18 / 25
マウレツェッペ
1-6 逃亡
しおりを挟む
「うぬう……化け物め!」
「化け物じゃないんだよ! 魔法なんだよ!」
ムサシの無敵防御に怯んだシュテッケンと、あくまで魔法と言い張るムサシとの間で、見苦しい口喧嘩の攻防が繰り広げられる。
「下賎な生まれのチビ人間」
「ケツアゴ人間!」
「きいいいい!」
シュテッケンとムサシが口喧嘩に熱中している間に、小次郎はジリジリと間合いを詰めて来る騎士達の防具と武器を次々に破壊して行った。
「アーマーブレイク、ウェポンブレイク」
ボソボソと呟く様な魔法詠唱は、傍目で見ていると無詠唱魔法と区別が付かず、先頭で自分は魔法使いだと言い張るムサシの仕業に見えなくも無い。
防具と武器を破壊された騎士達は、目の前で朽ち果てる武具を見てすっかり腰が引けている。
「貴様ら! 何をしている相手は子供だ! 全員でかかれ!」
「子供相手に全員でかかって来る騎士団って、プププ……草不可避プゲラ」
「ぐぬぬ!」
小次郎はムサシの煽りを見ながら、「そう言えば前衛が敵を引き付ける、ヘイトオーラってスキルがあったなあ……」などと生暖かい視線を投げかけていた。
顔を真っ赤に染め上げ、怒り心頭のシュテッケンがムサシに素手で殴り掛かろうとしたその時、小次郎のアーマーブレイクの呪文が重ねが掛けされた。
アーマーブレイクの魔法は僅かでも防御の性能を持つ物を破壊する魔法だが、重ね掛けをする事で鎧下や下着まで全て破壊される。
「な!」
「ぎゃー! 変態がいるんだよ! 変態だー!」
今まさに全裸の騎士団団長が幼いムサシに向かって襲いかかろうしている場面であるが、小次郎が落ち着いてとあるスキルを行使した。
「スクリーンショット」
スクリーンショットとはゲーム内では全てのプレイヤーが使える機能であり、モニターに映し出された美しい風景を一枚の画像として大事に保存し、複数のプレイヤーと共有しあったりする機能である。
「マ、マントを貸せ! 早く!」
シュテッケンは慌てて背後に控える騎士団からマントを剥ぎ取り、肩からスッポリと身体を覆う。
「ふははは! これで隙は無い! 小賢しい真似をしおって覚悟しろ!」
落ち着きを取り戻したシュテッケンは、自らの身体を覆うマントを翻し高笑いをする。
「ぎゃー! チロチロ出す方が余計始末に負えないんだよ!」
シュテッケンは落ち着きを取り戻せて無い様だ。
「よ、傭兵は何をしておるか! 下賎な野蛮人の相手をするのは彼奴らの仕事だろうが!」
シュテッケンがヒステリックに叫ぶ。
「傭兵達は手強いので一箇所にまとめて監禁してありますよ」
小次郎が肩を竦めて頭を振る。
傭兵団を監禁したのは騎士団専用食堂兼糧食倉庫であり、外から隔離する様に堅牢な土壁で覆って監禁してあるのだが、わざと薄くしてある場所は傭兵団には教えてあった。外界から遮断する様に監禁されている以上、生き残る為には騎士団の糧食を食い荒らすのは誠に遺憾だが、しょうがないので今頃は上等な酒と上等な食物で宴会の最中である。
数日の間引き篭もり……いや、監禁されている予定だ。
「ぬううう! 使えぬ奴らめ!」
「傭兵団には手傷を負わされましたが、騎士団を相手にして受けたのは、性的嫌がらせだけですよ?」
小次郎が飄々と答えると、シュテッケンの足下で爆発音と地響きが轟く。
「もう我慢ならないんだよ!」
「ひいいい……」
ムサシが地面にウォーハンマーを叩きつけると、直径五メートルはあるクレーターが出来上がった。
「降参する人はこの穴に装備を投げ捨てて下さい」
小次郎がクレーターを指差した。騎士団の半数はクレーターに鎧や剣を投げ入れて、城の壁際に一列に並んだ。
「ムサシ、使えない様に出来るか?」
ムサシは小次郎に頷くとハンマーを高々と振り上げて武具の上に振り下ろした。
「マジカルステッキ! マジカルステッキ! マジカルステッキ!」
正月の餅つきの様にハンマーを振り下ろし、騎士団の武具を次々に蹂躙して行くムサシ、雰囲気に飲まれて打ち水代わりにファイヤボールを打ち込む小次郎、唖然とする騎士団、揺れ動く城。
