、だけどね、自分の命を守り、自分の大事な人を守る武器に嘘をついちゃいけないよ? 体面や見栄を張って自分の武器に嘘をつくと、後から後悔する事がきっと来る。その後悔は一生ついて回る後悔さ、命を左右する武器だからね、いいかいムサシ、武器や防具に嘘をついちゃいけないよ」
視線を合わせてムサシに言い含める様に諭すと、ムサシが拗ねた様に口を尖らせながらも頷いた。
「はっ! いい加減にしろよカレン、うちは重武器専門だぜ? 百歩譲ってその子が武器を必要としているとしても、お前の見立てが間違っているぜ」
カレンはニヤリと笑いながら、ムサシを床に降ろした。
「爺さんアタシの見立てが間違ってるか、あんたの見立てが間違っているか、賭けるかい? それとも自分の目が耄碌したって認めるかい?」
小次郎の二の腕にブワリと鳥肌が立った。カレンの安い挑発に乗っかったドウェルグの放つ殺気に、小次郎が無意識にカレンの服の袖を掴んだ。
「乗ったぜカレン、俺の目が確かだったら町中をセクシー下着で営業活動させてやる」
「アタイの見立てが正しかったら、この子達に最高の装備を無料で作りなよジジイ」
怒りを露わにしないが頭に血が上り切って、真っ赤な顔になったドウェルグが店の裏手にドスドスと歩いて行く。
「行くよ」
カレンがムサシと小次郎を伴い、ドウェルグの後を付いて行くと店の裏手には開けた空き地が有り、藁を巻いた案山子が数本立てられている。ドウェルグは物置小屋らしき建物の中から、刃渡りが二メートルはある巨大な剣を引きずり出した。
「ほらよ、ここまでバカにされたんだ。カレン、手前ぇが現役時代に使ってた斬馬刀と設えは一緒のもんだぜ、文句は無えな? なんなら壊しちまってもいいんだぜ?」
ガランと言う音と共に巨大な斬馬刀が地面に転がった。
「ムサシ、好きな様に振ってみな? なあに失敗してもアタシがとびっきり色っぽい下着で、色気を振り撒くだけでいいんだ。気にしなさんな」
カレンがムサシの背中を押した。
「カレンママにそんな恥ずかしい事をさせられる訳ないんだよ!」
憤然としたムサシが地面に落ちている巨大な斬馬刀を拾い上げた。
「な、なに?」
ブンブンと風を唸らせながら、縦横無尽に巨大な斬馬刀を振り回し始めるムサシと、呆然としてそれを見つめるカレンとドウェルグ。調子に乗ったムサシは片手で勢いを増して振り回し始めるが、目にも留まらぬスピードで斬馬刀が投げられ、物置小屋が吹き飛んだ。
「てへ……握りが太いから手が滑っちゃったよ」
トコトコと物置小屋までムサシが斬馬刀を拾いに行き、瓦礫の中から斬馬刀を引き出した。
「こ、これぁ……どうなってんだ? 俺の目がどうかしちまったのか?」
ドウェルグが呆然と呟いた。
「まだ認めないなら、しょうがないんだよ……」
ムサシが斬馬刀を地面に置き、無理な角度で力を込め始めると、斬馬刀が悲鳴を上げるようにバキバキと音を立て始めた。
「待ってくれええ嬢ちゃん! それは折りたたみナイフじゃねえ! 折りたたまないでくれえええ!」
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