連載だよ! 魔法少女ムサシちゃん

八田若忠

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イクタラ

森の追跡者

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 里の中央では、あれよあれよと噂を聞き付けた爺婆に囲まれたムサシ達が、次から次へと治療に追われた。

「やっておるな童共、年寄り相手は骨が折れると思うが宜しく頼む」

 数人の取り巻きを引き連れた姫巫女が、治療現場に現れたが美男美女のエルフの年寄りに撫でまわされ、デレデレのムサシを見ながら小さく「そうでもない様じゃの」と呟く。

「まあ、年寄りは里の宝じゃ、労っておいて損は無いからの」

 うんうんと頷く姫巫女にムサシが面白く無さそうに反論する。

「自分だって年寄りのクセに……」

「にゃにおう! 妾は里に一人のハイエルフじゃ! まだまだ年寄りではないわ! ピチピチじゃ!」

 つーんとそっぽを向くムサシと、ムキになって反論する姫巫女はまるで姉妹の様にじゃれ合って、里の年寄りが更にホッコリとした雰囲気になった。

「あー、えーと本日は僕達に何か用があってこちらに?」

 雰囲気が険悪になる前に小次郎がすかさず話を逸らした。

「おー、そうじゃそうじゃ、今日はの里の見廻りと昨日は里の戦士達が不甲斐ない所を見せたらしいので、エルフの本領を発揮する所を見て欲しかったのじゃ」

 姫巫女は腕を組んで鷹揚に頷いた。

「本領発揮ですか?」

 昨日の不甲斐ない所とは、里の近辺を警護する戦士達の事だろうと小次郎は思い至る。

 実際エルフの戦士達は小次郎はおろか、居眠りしていたムサシを起こす事も出来なかったので、不甲斐ないと言えば不甲斐ないだろう。

「はあ……」

 曖昧に頷く小次郎を見て、姫巫女は片眉を吊り上げながら舌打ちをする。

「ふむ……やはり良い所を見せねばならぬな……」

 姫巫女は背後に整列する取り巻き達に振り返り、良く通る声で号令を出す。

「総員鏃やじり付け!」

「鏃付け!」

 取り巻きの戦士達が復唱する。

「補助魔法を許可する!」

「魔法付与!」

「全力をもって侵入者を駆逐せよ!」

「侵入者の駆逐!」

 ざらりと音を立てて戦士達は一斉に一箇所に向かい狙いをつける。

「撃てええええ!」

 戦士達の取り付けた魔石で出来た鏃は、色とりどりの光を放ちながら一本の木の枝へと向かって放たれた。

 時間差をつけて放たれた矢は、空中で数十本に分離して勢いを増して飛んで行き、着弾の瞬間に破裂した。

 爆煙の中央から人影が跳ぶのが見え、別の木の枝に移るがそれを自動追尾する矢が、空中でネット状に広がり木から木へと飛び移る人影に襲いかかった。

 必死に逃げる人影の脚を絡め取った蔦が、無理矢理地面に引きずり下ろし、侵入者を衆目に晒した。

「くっ!」

 侵入者は悔しそうに息を吐き、短剣で蔦を切り離し走り出す。

 舞い上がる土埃を斬り裂きながら、風に覆われ目に見えない矢が走る侵入者の手足を切りつけた。

「ブラインドハインド!」

 侵入者がスキル名を叫と同時に姿が掻き消えた。

「撃ち方やめい!」

 姫巫女が号令をかけると、戦士達は矢を番えたままの姿勢でその場で静止した。

「まあ、ざっとこんなもんじゃな」

 ムサシ達に向き直りフフンと鼻息をもらす姫巫女。

「け、結局逃しちゃったんだよ!」

「いや? 逃しておらぬぞ? 毒と胞子をたっぷりと塗り込んでおいたから、半日もあれば命の火は消えて、骸はキノコの菌床となり、三日もあれば土になるじゃろうて」

 姫巫女はニヤリと黒い笑顔をうかべた。

「妾が命じたのは駆逐じゃ、捕獲ではないからの」

「これだからロリババアは正統派からは嫌がられるんだよ!」

「なにおう!」

 二人がキャンキャンと言い合いをしている間に、小次郎は姿を消して逃げ出した侵入者を追っていた。

 滴下血痕の跡などを追いかけながら森の中を走っていたが、小次郎は侵入者を見失って膝をついた。

「小僧……仕留めれば良いのか?」

 いつの間にか小次郎の後をつけて来ていた亀吉が、地面に鼻を近づけて匂いを嗅ぎながら小次郎に話しかける。

「あ、亀吉さんさっきの人を見つけられますか?」

 小次郎はぜえぜえと息を吐きながら、亀吉にすがる様に問いかけた。

「ふん……造作も無い、乗れ小僧」

 亀吉は体勢を低くして背中に乗る事を促し、小次郎は頷くと亀吉の背中によじ登った。
 背中の上でよろよろと頼りなくしがみつく小次郎に、亀吉は一つ溜息をつくと背中の骨格と筋肉を変形させて小次郎をホールドした。

「しかと捕まっておれ」

 亀吉の言葉に小次郎は体勢を低くして、亀吉の身体にしがみついた。

 森の木々や葉が緑色の一つの流れとなる程の速度で走り回り、加速Gで小次郎の意識が朦朧とし始めた頃に亀吉は足を止める。

「死にかけておるが、止めをさせば良いのか?」

 亀吉が地面に横たわる侵入者を前足で転がすと、フードに覆われた顔が顕になった。

「やっぱり……」

 今小次郎の目の前で死にかけている人物は、マウレツェッペで小次郎を夜襲した転移者の女性らしく、この世界に来てからは見た事の無い日本人の顔付だった。彼女の身体に刻まれる無数の傷跡には蜘蛛の巣の様な菌糸が這いまわり、蠢く粘菌が体の表面を食い荒らしている状態であった。

 小次郎はファイヤボールの呪文を唱え、侵入者の身体を這い回る菌を焼き払う。勿論侵入者の身体も無事では済まないが、後でヒールをかければ欠損部位ですら回復出来るので進行している症状を止めるのが先決だった。毒を抜くキュアの呪文を唱えピュリファイゾーンの呪文で生命力の回復を促進させながら、火傷と傷の修復をしていく。

 パラパラと焼けただれた皮膚が零れ落ち、焦げ付いた皮膚の下から真新しい皮膚が蘇生していく、消えかけていた命が持ち直した事を証明するかの様に、侵入者が咳き込み始めた。

 咳き込む度に口や鼻からは、焦げた体組織の様な物が排出されて、肺や気管の組織も一新された事も確認された。

 最後に全ての状態異常を解除する呪文を唱えると、うっすらと侵入者の意識が覚醒する。

 小次郎がほっと息をつき、彼女を労る様に話しかける。

「大丈夫ですか? 痛いところとかありますか?」

 彼女はゆっくりと自分の身体を見回して、身体が動く事を確認すると、深呼吸する様に大きく息を吸い込み、叫んだ。

「レイプされるううううううううううう!」

 身体中を這い回る粘菌や菌糸を焼き払う為に、ある程度の装備を外した後に下着ごと焼きつくした小次郎の迅速な行動が、森の中の「マッパ女」を錬成した事に小次郎は今更ながら気付いた。
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