「これ位で使えないと思うんだよ」
ムサシが穴の底から放って来たのは、武具の成れの果てである鉄板であった。
未だ降伏していない騎士達の足下に、ガランと甲高い音を立てて放り出される反り返った鉄板は、騎士達の戦意を根こそぎ奪い取った。
「お手数おかけしてすいません、こちらもお願いできますか?」
「いえいえここは私が先に……」
「こちらは縁取りが金で出来ていますので、さぞかし美しい鉄板が出来上がりますので……」
先を争ってクレーターの中に自分達の武具を放り出し、足早に壁際に去って行く。
山の様に積み重なった武具の上に、パサリとシュテッケンのマントが舞い降りた。
「これは最後まで着けておいて良いんだよ!」
ムサシは手早くマントを丸めて、シュテッケンに投げ付けるが、たかが布の質量でもムサシの渾身の力で投げ付けられる丸めたマントは、シュテッケンの意識を刈り取るには充分な威力だった。
武力制圧された城の開城は小次郎が思ったよりも簡単だった。
苦虫を噛み潰した様な顔の宰相が、謁見の間に小次郎達を案内する。
「王は病を患っておりまして、思う様に声が出ませぬ故私めが通訳をさせて貰いますが宜しいでしょうか?」
宰相が返事を聞かずに王の傍に身を寄せる。
小次郎は初めて王を見た時から感じていた違和感を確かめる様に、王に対して魔法を使う。
「リムーブカーズ、キュア、エクストラヒール」
抜け殻の様だった王の瞳に光が宿り、傍に跪く宰相の顔を鷲掴みにして睨み付けた。
「今迄ご苦労であった。名も知らぬ宰相よ」
宰相は王の手を振り払い、謁見の間を全速力で走り出した。
「カーズパラライズ」
小次郎が呟いた魔法で宰相はスピードはそのままで、身体を麻痺させて人形の様に床の上を転がりだした。
「手際が良いのう、小僧っ子よ、こ奴らにはすっかり良い様にやられてしまったわ、こ奴らの悪巧みは特等席で全部聞いておった。で? どうする、わしの首を取るか?」
王は精気の満ち溢れた目でギロリと小次郎を睨めつける。
「逆にお聞きしますが、この小僧に国を治める事は可能でしょうか?」
小次郎は努めて表情をフラットに、内心恐れている事を悟られぬ様に王に話しかける
「無理じゃな」
「でしょうね」
小次郎は肩を竦め、王はニヤリと笑う。
「小僧よ此度の召喚はワシの不徳である。しかしな城をあっけなく落とされたとあれば、周辺諸国が飢えた狼の様に押し寄せて来るが、それを小僧一人で蹴散らす事は可能かの?」
「無理ですし、軍隊を相手に戦いたくありません」
小次郎は目の前の王に物怖じせずに会話を続ける。
「身体は動かせなんだが、話は全て聞いておった。城下町の人間と懇意にしておるようだの? ワシが責任を持って守ってやろう。その代わり……」
「はい、この国から出て行きます。城を落とす覚悟をした時から出て行くつもりでいました」
「うむ、城を落とされた事実は隠さねばならん、表向き撃退して首を落とした筈の小僧達にここに居られたら統治が出来ん。ワシが傀儡されていた間に力をつけた連中が追手を差し向けるだろうが、国としては死人に対して追手は差し向けぬ。民に対する負担もかけぬ故都合のいい悪役になってもらえぬか?」
「解りました。でも……この町には僕の母親がいます。ぼくの母親や町の人や傭兵団を泣かせる様な事をしたら……この立派なお城は一晩で畑に変わりますよ」
玉座に踏ん反り返る王がニヤリと笑うと静かに立ち上がり、小次郎の前に赴くき小次郎とムサシに跪いた。
「今回の事は誠にすまなかった。全てはワシの油断が招いた失態だ。そして心より感謝する」
巨大な力を持つ異邦人に為す術もなく城を蹂躙された挙句、お目こぼしをしてもらった王は心から礼を述べた。
-----------------------------------------------------------------
人々が眠りから起きだす夜明け前の闇の中一台の馬車が、人目を憚るようにマウレツェッペから離れた街道沿いに止まると、元気良く飛び降りる二つの影を置き去りにして走り去る。
「お兄ちゃんやっぱり出て行かなくちゃダメなのかな?」
ムサシが名残惜しそうに走り去る馬車を見送る。
「自分の制御出来ない力を、ポケットの中に入れて置けない王様の方が信用は出来ると思うよ」
「ママに会いたいな……」
「ほとぼりが冷めたら会いに行こう。カレンママなら待っててくれるよ」
「そだね……」
とぼとぼと歩く二人は次なる目的地に向かい、歩き始めた。
その後のマウレツェッペは派手な動きを見せた。
王の傀儡化を狙った宰相派の貴族は根こそぎ首をハネられ、騎士団の人事も傭兵団からの大抜擢を含め、騎士団長シュテッケンの罷免、追放等、城下町の下水施設の敷設、元宰相が引き上げていた税率の引き下げ、王は何かに懺悔をするかの様に善政を敷いた。
マウレツェッペの真っ白な城壁には、小次郎の置き土産が未だに残っている。
「ウォールペーパー」と言うゲーム内では全てのプレイヤーが使える機能であり、モニターに映し出された美しい風景をスクリーンショットで一枚の画像として大事に保存し、壁等に壁紙として貼り付け、複数のプレイヤーと共有しあったりする機能で、シュテッケン元騎士団長が素っ裸で少女に襲いかかる画像がデカデカと張り出してある。
報告を受けた王は「戒めとして大事に保存しろ」と呟き、シュテッケン元騎士団長の親類一同は追放するまでもなく、町を後にする事になった。
城下町の町外れにはもう一つの小次郎とムサシの置き土産がある。
カレンの酒場では青白く輝く自然治癒結界が施されており、酒場の常連の他にも年寄りや怪我人が無償で癒やしを受ける事が出来るので、連日大勢の人が詰めかけている。
店を一人で切り盛りするカレンのトレードマークとなっている大きなエプロンには、子供が書いた様な大きな文字で「ママ大好き!」と書かれているのが、ムサシの置き土産である。
「子供が帰って来る場所を守るのも、親の務めだよ。おや? いらっしゃい!」
今日もマウレツェッペの城下町では元気なカレンの声が木霊する。
「化け物じゃないんだよ! 魔法なんだよ!」
ムサシの無敵防御に怯んだシュテッケンと、あくまで魔法と言い張るムサシとの間で、見苦しい口喧嘩の攻防が繰り広げられる。
「下賎な生まれのチビ人間」
「ケツアゴ人間!」
「きいいいい!」
シュテッケンとムサシが口喧嘩に熱中している間に、小次郎はジリジリと間合いを詰めて来る騎士達の防具と武器を次々に破壊して行った。
「アーマーブレイク、ウェポンブレイク」
ボソボソと呟く様な魔法詠唱は、傍目で見ていると無詠唱魔法と区別が付かず、先頭で自分は魔法使いだと言い張るムサシの仕業に見えなくも無い。
防具と武器を破壊された騎士達は、目の前で朽ち果てる武具を見てすっかり腰が引けている。
「貴様ら! 何をしている相手は子供だ! 全員でかかれ!」
「子供相手に全員でかかって来る騎士団って、プププ……草不可避プゲラ」
「ぐぬぬ!」
小次郎はムサシの煽りを見ながら、「そう言えば前衛が敵を引き付ける、ヘイトオーラってスキルがあったなあ……」などと生暖かい視線を投げかけていた。
顔を真っ赤に染め上げ、怒り心頭のシュテッケンがムサシに素手で殴り掛かろうとしたその時、小次郎のアーマーブレイクの呪文が重ねが掛けされた。
アーマーブレイクの魔法は僅かでも防御の性能を持つ物を破壊する魔法だが、重ね掛けをする事で鎧下や下着まで全て破壊される。
「な!」
「ぎゃー! 変態がいるんだよ! 変態だー!」
今まさに全裸の騎士団団長が幼いムサシに向かって襲いかかろうしている場面であるが、小次郎が落ち着いてとあるスキルを行使した。
「スクリーンショット」
スクリーンショットとはゲーム内では全てのプレイヤーが使える機能であり、モニターに映し出された美しい風景を一枚の画像として大事に保存し、複数のプレイヤーと共有しあったりする機能である。
「マ、マントを貸せ! 早く!」
シュテッケンは慌てて背後に控える騎士団からマントを剥ぎ取り、肩からスッポリと身体を覆う。
「ふははは! これで隙は無い! 小賢しい真似をしおって覚悟しろ!」
落ち着きを取り戻したシュテッケンは、自らの身体を覆うマントを翻し高笑いをする。
「ぎゃー! チロチロ出す方が余計始末に負えないんだよ!」
シュテッケンは落ち着きを取り戻せて無い様だ。
「よ、傭兵は何をしておるか! 下賎な野蛮人の相手をするのは彼奴らの仕事だろうが!」
シュテッケンがヒステリックに叫ぶ。
「傭兵達は手強いので一箇所にまとめて監禁してありますよ」
小次郎が肩を竦めて頭を振る。
傭兵団を監禁したのは騎士団専用食堂兼糧食倉庫であり、外から隔離する様に堅牢な土壁で覆って監禁してあるのだが、わざと薄くしてある場所は傭兵団には教えてあった。外界から遮断する様に監禁されている以上、生き残る為には騎士団の糧食を食い荒らすのは誠に遺憾だが、しょうがないので今頃は上等な酒と上等な食物で宴会の最中である。
数日の間引き篭もり……いや、監禁されている予定だ。
「ぬううう! 使えぬ奴らめ!」
「傭兵団には手傷を負わされましたが、騎士団を相手にして受けたのは、性的嫌がらせだけですよ?」
小次郎が飄々と答えると、シュテッケンの足下で爆発音と地響きが轟く。
「もう我慢ならないんだよ!」
「ひいいい……」
ムサシが地面にウォーハンマーを叩きつけると、直径五メートルはあるクレーターが出来上がった。
「降参する人はこの穴に装備を投げ捨てて下さい」
小次郎がクレーターを指差した。騎士団の半数はクレーターに鎧や剣を投げ入れて、城の壁際に一列に並んだ。
「ムサシ、使えない様に出来るか?」
ムサシは小次郎に頷くとハンマーを高々と振り上げて武具の上に振り下ろした。
「マジカルステッキ! マジカルステッキ! マジカルステッキ!」
正月の餅つきの様にハンマーを振り下ろし、騎士団の武具を次々に蹂躙して行くムサシ、雰囲気に飲まれて打ち水代わりにファイヤボールを打ち込む小次郎、唖然とする騎士団、揺れ動く城。
「これ位で使えないと思うんだよ」
ムサシが穴の底から放って来たのは、武具の成れの果てである鉄板であった。
未だ降伏していない騎士達の足下に、ガランと甲高い音を立てて放り出される反り返った鉄板は、騎士達の戦意を根こそぎ奪い取った。
「お手数おかけしてすいません、こちらもお願いできますか?」
「いえいえここは私が先に……」
「こちらは縁取りが金で出来ていますので、さぞかし美しい鉄板が出来上がりますので……」
先を争ってクレーターの中に自分達の武具を放り出し、足早に壁際に去って行く。
山の様に積み重なった武具の上に、パサリとシュテッケンのマントが舞い降りた。
「これは最後まで着けておいて良いんだよ!」
ムサシは手早くマントを丸めて、シュテッケンに投げ付けるが、たかが布の質量でもムサシの渾身の力で投げ付けられる丸めたマントは、シュテッケンの意識を刈り取るには充分な威力だった。
武力制圧された城の開城は小次郎が思ったよりも簡単だった。
苦虫を噛み潰した様な顔の宰相が、謁見の間に小次郎達を案内する。
「王は病を患っておりまして、思う様に声が出ませぬ故私めが通訳をさせて貰いますが宜しいでしょうか?」
宰相が返事を聞かずに王の傍に身を寄せる。
小次郎は初めて王を見た時から感じていた違和感を確かめる様に、王に対して魔法を使う。
「リムーブカーズ、キュア、エクストラヒール」
抜け殻の様だった王の瞳に光が宿り、傍に跪く宰相の顔を鷲掴みにして睨み付けた。
「今迄ご苦労であった。名も知らぬ宰相よ」
宰相は王の手を振り払い、謁見の間を全速力で走り出した。
「カーズパラライズ」
小次郎が呟いた魔法で宰相はスピードはそのままで、身体を麻痺させて人形の様に床の上を転がりだした。
「手際が良いのう、小僧っ子よ、こ奴らにはすっかり良い様にやられてしまったわ、こ奴らの悪巧みは特等席で全部聞いておった。で? どうする、わしの首を取るか?」
王は精気の満ち溢れた目でギロリと小次郎を睨めつける。
「逆にお聞きしますが、この小僧に国を治める事は可能でしょうか?」
小次郎は努めて表情をフラットに、内心恐れている事を悟られぬ様に王に話しかける
「無理じゃな」
「でしょうね」
小次郎は肩を竦め、王はニヤリと笑う。
「小僧よ此度の召喚はワシの不徳である。しかしな城をあっけなく落とされたとあれば、周辺諸国が飢えた狼の様に押し寄せて来るが、それを小僧一人で蹴散らす事は可能かの?」
「無理ですし、軍隊を相手に戦いたくありません」
小次郎は目の前の王に物怖じせずに会話を続ける。
「身体は動かせなんだが、話は全て聞いておった。城下町の人間と懇意にしておるようだの? ワシが責任を持って守ってやろう。その代わり……」
「はい、この国から出て行きます。城を落とす覚悟をした時から出て行くつもりでいました」
「うむ、城を落とされた事実は隠さねばならん、表向き撃退して首を落とした筈の小僧達にここに居られたら統治が出来ん。ワシが傀儡されていた間に力をつけた連中が追手を差し向けるだろうが、国としては死人に対して追手は差し向けぬ。民に対する負担もかけぬ故都合のいい悪役になってもらえぬか?」
「解りました。でも……この町には僕の母親がいます。ぼくの母親や町の人や傭兵団を泣かせる様な事をしたら……この立派なお城は一晩で畑に変わりますよ」
玉座に踏ん反り返る王がニヤリと笑うと静かに立ち上がり、小次郎の前に赴くき小次郎とムサシに跪いた。
「今回の事は誠にすまなかった。全てはワシの油断が招いた失態だ。そして心より感謝する」
巨大な力を持つ異邦人に為す術もなく城を蹂躙された挙句、お目こぼしをしてもらった王は心から礼を述べた。
-----------------------------------------------------------------
人々が眠りから起きだす夜明け前の闇の中一台の馬車が、人目を憚るようにマウレツェッペから離れた街道沿いに止まると、元気良く飛び降りる二つの影を置き去りにして走り去る。
「お兄ちゃんやっぱり出て行かなくちゃダメなのかな?」
ムサシが名残惜しそうに走り去る馬車を見送る。
「自分の制御出来ない力を、ポケットの中に入れて置けない王様の方が信用は出来ると思うよ」
「ママに会いたいな……」
「ほとぼりが冷めたら会いに行こう。カレンママなら待っててくれるよ」
「そだね……」
とぼとぼと歩く二人は次なる目的地に向かい、歩き始めた。
その後のマウレツェッペは派手な動きを見せた。
王の傀儡化を狙った宰相派の貴族は根こそぎ首をハネられ、騎士団の人事も傭兵団からの大抜擢を含め、騎士団長シュテッケンの罷免、追放等、城下町の下水施設の敷設、元宰相が引き上げていた税率の引き下げ、王は何かに懺悔をするかの様に善政を敷いた。
マウレツェッペの真っ白な城壁には、小次郎の置き土産が未だに残っている。
「ウォールペーパー」と言うゲーム内では全てのプレイヤーが使える機能であり、モニターに映し出された美しい風景をスクリーンショットで一枚の画像として大事に保存し、壁等に壁紙として貼り付け、複数のプレイヤーと共有しあったりする機能で、シュテッケン元騎士団長が素っ裸で少女に襲いかかる画像がデカデカと張り出してある。
報告を受けた王は「戒めとして大事に保存しろ」と呟き、シュテッケン元騎士団長の親類一同は追放するまでもなく、町を後にする事になった。
城下町の町外れにはもう一つの小次郎とムサシの置き土産がある。
カレンの酒場では青白く輝く自然治癒結界が施されており、酒場の常連の他にも年寄りや怪我人が無償で癒やしを受ける事が出来るので、連日大勢の人が詰めかけている。
店を一人で切り盛りするカレンのトレードマークとなっている大きなエプロンには、子供が書いた様な大きな文字で「ママ大好き!」と書かれているのが、ムサシの置き土産である。
「子供が帰って来る場所を守るのも、親の務めだよ。おや? いらっしゃい!」
今日もマウレツェッペの城下町では元気なカレンの声が木霊する。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる